ピトフーイが戦闘開始を宣言した直後、遠くからマシンガンの連射音が聞こえてきた。
「始まった?」
「どこだ?」
「あっ、あそこ!」
レンが指差す方向の路地の奥を、ビービー達の乗るハンヴィーが横切った。
狂ったようにマシンガンを連射するZEMALの姿も見える。
「おお~!」
「やってるやってる」
「これでちょっとでも数を減らせれば………」
だがビービー達の姿が消えた直後に爆発音が聞こえ、一同は背筋を寒くした。
「えっ、何?」
「あそこ、煙が上がってるけど、あれって………」
「ビービー達が今まさにいる場所だよね………」
「まさか………」
「そのまさかだ、シノハラ達は、あっさりとやられちまったらしい」
薄塩たらこが通信機を耳にしながら横からそう言い、一同は愕然とした。
「う、嘘………」
「一体何が!?」
「ビービーが言うには、敵を一人倒した直後に、いきなり車のタイヤがパンクして、
停止させられた直後に、ビルの上から手榴弾を投げ込まれたらしい。
ZEMALの連中は、それでもマシンガンを撃ち続けていた為に全員死亡。
もっともそれで敵をまた一人倒したらしいから、これで敵の数は十五人くらいまで減ったはずだ」
「ビ、ビービーはどうなったの?」
「ビービーはさすがというか、車がスピンした瞬間にタイミング良く飛び出して離脱したらしく、
今は近くのビルに潜伏して移動の機会を探ってるみたいだ」
「おお………」
「さすがはビービー、私のライバルだけの事はあるな!」
「あっちはそう思ってるかどうか分からないけどね………」
レンはぼそっとそう呟いたが、幸いその言葉はフカ次郎には届いていなかった。
「しかし戦闘が手馴れてるわね、プロかしら」
「どうかな、まあ十中八九そうだろうが………」
「それでもやるしかないわね」
「ああ、その通りだ」
薄塩たらこはそう言って銃を構え、
ピトフーイは先に狙撃位置に移動していたシャーリーに連絡を入れた。
「シャーリー、それじゃあお願い」
『了解、フカ次郎と通信しっぱなしにするから、フカ、私に合わせてね』
「おうよ!任せとけい!」
そのまましばらくシャーリーは無言であり、緊張の時間が続いた。
そして数分後、シャーリーがぼそっとこう言った。
『来た、撃つわ』
「了解、こっちも二人組をマーク中、いつでもオーケーだぜ!」
『ファイア』
シャーリーから直ぐにそう宣言があり、上の階から大きな発射音が聞こえてきた。
同時にフカ次郎も、以前猛特訓した通り、正確に敵の頭上目掛けてグレネードを発射する。
『ヒット』
「こっちもヒットだぜ!」
この先制で、三人の敵を葬る事に成功はしたが、
当然敵はこちらの居場所を正確に把握したようで、警察署を包囲するように距離を詰めてきた。
「たらお、レンちゃん、下で迎え撃つわよ」
「了解」
「うん、行こうピトさん!」
「私は引き続き、ここから狙撃するぜ!」
『私は銃を持ち替えて下に行くわ』
こうして五人は慌しく動き始めた。
一方ゴエティア側は、全く動揺する事なく、警察署の包囲を今まさに終えた所であった。
「ここまでやられたのは八人か………敵も中々やる」
「死んだ連中にはいい教訓になったでしょうぜ」
「まあそうだな、よし、敵の強さも申し分ない、訓練開始といこう」
「うっす!」
ゴエティアのリーダーはそう宣言し、地図を見ながら指示を出し始めた。
「アルファ、そのまま正面に前進。グレネードの攻撃に警戒せよ。
ブラボーは裏に回って潜入口を捜せ、多分敵が待ち構えていると思うから注意な」
『『了解』』
ゴエティアの元の総数は二十一人であり、今の生き残りは十三人だ。
そのうちリーダー以外の十二人が三チームに分かれている。
『こちらブラボー、裏口を発見、今のところ敵影は無し、突入を試みます』
「ブラボイー、了解。アルファはブラボーに合わせろ、それで敵の配置がある程度読める」
『了解』
ブラボーチームのリーダーはそっと扉を開け、ハンカチのような物をそのスペースにかざした。
『クリア、突入開始』
『了解、アルファも追随します』
「気を付けろよ」
そしてブラボーチームのリーダーは、ハンドサインで仲間に突入するように指示を出した。
それを受け、ブラボーチームの一人が中に入った瞬間に、奥から銃声が聞こえた。
『何っ!?』
「ブラボー、どうした?」
『今攻撃を受けました、敵さんも中々やる』
「いけるか?」
『問題ありません、銃声は一つでした、いけます』
「了解」
PLSF側の現在の配置は、人数が五人しかいないせいで、
上にフカ次郎、シャーリーは裏口に移動中であり、その裏口は、薄塩たらこが一人で守っていた。
そして正面では、ピトフーイとレンが待ち伏せ中だ。
このクラスが相手だとこれはかなり厳しいが、頭数の問題はどうしようもないので仕方がない。
「こちらたらこ、一人は倒したが、後続の三人には中に入られた、
何とかやってみるが、どれくらいもつかは分からないな」
『とにかく生存を優先して。今シャーリーがそっちに向かってるから』
「おう、まあやってみる。ちなみにこっちの敵は四人らしい、オーバー」
『了解、こっちも四人よ』
「って事は、もう一チームがどこかにいるか………」
『フカちゃんに、全包囲を見張ってもらうしかないわね』
「だな、それじゃあ健闘を祈る」
薄塩たらこはそう返事をしながら、階下に向けて射撃を開始した。
「しかし、今までやってきた事は何だったんだってくらい、敵が優秀だと厄介だな………」
薄塩たらこは敵を上に来させないようにけん制しながら、
シャナ達を相手にしてきた敵も、今までこんな気持ちだったんだろうなと苦笑した。
「レンちゃん、来るよ」
「うん!」
一方正面でも、戦闘が開始されていた。
こちらは味方が二人いるせいで、裏口よりは多少楽に戦闘が進められてはいるが、
残念な事に敵を倒す事は出来ておらず、階段を挟んで上下での撃ち合いが行われていた。
「これは膠着するわね」
「弾、もつかなぁ?」
「相手が先に弾切れになるのを待つしかないわね」
「もう一チームはどこだろうね」
「フカちゃんが見付けてくれればいいんだけど………」
この建物は、上の階に上がる手段が階段しかない為、
今のところ、PLSFは小人数で、何とか防衛する事に成功していた。
だが敵のもう一チームが動けば、それもどうなるか分からない。
そうこうしてる間にフカ次郎に、ビービーから通信が入った。
『こちらビービー、敵のリーダーらしき人物を発見、短距離狙撃を試みるわ』
「ビービー!私なんかのために来てくれてありがとう!」
『別にいいわよ、これで借り貸しは無しね』
「分かってるって!でもビービー、
まだ敵の一チームがどこに潜んでいるか見付けられてないから、くれぐれも気を付けてね」
『ええ、気を付けるわ』
そのままビービーは、じりじりと敵のリーダーとの距離を詰めていく。
幸い敵のリーダーはまだこちらに気付いていないようで、
ビービーは問題なく狙撃可能な位置へとたどり着く事が出来た。
「狙撃はそれほど得意じゃないんだけど、この距離なら………」
そう呟いて、ビービーがスコープを覗いた瞬間に、
どこからか通信を受けるようなそぶりを見せていた敵のリーダーがいきなりこちらを向き、
ニヤリと笑い掛けてきた。
「なっ………」
次の瞬間にビービーは頭を撃ち抜かれた。そこから遅れて銃声がやってくる。
『ビービー!』
ビービーが今いる位置はフカ次郎からは見えない為、
思わぬ銃声を聞き、フカ次郎がビービーに心配するような声を掛けてくる。
ビービーは自分が死んだ事を理解しつつ、冷静に周囲を見渡した。
同時にビービーは何かをその場に置いたが、その事には誰も気付かない。
「ごめん、どこかから狙撃されたわ、遠く、高い所から」
ビービーは射角と音の遅れからそう判断し、最後の力を振り絞ってフカ次郎にそう伝えた。
『なっ、ビービー、おい、ビービー!』
「フカ、頑張って」
そのままビービーは死亡し、そこに敵のリーダーが近付いてきた。
「おお、危ない危ない、まさかさっきの生き残りがまだいたとはな、全然気付かなかったぜ」
これはまさかの日本語での発言であり、ビービーはこれは自分に向けた言葉であると理解した。
「ふ~ん、ビービーねぇ、どこかで聞いたような名前だな、確かスクワッド・ジャムだったか」
そしてそのリーダーは、ビービーの死亡マーカーを覗きこみながらそう呟いた。
「まあドンマイって奴だな、イッツ、ショータイムだぜ」
ゴエティアのリーダー、ヌルポ~PoH~はそう言って立ち上がると、
もう興味を失ったのか、ビービーのマーカーに二度と目をやる事はなかった。
「まったくいい訓練になるぜ、ハチマンのクソ野郎の仲間はそれなりにいい腕してやがる」
ここからは再び英語に戻り、ビービーは『ハチマン』の部分だけ聞き取る事が出来たが、
それが何を意味するのかは分からなかった。
そのままビービーの意識は街へと戻され、その場から消滅した。
そしてヌルポは、それを確認した後、どこかにいるもう一チームに問いかけた。
「チャーリー、いけるか?」
『問題ないぜリーダー、敵のグレネーダーの姿は丸見えだ』
「そうか、それじゃあやっちまえ」
『了解』
直後にフカ次郎のいるフロアにどこかから銃弾が撃ち込まれ、
少し遅れてその場に銃声が轟いたのだった。