「………よし、それじゃあ私の番だね。うん、イメージトレーニングもバッチリ。
八幡様、覚悟していてくださいね」
「お、お手柔らかにな」
次に満を持して立ち上がったのはクルスであった。
クルスは八幡の方に歩いていき、そのまま何故か、八幡の背後に回った。
「え?え?」
八幡が戸惑いつつ振り向こうとするのをクルスは止め、
背後でごそごそと何かしていたかと思うと、
その直後にあろうことか、クルスは八幡の頭の上に、その豊満な胸を乗せた。
どうやらクルスは陽乃を演じる事にしたらしい。
「ふう、肩の負担が随分軽くなったわね、やっぱりここが落ち着くわぁ」
八幡はあまりの事に呆然とし、動く事が出来ない。更に困った事に、胸の感触が妙に生々しい。
そう、クルスが先ほどごそごそしていたのは、ブラを外していたのである。
「「アウトぉ!」」
詩乃と香蓮がそう叫び、慌ててクルスに駆け寄って、八幡から引き離しにかかる。
「ちょっ………な、何を!」
「いやいや、どう考えてもアウトだから」
「自重しなさい、その胸は凶器なんだからね!」
「というか、もぐわよ」
「私達だって、胸の事は全く意識してない訳じゃないんだからね」
「ご、ごめんなさい………」
クルスは二人の剣幕に負けて謝りつつひきずられ、そのまま連れていかれた。
「むぅ、ちょっと攻めすぎた?」
「当たり前でしょ!強硬派がいたら本当にもがれてるよ!」
「明日奈だってさすがに今のは………あれ?明日奈?」
一方出遅れた明日奈は、何故か八幡の方を見て、何か考え込むようなそぶりを見せていた。
その視線は、まだ呆然としている八幡の顔と、自身の胸を行ったり来たりしている。
「え?あれ?」
「ちょっと嫌な予感が………」
「いやいやまさか………」
その直後に明日奈はスッと八幡の背後に回り込み、
まさかのまさか、八幡の頭に自身の胸を乗せた。
「………ああ、これ、ちょっといいかも。姉さんっていつもこんな気持ちなんだ」
「「「アウト!!!」」」
三人が再び駆け寄り、八幡から明日奈を引き離しにかかる。
「ああん、八幡君が気付いてない今がチャンスなの!もうちょっと!
えっと、確かそう、先っぽだけ、先っぽだけだから!
大丈夫、天井のしみを数えているくらいの時間で済むから!」
明日奈は何かを思い出すかのようにそう叫び、三人は即座に突っ込んだ。
「「「ツーアウト!!」」」
そして三人は、そのまま明日奈に説教を始めた。
「明日奈、落ち着きなさい。それにそれ、女の子が言っていいセリフじゃないからね」
「明日奈が八幡君とそういう経験があるのは分かるけど、
え、えっちなのはいけないと思います!」
「何か考えてたけど、そんなセリフ誰に教わったのよ………」
「えっ?それは姫菜に………あっ、そっか………」
明日奈は今自分が何を言ったのか気付き、赤面した。
「またあの人か………」
八幡は犯人が姫菜だと分かった為、半分諦め顔である。
いくら抗議をしても、暖簾に腕押しなのは間違いないからだ。
「う~、う~………」
明日奈は気恥ずかしさに、その場で蹲ってうんうん唸っていたが、
すぐに何かひらめいたような顔をし、立ち上がって努めて明るい笑顔を作りながらこう言った。
「さ、さ~て、つ、次は私の演技の番だね!うん、頑張るぞ~!」
「え?そうくるの?」
「メンタル強いね………」
「こういう所は見習わないと」
それで三人は明日奈を解放し、明日奈は再び八幡の前に立った。
「八幡」
「………おぉ?」
珍しい明日奈の呼び捨てに、八幡以外の三人も少し驚いた。
立場上、いくらでも八幡を呼び捨てにしていいにも関わらず、
これまで明日奈が八幡を呼び捨てにする場面はほぼ皆無だったからだ。
ここから一体何が始まるのかと一同が固唾を飲んで見守る中、
明日奈は何がしたいのか、いきなりパジャマのズボンの右足の裾をまくりあげ、
太ももまで見えるように露出させた。
「「「「えっ?」」」」
そしておもむろうに、八幡の前の机の上に、ダン!と足を乗せる。
「わお」
「バイオレンス?」
「ワイルド?」
「いや、あの………おい、明日奈?」
八幡の目は、当然愛する明日奈のしなやかな脚線美に釘付けになり、
そのまま明日奈の顔と脚を行ったり来たりする。
これがもし、明日奈がスカート姿だったら完全に明日奈のパンツが八幡から丸見えになり、
再びのスリーアウトが宣告されたのだろうが、幸いそうはなっていない。
そして明日奈はそんな八幡の態度を見て、満面の笑みを浮かべながらこう宣言した。
「まったくあんたは本当に私の脚が好きよね、ほら、触りたいなら触ってもいいのよ」
そして明日奈はドヤ顔で振り返り、その瞬間にクルスと香蓮はバッと詩乃の方を見た。
「「詩乃だ!」」
その詩乃は、ポカンとしながらこう呟いた。
「え、私って、周りから見るとあんな感じなの………?」
クルスと香蓮はそんな詩乃にうんうんと頷く。詩乃は助けを求めるかのように八幡を見たが、
その八幡も、二人と同様にうんうんと頷いていた。
「うわ、そうなんだ………ちょっとごめん………」
そのまま詩乃は、先ほどの香蓮のように部屋の隅の方に行って三角座りをした。
すかさずクルスと香蓮がそれを慰めにかかる。
そして明日奈は感想を求めるかのように、ニコニコと八幡の方を見つめていた。
「う………」
さすがの八幡もこれには参った。
ここで下手に肯定すると、明日奈が詩乃を演じている以上、
詩乃のそういう態度をも肯定したと見られる可能性があり、
今後詩乃が同じ事をしても反論しづらくなるかもしれない。
そして「明日奈の」と限定して答えても、それはそれで自身の性癖が歪められて伝わるようで、
一歩間違えば他の女性陣が同じような事をしてくる事態になりかねない。
(俺は一体どうすれば………)
悩んだ末に八幡は、先ほどの会話を思い出した。そう、歓送迎会の下りである。
「え………演技が上手いな、完璧じゃないか、明日奈。
その演技力を生かして、今度の歓送迎会の時に、演劇でもやってみたらどうだ?」
「え、演劇?」
明日奈はポカンとした後、真面目に考え込んだ。
「演劇かぁ、そういうのもありなのかな、ちょっと興味もあるし」
「い、いいんじゃない?やりましょうよ、演劇」
場の空気を変えたい詩乃もそれに乗っかり、横からそうプッシュしてくる。
「八幡様、ナイス提案です!」
「いいんじゃない?楽しそうだし、私も見てみたいなぁ」
クルスと香蓮も普通にそう感想を述べ、明日奈もそれでその気になったのか、
パジャマの裾を下げて落ち着いた状態に戻し、スマホを取り出した。
「分かった、それじゃあ里香にそう提案してみるね!」
明日奈はそう言って電話をかけ、しばらく里香と会話した後に電話を切り、
頭の上で両腕で丸を作って八幡にアピールした。
「おっけ~!」
「演劇で決まり?」
「脚本はどうするの?」
「どうしよっか?既存の何か?もしくは古典?」
「これはちょっと調べてみないとだね」
こうして四人はきゃっきゃと演劇関連の色々を調べ始め、
八幡はこれでやっと、一時の安寧を得る事が出来た。
だが結局その後に、いざ寝るという段階になって、八幡を四人が取り囲むという状況になり、
寝ぼけていつものように思いっきり抱きついてきた明日奈はまあいいとして、
他の三人も確信犯的にパジャマを着崩してきた為、
どこを向いても肌色成分が多目で目のやり場に困り、次の日、八幡は寝不足になった。
そのせいで頭の回転が鈍くなり、あんな事を承諾してしまうとは、
この時の八幡は想像もしていなかった。