ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1172話 新鮮な気持ちで

 次の日、学校で八幡は、プロムナードの事を明日奈に尋ねてみた。

 

「なぁ明日奈、ちょっといいか?」

「あ、うん、どうしたの?」

「昨日愛から、うちの卒業式でプロムナード?ってのをやるかもって聞いたんだが………」

「そうだね、今企画を立ててるところかな。

それがいい感じに出来たらお母さんに提出して可否を判断みたいな?」

「え、何で京子さんに?」

「え?」

 

 明日奈は訝しげな顔で八幡をじっと見つめてきた。

それで八幡は、もうすぐ明日奈の母である京子が、

この学校に理事長として赴任してくるという事を思い出した。

 

「あ、ああ~、そうかそうか、京子さんにな」

「うん、なのでまだ、やるかどうかは分からないかな」

「そういう事か」

 

(京子さんが認めない訳無いし、絶対にやるんだろうなぁ………)

 

 八幡はそう考えながら、他の仲間達の方をチラリと見た。

和人は八幡同様に、微妙そうな表情をしている。

里香は諦めなさいといった感じでニヤニヤと八幡の方を見つめている。

珪子は木綿季と一緒になって、

ドレスっぽいのの特集が載っているファッション雑誌を楽しそうに見ている。

そして藍子は何故かハンカチをくわえながら、クイーン云々とぶつぶつ呟いていた。

 

(あいつは本当にハンカチ大好きだよな………)

 

 そう思い、思わず半笑いになってしまった八幡に、明日奈がこそこそと話しかけてきた。

 

「で、八幡君、愛ちゃんの舞踊スキルは取れた?」

「いや、それがまだなんだよなぁ………なぁ明日奈、やっぱりこれって俺のせいなのかな?」

「う~ん、ねぇ八幡君、茅場さんってダンスとかの良し悪しが分かる人だったりした?」

「いや、それは無い」

 

 八幡はキッパリとそう言い、明日奈は噴き出すのを慌てて堪えた。

 

「それじゃあやっぱり大事なのは一緒にいる人の感情の動きだね」

「だよな………でもそう思うと、逆に意識しちまうんだよなぁ………う~ん」

「頭をからっぽにしないとだね」

「頭をからっぽにか………」

 

 二人はう~んと唸り、明日奈がこんな事を提案してきた。

 

「もしかして、目先の変わった踊りとかの方が新鮮なのかな?」

「それって普段、愛がしなさそうな踊りって事か?」

「うん、まあそんな感じ」

 

 八幡はその提案に大きく頷いた。

 

「それなら素直に驚けるかもしれないな、具体的に何かあるか?」

「そうだねぇ………ALOなら剣舞とか?」

「剣舞………そりゃ駄目だな」

「どうして?」

「だってそれ、絶対に明日奈と比べちゃうだろ?

明日奈の戦ってる姿はいつも舞ってるみたいで格好いいからな」

「やだもう、八幡君ったら!」

 

 明日奈は嬉しそうに頬を緩ませながら、八幡の背中を思いっきり叩いた。

 

「おわっ!」

 

 その力は意外に強く、八幡は、

二人のすぐ横でハンカチをくわえていた藍子目掛けて突っ込みそうになった。

 

「あっ!」

「チャンス!」

 

 藍子はそんな八幡を迎え入れるかのように、

手を大きく開いて八幡の顔を自らの胸で受け止めようとする。

 

「ラッキースケベ・クイーン!」

 

 だが八幡は、ダン!と床を踏み、体の勢いを何とか殺す事に成功した。

藍子の胸はすぐ目の前まで迫っていたが、確実に接してはいない。

 

「んぎぎぎぎ………」

 

 八幡はそのまま腹筋を駆使して体を起こし、ガッツポーズをした。

 

「よっしゃぁ、耐えたぞ!」

「何耐えてるのよ、もっと素直にリビドーしなさいよ!」

「ふふん、お前の思惑通りにいくと思ったか」

「ムキー!」

 

 そんな二人の様子に教室は明るい笑顔に包まれた。

帰還者用学校はまだこの時点では全く平和であった。

 

 

 

 そして放課後、八幡はソレイユの自分の部屋に一旦寄った後、

何かヒントはないかと思い、何となくソレイユ・エージェンシービルを訪れていた。

そのままフランシュシュの予定を確認した八幡は、レッスンルームへと向かった。

 

「あれっ、八幡さん?」

 

 八幡を見つけたさくらがそう言った瞬間に、

愛と純子がレッスンを放り出して八幡に駆け寄った。

 

「八幡!」

「八幡さん!」

 

 そんな二人に八幡は、即座に拳骨を落とした。

 

「きゃっ!」

「い、痛い!」

「お前らさぁ、これも仕事のうちなんだからちゃんとしような」

「ちぇっ、は~い」

「ご、ごめんなさい」

 

 二人がすごすごと戻っていった後、八幡はレッスンの先生に頭を下げた。

 

「邪魔しちゃってすみません、続けて下さい」

 

 愛と純子はその後も八幡に気を取られていたが、

八幡が二人をじろっと睨むと、慌てて八幡から目を逸らした。

それで本当に反省したのか、二人はこそこそと何か話していたが、

その直後に二人の動きが急に良くなった。

 

「おお?」

 

 八幡はそんな二人の口の動きを読んでいた。

二人が言ったのは、『ここは集中して八幡にいい所を見せよう』だった。

 

「動機はともかく、やっぱりよく動くなぁ………」

 

 八幡はみんなの動きに感心していたが、次のサキの言葉にハッとした。

 

「よし、次、新曲いくぜ!」

「新曲?新曲か、そうか、その手があったか」

 

 八幡はそう呟いて立ち上がり、サキに声を掛けた。

 

「お~いサキちゃん、ちょっといいか?」

「ん?どうかした?」

「ちょっと一瞬愛と話をさせてくれ、それで俺は退散するから」

「オーケーオーケー、それじゃあみんな、五分休憩な!」

 

 他の者達はサキの指示に従い、飲み物のペットボトルを手に取った。

当の愛は、八幡から指名という事でもじもじしていた。

 

「な、何?」

「いや、今夜だけどな、愛、俺の前で新曲を披露してくれないか?」

「新曲を?」

「ああ、それなら俺も、何があろうと新鮮な気持ちで聞けると思うんだよ」

「あ、ああ~!」

 

 愛はそれで納得し、その八幡の頼みに頷いた。

 

「オッケー、しっかり練習しておくね」

「おう、それじゃあ夜にな」

「うん!」

 

 八幡は愛に手を振り、フランシュシュの他のメンバーに挨拶しようとして、ピタっと止まった。

 

「純子?」

「つ~ん、です!」

 

 純子は拗ねているのか、頬を膨らませながらそっぽを向いていた。

大人っぽい純子にしては珍しい仕草であり、

他の者達も、珍しいものを見たという視線を純子に向けている。

八幡は苦笑すると、そのまま純子の頭を撫でた。

 

「純子、頑張れよ」

「っ!?」

 

 純子は顔を赤くしながら俯き、八幡はそれで立ち去ろうとしたが、

そんな八幡の前に、他の者達が頭を差し出してきたのを見て、ぽかんとした。

 

「へ?」

 

 さくら、サキ、リリィ、ゆうぎり、たえの五人は早く早くといった感じで頭を動かし、

八幡は面食らいながらも全員の頭を撫でた。

 

「み、みんなも頑張ってな」

 

 フランシュシュも、まだこの時点では全く平和であった。

 

 

 

 そして夜、ハチマンは少し緊張しながら、新曲の準備をしているウズメを眺めていた。

 

「ウズメ、その衣装は?」

「いいでしょ、本番で使うのと同じのをまたスクナさんに作ってもらったの」

「仕事が早すぎだろ………」

「私のパートだけだから曲については分かりにくいかもだけど、

可能な限り他の人のパートも歌ってみるね」

「覚えてるのか………」

 

 ハチマンは感心しつつ、ウズメの準備が整うのを待った。

そしてウズメはセットの配置を終え、一人で歌いながら踊りだした。

 

「お、おぉ………」

 

 おそらく一般人でこの曲を聞くのは自分が初めてなのだろうと思いつつ、

ハチマンはウズメのパフォーマンスに完全に魅了された。

 

(やっぱりウズメは凄ぇな………)

 

 その瞬間にウズメは、自分に舞踊スキルが追加されたのを理解したが、

せっかくの機会だから最後まで歌い踊ろうと、

先ほど以上の気合いを入れてパフォーマンスを続けた。

それをハチマンは、少年のように目をキラキラさせながらずっと眺めていたのだった。

 

 歌姫スキル獲得までに必要なスキルの数は、あと三つ。

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