ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1161話 教えてホーリーさん

 ホーリーのあまりにも見透かしたような発現に瞠目した二人は、

そのままホーリーを連れ、ヴァルハラ・ガーデン内のハチマンの部屋へと篭った。

 

「おいホーリー、さっきのはどういう事だ?」

「どうもこうもないよ、感じたままの事を言っただけさ。

偶像(アイドル)のスキルが発現したんだろう?」

「お、おう、何で分かったんだ?」

「ただの勘、と言いたいところだが、私には他人のスキル構成が見えるのさ」

「マジかよ、汚ねえ………」

「それって『鑑定』か何かのスキルですか?」

 

 事情を知らないウズメからすれば、

そう思うのはファンタジーを少しでもかじっていれば、至極当然の質問である。

 

「いや、ALOに鑑定のスキルは存在しないな、多分?」

「SAOがベースになっているというなら、確かに存在しないね」

「だそうだ」

「どうしてホーリーさんに聞くの?

あっ、もしかして、ホーリーさんってSAOの開発に関わってたんですか?」

「そうだね、関わっていたというか………」

 

 ホーリーは、言っていいのかい?という風にハチマンの方を見た。

 

「いいか愛、これは絶対に仲間以外の前で言っちゃ駄目だからな」

 

 ハチマンは敢えてウズメの事を愛と言いながらそう言い、ウズメは身を固くした。

 

「う、うん」

「なら話そう。ホーリーの正体は………茅場晶彦本人だ」

「どうも初めまして、僕が茅場晶彦だよ。

まあ正確には本人じゃなく、その残骸みたいなものなんだけどね」

「えっ、またまた、冗談ばっかり!」

 

 ウズメはそう言ったが、ハチマンとホーリーはまったく表情を変えない。

 

「………えっ、本当に?」

「君は茅場晶彦の死因を知っているかい?」

「脳をスキャンしたらそれに脳が耐えられなくて死んだって………」

「ニュースだとそうなってるな、まあでも実際はほれ、

スキャンは成功し、こいつはネットの海を今もお散歩してやがるのさ」

「えええええ?」

「ただそれはやっぱり負担が大きくてね、

ソレイユのサーバーに僕のバックアップを置いてもらってるんだ。

で、たまにここにも遊びに来させてもらっていると、まあそんな訳だよ」

「そ、そうだったんですね………」

 

 さすがのウズメもこのカミングアウトには言葉も出なかった。

そうするとここにいる茅場晶彦さんは犯罪者?いや、死んだ時点でそうじゃない?

ウズメはそんな事を考えたが、直ぐに考える事をやめた。

どちらにしろ他人に話す事はないし、ハチマンを困らせるような事はしたくなかったからだ。

 

「なるほど、分かりました」

「ありがとう、さすがハチマン君は愛されてるね」

「意味が分からん」

「朴念仁はこれだから困るね」

「お前にだけは言われたくないけどな」

 

 二人はいつもとは違って気安い感じで話しており、深い絆を感じさせる。

ウズメはそれを羨ましいなと思いつつ、気になっていた事をホーリーに尋ねた。

 

「えっと、そうなると、スキルの事について教えてもらえるって事でいいんですよね?」

「ああ、なるほど、つまり僕を呼び出したのはそういう理由なんだね」

「ああ、実は………」

 

 ハチマンは、ユナが歌姫になった時の元になったスキルとは別のスキルが、

ウズメに二つも発現した事をホーリーに説明した。

 

「ああ、そういう事か。それなら君達の想像通りだよ。

アイドルや歌姫というものは、全員が同じ技能を持っている訳ではないだろう?

歌唱力が評価される者もいるし、踊りが評価される者もいるはずだ」

「やっぱりそういう意図だったのか………」

「そうなると、全部で八個のスキルを取ればそれが統合されるって認識でいいんですか?」

「ああ、その通りだよ」

「どうして八個なんですか?」

「それは決まってるさ、ハチマンだから八個にしたのさ」

 

 ホーリーがそう言った為、ハチマンとウズメは呆然とした。

 

「えっ?えっ?ハチマン、私の言ったギャグが本当だったみたい」

「っていうかお前、人の名前をダシにすんな」

「そんな事言っても、それが事実なんだから仕方ないじゃないか」

「ぐぬ………」

 

 どうやら開発中にいくつにするか悩んだホーリーこと茅場晶彦は、

たまたま近くにいたハチマンの顔を見て、八個でいいかと安易に決めたらしい。

 

「マジか………」

「まあ別にいいじゃないか、何の実害もないだろう?」

「そりゃそうだけどよ………」

「あはははは、あはははははは」

「他にはどんなスキルがあるんだ?」

「それは自分で探したまえ、その方が楽しいだろう?」

「ぐっ………まあいいけどな」

 

 重要そうな疑問も、それを晴らされてみれば何の事はない、適当に決めただけだったようだ。

ホーリーは、まあこんなのは良くある事さと何でもないように言い、

ハチマンは呆れつつも、まあ別にどうでもいいかと納得した。

 

「で、もう一つ聞きたいんだが」

「ん、何だい?」

「ウズメには確かに歌唱スキルが発現したけど、

まったく同じように活動していたピュアには発現していない。

この違いは一体どこから来るんだ?」

「どういう事だい?」

「実は………」

 

 ハチマンは自分なりの歌唱スキルの発現条件と、

その為に自分とピュアが行ったチャレンジの事をホーリーに説明した。

 

「それはハチマン君、君が悪いよ」

「俺!?何で!?」

「そもそも僕がこういうシステムを実装したとして、

その条件となるデータはどこから引っ張ってくると思う?」

「データ………?歌が上手いとかか?」

「そんなのどうやって判別するんだい?例え多少稚拙でも、いい歌はいい歌だし、

逆にどんなに技術があっても心に響かない歌声とかはあるだろう?」

「確かに………」

 

 ハチマンは、自分が好きな昔の映画の事を思い出しながらそう呟いた。

ハチマンが生まれる二十年近く前に公開された、

超能力学園もののドラマや、タイムリープものの映画の主演女優は、

歌の技術は決して安定してはいなかったが、その歌声はハチマンを完全に魅了してくれたものだ。

 

「で、どうだい?そういう数値を僕はどこで判断する事にしたと思う?」

「それは………」

 

 ハチマンとウズメは考え込んだが咄嗟に答えは出てこない。

 

「駄目だ、分からない」

「それはね、受け手の反応だよ」

「受け手の………反応?あっ、まさか………」

「気付いたかい?」

「MHCP………」

「その通り」

 

 ハチマンは黙って立ち上がると、ユイを部屋に呼んだ。

 

「ユイ、ちょっとこっちに来てくれ」

「はいパパ」

 

 妖精モードのユイは直ぐに部屋に飛んできて、ハチマンの膝の上にちょこんと座った。

 

「ユイ、一つ聞きたいんだが………」

「何ですか?」

「ホーリーから聞いたんだが、ユイはSAO時代、歌唱スキルの発現条件に関わったりしてたのか?」

「歌唱スキルですか?う~ん、記憶に無いですね………、

もっとも私の記憶はパパの前に姿を現した時にかなり混乱していて、自分を復旧させる為に、

その直後に一部の記憶を意図的に消しましたから、確かな事は言えないです。

ごめんなさい、パパ」

「そうなのか?」

「それもそうだけど、元々その記憶は残らないんだよ、ハチマン君」

 

 そんなユイを、ホーリーが補足した。

 

「元々あれは、三つのMHCP、X、Y、Zの合議みたいなもので決定されてたんだよ。

だから確実にユイ君も関わっていたと思うが、

発現した後はそのプレイヤーを選んだ記憶は消す事になっていたからね、覚えてないのも当然さ」

「何故その記憶を?」

「本来の業務には必要のない記憶だからね、

彼女達の本分は、あくまでプレイヤーのメンタルケアさ」

「ああ、そういう事ですか………もし歌う事が流行って、

歌唱スキル持ちが爆発的に増えてしまったら、

本来のメンタルケア業務に支障をきたすかもしれないと」

「まあそういう事だね、私は気付いていなかったが、実際おかしくなっていたようだしね」

「ラフィンコフィンの一件ですね」

「ああ、あれは私のミスだ。処理し終わった事柄については、

その記憶を削除するようにしておくべきだった」

「記憶が無いのであくまで推測ですが、あれでXの負担が高まって、

私が休眠状態に入ってからは、多分審査自体出来なくなったと思うんです」

「そうか、それで歌唱スキル持ちがユナ以外には生まれなかったのか………」

 

 ハチマンは、まさかユイがこの件に関わっていたとは思わなかった為、とても驚いた。

 

「で、今の歌唱スキルの発現条件だが、アルゴ君が条件を変えていなければ、

三つのMHCPの合議によって決定されるはずだよ」

「ああ、アルゴはその辺り、まだ解析出来ていないって言ってたな」

「なるほど、ならそれに関わっているのは、歌を聞いている人達の精神状態だね。

ついでに言うと、聞いている人達の視線と、歌っている人の視線がどこに向いているかも重要だ」

「歌ってる人の視線の向き?それって………」

 

 ハチマンは慌ててウズメの顔を見て、ウズメもハチマンの顔を見て頬を染めた。

 

「え?じゃあ俺のせいってそういう事?ピュアの事は俺のせい!?」

「よく分からないが、心当たりがあるようだね」

「いや、まあウズメは歌う時、ずっと俺の事を見てるんで、俺も自然と………」

 

 それを聞いたホーリーは、クスクス笑った。

 

「ならそれは君の精神状態だけを参考に選定されたと見るべきだろう」

「マジか………でもその後に俺、ピュアと二人きりでその歌を聞いてるんだけど?」

「それじゃあ感動が足りなかったんだろうさ。示しあわせてそれをやったのなら、

どうしても歌唱スキルの為の事務的な視聴という感覚が消えないだろうからね」

「そういう事か………」

 

 こうなってしまうと、もう一度やっても結果は同じだろう。

ハチマンの頭の中からその意識を完全に消す事は不可能だからだ。

 

「ホーリー、どうすればいい?」

「彼女の歌は私も聞いたけど、実力はあるんだ、

心配しなくても、時間の問題で歌唱スキルが発現するさ」

「それならいいんだけどな………」

 

 ハチマンはピュアへの申し訳なさでいっぱいになった。

確かにウズメの方を長く見ていたのは否定出来ない。

とりあえずこの事をピュアに伝え、許しを請うべきだろう。

 

「よし、落ちた後、ピュアに会いに行ってくるわ」

「えっ?あ、うん………」

 

 ウズメは若干嫉妬したが、直ぐにその考えを消した。ウズメにとって、ピュアは親友だからだ。

 

「ホーリー、ユイ、色々教えてくれてありがとうな、また何か困ったら相談するわ」

「はい!」

「ああ、いつでもどうぞ」

 

 こうして歌唱スキルについて知ったハチマンは、

今日の活動は一旦終え、そのままログアウトした。




ユイが当時どんな状態だったかは、第70話をご参照下さい。

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