八幡があからさまに顔を赤くしたのを見て、三人はスッと目を細めた。
「もしかして八幡様はケモナー?」
「というか単純に猫耳萌えなんじゃ」
「でも今の明日奈は猫耳は付けてないよ?」
「となると、単純に今の明日奈がかわいいと思ってるだけかも?」
「どうにも判断がつかないわね」
「比較対象が必要みたいな?」
「こうなったらみんなで行くしかないか」
「「それだ」」
三人は頷き合うと、そのまま八幡に近付いていった。
「八幡様、私達もちょっとお話があるのニャ」
「八幡、ちょっといいかニャ?」
「八幡君、私もちょっと聞きたい事があるのニャ」
「えぇ………?」
八幡は、一体何事かと戸惑った様子で四人の顔を交互に見た。
だがその顔色は、先ほどまでよりも普通に戻っていた為、
八幡が猫耳萌えである疑惑は薄れる結果となった。
「………みんな、一時撤退ニャ!」
そんな三人の意図を把握したのか、明日奈がそんな指示を出した。
「分かったニャ」
「八幡、ここは出直すのニャ」
「ごめんね八幡君、また後でニャ」
「お、おう………」
八幡はホッとしたような顔でそう答え、四人は元の場所へと戻った。
「………う~ん」
「何か顔が赤くなったトリガーがあると思うんだけど」
「単純に明日奈だから?」
「それならそれで納得もするんだけど」
四人は車座になって腕組みし、う~んと悩み始めた。
そんな四人を遠くから見ている八幡は、一体何なんだと思いつつも、
四人の仲がとてもいいように見える為、まあいいかと表情を柔らかくした。
「とにかく情報が足りないわ、当初の予定通り、質問してみましょう」
「そうだね、何かヒントが出てくるかもしれないしね」
「それじゃあ明日奈、お願い」
「任せて!」
明日奈は今度は普通に八幡に近付き、八幡は、またかと苦笑しながら明日奈に目を向けた。
「今度は何だ?」
「えっとね、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「おう、何だ?」
「この中だと誰が一番好き?」
そう言いながら、明日奈は前もってスマホに仕込んでおいた画像を八幡に見せた。
「この中から?それならこの子だな」
「ふむふむ、それじゃあ次、これ!」
「これか………う~ん、敢えて言うならこの子か」
「それじゃあこれは?」
「これは難しいが………この子だな」
「次は………」
「まだあるのか………」
それから明日奈はいくつかの画像を八幡に見せ、八幡は律儀にその質問に答えていった。
「よし、こんなもんかな、ありがとう八幡君!」
「ああ、何の意味があるのかはよく分からないが、役にたてたなら良かったよ」
そして明日奈は三人の所に戻り、八幡がどう答えたのか説明をした。
「むむむ………」
「これは………」
「見事に共通点が無い………」
三人は質問の結果を聞き、それがまったくバラバラのタイプだった為、混乱する事になった。
「どういう事?」
「八幡君って実は好みとか無いのかな?」
「これを見ると、そう判断するしかないわね」
「見た目は重視してないみたいに見えるけど」
「アニメのキャラはみんなかわいいし、現実ではあまり参考にならないって事なのかしら」
「それでも好みはあるだろうし、それが無いって事は、やっぱり性格重視?」
「見た目じゃなく性格の面から調べ直してみましょう」
「だね」
「それじゃ手分けしよっか」
四人はそのまま八幡が選んだキャラクターの性格を調べ始めた。そして出た答えは………。
「「「「共通点が無い」」」」
恐ろしい事に、各キャラに共通する要素で五割を超えるものは皆無であった。
「もしかして好みなんか無いって事?」
「かわいければ誰でもいいとか?」
「た、確かにうちのメンバーはみんな個性的で、共通点なんてあんまり無いけど………」
「それでも敢えて共通点を上げるとすれば………」
「「「「みんなかわいい!」」」」
自分で言うなという感じではあるが、
実際周りから高評価を受けている女性が多いのは確かである。
「それはまあ置いておいて、結局どういう事?」
「私達の知らない別の要素があるとか?」
「う~ん………」
正解は、作中でとても輝いているシーンがある、なのだが、
実際に作品を読んでない以上、これを分かれというのは無理があるだろう。
「このアプローチはきっと違うね、こうなったら初心に帰ろう」
四人のリーダーとも言える明日奈がそう宣言した。
「初心………」
「そう、要するに八幡君が何に反応するかが大事って事」
「なるほど、色々やってみて、八幡が顔を赤くするかどうか、観察すればいいって事ね」
そうは言ったものの、四人は何をすればいいのか分からない。
なので必然的に、先ほどの成功例に習う事になってしまう。
「いつもと違う私………」
「ギャップ萌え………」
「八幡のお気に入り………」
四人はそれぞれ頭の中に誰かの姿を思い浮かべ、準備が出来た者から八幡に近付いていった。
その一番手は香蓮である。
「は、八幡君」
「お、おう」
この時点で当然八幡も、四人が何かおかしな事をやろうとしていると気付いており、
香蓮が相手でも、若干身構えていた。
「すぅ~、はぁ~………」
そして香蓮は深呼吸をすると、香蓮には似つかわしくない緩んだ顔をした。
「………くんくん、こっちから八幡の匂いがする!
ほらいた!さっすが私!という訳で、いっただっきま~っす!」
そう言いながら香蓮は八幡に飛びかかり、胸に顔を埋めてくんくんとその匂いを嗅ぎ始めた。
「これってまさかのエルザ?」
「まあ香蓮はエルザと仲良しだし………」
「というか、大人がエルザを演じると、こうなるんだ………」
小柄なエルザだから許されていた部分もあるのだろう、
その変態っぷりを香蓮が演じるのは、正直言って若干怖い。
八幡も相当慌てたのか、香蓮の腕を掴み、自分から引き離そうとする。
「………痛っ」
その掴む力が若干強かったのか、思わず香蓮がそう言い、
八幡は慌ててその手を離そうとした。
「っと、悪い」
「はぁ、はぁ、もっと、もっと強く………」
「「「「ええええええええ」」」」
ここまでやるか、という感じで他の四人はドン引きである。
そこで香蓮は我に返り、そして八幡と目が合った。
それで香蓮は若干顔を青くし、ススッと八幡から離れていき、
仲間達の後方で体育座りをしながらクッションに指で字を書き始めた。
「し、しまった、キャラの選択を間違えた………」
そのあまりにも哀れを誘う光景を見て、他の三人は、
方向性を間違えるととんでもない事になると改めて感じ、
自分が演じようとしているキャラが本当に大丈夫なのかどうか、改めて検討し始めたのだった。
そして次に、詩乃が立ち上がって八幡に近付いていった。
「は、八幡」
「し、詩乃、今ならまだ間に合う、考え直せ」
八幡は詩乃をけん制したが、詩乃は穏やかな顔で八幡に言った。
「ちょっと隣、いい?」
「え?あ、お、おう」
そのいつもと違う雰囲気に、八幡はつい承諾してしまう。
「………」
「………」
そしてしばしの無言の後、詩乃は八幡に語りかけた。
「思えばあんたと出会ってから、色々な事があったよね」
「そ、そうだな」
「こうして隣に座ってお喋りしてると、直ぐに時間も経っちゃうよね」
「あ、ああ、時間の流れが早くなったり遅くなったり、まあ不思議だよな」
八幡以外の三人は、詩乃が誰を演じようとしているのか分からず、ひそひそと囁き合っていた。
「これ、誰?明日奈?」
「ちょっと違う気がするんだけど」
「大人の女って感じはするけど………」
「そんな人、誰かいたっけ?」
詩乃は穏やかながらも、ちょっと切なげな表情をし始め、
じっと八幡の顔を見ながらこう囁きかけた。
「相対性理論って、とてもロマンチックでとても切ないものよね」
「「「まさかの紅莉栖!?」」」
詩乃はアマデウスのクリスに勉強を教わっている為、案外紅莉栖の事をよく知っている。
当然恋バナなどもした事があり、紅莉栖が岡部倫太郎とそんな会話を交わした事も聞いていた。
「シノスティーナか………」
八幡も詩乃が誰を演じているのか理解し、思わずぼそっと呟いた。
「ティーナ言うな!」
「「「「おお!」」」」
詩乃は咄嗟にそう返し、他の者達は思わず拍手をし、詩乃を賞賛した。
「詩乃、凄い凄い!」
「ツンデレな紅莉栖から敢えてツンデレ要素を外すなんて………」
「もう詩乃に教える事は何もないわ、一人前だね」
「だ、だから私はやれば出来る子だと言うとろうが!」
「「「「おおお」」」」
詩乃は完全に紅莉栖になりきっており、一同大絶賛であった。
詩乃は大満足で明日奈達の方へ戻り、香蓮を励ましたりしていたが、
八幡をドキドキさせるという、
当初の目的を忘れている事に気付いたのはそれからしばらく後であった。
ちなみにこの時の詩乃の演技はクルスによって録画されており、
後日それを見せられた紅莉栖は、
顔を真っ赤にしながら見事なツンデレっぷりを披露してくれたのだった。