ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1174話 三人目の歌姫

 盛り上がっていた場が落ち着いた頃、この場にいるメンバーの手によって、

ウズメの能力の検証が行われる事となった。

 

「ん、これは………」

「制御はともかく、能力値の上がりはクリシュナの魔法より少し落ちるくらいかな?」

「その分効果範囲が段違いかも」

「これ、パーティ単位じゃなくてフィールド展開なのな」

 

 ウズメが意識してスキルを使うと、ウズメを中心に、うっすらとした光の円が広がった。

その範囲内にいる者には等しく効果が発現しているようだ。

 

「個人単位で支援するのとは違うんだ」

「その代わり、確実に全体の底上げにはなるよな」

「大規模戦闘向きのスキルだね」

「ウズメ、範囲は狭められるか?」

「あ、うん、やってみる」

 

 だがそう簡単にスキルの操作が上手くいくはずもなく、ウズメは悪戦苦闘する事となった。

それでも何とか範囲を直径にして三分の一くらいにする事が出来、仲間達はその円の中に入った。

 

「おお?」

「ステータスの上がり具合が大きくなってますね」

「凄い凄い!」

「これは戦術の幅が広がるな」

「ウズメは頑張って修行しないとな」

「うん!私、頑張る!歌いながら動くのは得意だから!」

「同時に経験値も稼いでおくといいね、派生スキルに関しては自由にポイントを振れるからね」

「そうなのか?」

「ああ、コンソールを開いて候補を見てみるといいよ」

 

 ホーリーのアドバイスを受け、ウズメはコンソールを開いた。

 

「あっ、本当だ!」

「それじゃあ今度狩りに行かないとだな」

「くぅ、私も早くスキルを………」

「だな、ピュアはどういった方向の歌姫になりたいんだ?」

「私は皆さんの癒しになりたいです!」

「ウズメが能力強化系で、ピュアはヒーラー系って事か………」

 

 それから相談の上、ピュアが狙うのは、吟唱、癒し系、小悪魔系の三つに加え、

もう一つは様子を見ながら、という事となった。

 

「それじゃあピュアが歌姫になったら、改めて狩りの予定を組む。

同時にメンバー全員へのお披露目会をやるから、

ん~、マックス、悪いが他のみんなと相談して、準備を進めておいてくれ」

「分かりました、任せて下さい!」

 

 こうして予定が決まり、この日、一同はそのままログアウトした。

 

 

 

 そして次の日ハチマンは、同じ場所でピュアと待ち合わせをして、

スキルの取り方をピュアに説明した。ちなみにウズメも暇だったらしく、

案内も兼ねてピュアと一緒にこの場に来ている。

 

「吟唱スキルは、とにかく早口言葉を言ってればすぐに取れるからな」

「あっ、土曜の夜八時からやってた番組みたいにですね!」

 

 そのピュアの言葉の意味が分からず、ハチマンは困惑した。

 

「えっと………そうですね」

「どうして敬語ですか!?」

「あ、いや、ネタがよく分からなくて………」

「とにかく全員集合なんですよ!」

「そ、そうか、まあ任せるわ。で、癒し系は、常に笑顔を絶やさない事、

そして小悪魔系は、ツンデレっぽい喋り方を心がけてたら手に入った」

「笑顔は得意です、早速始めますね!」

「え?あ?お、おう」

 

 この後、ピュアはまさかの笑顔を崩さずに早口言葉にチャレンジし、

すぐに癒し系と吟唱のスキルを獲得した。

 

「ハチマンさん、やりました!」

「え、マジかよ、凄いなピュア………」

 

 ハチマンはその早さに驚き、ウズメがひそひそとハチマンに説明してきた。

 

「ピュアは天才肌なんだよね………」

「そうなのか?」

「うん、ダンスとかもあんまり練習しなくても、ある程度はすぐに出来るようになるよ。

ただちょっと、動きが遅れたりするだけで、型自体の覚えは凄く早いの」

「なるほどなぁ………」

 

 そんなピュアは、今は小悪魔系にチャレンジしていた。

 

「二人の会話が気になるなんて事は全然無いですからね!」

「………あっ、うん」

「どうしてそんな、微妙な顔をしてるんですか?」

「いや、慣れないなって思って」

「まあ確かにウズメさんほどツンツンもデレデレも、普段の私はしないかもですけど!」

「わ、私は別にそんなんじゃないから!」

 

 ピュアは明らかにツンデレ向きな人材ではなく、

ハチマンはこれは時間がかかるかもしれないなと思ったが、

ピュアも同じ事を考えたらしく、少し考え込んだ後に、

ピュアはハチマンが思いもつかなかった方策に出た。

 

「ハチマンさん、小悪魔系って、そのままじゃいけないんですか?」

「そのまま、とは?」

「だってツンデレって、別に小悪魔とは関係ないですよね?」

「た、確かに………」

 

 ハチマンが知っているのはユナと経験してきた事だけであって、

確かにそれが、確実に正解とは限らない。

 

「ならここからは私に任せて下さい!」

「わ、わかった」

 

 ハチマンは、別に急いでいる訳でもないし、

ここはピュアに任せようと考え、何をするのか見極めるべく、ピュアをじっと見つめた。

 

「………ハチマンさん、私の事、ちゃんと見ててくださいね」

「え?あ、おう」

 

 そしてハチマンが見守る前で、ピュアはいきなり肩を露出させた。

 

「えっ?」

「ピュア!」

「ウズメさん、邪魔をしちゃ駄目ですよ?」

 

 ピュアは《蠱惑的な》表情でウズメにそう言うと、ハチマンにしなだれかかってきた。

 

「え?え?」

「ハチマンさん、私、ウズメちゃんよりも年上なんですよ。

つまり、ハチマンさんと、より年が近いんです」

「そ、そうなんですね」

「それって、《そういう事を》しても、犯罪にならないって事なんですよ?」

「そ、そういう事!?」

「ハチマンさんったら、分かってる癖に、うふふ」

 

 ピュアはそう言ってハチマンから離れ、艶っぽく微笑んだ。

 

(こ、小悪魔………)

 

 ハチマンはまさかのピュアの豹変っぷりに度肝を抜かれ、

ピュアからまったく目が離せなくなった。

ずっとくっついているのではなく、一定の距離を離れた事が、逆にピュアの全身を見る事が出来、

細かい仕草や《しな》の作り方に、色気を感じさせてきた。

 

(マジかよ、純子って本当はこういう子なのか?)

 

 ハチマンがそう思うくらい、今のピュアは全く別人のようであった。

そのハチマンの気持ちを見逃すMHCPではなく、次の瞬間にピュアは、元のピュアに戻った。

 

「やった!取れました!」

「マジか!」

「嘘ぉ!?」

「本当ですよ、ほら、見て下さい!」

 

 ピュアが見せてくるコンソールの画面には、確かに小悪魔系との表示があった。

 

「凄いなお前………まさか普段からずっと、本当の自分を隠してるなんて」

「え?今のはただの演技ですよ?」

「そ、そうなの?」

「マジかよ………」

「当たり前じゃないですか、二人とも何を言ってるんですか?もう」

 

 その瞬間にウズメの体がビクンと震えた。

 

「え?え?」

「むむ」

「どうしたの?」

「え………」

「え?」

「演技派のスキルが取れちゃいました」

「「うわ」」

 

 それはハチマンとウズメが、ピュアの行動が演技だったと言われ、

度肝を抜かれた瞬間に発現したのだった。

 

「やった、やりましたよ、ハチマンさん!」

 

 そう言ってピュアが見せてきたのは、まごうことなき『歌姫』のスキルであった。

 

「おいおい、まさかなんだが………」

「ハチマン、わ、私の苦労は何だったの?」

「言うな、天才ってのはこういうもんなんだって」

「うぅ………嬉しいけどでも、複雑な気分」

 

 ピュアが嬉しさのあまり駆け回るその横で、

ハチマンとウズメは何ともいえない表情をしていたが、

とりあえずこの事を他の者達、特にセラフィムに伝えなくてはいけない為、

三人はそのままヴァルハラ・ガーデンへと帰還した。

 

「ただいま」

「ただいま!」

「戻りました!」

「あれ、早かったね」

 

 今日もハチマンが不在の中、

ユイやキズメルと過ごすべくログインしていたアスナが、そんな三人を出迎えた。

 

「ああ、実はピュアの奴………一日で歌姫にたどり着いたわ」

「ええっ、凄くない!?」

「ああ、正直凄いと思う………」

「凄く敗北感がある………」

「ま、まあ歌姫になったのはウズメの方が早かったんだし気にしない気にしない?」

「う、うん………」

 

 そしてそこからハチマンは慌しく動き始めた。

メンバー全員にメッセージを送り、なるべく多くの者が集まれる日を選択し、

狩りとお披露目会を同時に行うべく、準備を始めたのである。

ユイとアスナがこれをサポートし、セラフィムと、ついでにユキノも呼び出され、

こうして予定はさくさくと立てられていった。

 

「マックスとユキノがいると、さすがに早いな」

「その為に私達がいるんですよ、ハチマン様」

「そうね、お祝い事だし盛り上げるわよ」

「よ、宜しくな、二人とも」

「それで、一つ提案があるのだけれど」

「何だ?」

「狩りには友好ギルドの人達も出来るだけ呼んでみない?」

「それは別に構わないけど、何でだ?」

「そこに、ユナさんも呼びましょう」

 

 ユキノのその言葉にハチマンは目を見開いた。

 

「ユナの反応を見るのか」

「ええ、そういう事」

「分かった、それで手配してくれ」

「分かったわ」

 

 それから一週間後、二月十一日の建国記念日の祝日の昼過ぎから夜にかけてなら、

全員の参加を確保する事が出来る事が分かり、そこで予定が組まれる事となったのだった。

 

 こうして立て続けに、三人目の歌姫が誕生する事となったのである。


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