ゴエティアを追跡するに当たって、問題となったのは移動手段である。
目的地が砂漠地帯である以上、下手に車両を利用すると、一発で相手に気付かれてしまう。
「どうする?」
「なぁ、先にピト達と連絡を取るべきじゃないのか?
そっちにも情報を流しておいた方がいいと思うぜ」
シノハラにそう言われ、薄塩たらこはハッとした。
「そういやそうだった………今連絡を取る」
薄塩たらこがピトフーイに連絡を入れると、すぐに返事がきた。
『は~いこちらピト、たらお、どうしたの?』
「おう、いきなりすまん、実はよ………」
薄塩たらこは素早くピトフーイに状況を説明した。
『最近噂のゴエティアって奴?本当に?それは正直ちょっとまずいわね、
今TーSっぽいのと交戦中なのよ』
「マジか、とりあえず俺達も八人でそっちに向かうから、位置情報を送ってくれ」
『了解、まあそれまで何とか死なないように努力するわん』
「ああ、すぐ行く」
そう言って通信を切った薄塩たらこは、ビービーの方を向いた。
「くそ、もうT-S達と交戦中らしい」
「位置はどのあたり?」
「位置情報が来てる、今見てみる」
薄塩たらこはコンソールから位置を割り出してみたが、
現在地からピトフーイ達のいる方向は、まだ遠くに見えているゴエティア達の車両が、
真っ直ぐ向かっている方角と完全に一致していた。
「まずいわね、完全に奇襲されるコースじゃない」
「というかゴエティアの奴ら、何でピト達の場所が正確に分かるんだ?」
「………T-Sと行動を共にしている中堅ギルドの中に、協力者がいるんじゃないかしら」
その指摘に薄塩たらこはなるほどと頷いた。
「確かにそれが一番現実的かもな」
「こうなったら、ゴエティアに気付かれないように距離を取りながら、
車で追いかけるしかないんじゃ?」
「いっそ見つかってもいいから追いついてそのまま殲滅するのは?」
「無理だろ、相手はかなり戦闘に慣れた集団だ、数の差で負ける」
「じゃあやっぱり奇襲しかないわね」
「だな、そうなうと、途中で車を捨てて徒歩で接近かな、
それまでピト達がもってくれればいいが………」
「まあ駄目で元々よ、とりあえずそれでいきましょう。
シノハラ、悪いけど車の調達をお願い」
「了解です、女神!」
シノハラはマシンガンをぶっ放していない時はそれなりに有能であり、
すぐに車を調達して戻ってきた。
「お待たせしました!」
「それじゃあ急いで追いかけましょう」
「シノハラ、ありがとな。かかった経費は後で俺に請求してくれ」
「それくらいいいって、アメリカ野郎に好き勝手させる訳にはいかないでしょ」
「………すまん」
薄塩たらこはシノハラに深々と頭を下げ、こうして追撃が開始された。
その少し前、PLSFの四人は、狩り場に罠を仕掛けた後、
ピクニックシートに食べ物を並べ、のんびりとそれを食べながら雑談していた。
「そっか、北海道はそんなに寒いんだ。そんな世界、想像も出来ないわ」
「まあピトさんは都会育ちだしな!レンはもちろん分かるよな?」
「最近実家に帰ってないから忘れつつあるかも」
「この裏切り者め!道産子魂を忘れたか!」
「冗談だってば、そんなの忘れられる訳無いじゃない」
「ふふん、ならいいけどな」
「しかしGGOも久しぶりよね」
横からこう言ってきたのはシャーリーである。
年末はトラフィックスで思いっきり遊び、北海道に帰ってからは仕事にあけくれていた為、
シャーリーにとっては本当に久々に感じられるらしい。
ちなみにこの四人が集まったのは偶然であり、その神がかった出来事に盛り上がった結果、
こうして狩りに来る事になったと、まあそんな訳である。
「ALOもいいけど、やっぱりGGOも楽しいよね」
「最近ゴエティアっていうPKスコードロンが暴れてるみたいだよ」
「それ、シャナが聞いたら激おこだね」
「そういや今日、リーダーは?」
「年末年始で遊びすぎたせいで、試験がやばいみたいで、
誰かに教えてもらって今日は勉強するってさ」
「ああ、確かにリーダー、ちっとも勉強してる風には見えなかったもんなぁ」
「あと一年で受験だもんね、受かるといいね」
「だねぇ」
そんなまったりとした雰囲気の中、すぐ近くから爆発音が聞こえてきた。
「「「「かかった!」」」」
四人はそう叫ぶのと同時に立ち上がり、すぐに戦闘態勢を取って、音のした方に駆け出した。
「みんな、行っくよぉ!」
「おお~!」
「おらおらおらおら!」
「フカ、うるさい、シャラップ」
「ごめんごめん、テンションが上がりすぎちまったぜ」
「おっ、いい感じにダメージが入ってるね」
「それじゃあ攻撃開始!」
ピトフーイ、レン、シャーリーの三人は、罠にかかったモブに攻撃を開始した。
フカ次郎だけは、弾がもったいない為に周囲を警戒するに留めている。
それでもし他の敵が近くにいたら、グレネードを撃ち込む事になっていた。
「今のところ敵影無し!」
「ほいほ~い、こっちも終わったわよん」
「順調順調!」
「ん、ちょっと待って、今あっちに一瞬砂埃が………」
そう言ったのはシャーリーである。その砂埃が上がったのは本当に一瞬だったのだが、
さすがは現役ハンターの狩りガール、実に目ざとい。
「砂埃?何だろ?」
「待って、今見てみるわ」
シャーリーはそう言って手に持っていたブレイザーR93をしまい、
AS50を取り出してそのスコープを覗いた。
「敵ならいいなぁ」
「敵だといいねぇ」
「というか敵だろ!」
「三人とも、うるさい」
そう好戦的な事を言う三人を制し、シャーリーは尚もスコープを覗き続けていた。
それから十秒ほどして、シャーリーは顔を上げた。
「どうだった?」
「多分だけど、敵かもしれないわ」
「いやっほぉ!」
「よ~し、殲滅するわよ」
「敵は何人くらい?」
「それが………結構数が多かったわ、多分三十人くらい」
その言葉に三人は目をパチクリさせた後、更に盛り上がった。
「よっしゃあ!」
「これは祭りだねぇ」
「殲滅あるのみ!」
「あんたらねぇ………」
シャーリーはそんな三人に呆れながらも、
ストレージからAS50の弾を取り出して地面に並べ始めた。
「シャーリーもやる気満々じゃね~か」
「まあ売られた喧嘩は買わないとだし?もっともまだこっちが標的だとは限らないけど」
そう言いながらシャーリーは再びAS50のスコープを覗く。
「そういや確かにそうだな」
「まあ向かってこないなら見逃してあげてもいいけどね」
「ああ、こっちに来るみたい、やっぱりうちが標的ね」
スコープごしに相手を観察していたシャーリーがそう断定し、
フカ次郎は獰猛な笑みを浮かべた。
「やりぃ!」
「よ~し、久々の対人戦ね!」
「暴れるぞぉ!」
ピトフーイとレンもそれに乗り、PLSFは完全に対人モードに入った。
「それじゃあとりあえず私の狙撃で数を減ら………あ、あれ?」
「どしたの?」
「敵の中にエルビンがいる」
「エルビン!?」
その瞬間に、ピトフーイがバッと顔を上げた。
それはそうだろう、かつてピトフーイは、第二回スクワッドジャムの最中に、
エルビンに胸を撃ち抜かれ、死亡寸前の状態にまで追い込まれた事があるのだ。
幸いそのおかげでリアルでの死亡を免れたとはいえ、それとこれとは別問題である。
「エルビンは私がやるわ、いいわよね?」
その迫力ある宣言に、三人は頷く他は無かった。
「それじゃあ私は適当に数を減らすわ」
「弾が届く距離まできたら、俺もグレネードでサポートするぜ!」
「私はとりあえず敵が近付いてくるまで待機かなぁ………」
「エルビンがこっちに来るまで私もそうするわね」
シャーリー、フカ次郎、レンは、それぞれの役割を踏まえてそう宣言し、
ピトフーイはレンと共に待機する事となった。
「それじゃあ久々に、ライン無し射撃の腕を披露するわね」
シャーリーがそう言ってAS50を構え、三人はそれぞれ単眼鏡を覗きこみ、
固唾を飲みながらシャーリーの狙撃を見守った。
ダン!
シャーリーはそのまま実にあっさりと引き金を引き、
敵の先頭を歩いていたプレイヤーが頭を撃ち抜かれた。
「「「おお~!」」」
三人はそんなシャーリーに盛大な拍手を送り、
それで気を良くしたシャーリーは、更に三人の敵をライン無し射撃で葬った。
そのせいでエルビン達は一時足を止め、物陰に身を潜め、一旦進軍を中断した。
「さっすが!」
「凄い凄い!」
「さて、そろそろ俺の出番だぜ!」
フカ次郎がそう言って右太と左子を構えたその瞬間に、ピトフーイに通信が入った。
「は~いこちらピト、たらお、どうしたの?」
その言葉から薄塩たらこが何の用だろうと思いつつも、フカ次郎は攻撃準備を続けた。
だが直後にピトフーイがフカ次郎の肩に手を置き、首を振った。
「最近噂のゴエティアって奴?本当に?それは正直ちょっとまずいわね、
今TーSっぽいのと交戦中なのよ」
先ほどの会話にも出たゴエティアという名前に反応し、フカ次郎は一旦準備をやめた。
「了解、まあそれまで何とか死なないように努力するわん」
ピトフーイはそんな不穏な言葉で通信を切り、三人は何かあったのかとピトフーイに尋ねた。
「たらこさん、何だって?」
「えっとね、噂のゴエティアが、私達を標的にしてこっちに向かってきてるみたい」
「おおう、マジで?」
「むむ、まさかもう近くまで来てるのかな?」
「みたい、う~ん、どうしよっかなぁ………」
「このままだと最悪挟み撃ちにされるかも?」
「あ、待って、来たかも」
その時T-Sの動きを監視していたままだったシャーリーがそんな声を上げた。
「何かあった?」
「うん、丘の向こうに一瞬ハンヴィーが見えた」
「そんなのよく気付いたねぇ」
「山の中でシカを見付けるよりは簡単よ」
「う~む、さすがハンター………」
「でもどうする?さすがに挟み撃ちはまずいよ?」
「それなら私にいい考えがあるわ」
そう言ってピトフーイはニヤリと笑った。