協力しあって何としても街に帰る事を決めた二人は、
当然の事ながら、最初にレンがハンドルを握る事となった。
「シノンちゃん、攻撃はお願い!」
「ええ、やっとヘカートIIの本領を発揮出来るわ」
シノンは不敵な顔でそう言うと、ルーフから身を乗り出してヘカートIIを構えた。
「生き残りの敵は十人前後よね、車は何台あるのかしらね」
「ちらっと見た感じだと、五台くらいはあったよ」
「ああ、最初の敵の数を考えると、そのくらいは残ってるわよね………」
単純に戦力比が一対五な上、おそらく敵の方が運転技術も上だろう。
シノンは暗澹たる気持ちになりかけたが、そんなシノンにレンが明るい顔で言った。
「それじゃあシノンちゃん、二人で頑張って生き残ろうね!」
その何の不安も抱いていない、レンの迷いの無い表情を見て、
シノンは気持ちが上向いていくのを感じた。
「ええ、あいつらに私達がどれだけ手ごわいか、見せつけてやりましょう」
「だね!」
(シノンちゃんのこういう所がシャナ的にぐっと来るのかなぁ………)
レンはシノンの男前な所を見てそんな事を考えつつ、
そのまま自分が制御出来る限界までハンヴィーのスピードを上げ、
シノンはスコープを覗いて、追いかけてくる敵のハンヴィーを確認した。
「本当は、トリガーはコトリと落とすように、なんだけど、
多分バレットラインのせいで、簡単に避けられちゃうわね」
シノンは試しにバレットラインを見せつけるように、
トリガーに指を掛けて敵を狙ってみた。その瞬間に敵は蛇行し、見事な回避行動をとる。
「やっぱり無理か………まあでもこれはこれで」
シノンはそう呟き、弾を消費する事なく次々と敵に狙いを定め、
バレットラインをけん制に使う事で、敵の追撃を阻む行動に出た。
こうなると、さすがに一直線に街まで向かっているこちらと比べ、
蛇行している敵のハンヴィーが徐々に遅れてくる。
「ふふん」
シノンは得意げにそう喉を鳴らしたが、ここで敵がいきなり散開した。
左右の距離がかなり広がり、端から端まで銃口を向けるのがいきなり困難になる。
「くっ、反応が早い」
「シノンちゃん、大丈夫?」
「うん、まあいけると思う、そろそろ撃つわ」
そしてシノンは右後方の敵に狙いを定めつつ、
いきなり限界まで体を捻って左後方に銃口を向け、そちらに向けてぶっ放した。
ドン!
という音と共に、ヘカートIIの弾が敵のハンヴィーに向かっていく。
「行っけぇ!」
敵は慌てて回避行動をとったものの、その弾は見事に敵のハンヴィーに命中し、
敵をスピンさせる事に成功する。
「やった、ラッキー!」
さすがのシノンもそんな行動をとれば、確実に敵に当てられるという保障は無かったが、
今回は上手く成功したようで、シノンは新たな弾をヘカートIIに装填し、
再び同じような行動に出ようとした。
その瞬間にシノンの顔目掛けて数本のバレットラインが集中し、シノンの心臓がドクンと跳ねた。
「やばっ」
そのうちの一本が自分の眉間に真っ直ぐ当たっている事に気付いたシノンは、
慌てて顔を横に倒した。そして銃弾が飛来し、シノンの頬を掠めていく。
「危なっ!」
「大丈夫?」
「ええ、やられたら倍返しよ!」
シノンは再びバレットラインを左右に動かし、いきなり途中で止めて狙撃を行なった。
だがそんなやり方がそうそう上手くいくはずもなく、その弾は無情にも外れてしまった。
「ドンマイ!」
「くっ、次!」
と、再び敵のバレットラインが、ルーフのすぐ上に集中する。
こうなるとシノンも安易に上から顔を出せない。
「………ああもう、本当に隙が無いわね!」
シノンはイラついたようにそう吐き捨て、そんなシノンをあざ笑うかのように、
車の後ろに敵の銃弾が当たり、ガンガンと音を立てて弾かれていく。
「こっちが防弾仕様で助かったね」
「ええ、ホワイトさまさまね」
二人はホワイトを頑丈に仕上げてくれたイコマに感謝しつつ、
同時にこのままだと、耐久力の問題で、いずれ貫通されてしまうだろうと危惧を覚えた。
「せめてこれがブラックだったらなぁ」
「そうね、でも無いものは仕方ないわ」
「とりあえずシノンちゃん、運転を代わる?」
「そうね、敵の狙いが憎らしいほどに正確すぎて、私のヘカートIIが使えないわ。
どうやらここは、レンのPちゃんの出番ね」
「うん、任せて!」
レンとシノンは車を走らせたまま運転を交代し、そのせいで一時的に速度が落ちた為、
敵の更なる接近を許す事になってしまったが、
レンが敵に的を絞らせないように左右の窓から交互に銃撃を放つ事で、
再び若干の距離を開ける事に成功した。
「よし!」
「ふう、これで一息つけるね!」
「ええ、出来ればこのまま逃げ切れるといいんだけど………」
そう言いながらシノンはチラリとサイドミラーに目を走らせた。
その瞬間に、二人の乗るホワイトの右前輪が、ガクンと下がった。
「えっ?」
「うわあああ!」
ここは砂漠地帯であり、シノンはそれも考慮して、
地面が陥没した場所や流砂がありそうな場所を上手く避けて走っていたが、
先ほど一瞬ミラーを覗いた事で、シノンは前方にあった小さな窪みに気付くのが遅れてしまった。
車体を立て直そうと慌ててハンドルを切ったものの、
スピードが乗りすぎていた為にホワイトはスピンして停車し、
まだ遠巻きではあるが、完全に敵に半包囲される事になってしまったのである。
それを確認し、二人はホワイトを盾にすべく、車を下りた。
「ごめん………」
「そんな事気にしないで!ここで敵を全員倒せばいいだけの話だよ!」
レンは明るい顔でそう言い、その態度を見てシノンは冷静さを取り戻した。
「ううん、そうじゃないわ、敵が全員車から下りて、
こっちを包囲しようと近付いてきたら、そこでレンが一人で街に走るのよ。これが最適解ね」
「えっ?そんなのやだよ!さっきは二人で一緒に街に行こうって言ったじゃない!」
「状況が変わったのよ、レン一人がその格好で一度敵を引き離しちゃえば、
この広い砂漠ではもう二度と見付ける事は出来ないわ」
「で、でも………」
レンは暗い顔でそう呟いたが、そんなレンにシノンはニコリと微笑んだ。
「別に自己犠牲なんかじゃないわよ。もし違う状況だったら、
レンが残って私が逃げるってケースもあるかもしれない。
でも今の状況だとレンが走った方がいい、そう、これはただのチームワークよ。
目的を確実に達成する為のね」
「チームワーク………」
レンはシノンにそう言われ、顔を上げた。
「うん、分かった、私、頑張って走るよ!」
「ええ、お願いね」
そう言ってシノンはホワイトの陰から敵を覗き、反対側からレンも敵の様子を伺った。
「「………………あ」」
だがさすがというか、敵は一台のハンヴィーを、人が乗ったままそのまま残してあり、
いつでもこちらの後方を塞げるように待機しているように見えた。
今それを行なわないのは、単純にシノンのヘカートIIによる攻撃を警戒してのものだろう。
彼らの乗るハンヴィーはあくまでもレンタルであり、
防弾仕様への改造などは行なわれていないからだ。
「あはははは、あはははははは」
「今までの敵と違って笑っちゃうくらい優秀よね」
「こうなったらもう………」
「玉砕覚悟でやるしかないね」
「ええ、一人でも多く敵を倒して、今度シャナに褒めてもらいましょう」
「う、うん」
シャナの名前が出た瞬間にレンはもじもじとし始めた。
(むぅ、こういう所がシャナの男心をくすぐったりするのかな、今度色々研究してみよっと)
そんな全く緊張感の無い事を考えながら、二人は出来るだけ多くの敵を倒すべく、
ホワイトの陰から敵に攻撃する体制をとった。
「頑張ろう!」
「ええ」
二人はけん制射撃を行ないつつ、こちらに慎重に近付いてくる敵に狙いを定めたが、
その瞬間に後方から、いきなりエンジン音が聞こえてきた。
「えっ?」
「あれは!?」
それは一台のハンヴィーであった。カラーリングからレンタル品であるのは間違いなく、
そのフロントガラス越しに、乗っているのがゴエティアのメンバーである事が分かった。
「ここでまた敵の援軍?」
「もしかしたら、時間的に最初に倒した奴らかも」
「ああ~!そうかも!」
「しかしこれは………」
「あは、ぜ、絶体絶命って奴………」
「でもやるしかないわ」
「そうだね!やってやろう!」
それでも目から光を失う事なく、二人は交戦的な表情で後方を向いた。
その瞬間に、遠くで何かがキラリと光り、
後方からこちらに向かっていたハンヴィーが、いきなりコントロールを失って横転し、爆発した。
遅れて重々しい銃声がこちらに届く。二人は一体何が起こったのか確認出来ないまま、
それでも何かを確信したような表情で、同時に歓喜の声を上げた。
「「シャナ!」」