ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1187話 ピトフーイの計略

「いい考えって?」

「たらおの情報だと、別にあいつらは組んでる訳じゃないみたい。

だから、お互いに食い合ってもらえばいいんじゃないかなぁ?」

「一体どうやって?」

「それなんだけど………」

 

 ピトフーイは三人に、こそこそと自分の思い付きを説明した。

 

「ああっ、それならいけるかも?」

「シャーリーさん次第だね!」

「どう?シャーリー、いける?」

「確かにこのAS50の事は一般には知られてないからいけるかも。

うん、いけるいける、私に任せてよ」

 

 シャーリーはピトフーイの提案にそう太鼓判を押し、

それから細かな計画が立てられる事となった。

 

「さっすがシャーリー、それじゃあ任せた!」

「とりあえずどうやって動く?」

「時間も無いだろうし、ぱぱっと相談しましょう」

 

 そして四人の話し合いはすぐに終わり、

シャーリーはAS50を持ち、そのままどこかへと姿を消した。

 

「さて、私達はニャン号で待機かな」

「こうなるって分かってたら、ブラックに乗ってきたのに………」

「まあそういう事もあるよ、とりあえず手持ちで何とかしないと」

 

 今回四人はここまでニャン号に乗ってきていた。

ピトフーイの言う通り、ブラックに乗ってきても良かったのだが、

ブラックは基本、シャナが乗るというイメージがあった為、

無意識に遠慮した結果、ニャン号が選ばれる事になっのである。

では何故ホワイトではないのかというと、

単純にこちらの方が車庫から出しやすかったからである。

 

 

 

 一方ゴエティアの面々も、この状況に若干イライラしていた。

 

「………邪魔だなあいつら」

「対象のデータがありました、『TーS』だそうです。リーダーのエルビンを確認」

「装備だけは立派なあいつらか、まあ雑魚だな」

「ボス、どうする?」

「仕方ない、迂回するか。今日の目標はあいつらじゃないしな」

「というかボス、あいつらも目標を狙ってるんじゃないか?」

「多分そうなんだろうが、だからといって助けてやる必要はないだろう。

まあそれでやられるようなら、そもそも今回の目標には不適格だったって事だ」

「ははっ、違いねえ」

「どちらにしろ、いい訓練が出来る事を祈るぜ」

 

 ここまでの会話はもちろん英語で行われている。

街に潜ませている協力者から連絡が来たのはピトフーイ達が出発してすぐの事であり、

この会話から、エルビン達が動いた情報は、ゴエティアに上がってきていなかったのが分かる。

 

「よし、それじゃあお前ら、作戦開始だ」

 

 そしてボスと呼ばれた男がそう指示を出し、ゴエティアのメンバー達は動き出した。

その動きはいかにもプロっぽく、整然としたものであった。

 

「移動先でしばらく待機だ、戦闘が起こったらしばらく静観、後に残った方を殲滅して帰還する」

「了解」

「さて、どっちが………」

 

 残るかな、と言いかけたその男の頭がいきなり弾けた。

 

「っ………」

 

 それを受け、ゴエティアのメンバー達は、言葉を発する事なくその場に伏せる。

この辺り、戦闘に対する熟練度の深さを感じさせる見事な行動である。

 

「ボス、今のは………」

「対物ライフルだな、狙撃が来たのはT-Sのいる方向か………」

「あいつら、こっちを見てますね、もう間違いないかと」

 

 正確にはエルビン達は、ゴエティア側とPLSF側、両方を驚いた表情で見ていたのだが、

ゴエティアの位置からは、さすがにそこまでは分からなかったようだ。

 

「まさかT-Sが対物ライフルを所持しているとは………、

もっと情報収集に力を入れるべきでした、すみませんボス」

 

 そして次のこの謝罪は彼に非がある訳ではない。

シャーリーは基本、オープンな場でAS50をほぼ使用しておらず、

その情報は一般にはほとんど知れ渡っていないのである。

 

「くそっ、こっちに気付いて、より脅威だと判断したのか?」

「どちらにせよ、敵対行動をとってきたのは明らかです、ボス、どうします?」

「………対象に気付かれちまうが仕方ない、やるぞお前ら!」

「「「「「「了解」」」」」」

 

 とにもかくにも、ゴエティアのメンバー達は獰猛な表情を見せ、戦闘体制に入った。

T-Sと中級スコードロンの連合軍にとっては、不幸の始まりである。

 

 

 

 シャーリーはレンにピンク色の装備を借り、四人で話し合った通り、単独で匍匐移動していた。

目指すはT-S達を側面から狙撃出来る位置である。

 

「この辺りかな………」

 

 シャーリーは目指す位置にたどり着くと、地面に寝そべって狙撃体制を取り、

T-S越しに、その向こうを観察し続けた。

そしてスコープ内に、ゴエティアの誰かの姿が映った瞬間に、

シャーリーは冷静にAS50の引き金を引き、それで対象を即死させた。

その弾丸はT-Sのメンバー達の間を縫うように飛んだ為、

ゴエティアから見ると、間違いなくT-Sから攻撃が飛んできたように見えた事だろう。

 

「よし!」

 

 シャーリーはそのままスコープの焦点を手前に動かし、T-S達が混乱しているのを見て、

今ならいけると思い、立ち上がって全力で仲間達の所へ帰還した。

 

「シャーリー!こっちこっち!」

「さっすがシャーリー、もう最高!」

「イエ~イ、完璧だったぜ!」

「ふふん、当然」

 

 仲間達に褒められ、シャーリーは鼻高々でそう言った。

かつてのシャーリーならそんな態度はとらなかっただろうが、

今のシャーリーは他の三人とリアルで交流したせいもあり、

今はこの三人を大切な友達と公言するほど気を許していた。

 

「おお~、エルビンの奴、顔が恐怖に引きつってる気がするわね」

「あれは間違いなく、シャナかシノンがこっちにいるって誤認したね」

 

 どうやらピトフーイの意図は二つあったようだ。

一つはゴエティアに、T-S達から攻撃されたと誤認させる事、

そしてもう一つは、T-S達に、こちらにシャナかシノンがいると誤認される事であった。

その作戦はどうやら上手くいったようで、ゴエティアとT-S達は、

今まさに一触即発の状態にあるように見えた。

 

「よ~し、それじゃあ高見の見物といこうか!」

「これでゴエティアってのの実力も分かるわね」

「うんうん、ゴエティアってのの事を、噂だけで判断するのは危険だしねぇ」

「お手並み拝見!」

「まあでも、戦闘が終了する前には逃げるからね。

もし敵の実力が噂通りだとすると、さすがに四人だけだと厳しいと思うし、

それでもしうちが全滅でもしちゃったら、シャナが悲しむと思うから」

 

 そのピトフーイの言葉に三人は深く頷いた。

シャナの名前が出された以上、さすがに無理に抗戦しようという者はいないようだ。

それに加え、最も好戦的と思われるピトフーイから出た意見だという点も大きい。

 

「あっ、攻撃が始まったね」

 

 そしてエルビン達のいる方から銃声が聞こえ、遂に戦いは開始された。

 

 

 

 シャーリーからの狙撃が行われた直後、エルビン達は混乱の只中にあった。

 

「うわっ!」

「くそ、俺達の接近がバレてたのか?」

「ってか今の、明らかに対物ライフルだよな?

って事はまさか、シャナさんかシノンが敵にいるんじゃないか?」

 

 その言葉にエルビン達は戦慄した。

ピトフーイがいるとはいえ、PLSFの活動は公式のゾディアック・ウルヴズの活動では無い為、

こうして今日、エルビンと中堅スコードロンが出張ってきている訳で、

シノンはともかくもしシャナが敵にいた場合、その意味合いが全く変わってきてしまう。

さすがの彼らも、公にゾディアック・ウルヴズに喧嘩を売る気は一切無かったからだ。

そんな背景があるせいで、彼らがシャナだけをさん付けして呼んでいる所がまた面白い。

 

「お、おい、どうする?」

「でもおかしくないか?」

 

 その時メンバーの一人がそんな声を上げた。

 

「何がだ?」

「いや、シャナさんやシノンがもし攻撃してきたんだとしたら、

そもそも攻撃が外れる訳無くないか?絶対に俺達の誰かは死んでるだろ」

「た、確かに………」

「って事は、狙いは別………?」

「弾の飛んでった方向に何か………?」

 

 その意見を受け、エルビン達は弾の飛んでいった方向、要するにゴエティアのいる方を見た。

ゴエティアがエルビン達に注目したのもそのタイミングであり、

こうしてゴエティアとT-S連合軍は、お互いの存在を敵として認識する事になった。

 

「な、何だあいつら!?」

「おい、あれ、ゴエティアじゃないか?」

「そうだそうだ、あの特徴的な仮面、間違いない!」

「やばい、背後を突かれるぞ!」

「迎え撃て!」

 

 彼らにしてみれば、このままシャナに突撃するよりは、

ゴエティアを相手にする方がはるかに気が楽なようである。

こうして戦いが始まり、PLSFはその様子を、

高笑いしながら高見の見物する事となったのである。


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