ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1185話 ゴエティアの狙い

 シノンと闇風を見送った薄塩たらこは、情報収集を行う為、

スクワッドジャムの強豪チームがよくたむろしている酒場へと向かった。

今の薄塩たらこは基本闇風とチームを組むような感じで活動しており、

そこにたまたまログインしてきたゾディアック・ウルヴズのメンバーが参加するという、

組織に縛られない遊び方をしていた。なので現状は、個人で動員出来る人員はほぼ皆無であり、

シノン達に助太刀を頼んだのも、そういった理由からである。

 

「さて、誰かいるかな………」

 

 薄塩たらこが店に入ろうとすると、丁度中からTーSと、リーダーのエルビンが姿を現した。

どこかへ狩りにでも行くつもりなのか、全員フル装備である。

 

「おっ、お出かけか?」

「………ああ、まあそんな感じかな」

「そうか、頑張れよ」

「………お、おう」

 

 エルビンはどうにも歯切れの悪い口調でそう答え、足早に去っていった。

 

「何だあいつ?」

 

 それを疑問に思いつつも、薄塩たらこはそのまま店内に入った。

 

「お、話の分かる奴らが………」

 

 中にいたのはMMTMとZEMALであった。

お互いのリーダーのデヴィッドとシノハラもいる。

もっともZEMAL単独だと微妙に話がかみ合わない事も多いのだが、

今回は運よくビービーがいてくれた為、薄塩たらこは話が通じると判断したのであった。

 

「よぉ、デヴィッド、ビービー、ちょっといいか?」

「薄塩たらこか、どうした?」

「あら、久しぶり」

 

 二人は薄塩たらことは特に遺恨も無い二人なので、挨拶も実にスムーズだ。

三人は少し離れたテーブルに移動し、話し始めた。

 

「なぁ、最近新たなPKスコードロンが現れたって話、聞いてるか?」

「ああ、ゴエティアな」

「そうそう、それだそれ」

「一応情報は集めてるけど、随分と正統派なスコードロンらしいな」

「………正統派?」

「軍隊ぽいって事よ」

「ほう………?」

 

 薄塩たらこは、そういう事なら面白半分でプレイヤーを狩ってる訳ではなさそうだと感じた。

 

「それよりもたらこ、今T-Sが外に出てっただろ?

中堅どころのスコードロンを集めて、二、三十人でこれからピト達を狩りに行くらしいぞ。

お前的に放っといていいのか?」

「え、何だそれ、どういう状況だ?」

「最近あの四人、たまにモブの待ち伏せ狩りをしてるんだけど、

当然というか、たまたま近くを通りかかって襲ってきた敵を全員返り討ちにしてるのよ」

「無敗らしいぞ。で、負けた奴らが集まって、一矢報いてやろうとしてるって訳だ」

「四人?」

「ピト、レン、シャーリー、フカの四人ね」

「あ~あ~あ~、あの四人が組んだらそりゃそうなるわな、

近距離戦も狙撃戦も何でもござれじゃないかよ」

 

 人数差はあるのだろうが、薄塩たらこは四人が負ける姿を全く想像出来なかった。

その四人が負けるとすれば、その上位互換である、

シャナ、キリト、シズカ、シノンの四人が組んだ時とかであろう。

 

「で、二人は参加しないのか?ピトやフカにはお前達も色々思うところがあるだろ?」

「私はもう、フカ次郎に思う所は無いから。たまにつるんでるしね」

「俺は………何かこういうのは違う気がする」

「ほ~?」

 

 そのまま話を聞いていると、ビービーはともかくデヴィッドは、

例え大嫌いな相手とはいえ、ただ漫然と数で押すのは好ましくないと考えているらしい。

 

「で、お前はどうするんだ?」

「放っといても平気だろうから行かねえわ、女子会に男が混じるようなもんだしな」

「ああ、確かに女子会か」

「まああいつら如きが勝てる訳ないわよ、私だって多分勝てないんだから」

 

 二人のTーSと、中堅スコードロンに対する評価はかなり辛らつであった。

だがそれが事実なのは間違いなく、薄塩たらこは何の不安も抱いてはいなかった。

だがその状況が変わったのはその直後の事である。

 

「とりあえず、ゴエティアの連中を見かけたら教えてくれ、

仲間の仇でもあるし、正々堂々と奇襲してやるから」

 

 その薄塩たらこの言葉に二人は一瞬動きを止めた。

 

「………今何だって?」

「おう、正々堂々と奇襲してやるって言ったぞ」

「それって正々堂々なの?」

「奇襲も立派な戦術の一つだろ、事実、俺の友達も奇襲でやられてる」

「………なるほど」

「そういう事なら一理あるかもしれないわね」

「だろ?という訳で、宜しくな」

「あっ、ちょっと待って」

「ん?」

 

 酒場を立ち去ろうとしたビービーが、薄塩たらこを呼びとめた。

 

「ゴエティアを見付けたら教えればいいのよね?」

「おう」

「それなら今、店の外を通ったわよ」

「何ぃ!?」

 

 薄塩たらこは慌てて店を飛び出し、きょろきょろと周囲の様子を伺った。

と、確かに西の方に、ゴエティアらしき連中が移動していくのが見えた。

 

「マジかよ、今から戦闘に参加出来るかどうか、知り合いに当たるのはちょっと厳しいな………」

「さすがにいきなりすぎかもな」

「シノンと闇風とは約束してるんだけど、二人とも今バイト中なんだよな………」

「あら、そうなのね」

「まあとりあえず、何かするのかどうか尾行してみるわ、ありがとな、二人とも」

 

 薄塩たらこはそう言って立ち去ろうとしたが、その時いきなり二人が立ち上がった。

 

「ん?どうした?」

「いや、いずれかち合う可能性はあるし、俺もどんな奴らか見ておこうかなと」

「私もそんな感じね」

「それじゃあ呉越同舟といきますか」

「おう」

「ええ」

 

 三人はそのままゴエティアの尾行を開始した。

どうやらゴエティアの人数は二十人の大所帯のようで、リーダーは名前すら分からないが、

そのメンバーのうち、ヘラヘラしたような印象を受ける男がテキパキと味方に指示を出し、

グレネードなどの金がかかる高いアイテムを買い漁っているように見えた。

 

「あいつがリーダーか」

「どうもそれっぽいわね」

「一体何者なんだろうな、あいつら」

「よし、ちょっと近付いてみるわ」

「ちょっと、大丈夫なの?」

「多分平気だろ、俺はあいつらと直接カチ合った事は無いからな」

 

 そう言って動いたのはデヴィッドであった。

デヴィッドはスクワッド・ジャムには出場していたが、まだBoBで本戦に残った事はなく、

スクワッド・ジャムは日本サーバー限定のイベントであった為、

本人が言う通り、おそらくゴエティアには顔は割れていないだろう。

逆に薄塩たらこは、BoBの常連な為、

もしゴエティアがしっかりと有力プレイヤーの情報を集めていた場合、

顔を知られてしまっている可能性が高いのだ。

 

「それじゃあ行ってくる」

「気をつけてな」

「ああ」

 

 そのままデヴィッドはゴエティアのメンバー達に近付いていった。

そして同じ店に入り、何くわぬ顔でアイテムを見る振りをしていたが、

思ったよりも早くこちらに戻ってきた。

 

「随分早かったな、何かいい情報でも手に入ったのか?」

「そうじゃないんだが………」

 

 薄塩たらこにそう尋ねられ、デヴィッドは仏頂面をした。

 

「何よ、その苦虫を噛み潰したような顔」

「いやな、あいつら、全員英語で喋ってやがったんだよ、

だから英語力が無い俺にはどうしようもなかった」

「えっ?」

「それじゃあ海外勢力からこっちに喧嘩を売りに来たみたいな感じ?」

「それは分からないが、何ていうんだろうな、軍人っぽいなって感じはした」

「軍人………」

「そう言われると、妙に統率が取れてるよな」

「顔を完全に隠してるのもそういった理由なのかしらね」

 

 ゴエティアのメンバーは、全員フーデッドケープを身に纏い、

口の部分が露出しており、鼻筋が尖った仮面を装着しているのである。

 

「でも一言だけ、俺にでも分かる単語が聞こえたぜ」

「何て?」

「PLSF」

「えっ?」

「それって………」

 

 スクワッドジャムからの伝統?という訳ではないが、

メンバーの頭文字からチーム名を付けるのは、シャナ方式として認知されていた。

そしてPLSFとは、ピトフーイ、レン、シャーリー、フカ次郎が、

四人で遊ぶ時のチーム名である。

 

「おいおいマジかよ、今日のあいつらの狙いはピト達か?」

「その可能性が高いわね」

「くそっ、仕方ねぇ、二人とも、俺は行くぜ。

俺もメッセージは送っておくが、もし闇風かシノンを見掛けたら、

悪いが事情を伝えておいてくれないか?」

「了解、気をつけてな」

「分かったわ、任せ………」

 

 デヴィッドはその薄塩たらこの頼みを快諾したが、

ビービーは了承しかけて、途中で止めた。

 

「ああ、そっか、そうね、私も行くわ、たらこ」

「えっ、いいのか?」

「ええ、私ね、前にフカ次郎と約束したのよ。危ない時、一度だけ助けてあげるってね。

だから今日、その借りを返しておく事にするわ」

「オーケーオーケー、そういうの、嫌いじゃないぜ」

 

 薄塩たらこは闇風の十八番をパクってニカッと笑った。

 

「それじゃあデヴィッド、宜しく頼むわ」

「………俺も行こうか?」

「そう言ってくれると思ったけどな、とりあえず二人で行く。

もし他の奴らと会えたなら、その時に気が向いたら来てくれればいい」

「………分かった、うちのメンバーに網を張らせておく」

「サンキュー」

 

 そして二人は移動を開始しようとしたが、そこに立ちはだかったのは、

シノハラをはじめとするZEMALのメンバー達であった。

 

「女神様、俺達も行きますよ」

「………でも、これは私の借りだから、チームを巻き込みたくはないの」

「あ~………」

 

 そこにビービーの固い意志を感じ取ったシノハラは、少し考えた後、笑顔でこう言った。

 

「それじゃあ言いなおします、俺達もそろそろマシンガンを撃ちまくりたいんで、

勝手に二人に付いていく事にします」

「そうそう」

「久々の戦闘だぜ、ヒャッホ~イ!」

 

 ZEMALのメンバー達は嬉しそうにそう言い、薄塩たらことビービーは一同に頭を下げた。

 

「悪い、助かる」

「みんな、ありがとうね」

 

 こうして薄塩たらことビービー、そしてZEMALは、

ピトフーイ達を助ける為、西の砂漠目掛けて進軍を開始した。

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