ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみませんまだ落ち着きませんが、次話は2~3日中に投稿出来ると思います!


第1212話 まるでお祭り

 徹大は八幡達と別れた後、そのまま周囲の屋台を見て回った。

 

(こういった雰囲気はいつ以来だろうか………)

 

 徹大が覚えている限り、こういうお祭りっぽい雰囲気の場所に来るのは、

悠那がSAOに囚われた年に、近所で行われていた夏祭りが最後である。

何を思ったのか、悠那は友達と行けばいいものを、

わざわざそちらの誘いを断って、徹大に一緒に行こうとせがんだのであった。

前の年は普通に友達と一緒に行っていた為、徹大はその事を不思議に思ったものだったが、

悠那が目覚めない今、その真意を問う事は出来ない。

 

『お父さん、学校ってこういうものなの?』

 

 ユナにそう問われ、徹大は少し返事に困った。

 

「いや、こういうのは学園祭とかそういう時だけじゃないかな」

『やっぱりそうだよね?』

 

 ユナもどうやら一般常識として、この状況が普通でないと、理解はしていたようだ。

徹大に問うたのは、ただの確認であろう。

 

「まあこの学校は学園祭とかは無いらしいから、その代わりみたいな感じじゃないかな」

『あっ、そうなんだ?それなら納得だね』

「ああ、何にせよ、本人達が楽しんでいるようだから、いいんじゃないかな」

『うん、そうだね!』

 

 そう言いながらも徹大の眉間には皺が寄っていた。

どうしても悠那がここにいない事について、忸怩たる思いを抱いてしまうからだ。

そんな徹大の気持ちを知ってか知らずか、ユナが突然こんな事を言い出した。

 

『いつも忙しくしてるんだから、こういう時くらいお父さんも楽しんでね?』

 

 その言葉に徹大は、一瞬頭に血がのぼるのを感じたが、ここで大きな声を出す訳にはいかない。

そんな徹大に、ユナは更に言葉を続けた。

 

『ここに、まだ眠ってる本当の私がいたら、多分そう言うと思うんだよね』

 

 その瞬間に、徹大の頭は冷えた。

確かに悠那は日頃から、徹大が研究に没頭しすぎて、基本外出しようとしない事を心配していた。

 

(ああ、そうか、私は悠那に心配ばかりかけてしまっていたんだな………)

 

 そう思いつつ、徹大はその事に気付かせてくれたユナに感謝の気持ちを覚えた。

 

「………ああ、そうだね」

 

 そんなユナの気持ちに報いる為に、徹大はそう答えると、

今は余計な事は考えずに、純粋にこの祭りを楽しむ事にした。

それが、たった今怒りを覚えてしまったユナに、

あるいはかつての悠那に対する贖罪たりえる、徹大が今出来る唯一の方法だと思ったからである。

 

「それじゃあユナ、どこに行きたい?」

『それじゃあ私、わたあめを食べ………てるお父さんが見たい!』

「そ、そうか、分かった」

 

 徹大は、この歳で人前でわたあめを頬張る事に若干の抵抗を感じた。

 

(せめてたこ焼きとかにして欲しかったなぁ………)

 

 徹大はそう苦笑しつつ、大人しくわたあめを買い、

恥ずかしそうに、しかし美味しそうに頬張ったのだった。

 

 

 

『まもなく体育館にて、有志による演劇の舞台が開始されます。是非足をお運び下さい』

 

 それからしばらくしてそんなアナウンスがあった。

 

『お父さん、行こう行こう!』

「あ、ああ」

 

 徹大はユナに急かされ、体育館へと足を運んだ。

館内は既に人で溢れかえっており、ただの有志による出し物とはとても思えない。

 

「八幡様!」

「明日奈さ~ん!」

 

 少数ながら、八幡を呼ぶ黄色い声、そして男達の、明日奈への声援を聞き、

徹大はこの学校での八幡達の人気っぷりに、改めて驚かされる事となった。

そんな状態な為、徹大は座る場所を上手く確保出来ず、

もっと早くに移動すべきだったとユナに申し訳なく思ったが、

そんな徹大に声を掛けてくる者がいた。

 

「教授、こっち、こっちです!」

「え?あ、君は………凛子君?」

「はい、お久しぶりです、教授」

「君は今ソレイユだよね?もう公の場に出ても平気なのかい?」

「問題ありません、というか、不詳の弟子で申し訳ないです」

 

 それは徹大の教え子である神代凛子であった。

 

「教授、こっちにいい席が空いてますよ、よろしかったらどうぞ」

「いいのかい?それは有難い」

 

 八幡が悪役令嬢役をやるという事で、

八幡の周辺の女性達の多くが観に来る事を希望したのだが、

さすがに今回は学校行事という事もあり、来賓たりえる者が

厳正な抽選の上で選ばれ、ここにいた。ただ何かあった時の為に若干余裕を持たせてあった為、

徹大を見かけた凛子が、他の者達に許可をとった上でここに案内したと、まあそんな訳である。

 

「紅莉栖君も来ていたのか」

「お久しぶりです、私も今日は簡単な挨拶をする事になってるんですよ教授。長野以来ですね」

 

 他にそこにいたのはさすがの貫禄とでも言おうか、

生徒達に余裕で訓示をたれる事が出来る牧瀬紅莉栖であった。

そしてその横に、プロ用のごついカメラを構えたクルスがいる。

 

「初めまして、八幡様の秘書の、間宮クルスと申します。以後お見知りおきを」

「これはこれはご丁寧に、重村徹大です。というか、随分と本格的なカメラだね」

「はい、撮影の失敗は出来ませんので、今回はこれを三台用意しました」

「それはそれは………」

 

 見ると確かに舞台の左右にもう二台カメラがある。

 

「失敗が出来ないというのは?」

「あ、はい、今日ここに来れなかった他の女の子達に、

この劇をどうしても見せないといけないので、

ここで失敗でもしようものなら私の命が危ないんですよ」

「あ、あは………」

「で、こういった経験のある、選ばれた者達が撮影にあたってると、まあそんな感じですね」

「が、頑張ってね」

「はい!」

 

 クルス、さすがの才女っぷりである。ちなみに他の二名は何でも器用にこなす桐生萌郁と、

フランシュシュの活動記録の撮影も兼ねているという事で、

マネージャーの巽幸太郎が行っている。

 

「あ、そろそろ始まりますね」

「それじゃあ失礼して………」

「はい、ご遠慮なく!」

 

 こうして遂に、八幡達の劇が開始される事となった。


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