ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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年末まで忙しく、更新がやっとで感想返信まで手が回っていません、すみません


第1193話 面白い奴ら

 シノン達を追いかけた、ヌルポを含むゴエティアの先行部隊は、

三人の姿を認めると、即座に攻撃に移った。

自らが成すべき事をきちんと理解している辺りは実に有能と言える。

 

 ガキン!ガキン!

 

 彼らのせいではないが、だがその行動は僅かに間に合わず、

走るホワイトの装甲に、敵の放った銃弾が命中し、そのまま弾かれる。

 

「さっすが防弾仕様」

「くらい続けるとさすがにまずいかもだけどね」

「さて、落ち着いて守りを固めましょうか」

 

 三人はそのまま高台へと無事に到達し、戦闘準備を進める。

 

「これで後は、他のみんながいつ来るかなんだけど………」

「さすがにそろそろだと思うけどなぁ」

「とりあえず私は櫓の上から敵を見張るわ」

「うん、お願い!」

「それにしても遅いな、ピトの野郎、何してやがるんだ」

 

 幸い敵は仲間と合流してから攻めてくるつもりらしく、まだ進軍してくる気配は無い。

 

「チッ、あの顔は確かシノンって奴だったか、優秀なスナイパーは厄介だな」

 

 ヌルポはそう判断し、味方の無駄な被害を防ぐ為に追撃をやめたのである。

 

「まあこれもいい訓練にはなるんだろうが、まさかハチマン………いや、こっちだとシャナか、

シャナのクソ野郎もいたりするのか?もしいたら、訓練なんぞはやめて、遊ぶんだがなぁ」

 

 ヌルポが期待するようにそう言ったその時、背後から爆発音が聞こえてきた。

 

「どうした?」

「敵が立てこもっていたビルのフロアが爆発したみたいです、ボス」

 

 ヌルポの隣にいた、最近加入した新人の男が単眼鏡を覗きながらそう報告してくる。

 

「爆発?うちの仕事か?」

「いえ、中から爆発したように見えました」

「中から?」

「あっ、中から敵が飛び出してきました、ボス、どうやら敵に逃げられたみたいです」

「こりゃまたクレイジーな逃げ方をしやがる」

 

 ヌルポは敵に逃げられた事には特に何も言わず、むしろ面白がっているようであった。

 

「まあリアルで同じような事はさすがに無いだろうが、いい教訓にはなったか」

「はい、現実味は無いにせよ、色々考えさせられます」

「味方は追撃はしているのか?」

「そのはずですが………」

 

 それから少しして車のエンジン音が聞こえ、

白、茶、黒の三色に塗り分けられたハンヴィーが姿を現した。 

 

「あ、あれは………」

「迷彩にしちゃ変わった色だな」

「ですね」

 

 二人はその異様さに驚かされ、今が戦闘中だという事を一瞬忘れた。

 

「いやいやそうじゃねえ」

 

 すぐに我に返ったヌルポが、意識をハッキリさせようとしたのか、ぶんぶんと首を振った。

 

「どうやらあれは、敵のハンヴィーのようだな」

「ですね、まるでキャリコだ」

「キャリコ?ミケネコって奴か?確かに色はそうかもだが………」

「見て下さい、ライトのデザイン」

「ヘッドライトか?」

 

 そう言われ、ヌルポがライトに注目すると、それは確かに猫の目のようなデザインをしていた。

更によく見ると、ボンネットにヒゲが書いてある。

 

「ぎゃはははは、シャナの仲間だけの事はある、見てて本当に飽きねえわ」

 

 ヌルポは盛大に噴き出し、新人も苦笑した。

 

「自由でいいですね」

「まったくだ、傭兵団なんか持っちまったせいで、遊んでる暇が無いから羨ましいぜ」

「どうします?」

「せっかく舞台を用意してくれたんだ、このまま合流させて、敵の砦への攻撃訓練を行う」

「分かりました、先輩達に伝えてきますね」

 

 新人に伝令を任せたヌルポは、遠くを横切っていくニャン号をじっと見つめた。

 

「………ガブリエルの野郎を上手く追い出せたのはいいが、どうにもやる事が多くて頭が痛いぜ。

しっかし俺も、つまらない男になっちまったもんだよなぁ………」

 

 ヌルポが自嘲ぎみにそう呟いた丁度その時、

ニャン号を運転していたプレイヤーがこちらを見た。

そのプレイヤーは男なのか女なのか、この距離だと判別はしづらかったが、

わざわざ赤い輝光剣を作動させ、見せ付けるように窓から出し、

その手の中指を立てて、ヌルポを挑発するようにくいっくいっと曲げてきた。

 

「ああん?」

 

 ヌルポは一体なんの真似かと首を傾げた。

今のヌルポは他のメンバーと全く同じ格好をしており、

敢えて自分にそんな挑発をしてくる意味が分からなかったからである。

 

「何だ?まさか俺が頭だって気付いてやがるのか?」

 

 そのタイミングでそのプレイヤー、ピトフーイはヌルポに向け、

獲物を見付けた猛獣のような目をし、凄惨な笑みを浮かべた。

ヌルポはそれに咄嗟には反応する事が出来なかった。

 

「ボス、撃ちますか?」

 

 部下にそう尋ねられ、ヌルポはそれで我に返った。

 

「………いや、やめておけ、これはこれでいい拠点制圧の訓練になる」

「了解しました!」

 

 そのままヌルポはピトフーイを見送り、その姿が見えなくなった後、

心の底から楽しそうに、クックッと笑い始めた。

 

「………ボス?」

「クックックッ………ククッ………フッ、ハハッ、ハハハハハハハハハ!」

 

 ヌルポはしばらく笑い続けた後、近くにいた部下の一人を捕まえてこう言った。

 

「いやいやいや、まったくこれだから、ハチマンに関わるのはやめられねえわ。

あいつ以外にも面白そうな奴が沢山いやがる、いっそ日本に移住したいくらいだぜ」

「あっ………はい」

 

 部下は呆気にとられたが、ここで余計な事を言って、ヌルポの機嫌を損ねるのも嫌だった為、

あいまいにそう頷く事しか出来なかった。幸いヌルポはそれ以上、おかしな事は言わず、

スッと冷静な表情を取り戻すと、落ち着いた声で指示を出し始めた。

 

「全員をここに集めろ、狩りの最終段階だ」

「はっ!」

 

 その部下は指示通りに仲間を集め始め、

ヌルポはピトフーイ達が立てこもっている陣地をどうやって攻略しようかと、

舌なめずりをしながらそちらに視線を向け続けたのだった。

 

 

 

 ピトフーイ達は、拍子抜けするほどあっけなく、高台内のシノン達と合流を果たす事が出来た。

 

「ハイピト、助けに来てあげたわよ、感謝しなさい」

「シノン!来てくれたんだ?本当に助かるよ、お礼は私の体でいい?」

 

 そんなシノンの言葉に、両刀使いのピトフーイが、ドサクサ紛れに欲望塗れの返事をした。

だが普通の人なら引いてしまうかもしれないその言葉に、シノンは顔色一つ変えずにこう答えた。

 

「そんなのいらないわよ、どうせならシャナの体を私に差し出しなさい」

「え~?それは私のだからあげられないの、ごめんねぇ?」

 

 ピトフーイも顔色一つ変えずにそう答え、二人は至近距離で睨み合った。

 

「そういえば、ハチマンは私の部屋に何度も来てたりするのよね、これは愛じゃないかしら」

「ハチマンってば、私が喜ぶのを知ってる癖に、私の頭をゴンゴン殴るのをやめないんだよね、

これって愛以外の何物でもないわよね」

 

 この時点で呼び方もシャナからハチマンに変わっており、

既にGGOが全く関係なくなっている。

だが事がハチマン絡みなだけに、二人がそう簡単に矛を収めるはずもない。

 

「ストップ!二人とも、そろそろ敵に備えないと!」

 

 そんな二人を止められる者がいた、レンである。

 

「ごめん、そうよね、配置につくわ」

「おっと、早く弾の補充を済ませないと」

 

 二人とも、レンの言う事は案外よくきく。

これはレンが、ハチマンに一目おかれている事も無関係ではない。

以前フカ次郎が帰還者用学校に訪れた時、暴走するフカ次郎をあっさり捕獲したりと、

実はその身体能力は高く、よくハチマンといい雰囲気になったりしている所も、

二人にとっては脅威である上に、その意見を無視する事は出来ないのである。

 

「シャーリー、行こう」

「ヘカートIIとAS50の競演だね、オーケー」

 

 シノンとシャーリーは、そのままこの小屋に併設されている物見櫓のような塔へと向かい、

フカ次郎は超近接戦の機会を待つ為に、いつでも剣で斬り込める体制をとった。

もしそうなった場合、レンはフカ次郎と一緒に突撃するつもりでその横に立った。

ピトフーイ、薄塩たらこの二人は銃を構え、敵を安易に接近させない係であったが、

そもそもの数が違うので、完全に防ぎきれるかどうかは上の二人にかかっている。

そんな高台の雰囲気を感じ取ったヌルポも、本来のおちゃらけた雰囲気を封印し、

部下達に矢継ぎ早に指示を出す。

そして双方の準備が整い、ヌルポは遂に、突入の指示を出した。

 

「よし、お前ら、行くぞ」

 

 こうしてPLSF+アルファとゴエティアは、遂に正面から激突する事になったのである。


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