八幡はログアウトした後、スマホをチェックして、陽乃達がどこにいるのかを確かめた。
「って、ねこやかよ………」
それはまさかのねこやであった。
「っていうか、春雄さんや晶さんも、わざわざここに来たのか………」
八幡は呆れながら階段を下り、ねこやへとたどり着いた。
扉には貸切りの札が下げられており、八幡はそっと扉を開け、中を覗き込んだ。
「えっと、お邪魔しま~す」
「あら八幡君、いらっしゃい」
「おう、こっちこっち!」
「ども」
そこには陽乃、春雄、晶と共に、黒髪のやや幼く見える女性と、金髪のスラっとした女性、
そして高校生くらいに見えるが、理知的な瞳をした肩くらいの髪の長さの女性がいた。
「あ、ザ・スターリー・ヘヴンズの皆さんですか?俺は比企谷八幡、ハチマンです」
「ハチマン君、今日はご足労様ぁ、私は水星楼里、ロウリィ・マーキュリーよぉ?」
「初めまして、丸三千花、テュカです」
「鈴菜怜奈、レレイ」
「初めまして、お会いできて光栄です」
八幡は三人に、本心からそう言った。この三人は、ユージーンが出てくるまでは、
ソレイユを先頭にALOで最強と呼ばれた者達なのだ。
八幡としては、当然礼節をもって接するべき相手である。
「伊丹の次くらいにいい男よねぇ」
楼里が八幡を見ながらそう言い、他の二人がうんうんと頷いた。
(あれ、伊丹さんの本名を知ってる?)
そもそもこの三人を『Narrow』に紹介したのは八幡であり、
それでナイツ『GATE』が組まれた訳なのだが、
当然その時にコミケのリアルを紹介なぞするはずもない。
八幡はそう思いながら三人にその事を尋ねた。
「あの、皆さんは伊丹さんに会った事が?」
「あら、聞いてなかった?今年のコミケの時に、偶然コミケに会ったのよ。
ってこれ、おっさんギャグじゃないわよぉ?」
八幡がそれを聞いて、思わず噴き出しそうになったのを見て、
楼里は念押しするようにそう言った。
「すみません、つい笑っちゃいました。でもへぇ、そうだったんですね」
「一応お互いに、参加するって話は事前に聞いてたのよ」
「まさか本当に会えるなんてね」
「すごい偶然だった」
「どんな風に会ったんですか?」
「ええと………」
楼里は八幡にそう聞かれ、懐からスマホを取り出した。
そして何か操作をし、その画面を八幡に見せてきた。
「ほら、これ」
「ええと………えっ?これってコスプレですか?」
そこにはALOでの姿を模したコスプレをした三人の姿が映っていた。
「ええ、私達はそれなりに有名なコスプレイヤーなのよ」
「おお~!」
「それで今年はリアルで『ザ・スターリー・ヘヴンズ』の格好をしようって事になって」
「伊丹に『すみません、写真いいですか?』って頼まれた」
「なるほど………」
どうやらそこから、三人が伊丹に、ALOの知り合いと同じ格好だと言われ、
それで話していくうちに、お互いの正体が発覚したらしい。
「それは本当に偶然でしたね」
「ええ、まあ思ってたのとは少し違ったけど、
リアルでのあの掴みきれない性格が、とても魅力的に思えたわ」
うっとりとそう言う楼里に、千花と怜奈も同じ表情で頷いた。
(伊丹さん、愛されてるなぁ………)
三人のうち誰が選ばれるのか、あるいは誰も選ばれないかもしれないが、
八幡はそんな三人にエールを送った。
「伊丹さんの心を射止められるように、頑張って下さいね」
「ええ」
「はい!」
「うん」
三人は仲良くそう答えたが、それを八幡は疑問に思った。
男が一人に女が三人なのだ、普通は女同士の争いが巻き起こっても不思議ではない。
というかそうなって然るべきだ。
なのにこの三人はまったく争うようなそぶりも見せず、とても仲が良さそうなままである。
それはどこかで見たような光景であり、八幡は自らを取り囲む環境の事を思い、こう考えた。
(ここでその事を聞くのは危険な気がする………)
八幡は曖昧に微笑むだけで、それ以上三人に何も言わなかった。
(伊丹さん、ファイトですよ!)
実はこの三人にリアルで偶然会った時、
伊丹も八幡に対して同じようなエールを送っていたのだが、その事を八幡が知る事は無かった。
「ええと………あっ、そうだ、それにしてもこのコスプレ、凄い作り込みですね、
三人ともそっくりじゃないですか」
八幡は話題を変えようとしたが、この三人には初めて会ったばかりなのでいいネタが無く、
微妙に近くなってしまったが、そう話題を振った。
写真の中の楼里は、ALOのロウリィと同じく赤と黒のゴスロリ衣装を着ており、
ネコミミにも見えるヘッドドレスを付け、巨大な斧を持っていた。
千花はファンタジーに出てくるエルフが着ているような緑のチュニックを着て、
弓を肩にかけていた。怜奈は黄緑と白、青のローブを身に纏い、杖を手にしている。
二人もテュカとレレイの姿を忠実に再現しており、
三人とも実に見事なコスプレ姿だと言わざるを得ない。
「そう、ありがとう。本当に凄く頑張ったのよ、特にこの辺りがね………」
そう言いながら楼里が八幡に身を寄せてくる。
楼里はこの三人の中では一番小柄であり、年齢不詳ではあるが、妙な色気を漂わせており、
八幡はドギマギしつつもそれを表に出さないように、強化外骨格を最大限に駆使していた。
「そうそう、私のこれもね………」
次いで千花が八幡の隣でそう言い、怜奈が八幡の正面に立ち、
ブラが見えんばかりに前かがみになって八幡に話しかけてくる。
「私としてはこの辺りが………」
これにはさすがの八幡もたまらない。
「み、皆さん、そういうのは伊丹さんに………」
「そうよそうよ、八幡君は私のなんだから、あまりくっつかないでよね」
そんな言葉が背後から聞こえ、八幡の頭に重力がかかる。
八幡は慣れたくもなかったのだが、慣らされてしまったその重力の正体を看破し、
頭を変に動かさないように気を付けながら、その重力の主に抗議した。
「俺は明日奈のだぞ、馬鹿姉。っていうか胸を俺の頭の上に乗せるのはやめろ」
「あら、本当は嬉しいくせに」
「いや嬉しくねえよ!?」
そんな二人のやり取りを見て、持たざる三人は一斉に自分達の胸に目をやり、
同時に陽乃に凄い視線を向けた。
「ちょっとレイさん、それは確かにやりすぎじゃないかしら」
「そうよそうよ、やりすぎ!」
「ぐぬぬ、私にだってまだ望みは………」
「あら、やる気?受けてたつわよ」
多少酔っていた陽乃が、挑発するようにそう答え、四人は八幡から離れてにらみ合った。
だがその隙を見逃さない者がいた、晶である。
「むふぅ」
晶は難なく八幡の膝の上に座り、嬉しそうに足をぶんぶんさせた。
「ちょ、晶さん」
「「「「あああああ!」」」」
四人は慌てて晶に詰め寄ったが、晶はどこ吹く風で、鳴らない口笛を吹きつつ、
勝手に楼里のスマホを操作して、八幡と一緒に冬コミでのコスプレ写真を眺めている。
「ちょっとラキア、ずるくない?」
「ラキアさん、八幡君を独占なんてずるい!」
「むぅ、油断した………」
「あなた達には伊丹さんがいるでしょう?」
呆れた陽乃がそう突っ込んだが、三人は口々にこう反論してきた。
「それとこれとは別問題よぉ?」
「今ここに若い子は八幡君しかいないんだし、
ちょっとはチヤホヤされたいって思ってもいいじゃないですか」
「伊丹と八幡さんは別腹」
「あなた達ねぇ………」
陽乃は肩を竦めながら元の場所に戻った。すかさず春雄が陽乃のグラスにお酒を注いでくる。
「レイさん、気にしたら負けだって」
「そうね………とりあえず飲みましょうか」
「そうしようそうしよう」
それから二人は困る八幡を肴に酒を酌み交わし、八幡が解放されるまで、
それから一時間もかかってしまったのであった。