ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1164話 サプライズ発表会

 小春と愛、それに純子は、日高商店の裏口から中に入り、店舗の方へと顔を出した。

 

「クルスちゃん、ただいま」

「クルス、ただいま!」

「あっ、小春さん、それにくるくるもお帰りなさい」

 

 さすがに同じ名前だと区別が付けづらいせいか、

クルスはくるすちゃんの事をくるくると呼んでいた。

同時に小春もクルスがいる時限定で、くるすちゃんの事をくるくるちゃんと呼んでいる。

 

「クルスさん、会いたかったです!」

「あ、あの、初めまして」

 

 続けて愛が元気よく、純子がお淑やかにクルスに声をかけた。

 

「あ、あれ?えっと、その顔は、まさか水野愛ちゃんと紺野純子ちゃん?」

「はい!」

「です!」

「うわぁ、どうしてここに?」

「実は偶然街で小春さんと会って………」

「お互いの顔は知りませんでしたけど………」

「私が見つけたんだよ!」

「それと俺もな」

「あっ、そういう事だったんだ、って、君はでれまんくんの二号機かな?」

「いつもうちの兄貴っぽいのが世話になってるな」

 

 クルスの家にはでれまんくんの一号機がある為、二号機はそう言ってペコリと頭を下げた。

 

「うわぁ、やっぱりそっくりなんだね」

「まあ完全なコピーだからな」

 

 一同はこうして和やかに出会う事が出来た。

そして店の様子が伺える位置で、四人は先ほどの出来事について話を始めた。

 

「えっ?未確認の個体?」

「ああ、間違いない」

「撮影しておいたから、後でデータを渡すね、クルス」

「それなら直接八幡様の所に送って、くるくる」

「うん、分かった!」

 

 そんなクルスを見て、リアルでも八幡に様付けするんだと、愛と純子は少し驚いた。

 

「よし、とりあえず八幡様に報告だけしておきましょう」

 

 クルスはそう言ってスマホを取り出すと、そのまま八幡に報告を入れた。

その躊躇い無い姿はまさに出来る女、そのものであった。

 

「ほ~」

「はうぅ………」

 

 二人がそんなクルスに憧れを持つのも当然であろう。

 

「はい、はい、そういう事のようです。え?分かりました、確認します。

くるくる、二号君、映像を見た八幡様が、

そのぬいぐるみは確かにお前達と同じように動いたのか?って言ってる」

「む………そう言われると断言出来ないな」

「バッグから顔を出したように見えたけど、それが自力で動いたとは限らないし………」

「AI搭載型なのは確かだぞ」

「でもそれが自律式とは限らないかも。今時AIが積んである製品なんかいっぱいあるし………」

 

 どうやらでれまんくんもくるすちゃんもその辺りは自信が無いらしい。

 

「………という事らしいです、はい、はい、分かりました、お願いします」

 

 クルスは八幡との通話を終え、一同に向き直った。

 

「八幡様が、一応何かあった時の為に、追跡だけさせとくって」

「そんな事出来るの?」

「ダル君あたりが暇な時に、該当する路線の監視カメラを片っ端からハッキングさせるって」

「うわぁ」

「仕事量がえげつなさそう………」

 

 一応この話は一旦それで終わりとなった。

ただこの時から始まったダルの努力は決して無駄になる事はなかった。

 

「で、二人は今日はお休みだよね?どこかに出かけてたの?」

 

 そう言われた二人は顔を見合わせた。

クルスがフランシュシュのスケジュールを知っていた事に驚いたのだ。

 

「えっと、どうしてその事を?」

「私は八幡様の秘書見習いだよ?関係しそうな団体の事はちゃんと把握してるよ」

「で、出来る………」

「バリキャリですね………」

 

 二人に賞賛されたクルスは少し頬を染めながらはにかんだ。その笑顔がまたとても魅力的で、

二人は改めて、胸囲も含めてクルスがどれだけ脅威なのか思い知ったのだった。

 

「今日はちょっと二人で下着を買いに?」

「そうなんだ、どんなの?」

「えっと………」

「それは………」

 

 言い淀む二人を見て、クルスはピンときた。

 

「あ~!八幡様に見せる為の勝負下着だ!」

「わ、私は違うから!」

「私、は?」

「あっ!」

「あ、愛さん………」

 

 クルスはそれで、純子だけが勝負下着を購入したのだと把握した。

 

「純子ちゃん、どんなの?」

「あ~………えっと………ど、どうぞ」

 

 純子はおずおずと購入した下着をクルスに見せた。

 

「うわぁ!これって八幡様の好みにドストライクじゃない?」

「えっ?私にも見せて?」

「あ………は、はい」

 

 そこに小春も参戦し、二人は未使用とはいえ純子の下着を前に、う~むと唸った。

純子にとってはとんだ羞恥プレイである。

 

「なるほど、参考になるわぁ………」

「ねぇ、これってどうやって選んだの?」

「えっと、ちょこっとズルをしちゃいました?」

「ズル?」

「俺が点数を付けたんだ。

まあ最初から俺が選んでも良かったんだが、それじゃあ二人が楽しくないだろ?」

「えっ?二号君が!?」

「えっ?て何だよ、俺が本体の好みを知らない訳がないだろ」

「その手があったか!」

 

 どうやらクルスは今指摘されて、初めてその事に気付いたらしい。

 

「くっ、これが若さか………」

「いえいえ、そもそもそのアイデアを出してくれたのはでれまんくんからですから」

「うちの一号は、そんな事言ってくれた事ないよ!」

「というか、そういう話をした事が無いからでは?」

「あ~………かも………」

 

 クルスは基本、何でも一人で出来る子な為、

当然下着を買うのにでれまんくんに意見を求めたり、店に連れていったりはしないのである。

 

「よ~し、私も今度相談してみよっと。ありがとね二人とも、凄くいい話が聞けたよ」

「あっ、はい」

「ま、益々クルスさんの戦闘力が高く………」

 

 二人は若干後悔したが、後の祭りである。この日以降、クルスに加えて詩乃が、

普段着も含めて妙に八幡の好みに合った服を着るようになり、

他の女性陣が首を傾げる事となった。

 

 

 

 それからしばらく四人で話した後、愛が八幡と約束した時間が近付いてきた為、

二人は日高商店を辞する事にした。

 

「二人とも、またいつでも遊びに来てね」

「はい、またです!」

「今日はお招き頂きありがとうございました!」

 

 クルスは勇人が戻ってくるまでは残るらしく、小春と一緒に二人を見送ってくれた。

 

「さて、帰ろっか」

「はい」

 

 二人は仲良く帰宅し、そしてその日の午後八時過ぎ、再びウズメは、

歌姫関連のスキルを取る為にハチマンと共に十九層の奥地にいた。

 

「ねぇハチマン」

「ん?」

「あのね、どうせなら私、ここでも歌って踊れるアイドルになりたいの」

「そうか、なら今日はそこからだな。よし、持ち歌の振り付けをしながら俺に攻撃してみろ。

とにかくリズミカルにな。感覚としては、蝶のように舞い蜂のように刺す感じで」

「う、うん」

 

 ウズメは自信無さげにそう言い、そんなウズメの背中をハチマンが、パン!と叩いた。

 

「下手でも元気いっぱいに動けばそれでいい、踊ってるつもりで武器を振れ。

なぁに、ちょっとくらいミスっても俺は死んだりしないから安心しろ」

「分かった、それじゃあ最初は踊りだけでやってみる」

「おう、ゆっくりでいいからな、ゆっくりで」

 

 ウズメは最初、もう完全に体に動きが染み付いている、

フランシュシュの歌の振り付けから入ろうと思い、

短剣を持ったまま『あっつくなぁれ』を踊り始め、

時々いけると思った時にハチマン目掛けて短剣を振るった。

ウズメは無理な体勢から攻撃する事が多かったが、それが逆にハチマンの虚を突く形になり、

ハチマンの体に攻撃が届きそうになる事も多かったが、

ハチマンはカウンターにならないように気をつけながら、その攻撃を全部防いでしまう。

 

「くっ、かわいくない………」

「俺がかわいかったら気持ち悪いだろうが」

「じゃあ言い換えるわ、かわいげがない」

「そんなの生まれた時からだっての」

「絶対に一回くらい体に当ててやるんだから」

「いや、お前それ、主旨が違ってきちゃうからな」

 

 だがこの作戦は結局上手くいかなかった。

所詮振り付けは振り付けであり、攻撃にはまったく向いていなかったからである。

 

「すまん、これは方向性が間違ってたな………次はもっと軽快に何も考えずに打ち合ってみるか」

「ねぇハチマン、これって普通に踊るのじゃ駄目なの?」

「どうだろう、でもそれでいいならもうとっくに舞踊スキルが手に入ってそうじゃないか?」

「ホーリーさんは何て?」

「ノリで一気に仕上げたらしくてな、覚えていないそうだ」

「そっかぁ」

 

 いくら茅場晶彦といえども、自身へのスキャンを実行した段階で、

完全に記憶から飛んでしまっている事柄まではコピー出来なかったようだ。

 

「ちなみにユナの時は、『攻撃の時は蝶のように舞い、蜂のように刺せ』、

って言ったら舞踊のスキルが生えたわ」

「ふ~ん、それじゃあ今度は、アップテンポな曲に合わせてそんな感じで攻撃してみる」

「ああ、それがいい」

 

 だがいきなり上手くいくはずもなく、結局二人はこの日は撤収する事にし、

そのままヴァルハラ・ガーデンへと戻った。

だがこの日は何故か多くのメンバー達が集まっており、二人は何かあったのかと身構えた。

 

「ウズメちゃん、お帰り!」

「ただいま!」

「ハチマン、お疲れ」

「おう。で、キリト、この集まりは何だ?」

「それがさ、これからカムラが何か発表するらしくて、

みんなここでそれを見ようって集まってきたんだよ」

「噂に聞く、オーグマー関連の何かだとは思うんだけど………」

「へぇ、それじゃあとりあえず見てみるか」

 

 そしてしばらくして、画面の中に、カムラの経営陣が姿を現した。

 

「重村教授はいないのか、カムラの取締役に就任したはずなんだけどな」

「だねぇ」

「さて、何が出るかな」

 

 一同が固唾を飲んで見守る中、

いきなりごついイヤホンのような物が、経営陣の背後のモニターに映し出された。

 

「あ!」

「お?」

「あれってオーグマー?」

「イメージ映像の文字が無いな、まさか完成品か?」

「これはひょっとするとひょっとするんじゃないか?」

 

 そして発表会が始まった。

 

『今日皆さんにお見せするのはこちら、日本初の拡張現実型情報端末、オーグマーです!』

 

「おお………」

「やっぱりあれがオーグマーなんだ」

「耳に掛けるタイプか」

「まあ予想通りね、というかうち以外じゃ、あれがベストな形だと思うわ」

「うち以外って、もしかしてソレイユでも同じような商品を発売するの?」

 

 ウズメのその質問に、ハチマンは簡潔に答えた。

 

「いずれな。まあ同じようでいて、全く違うんだが」

「へぇ………」

 

 直後にカムラから、衝撃的な発言があった。

 

『このオーグマーの発売日は、三ヶ月後を予定しています』

 

 これにはさすがの一同も驚いたようだ。

 

「えっ?」

「早くないか?」

「もうそこまで完成してたのか………」

「カムラもやるもんだなぁ」

「まああそこはうちと一部で技術協力してるし、それくらいはな」

「ハチマンは驚かないのか?」

「いや、十分驚いてるって」

 

 こうしてこの日、カムラから、オーグマーが三ヶ月後に発売される事がいきなり発表された。


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