「いい考えって?」
「たらおの情報だと、別にあいつらは組んでる訳じゃないみたい。
だから、お互いに食い合ってもらえばいいんじゃないかなぁ?」
「一体どうやって?」
「それなんだけど………」
ピトフーイは三人に、こそこそと自分の思い付きを説明した。
「ああっ、それならいけるかも?」
「シャーリーさん次第だね!」
「どう?シャーリー、いける?」
「確かにこのAS50の事は一般には知られてないからいけるかも。
うん、いけるいける、私に任せてよ」
シャーリーはピトフーイの提案にそう太鼓判を押し、
それから細かな計画が立てられる事となった。
「さっすがシャーリー、それじゃあ任せた!」
「とりあえずどうやって動く?」
「時間も無いだろうし、ぱぱっと相談しましょう」
そして四人の話し合いはすぐに終わり、
シャーリーはAS50を持ち、そのままどこかへと姿を消した。
「さて、私達はニャン号で待機かな」
「こうなるって分かってたら、ブラックに乗ってきたのに………」
「まあそういう事もあるよ、とりあえず手持ちで何とかしないと」
今回四人はここまでニャン号に乗ってきていた。
ピトフーイの言う通り、ブラックに乗ってきても良かったのだが、
ブラックは基本、シャナが乗るというイメージがあった為、
無意識に遠慮した結果、ニャン号が選ばれる事になっのである。
では何故ホワイトではないのかというと、
単純にこちらの方が車庫から出しやすかったからである。
一方ゴエティアの面々も、この状況に若干イライラしていた。
「………邪魔だなあいつら」
「対象のデータがありました、『TーS』だそうです。リーダーのエルビンを確認」
「装備だけは立派なあいつらか、まあ雑魚だな」
「ボス、どうする?」
「仕方ない、迂回するか。今日の目標はあいつらじゃないしな」
「というかボス、あいつらも目標を狙ってるんじゃないか?」
「多分そうなんだろうが、だからといって助けてやる必要はないだろう。
まあそれでやられるようなら、そもそも今回の目標には不適格だったって事だ」
「ははっ、違いねえ」
「どちらにしろ、いい訓練が出来る事を祈るぜ」
ここまでの会話はもちろん英語で行われている。
街に潜ませている協力者から連絡が来たのはピトフーイ達が出発してすぐの事であり、
この会話から、エルビン達が動いた情報は、ゴエティアに上がってきていなかったのが分かる。
「よし、それじゃあお前ら、作戦開始だ」
そしてボスと呼ばれた男がそう指示を出し、ゴエティアのメンバー達は動き出した。
その動きはいかにもプロっぽく、整然としたものであった。
「移動先でしばらく待機だ、戦闘が起こったらしばらく静観、後に残った方を殲滅して帰還する」
「了解」
「さて、どっちが………」
残るかな、と言いかけたその男の頭がいきなり弾けた。
「っ………」
それを受け、ゴエティアのメンバー達は、言葉を発する事なくその場に伏せる。
この辺り、戦闘に対する熟練度の深さを感じさせる見事な行動である。
「ボス、今のは………」
「対物ライフルだな、狙撃が来たのはT-Sのいる方向か………」
「あいつら、こっちを見てますね、もう間違いないかと」
正確にはエルビン達は、ゴエティア側とPLSF側、両方を驚いた表情で見ていたのだが、
ゴエティアの位置からは、さすがにそこまでは分からなかったようだ。
「まさかT-Sが対物ライフルを所持しているとは………、
もっと情報収集に力を入れるべきでした、すみませんボス」
そして次のこの謝罪は彼に非がある訳ではない。
シャーリーは基本、オープンな場でAS50をほぼ使用しておらず、
その情報は一般にはほとんど知れ渡っていないのである。
「くそっ、こっちに気付いて、より脅威だと判断したのか?」
「どちらにせよ、敵対行動をとってきたのは明らかです、ボス、どうします?」
「………対象に気付かれちまうが仕方ない、やるぞお前ら!」
「「「「「「了解」」」」」」
とにもかくにも、ゴエティアのメンバー達は獰猛な表情を見せ、戦闘体制に入った。
T-Sと中級スコードロンの連合軍にとっては、不幸の始まりである。
シャーリーはレンにピンク色の装備を借り、四人で話し合った通り、単独で匍匐移動していた。
目指すはT-S達を側面から狙撃出来る位置である。
「この辺りかな………」
シャーリーは目指す位置にたどり着くと、地面に寝そべって狙撃体制を取り、
T-S越しに、その向こうを観察し続けた。
そしてスコープ内に、ゴエティアの誰かの姿が映った瞬間に、
シャーリーは冷静にAS50の引き金を引き、それで対象を即死させた。
その弾丸はT-Sのメンバー達の間を縫うように飛んだ為、
ゴエティアから見ると、間違いなくT-Sから攻撃が飛んできたように見えた事だろう。
「よし!」
シャーリーはそのままスコープの焦点を手前に動かし、T-S達が混乱しているのを見て、
今ならいけると思い、立ち上がって全力で仲間達の所へ帰還した。
「シャーリー!こっちこっち!」
「さっすがシャーリー、もう最高!」
「イエ~イ、完璧だったぜ!」
「ふふん、当然」
仲間達に褒められ、シャーリーは鼻高々でそう言った。
かつてのシャーリーならそんな態度はとらなかっただろうが、
今のシャーリーは他の三人とリアルで交流したせいもあり、
今はこの三人を大切な友達と公言するほど気を許していた。
「おお~、エルビンの奴、顔が恐怖に引きつってる気がするわね」
「あれは間違いなく、シャナかシノンがこっちにいるって誤認したね」
どうやらピトフーイの意図は二つあったようだ。
一つはゴエティアに、T-S達から攻撃されたと誤認させる事、
そしてもう一つは、T-S達に、こちらにシャナかシノンがいると誤認される事であった。
その作戦はどうやら上手くいったようで、ゴエティアとT-S達は、
今まさに一触即発の状態にあるように見えた。
「よ~し、それじゃあ高見の見物といこうか!」
「これでゴエティアってのの実力も分かるわね」
「うんうん、ゴエティアってのの事を、噂だけで判断するのは危険だしねぇ」
「お手並み拝見!」
「まあでも、戦闘が終了する前には逃げるからね。
もし敵の実力が噂通りだとすると、さすがに四人だけだと厳しいと思うし、
それでもしうちが全滅でもしちゃったら、シャナが悲しむと思うから」
そのピトフーイの言葉に三人は深く頷いた。
シャナの名前が出された以上、さすがに無理に抗戦しようという者はいないようだ。
それに加え、最も好戦的と思われるピトフーイから出た意見だという点も大きい。
「あっ、攻撃が始まったね」
そしてエルビン達のいる方から銃声が聞こえ、遂に戦いは開始された。
シャーリーからの狙撃が行われた直後、エルビン達は混乱の只中にあった。
「うわっ!」
「くそ、俺達の接近がバレてたのか?」
「ってか今の、明らかに対物ライフルだよな?
って事はまさか、シャナさんかシノンが敵にいるんじゃないか?」
その言葉にエルビン達は戦慄した。
ピトフーイがいるとはいえ、PLSFの活動は公式のゾディアック・ウルヴズの活動では無い為、
こうして今日、エルビンと中堅スコードロンが出張ってきている訳で、
シノンはともかくもしシャナが敵にいた場合、その意味合いが全く変わってきてしまう。
さすがの彼らも、公にゾディアック・ウルヴズに喧嘩を売る気は一切無かったからだ。
そんな背景があるせいで、彼らがシャナだけをさん付けして呼んでいる所がまた面白い。
「お、おい、どうする?」
「でもおかしくないか?」
その時メンバーの一人がそんな声を上げた。
「何がだ?」
「いや、シャナさんやシノンがもし攻撃してきたんだとしたら、
そもそも攻撃が外れる訳無くないか?絶対に俺達の誰かは死んでるだろ」
「た、確かに………」
「って事は、狙いは別………?」
「弾の飛んでった方向に何か………?」
その意見を受け、エルビン達は弾の飛んでいった方向、要するにゴエティアのいる方を見た。
ゴエティアがエルビン達に注目したのもそのタイミングであり、
こうしてゴエティアとT-S連合軍は、お互いの存在を敵として認識する事になった。
「な、何だあいつら!?」
「おい、あれ、ゴエティアじゃないか?」
「そうだそうだ、あの特徴的な仮面、間違いない!」
「やばい、背後を突かれるぞ!」
「迎え撃て!」
彼らにしてみれば、このままシャナに突撃するよりは、
ゴエティアを相手にする方がはるかに気が楽なようである。
こうして戦いが始まり、PLSFはその様子を、
高笑いしながら高見の見物する事となったのである。