ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみませんお待たせしました!やっと今年の仕事が終わりました!


第1197話 倒れゆく仲間達

「ボス、アルファチームが敵と交戦したようです。

アルファチームは全滅しましたが、プレイヤー、『フカジュロウ』を撃破、

敵の生き残りは『シィノン』『レン』『ピットフーイ』の三名だそうです」

 

 日本語が堪能なヌルポは、

その部下が敵の名前を呼ぶのに苦労しているのを見て思わずクスリと笑いつつ、

すぐに顔を引き締めて、その報告に対し、こう聞き返した。

 

「交戦場所は分かったのか?」

「はい、今からそちらに複数のチームで向かう予定です」

「待て、俺も行こう。とりあえずそいつらは待たせておけ」

「分かりました!」

 

(まさかとは思うが、二チームが全滅させられるような事になったらまずいからな)

 

 生き残りのメンバーの中には新人もそれなりの数が含まれており、

まあそれ故に訓練と称してGGOに来ている訳なのだが、

相手がシャナに近しい者達だと調査で分かっている為、

ヌルポは敵が何か隠し玉を持っている事も考慮し、

自らがすぐ後方でフォローする事を決めたのであった。

もちろんよほどの事が無い限り、自分が前に出るつもりはないが………。

 

(まああのピトフーイとかいう女が相手なら、俺が直接やりあってやってもいいか)

 

 ヌルポは少し前に自分を挑発してきたプレイヤーの事を考え、

ニヤリと笑いながら重い腰を上げた。

 

「ボス、わざわざご足労頂きありがとうございます」

「気にするな、それじゃあ行くぞ」

「はい」

 

 一同はそのまま慎重に前へ前へと進み始めた。

しばらくはただ単調な通路が続くだけで他には何も無く、

途中にいくつかあった部屋も空っぽであり、まず平穏無事といっていい探索が続いたが、

しばらく行くと、通路の端の方に木箱が置いてあった。

 

「お前ら、一旦ストップだ」

 

 それを見てヌルポは目を細め、部下達を制止した。

 

「ボス、どうかしましたか?」

「確か、あのレンというチビの戦闘記録に、

ああいった箱………まあその時は旅行カバンだったはずだが、

その中に隠れて奇襲するってのがあったはずだ。

シノンやピトフーイには無理だろうが、もしかしたらレンが中に入ってる可能性がある。

おいお前、あれに銃を撃ちこんで………いや、音がするのはまずいか、やっぱりいい、俺がやる」

 

 そう言ってヌルポは自らの輝光剣を取り出した。

ちなみに名は、アルベリヒA1『メイト・スライサー』という。

ヌルポがその赤黒い刀身の切っ先を木箱に向けた時、部下が叫んだ。

 

「ボス、あそこにピンクのチビが!」

「何っ?」

 

 見ると確かにピンクのチビ………レンが物陰からこちらを見ており、

レンは発見された事に気付き、やばっ、という顔をした後、一目散に奥へと逃げていった。

 

「追います!」

「分かった、罠の可能性も考えて、慎重にな」

「はっ!」

 

 部下のうち二チームがそのままレンを追いかけていき、

ヌルポはレンがいた事で木箱から興味を失い、メイト・スライサーをしまった。

 

「とはいえ、あれが演技だとも思えんし、おそらく罠の線は無いだろうな」

「そうなんですか?」

「ああ、本当に罠が張られてる時は、もっと嫌な感じがするもんだ」

 

 ヌルポは傍らに置いていた、例の新人とそんな会話を交わしていた。

ヌルポは今回の実戦演習で、この新人は中々見所がある奴だと感じた為、

手元に置く事にしたのである。

 

「そういやお前、マステマだったか、ここでも同じ名前にしたんだな、

あまりいい事じゃないから今後は気をつけろ」

「す、すみません、ログインした直後に先輩達にも言われました………」

「まあ普段こういうのをやらない奴は知らなくても仕方ない、

というか俺が事前に一言言っておくべきだったな、すまん」

「いや、謝らないで下さいボス、全部無知な僕が悪いんです」

「ふむ、お前は真面目………」

 

 真面目だな、と言いかけたヌルポは、何かの気配を感じて慌てて振り返った。

その喉に赤い輝光剣が突き立ち、ヌルポはまさか、という思いで目を見開いた。

 

「て、てめえ、一体どうやって………」

 

 ヌルポの喉に剣を突き立てたのは、ニタァッと笑うピトフーイであった。

その体はピトフーイの身長では絶対に中には隠れられない例の木の箱から飛び出している。

 

「分からない?それじゃあ冥土の土産に見せてあげるわ」

 

 そう言ってピトフーイは腕の力だけで箱から完全に抜け出した。

その両足は失われており、今のピトフーイは、腰から上だけの状態となっていた。

 

「お前それ、まさか自分でやったのか?」

「ええそうよ、何か文句ある?」

「いや、無えよ、全くクレイジーな女だな、気に入った、お前は俺の女にする」

 

 ここで死にかけのヌルポが、本気の顔でそんな事を言い出した。

 

「あんたの女に?残念だけど、私にはもう身も心も捧げた相手がいるのよね」

「………シャナか?」

「あら、よく知ってるわね」

「あいつとは縁があるからな、まあいい、あいつをぶち殺せばいいだけの話だ」

「出来るものならやってみればぁ?出来るものならね」

 

 そのピトフーイの煽りにニヤリと笑い、ヌルポはそのまま死亡した。

 

「う、うわあああああああああああ!」

 

 その時横でそんな叫び声が上がり、次の瞬間にピトフーイの体に銃弾が降り注いだ。

 

「あんた、確かマステマだっけ?ボスの首は頂いたわ、お生憎様」

 

 ピトフーイはマステマにそう英語で語りかけると、最後の力を振り絞って日本語で叫んだ。

 

「レンちゃん、シノン、目標達成よ!」

 

 そしてピトフーイは、ヌルポに遅れる事十数秒で、ヌルポに重なるように死亡した。

 

「ボ、ボス………」

 

 ピトフーイを倒したマステマは、呆然とそう呟いたが、

遠くからこちらに向かってくる仲間達の姿を見て、我に返った。

 

「くっ、ボスに失望されない為にも、しっかりしないと」

 

 マステマはそう言って自分の頬を叩き、仲間達に向けて叫んだ。

 

「先輩!ボスがやられました!同時にピットフーイを倒したので、

残る敵はシィノンとレンだけです!必ず倒しましょう!」

 

 マステマはそう言って銃を握りなおし、仲間達の方へと走っていった。

 

 

 

 その少し前、レンはピトフーイの指示に従って敵が見える位置まで行った後、

敵に発見されて慌ててシノンの所に戻ったところであった。

 

「レン、結局ピトの指示って何の意味があったの?」

「ちっとも分からないよ!私、ただ走って往復しただけだし!」

 

 直後に遠くから小さく銃声が聞こえ、そして通信機からピトフーイの声がした。

 

『レンちゃん、シノン、目標達成よ!』

 

 そしてピトフーイが死亡した事が確認され、

二人は頷き合うと、予め確保しておいた脱出ルートへと向かった。

 

「ピトの奴、どうにかしてやったみたいね」

「私もちょっとは役にたてたのかな?」

「どうだろ、まあとにかく私達は一刻も早くこの場から脱出しないとね」

「うん!」

 

 二人は外に出て、停めてあったニャン号とホワイトに別々に走った。

これは二台を同時に動かす事で、敵を分散させ、少しでも生存率を上げるのが目的であった。

 

「レン、こっちは無事にホワイトに乗り込めたわ、そっちはどう?」

 

 シノンはレンにそう呼びかけたが、どれだけ待っても返事がない。

 

「何かあったのかしら………」

 

 シノンはそう思いながら、仕方なく車のエンジンを始動させた。

その時遠くから銃声が聞こえてくる。

 

「今のは………」

 

 シノンは車をゆっくりとスタートさせながら、音がした方をじっと見つめた。

 

「………何か来る?あれは………レン?」

 

 シノンはこちらに近付いてくるその物体がピンク色である事からそう判断し、減速した。

そんなシノンの耳に、レンの声が飛び込んでくる。

 

「シノンちゃん、そのまま加速して!」

「っ!」

 

 シノンは弾かれるように車のアクセルを踏み、ホワイトの速度が上がっていく。

だがさすがに直ぐに最高速度に達する訳もなく、その間にレンがその快足を生かして追い付き、

助手席のドアを開けて中に滑り込んできた。

 

「レン、何があったの?」

「それが………敵の伏兵がまだいたみたいで、ニャン号が壊されてたの。

で、一気に敵が襲ってきたから通信する余裕が無くて………ごめん」

「そんなの気にしないの。それにしてもまだ伏兵が?全く後から後から………」

 

 ニャン号に限らず、個人で所有している車の類は、

もし破壊判定を受けると、相応の修理代金を請求され、その支払いが済んだ後で、街で再生する。

ゾディアック・ウルヴズの場合、支払いは自動にしてある為、

おそらく今頃専用の車庫に、ニャン号が復活しているはずだ。

 

「それじゃあ仕方ないわね、このまま………」

「という訳で報告終わり!それじゃあ私が囮になって、別方向に走るから、

その間にシノンちゃんは街まで逃げ込んで!そうすればこっちの勝ちだから!」

 

 レンはそう言ってドアを開け、外に飛び出そうとした。

シノンは咄嗟に手を伸ばしてレンの首根っこを掴み、それを止める。

おかげでレンは派手に転がり、おかしな声を上げる事になった。

 

「ふぎゃっ!」

「こら、何勝手な事を言ってるの。こうなった以上、私達の勝利条件は、

二人揃ってちゃんと街まで到達する事よ」

 

 シノンにそう言われたレンは、ひっくり返った格好のまま、目をうるうるさせた。

 

「う、うん!」

 

 こうして二人の逃避行が始まった。


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