ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1189話 ビービーの誤算

 ピトフーイが戦闘開始を宣言した直後、遠くからマシンガンの連射音が聞こえてきた。

 

「始まった?」

「どこだ?」

「あっ、あそこ!」

 

 レンが指差す方向の路地の奥を、ビービー達の乗るハンヴィーが横切った。

狂ったようにマシンガンを連射するZEMALの姿も見える。

 

「おお~!」

「やってるやってる」

「これでちょっとでも数を減らせれば………」

 

 だがビービー達の姿が消えた直後に爆発音が聞こえ、一同は背筋を寒くした。

 

「えっ、何?」

「あそこ、煙が上がってるけど、あれって………」

「ビービー達が今まさにいる場所だよね………」

「まさか………」

「そのまさかだ、シノハラ達は、あっさりとやられちまったらしい」

 

 薄塩たらこが通信機を耳にしながら横からそう言い、一同は愕然とした。

 

「う、嘘………」

「一体何が!?」

「ビービーが言うには、敵を一人倒した直後に、いきなり車のタイヤがパンクして、

停止させられた直後に、ビルの上から手榴弾を投げ込まれたらしい。

ZEMALの連中は、それでもマシンガンを撃ち続けていた為に全員死亡。

もっともそれで敵をまた一人倒したらしいから、これで敵の数は十五人くらいまで減ったはずだ」

「ビ、ビービーはどうなったの?」

「ビービーはさすがというか、車がスピンした瞬間にタイミング良く飛び出して離脱したらしく、

今は近くのビルに潜伏して移動の機会を探ってるみたいだ」

「おお………」

「さすがはビービー、私のライバルだけの事はあるな!」

「あっちはそう思ってるかどうか分からないけどね………」

 

 レンはぼそっとそう呟いたが、幸いその言葉はフカ次郎には届いていなかった。

 

「しかし戦闘が手馴れてるわね、プロかしら」

「どうかな、まあ十中八九そうだろうが………」

「それでもやるしかないわね」

「ああ、その通りだ」

 

 薄塩たらこはそう言って銃を構え、

ピトフーイは先に狙撃位置に移動していたシャーリーに連絡を入れた。

 

「シャーリー、それじゃあお願い」

『了解、フカ次郎と通信しっぱなしにするから、フカ、私に合わせてね』

「おうよ!任せとけい!」

 

 そのまましばらくシャーリーは無言であり、緊張の時間が続いた。

そして数分後、シャーリーがぼそっとこう言った。

 

『来た、撃つわ』

「了解、こっちも二人組をマーク中、いつでもオーケーだぜ!」

『ファイア』

 

 シャーリーから直ぐにそう宣言があり、上の階から大きな発射音が聞こえてきた。

同時にフカ次郎も、以前猛特訓した通り、正確に敵の頭上目掛けてグレネードを発射する。

 

『ヒット』

「こっちもヒットだぜ!」

 

 この先制で、三人の敵を葬る事に成功はしたが、

当然敵はこちらの居場所を正確に把握したようで、警察署を包囲するように距離を詰めてきた。

 

「たらお、レンちゃん、下で迎え撃つわよ」

「了解」

「うん、行こうピトさん!」

「私は引き続き、ここから狙撃するぜ!」

『私は銃を持ち替えて下に行くわ』

 

 こうして五人は慌しく動き始めた。

一方ゴエティア側は、全く動揺する事なく、警察署の包囲を今まさに終えた所であった。

 

「ここまでやられたのは八人か………敵も中々やる」

「死んだ連中にはいい教訓になったでしょうぜ」

「まあそうだな、よし、敵の強さも申し分ない、訓練開始といこう」

「うっす!」

 

 ゴエティアのリーダーはそう宣言し、地図を見ながら指示を出し始めた。

 

「アルファ、そのまま正面に前進。グレネードの攻撃に警戒せよ。

ブラボーは裏に回って潜入口を捜せ、多分敵が待ち構えていると思うから注意な」

『『了解』』

 

 ゴエティアの元の総数は二十一人であり、今の生き残りは十三人だ。

そのうちリーダー以外の十二人が三チームに分かれている。

 

『こちらブラボー、裏口を発見、今のところ敵影は無し、突入を試みます』

「ブラボイー、了解。アルファはブラボーに合わせろ、それで敵の配置がある程度読める」

『了解』

 

 ブラボーチームのリーダーはそっと扉を開け、ハンカチのような物をそのスペースにかざした。

 

『クリア、突入開始』

『了解、アルファも追随します』

「気を付けろよ」

 

 そしてブラボーチームのリーダーは、ハンドサインで仲間に突入するように指示を出した。

それを受け、ブラボーチームの一人が中に入った瞬間に、奥から銃声が聞こえた。

 

『何っ!?』

「ブラボー、どうした?」

『今攻撃を受けました、敵さんも中々やる』

「いけるか?」

『問題ありません、銃声は一つでした、いけます』

「了解」

 

 PLSF側の現在の配置は、人数が五人しかいないせいで、

上にフカ次郎、シャーリーは裏口に移動中であり、その裏口は、薄塩たらこが一人で守っていた。

そして正面では、ピトフーイとレンが待ち伏せ中だ。

このクラスが相手だとこれはかなり厳しいが、頭数の問題はどうしようもないので仕方がない。

 

「こちらたらこ、一人は倒したが、後続の三人には中に入られた、

何とかやってみるが、どれくらいもつかは分からないな」

『とにかく生存を優先して。今シャーリーがそっちに向かってるから』

「おう、まあやってみる。ちなみにこっちの敵は四人らしい、オーバー」

『了解、こっちも四人よ』

「って事は、もう一チームがどこかにいるか………」

『フカちゃんに、全包囲を見張ってもらうしかないわね』

「だな、それじゃあ健闘を祈る」

 

 薄塩たらこはそう返事をしながら、階下に向けて射撃を開始した。

 

「しかし、今までやってきた事は何だったんだってくらい、敵が優秀だと厄介だな………」

 

 薄塩たらこは敵を上に来させないようにけん制しながら、

シャナ達を相手にしてきた敵も、今までこんな気持ちだったんだろうなと苦笑した。

 

 

 

「レンちゃん、来るよ」

「うん!」

 

 一方正面でも、戦闘が開始されていた。

こちらは味方が二人いるせいで、裏口よりは多少楽に戦闘が進められてはいるが、

残念な事に敵を倒す事は出来ておらず、階段を挟んで上下での撃ち合いが行われていた。

 

「これは膠着するわね」

「弾、もつかなぁ?」

「相手が先に弾切れになるのを待つしかないわね」

「もう一チームはどこだろうね」

「フカちゃんが見付けてくれればいいんだけど………」

 

 この建物は、上の階に上がる手段が階段しかない為、

今のところ、PLSFは小人数で、何とか防衛する事に成功していた。

だが敵のもう一チームが動けば、それもどうなるか分からない。

そうこうしてる間にフカ次郎に、ビービーから通信が入った。

 

『こちらビービー、敵のリーダーらしき人物を発見、短距離狙撃を試みるわ』

「ビービー!私なんかのために来てくれてありがとう!」

『別にいいわよ、これで借り貸しは無しね』

「分かってるって!でもビービー、

まだ敵の一チームがどこに潜んでいるか見付けられてないから、くれぐれも気を付けてね」

『ええ、気を付けるわ』

 

 そのままビービーは、じりじりと敵のリーダーとの距離を詰めていく。

幸い敵のリーダーはまだこちらに気付いていないようで、

ビービーは問題なく狙撃可能な位置へとたどり着く事が出来た。

 

「狙撃はそれほど得意じゃないんだけど、この距離なら………」

 

 そう呟いて、ビービーがスコープを覗いた瞬間に、

どこからか通信を受けるようなそぶりを見せていた敵のリーダーがいきなりこちらを向き、

ニヤリと笑い掛けてきた。

 

「なっ………」

 

 次の瞬間にビービーは頭を撃ち抜かれた。そこから遅れて銃声がやってくる。

 

『ビービー!』

 

 ビービーが今いる位置はフカ次郎からは見えない為、

思わぬ銃声を聞き、フカ次郎がビービーに心配するような声を掛けてくる。

ビービーは自分が死んだ事を理解しつつ、冷静に周囲を見渡した。

同時にビービーは何かをその場に置いたが、その事には誰も気付かない。

 

「ごめん、どこかから狙撃されたわ、遠く、高い所から」

 

 ビービーは射角と音の遅れからそう判断し、最後の力を振り絞ってフカ次郎にそう伝えた。

 

『なっ、ビービー、おい、ビービー!』

「フカ、頑張って」

 

 そのままビービーは死亡し、そこに敵のリーダーが近付いてきた。

 

「おお、危ない危ない、まさかさっきの生き残りがまだいたとはな、全然気付かなかったぜ」

 

 これはまさかの日本語での発言であり、ビービーはこれは自分に向けた言葉であると理解した。

 

「ふ~ん、ビービーねぇ、どこかで聞いたような名前だな、確かスクワッド・ジャムだったか」

 

 そしてそのリーダーは、ビービーの死亡マーカーを覗きこみながらそう呟いた。

 

「まあドンマイって奴だな、イッツ、ショータイムだぜ」

 

 ゴエティアのリーダー、ヌルポ~PoH~はそう言って立ち上がると、

もう興味を失ったのか、ビービーのマーカーに二度と目をやる事はなかった。

 

「まったくいい訓練になるぜ、ハチマンのクソ野郎の仲間はそれなりにいい腕してやがる」

 

 ここからは再び英語に戻り、ビービーは『ハチマン』の部分だけ聞き取る事が出来たが、

それが何を意味するのかは分からなかった。

そのままビービーの意識は街へと戻され、その場から消滅した。

そしてヌルポは、それを確認した後、どこかにいるもう一チームに問いかけた。

 

「チャーリー、いけるか?」

『問題ないぜリーダー、敵のグレネーダーの姿は丸見えだ』

「そうか、それじゃあやっちまえ」

『了解』

 

 直後にフカ次郎のいるフロアにどこかから銃弾が撃ち込まれ、

少し遅れてその場に銃声が轟いたのだった。


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