『ピト、来たわよ』
「了解、迎撃開始~!」
シノンからそう通信を受け、ピトフーイはレンと薄塩たらこ、
それに闇風と共にけん制射撃を開始した。
ゴエティアは数的有利を生かし、徐々にこちらに浸透してこようとしており、
一斉射撃をしながら障害物から障害物へと移動し、確実にこちらとの距離を詰めてきている。
「あ~もう、腕がいいだけじゃなく堅実よねぇ」
「明らかに何かの訓練を受けてるよな、MMTMの上位互換みたいな感じか」
「ダビドがキレそうな意見だけど、実際そうなのよねぇ」
「ピトさんは相変わらず、デヴィッドさんをいじるのが好きだよねぇ」
「まああいつはいじられていい」
四人はそんな会話を交わしつつも射撃を切らさず、
頑張って敵の進軍を防いでいた。シノンとシャーリーが高所から狙撃を行っているせいもあり、
一定の距離まで近付かれた後、敵の進軍は明らかに停止した。
「う~ん、これじゃあただの膠着よね、戦況が大きく動くのは白兵戦になってからかしらね」
「ムカつくほど隙が無えよな」
「ピトさん、うちらはいつでも行けるぜ!」
「フカ、まだ早いって」
フカ次郎は抜刀して突撃するタイミングを計っていたが、まだ敵が遠すぎる。
もしこのまま突撃したら、おそらくフカ次郎はあっさりと倒されてしまうだろう。
「まあ待ちなさいって、それにしてもおかしいなぁ、
敵のリーダー、もっと頭のおかしい奴だと思ったのに」
フカ次郎を宥めた後、ピトフーイが物足りなさそうにそう呟いた。
「えっ?ピトさん、敵のリーダーが誰だか分かったの?」
「うん、一人だけ、凄く性格が悪そうな奴がいたからね」
「性格が悪そうって、ピトさん、そういうの分かるんだ?」
「類は友を呼ぶって奴よ。私もそうだから、そういうの、分かっちゃうんだぁ」
ピトフーイは救いがたい事に自慢げな顔でレンにそう答えた。
「ピトさんクラスかぁ、でもそれにしちゃ、凄く行儀がいいよね、ゴエティア」
「あら、レンちゃんも言うようになったわね」
「そりゃ、ピトさんとは長い付き合いだし?」
「それじゃあレンちゃんは、この後あいつらがどうすると思う?」
「う~ん、シノンちゃんとシャーリーさんを何とかしようとすると思うけど、
どうやるかまではちょっと………」
そのレンの指摘通り、今膠着状態に持ち込めているのは二人の力が大きい。
特にシャーリーは、AS50の存在という事前情報が秘匿されていたせいもあり、
ゴエティア側に混乱を与えていた。
「ボス、やっぱりあいつら、対物ライフルを二丁揃えてますね」
「こいつは想定外だったな、まさか日本サーバーに、そこまで出回ってるとはな」
「こっちのサーバーでもまだ一丁しか無いですしね」
どうやらアメリカサーバーで対物ライフルを持っているプレイヤーは一人しかいないらしい。
それくらいレアな存在である対物ライフルを、
シャナに近いプレイヤー達が三丁も持っているという事は、
反ゾディアック・ウルヴズの者達にとっては悪夢以外の何物でもない。
ゴエティアは日本サーバーがホームではない為、普段はそれに対抗する必要はないのだが、
今回苦労に苦労を重ね、日本サーバーに接続した事で、
その脅威を実地で感じる事になったのは、訓練の為に来たゴエティアにとっては、
ある意味幸運な出来事であったかもしれない。
「さすがにこれ以上前には出れないか」
「地形も不利ですし、ちょっと厳しそうですね。敵の狙撃手を排除出来れば手はありそうですが」
「よし、それじゃあ次の手を打つか」
「どうします?」
「奥の手を出す、《アレとアレ》を用意させろ」
「二つともですか。まさか使う事になるとは思いませんでしたね、分かりました」
そのプレイヤーはヌルポに頷くと、そのままどこかへ去っていった。
「さて、俺も久々にこれを使うか………」
そう言いながらヌルポが取り出したのは、
かつてSAOで使用していたメイト・チョッパーに酷似した剣であった。
「ん、あれ?」
射撃が下手すぎるせいで、今は敵の様子を注視する事しか出来ていないフカ次郎は、
後方で敵が何かを準備している事に気が付いた。
「ピトさん、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「いや、右斜め後方、赤い屋根の小屋の裏辺りなんだけど、敵が持ってるあれ、何か分かる?」
「赤い………小屋?」
ピトフーイは一旦射撃を止め、そちらに単眼鏡を向けた。
そしてそこに何があるのか理解した瞬間に、ピトフーイは、うげ、と呟いた。
「ミニガン?ベヒモスもそうだけど、よくあんなの運べるわよねぇ………」
「ミニガンだと!?」
「さすがにそれは厄介だな………」
「まああれを装備出来るくらいステータスを特化させるその勇気、嫌いじゃないけどな!」
「おいピト、どうする?さすがにあれを撃たれながら同時に前進されると厳しいぞ」
「そうね、シノンちゃんとシャーリーに狙撃してもらうしかないわねぇ………」
ピトフーイがそう答え、上に通信を入れようとしたその時、
敵の後方からいきなり何かが発射された。
「えっ?」
「何?」
「あ、あれ………」
「まさかRPG!?」
ここまで日本サーバーで、RPGが使われたという事例は存在しない。
というか存在する事すら確認されていなかった。
アメリカサーバーでも対物ライフルと同じく一丁しか存在していなかったが、
その弾の値段が店売りしかしておらず、とんでもない値段である為、
使用された事は過去に数回した無いそのRPGを、
今回ヌルポは訓練用に所持者に大金を払って借り受けてあったのである。
尤も弾に関しては、金額のせいもあって一発しか用意出来ていない。
「ちょ、反則でしょ!」
「目標は?」
「上!」
「まずい!シノン、シャーリー!」
その時点で上の二人も、ミニガンの存在に気付いており、
今まさにその持ち主を狙撃しようとしていたのだが、
その瞬間にRPGが発射された事に驚愕していた。
「うわ!シャーリー、逃げないと!」
「うん、階段に走ろう!」
「無理かも、間に合わない!」
「くっ………」
迫り来るロケットを前に二人が下した判断は、まったく違うものであった。
シャーリーはその場で狙撃体制をとり、シノンは塔から飛び降りたのである。
「シャーリー!」
「シノン!」
二人はそう呼び合いながら、お互いの無事を祈った。
だがシノンはともかくシャーリーは、もうこの時点で絶対に助からない。
「あれは私が排除する!」
シャーリーはそう叫ぶと、RPGを持つプレイヤー目掛けて照準を付けた。
だがすぐに思いなおし、その照準をRPGそのものに変更した。
(他の奴に使われるかもしれない、ここは武器破壊で………)
ロケットが着弾する瞬間に、シャーリーはAS50の引き金を引いた。
そして落下しつつあるシノンは、空中でその弾丸が、敵の方に飛んでいくのを確かに見た。
「シャーリー!」
シノンはシャーリーに向けてそう叫び、シャーリーはその声を聞きつつ、
自らが放った弾がRPG本体に命中して、破壊には至らなかったものの、
明らかに修理しないと使えない状態まで至らしめたのを確認し、満足げな顔をした。
「RPGはもう使えないわ!」
その声をシノンに届けたのを最後に、シャーリーはその場で爆散する事となったが、
その顔はとても満足げであった。シノンはその叫びを聞き、シャーリーは死ぬ間際に、
自らの仕事をキッチリ果たしたのだと認識した。
「私だって!」
シノンはギラリと目を光らせながらそう呟くと、何とか体を捻ってヘカートIIを構え、
最初の予定通り、ミニガンの準備をしているプレイヤーに狙いをつけた。
「あっ!」
だがそれは少し遅かったようだ。ミニガン持ちのプレイヤーは既に準備を終え、
落下中のシノンに狙いを付けていたのである。
そしてミニガンが発射され、銃弾が雨あられとシノンに向けて降り注いだ。
「まだまだ!」
シノンはそう叫んで壁に一瞬手をかけ、その落下スピードをほんの少しだけ減少させる。
そのせいで銃弾はシノンの下を通り過ぎ、その一瞬でシノンはミニガン持ちに狙いを付け、
即座にその引き金を引いた。
「ジ・エンド」
同じ頃、ヌルポは部下達に突撃の指示を出し、
今まさに建物に向けて動き出そうとしていたのだが、
そんなシノンの姿を見て、一瞬その動きを止めた。
「あの女、根性あるな、だが当たるもんかよ」
次の瞬間、ヘカートIIの放った弾が、正確にミニガン持ちに着弾し、
その報告が即座にヌルポに通信され、ヌルポは愕然とした。
「何だそのショーは、クレイジーかよ!」
これが普通のプレイヤーなら、もちろんこんな事は成功させられなかっただろう。
だがシノンは日本で唯一空挺降下が出来る女子高生であり、
バイトを通じて空中で色々な挙動をする事にも慣れている。
それ故に、地面が目の前に迫った今も、ただ無駄死にするつもりはまったくなく、
冷静に生存する方法を試みていた。幸い狙撃の反動で、落下スピードが軽減されている。
「ここ!」
シノンはそのまま塔の壁を蹴り、真横へと飛んだ。
そのまま地面をごろごろと転がったシノンは、何とか命を繋ぐ事に成功する。
だが両足はその衝撃で折れ曲がっており、痛みは無いものの、歩く事は出来そうもない。
その上ここはヌルポ達からそんなに離れた場所ではなく、
我を取り戻して突撃指示を出しなおしたヌルポ達が、
今まさにこちらに向けて攻撃を開始しようとしていた。
「RPG、ミニガン、共に排除!」
だがそんな状況でも、シノンは仲間達にその情報を伝える事を優先し、そう叫んだ。
もちろん死を覚悟しての事であったが、そんなシノンのすぐ近くから返事があった。
「あいよ」
「了解!」
そしてシノンは両脇を二人のプレイヤーに捕まれ、そのまま後方へと引っ張られた。
「きゃっ!」
「おお?お前のそんな声、初めて聞いたな」
「闇風!?」
「シノンちゃん、かわいい!」
「レンちゃん!?」
そう、その二人のプレイヤーは、シノンを救出にきた闇風とレンであった。
二人は凄まじい速度でシノンの両腕を抱え、そのまま建物の中へと引っ込んでいった。
ヌルポすら反応出来ない、それは現実離れした速度であった。
「チッ、やりやがる、このまま突撃だ!」
ヌルポはそう言いながらそう指示を出し、
残るピトフーイと薄塩たらこの射撃で二人の犠牲を出したものの、
十人以上の戦力を残したまま、建物の壁に張り付く事に成功したのであった。
原作ではベヒモス相手に行なわれたこの光景がここで来る事になりました!
空挺降下をさせておいたのも、まあこの時のためですね!