ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

1216 / 1227
第1204話 比企谷家の夜

 二階から下りてきた八幡を見て、明日奈が駆け寄ってきた。

 

「あっ、八幡君、どう?少しは落ち着いた?」

「ああ、取り乱しちまって悪かった」

「それは仕方ないよ、誰だっていきなりあんな風になってたら驚くと思うし………」

 

 明日奈は八幡を気遣うようにそう言ったが、

他の三人はむしろ、先ほどの明日奈の言葉に闘志を燃やしていた。

 

『去年の十二月にね、その、お父様とお母様が、改装するって言い出してね、

それで今はこんな感じなんだよね』

 

 完璧に妻としてのセリフである。

明日奈はわざわざマウントを取りにくるような事はしない為、

これは自然と口から出た言葉なのだろうが、

他の三人にとっては、自身と明日奈の差を痛感させられる言葉でもあった。

だがここにいる三人は、そんな事で落ち込んだりはしない。

むしろ闘志を燃やし、明日奈に認めてもらえる範囲で八幡にアピールする気満々であった。

 

「まあそんな訳だから、今夜俺は、とりあえず下で寝る事にするわ。

みんなは上で、楽しく女子会でもしていてくれ」

「はぁ?そんなの駄目に決まってるじゃない。風邪でもひいたらどうするのよ、ね?明日奈?」

 

 ここで詩乃は、明日奈を引っ張り込む為に、同意を求めてそう言ってきた。

 

「うん、部屋は広いんだし、気にせず八幡君も一緒に上で寝ようよ」

「いや、しかしだな………」

「八幡様、大事な時期なのですからここで体調を崩すのはまずいと思います」

「そうだよ、意地を張ってないで、ね?」

 

 クルスと香蓮もそれに乗り、八幡はこれは断れないと見て、消極的に頷いた。

 

「わ、分かった、それじゃあそうさせてもらうわ」

「やったぁ!」

「それじゃあみんなで上に行きましょうよ、もういい時間だしね」

「うん!」

 

 明日奈を先頭に、四人は階段をのぼっていく。八幡はとぼとぼといった感じでその後に続き、

部屋に入った後、他の者達から少し離れた所に陣取り、

さてどうしようかと、久しぶりに入った自分の部屋をきょろきょろと眺めた。

 

「………そういえば積み本がいっぱいあったんだったっけか」

 

 八幡はそう思い、本棚に歩み寄って、とりあえず『私の幸せな結婚』と『西野』を手にとった。

 

「………ああ、これもこれも、絶対に続きが出てるはずだよな、

そのうちまとめて買わないとか………いや、むしろこの時間にポチるか」

 

 八幡はそう呟きながら、所持しているラノベの続きがどのくらい出ているか確認しようと、

スマホを手にとって色々と調べ始めた。

そして女性陣は、そんな八幡の姿を眺めながらも、楽しそうに会話を始めた。

 

「それで今日は、どういう流れで集まる事になったの?」

「えっとね、実はGGOで、最近売り出し中のPKスコードロンとぶつかっちゃって………」

 

 その会話は八幡の耳にも届き、それで八幡はハッとした。

 

「あ~、そうだったそうだった、なぁ明日奈、ちょっといいか?」

「あ、うん、どうしたの?」

 

 明日奈は八幡にそう呼ばれ、女豹のポーズのままこちらに歩み寄ってきた。

実に目の毒だが、八幡はそんな明日奈の胸元から目を離す事はなかった。

明日奈が相手だからであったが、ある意味男らしい。

明日奈もその事に気付いていたが、逆に嬉しい為、全く気にはしていない。

そして明日奈が目の前に来ると、八幡はやや真面目な表情を作って明日奈に言った。

 

「今詩乃が言ってたPKスコードロンのリーダーな、どうやらあのPoHみたいなんだ」

「………えっ?それって八幡君がアメリカで会ったっていう?」

「覚えてたか、ヌルポってプレイヤーだな、見た目も一緒だったし、PoHで間違いない」

「そうなんだ………」

 

 明日奈は何か考え込んでいたが、やがて顔を上げ、八幡にこう問いかけた。

 

「で、八幡君はどうするの?」

「あいつに関わるのは時間の無駄だと思うが、もしいい機会があったら、狩ってやろうと思う」

「狩る、かぁ………ねぇ八幡君、PoHって強かったんだよね?」

「ああ、あの時は腕一本を斬ってやったけどな、多分本気じゃなかったと思う」

「そっかぁ………それじゃあ私も今度暇を見て、GGOに行って特訓しておこうかな」

「特訓?何のだ?」

「私がやり合うとしても、銃で戦うのはやっぱり向こうに一日の長があると思うし、

せっかく輝光剣があるんだし、私も銃の弾くらい、斬れるようになっておこうかなって」

「確かにな、俺も銃での接近戦には自信が無いし、ちょっと練習しておくか」

「うん、やろうやろう!」

 

 二人の会話はいい感じに纏まったように聞こえるかもしれないが、

言っている内容は実に頭がおかしい。残りの三人もそんな二人を見て、

『えっ?嘘でしょ?』といった表情をしている。

 

「それじゃあ和人も誘って、指導でもしてもらうか」

「うん、今度学校で頼んでみよっか」

「だな」

 

 八幡と明日奈は事も無げにそう言い、三人は戦慄しつつ、

この二人なら、すぐにマスターしそうだよねとひそひそと話していた。

 

「それじゃあ八幡君、読書の邪魔しちゃってごめんね?」

「いや、話かけたのは俺だろ、こっちこそ邪魔しちゃって悪いな」

「あっ、そうだったっけ」

 

 明日奈は、てへっといった感じで自分の頭をコツンと叩いた。

これを普通の女の子がやると、あざといとしか思われないが、

ヒロイン力の高い明日奈がやると、まったく自然な動作に見えてしまうところが恐ろしい。

そして明日奈は三人の所に戻り、ごろんと布団に横になって、再び会話を始めた。

釣られて他の三人も、ごろごろし出す。

それをチラっと横目で見た八幡は、四人のお腹や背中の肌がチラチラと見えていた為、

慌てて視線を本に戻し、出来るだけそちらを見ないようにせねばと考えた。

これは見る事そのものを避けたのではなく、例えばその姿を詩乃あたりに見られ、

おかしな絡み方をされないようにしないとと考えたからである。

そんな考え方をするくらい、今の八幡は、女性の肌に慣れてきてはいるのだ。

これもある意味立派な成長と言えよう。

 

「でね、今日思ったんだけどさ………」

「あ~、そういうの、あるよね!」

「私は逆にね………」

「確かに………」

 

 そんな四人の言葉が断片的に聞こえてきたが、

本に集中するにつれ、それも耳に入っているようで入ってこなくなり、

そのまま八幡は、本の世界に没頭する事となった。

 

 

 

「八幡様、ちょっといいですか?」

 

 それからしばらくして、誰かが近付いてくる気配がし、続けて八幡に、そう声がかけられた。

 

「ん?ああ、マックス、どうかした………あれ?」

 

 八幡が体を起こして振り向くと、そこにいたのはクルスではなく明日奈であった。

 

「あれ、明日奈?」

「そうですよ、誰だと思ったんですか?八幡様」

 

 明日奈は八幡にそう答え、それできっと、何かの遊びなんだろうと思い、

それに合わせてやるかと考え、こう返した。

 

「いや、気のせいだったわ。で、何の用だ?マスナ」

 

 八幡としては咄嗟に考えたネーミングだったが、それがツボにはまったのか、

明日奈はその場で腹を抱えて大笑いを始め、釣られて他の三人も笑い始めた。

 

「「「「あはははははははは」」」」

 

 八幡は、上手く笑いが取れたと満足し、若干ドヤ顔のまま明日奈が落ち着くのを待っていたが、

明日奈は少ししてから起き上がり、笑い涙を拭きながら深呼吸をした。

 

「ふぅ、ふぅ………」

 

 明日奈は何とか呼吸を整えた後に真顔に戻り、八幡に言った。

 

「八幡様、今里香から連絡があって、三月の頭に理事長と先生達の歓送迎会をやるらしく、

その時生徒がやる出し物の案を、八幡様にも何かないか考えて欲しいそうです」

 

 ちょっと顔を赤くしながら演技を続ける明日奈を見て、八幡は内心でこう思っていた。

 

(何これかわいい、ちょっと相手をするのが面倒な気もするが、だがそこがいいまである)

 

「八幡様?」

 

 明日奈に再びそう呼びかけられ、それで八幡は我に返った。

 

「あっとすまん、ええと………歓送迎会?」

「はい、今の理事長の発案だそうで」

「またあの人は………」

 

 八幡は理事長のドヤ顔を思い浮かべながら、ため息をついた。

だが咄嗟に何かいい案が出てくるはずもない。

 

「………分かった、何か考えておくわ」

「お願いします!」

「で、明日奈、その芸風は一体………」

「イメージチェンジです!」

「あ………そ、そう………」

「はい!」

 

 明日奈はそう、やり切った風に満足げな表情を浮かべながら、

エア眼鏡を指でくいっくいっと直す仕草をし、三人の所に戻っていった。

 

(何だかなぁ………)

 

 八幡は苦笑しながら再び読書に戻ったが、

この夜のイメージチェンジイベントは、これで終わりではなかったのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。