多くの方々にご心配をおかけして申し訳ありません。
やっと私生活の方が落ち着いてきたのでぼちぼち書き進めていきたいのですが、
毎日投稿は多分無理なので、とりあえず週に一度は確実に更新していければと思っています。
ついでに若干読み返さないと、自分が何を書いたのかかなり忘れてる状態です(汗
とりあえず最後まで頑張ります!後書きに今後の予定の変更も書いておきますね!
そして遂に八幡の出番がやってきた。
「うぅ、胃が痛い」
そう言いながら腹を押さえる八幡に、明日奈が心配そうに声をかけた。
「大丈夫?」
「………まあ、何とか」
そう言いながらも八幡は、明日奈に弱々しい視線を向けた。
「本音を言えば今すぐにでもここから逃げ出したいところだけど、
こんな格好で外を歩くのも嫌だからな」
八幡は女装している為、そう思うのは当然だろう。
だがそれだけではなく、八幡は今、顔一面に包帯を巻かれた状態なのである。
これは脚本に沿った格好であるのだが、実はその下のメイクがどうなっているのかは、
そのメイクを施した巽幸太郎以外、誰も知らなかったりする。
「月並みな事しか言えないけど、頑張ってね」
「まあせっかく頑張って練習したんだし、やれるだけやってみるわ」
八幡は明日奈にそう微笑みかけると、(顔が包帯で隠れている為、明日奈の主観である)
覚悟を決め、今は幕で隠されている、舞台中央のベッドへと向かった。
そして入れ替わりで雪乃が舞台袖へと戻ってきた。
「雪乃、お疲れ!」
「演劇というのも中々楽しいものね、機会があったらまたやってみたいわ」
「雪乃の場合は完全にアクションスターって感じだったけどね」
二人はそんな会話を交わしながら、ナレーションに耳を傾けた。
『この日を境に、ハティーはすっかり変わってしまいました』
そして幕が開き、ベッドに寝ていた八幡が起き上がった。
そして八幡は首の後ろに手を回し、その顔に巻かれた包帯をするすると解いていった。
『そう、まるで花のように美しいと言われていた彼女の見た目は、
見る影もなくすっかり変わってしまったのです』
「あら?」
「あれ?」
明日奈と雪乃はここで初めて八幡のメイク顔を見た。
「なんか意外と美人?普通に見れるわね」
「メイクをしたのはフランシュシュのマネージャーさんだよね?」
「今度教えを受けに行こうかしら」
「ちゃんと雪乃にも似せてあるね、凄い凄い」
そこにはどこか雪乃に似た面影を残しつつ、
デッサンが狂わない程度に少し崩したといった感じの、別系統の美人がいた。
「………どうして私がこんな目にあわなくてはいけないの?
私はただ領民の為に尽くせればそれで良かったのに」
八幡はそう言ってベッドから起き上がり、天を仰いだ。
そこで場面は再び暗転し、ナレーションがかぶさる。
『結局この事が原因で、ハティーは王子の婚約者の座をおろされました。
決して望んではいなかったとはいえ、その事はハティーにとって、屈辱だったようです。
ハティーはそれからやや荒れた態度をとるようになり、
他人に対してややきつく当たるようになりました。
その事が悪評となって貴族社会に広がり、彼女への同情もいつしか消え、
ハティーはいつしか悪役令嬢と呼ばれるようになったのです』
直後に昭和のスケバン風な恰好をした八幡が姿を見せ、観客達の笑いを誘った。
そこに一人の女性が現れる。
「ハティー様!そんな恰好をするのはもうおやめ下さい!」
「アーニャ………」
それはいかにも侍女風な恰好をした明日奈であった。
「どんな格好をしようが私の勝手でしょう?」
「それはそうですけど、でも、でも………」
そう言いながら明日奈は迫真の演技で涙を見せ、八幡はおろおろした。
「ご、ごめんアーニャ。こういう事はもうやめるから、だから泣かないで?」
「本当ですか?」
「ええ、約束するわ」
「ありがとうございます!」
八幡と明日奈は微笑み合ったが、その直後に照明が赤くなり、ナレーションが始まる。
『だがその決断は少し遅すぎました。ハティーの評判があまりにも悪くなりすぎた為、
国王がハティーを国から追放するように命令してきたのです。
ハティーは諦めにも似た表情で大人しくそれを受け入れ、一人で屋敷を出る事にしました』
そして場が明るくなり、そこには男装をしたハティーが立っていた。
「お父様、お母さま、今まで育ててくれてありがとう、そしてさようなら」
八幡はそのまま歩き出そうとしたが、そこにアーニャが旅支度で駆け寄ってきた。
「ハティー様!私も共に行きます!」
「………いいの?」
「もちろんです!」
「………ありがとう、本当は一人で不安だったの。私は一人じゃ何も出来ないから」
「これからは二人で頑張りましょう!とりあえず冒険者にでもなりますか?」
「ええ、そうしましょうか」
八幡は泣きながらも精一杯の笑顔を作って明日奈に微笑んだ。
明日奈はそんな八幡の手を引きながら、舞台袖に消えていく。
そして二人がいなくなった直後に、場に王子役である和人が現れた。
「………ハティー、せめて幸せになって欲しかったが………」
そして再びの暗転。やや暗転が多い気もするが、与えられた時間がそれほど長くない為、
若干早回しの構成となっているのは仕方がない。
『それから数年が経ち、戦乱の時が訪れました。
王国もそれに巻き込まれましたが、多くの国と国境を接していた上に、
辺境の蛮族の侵攻も同時に開始された為、一転して滅亡の危機に晒される事となったのです』
そして舞台には、ボロボロの鎧を着たまま膝をつく和人と里香が登場した。
「近衛騎士団長、まだ生きてるか?」
「ええ、まあなんとかですがね」
「………父はどうなった?」
「戦死なさいました」
「そうか………我が国もこれで滅亡だな」
「まだあなたがいらっしゃるではありませんか!」
「何とかなるものなら何とかしたいけどな、ほら、お客さんだ」
「くっ………」
そして舞台袖から数人のクラスメート達が現れ、二人を取り囲む。
「ここまでですか………」
「仕方ないな、せめて出来るだけ多くの敵を道連れにしてやろう」
「はい!」
その瞬間に、ドカンという音と共に舞台にフラッシュが走る。
観客達は眩しそうに目を細めたが、直後に舞台上に、一組の男女がいる事に気が付き、驚いた。
「王子」
「そ、そなたは………ハティー!?いや、でもハティーは女性で、あ、あれ?」
「ハティーで合ってますよ、王子」
そう言いながら和人に微笑んだ八幡は、完全に男性の恰好をしていた。
そして照明が落ち、舞台袖にスポットが当たる。
そこに映し出されたのは魔女の恰好をした珪子であった。
「お嬢ちゃん、危ない所を助けてくれてありがとうね。
お礼にそうさね………お嬢ちゃん、あんた、心と体がバラバラだね。
この婆がお礼にそれを何とかしてやろう、それっ!」
そして場が再び明るくなる。
「………てな訳で、どうやら私の心は男だったらしいですよ」
そう言って八幡は、快活そうな顔で微笑んだ。
「そうなのか!?」
「はい」
直後に敵の一人が動き、アーニャに斬り捨てられる。
「そなたは確か侍女の………」
「アーニャです、王子。ハティー様と共に、国の危機に馳せ参じました!」
「どうやら私達には剣の才能があったようで」
そう言いながら八幡が、もう一人の敵を斬り捨てる。
「さあ王子、ここからひっくり返しましょう」
八幡は手を伸ばし、和人はその手をとった。
「ああ、ここからまた始めよう!」
「その意気です!」
それから次々と敵が姿を見せ、八幡、明日奈、和人、里香は、
ヴァルハラのメンバーとしての四人の姿を彷彿とさせる、見事な殺陣を見せた。
それを見ていた観客達から大きな歓声が上がる。
「「「「「うおおおお!」」」」」
そこから敵の本陣に突撃していくような演出が成され、そして遂に舞台袖から、
見事な甲冑を纏った一人の男が姿を現した。
「貴様ら………」
「お前が王か!俺達がいる限り、この国への侵攻は諦めろ!」
「はっ、これを見てもまだそんな事が言えるかな?」
「母上!」
そう叫んだのは和人である。そして敵の王の元に、一人の女性が連れて来られた。
「あっ、理事長はここで出るんだ」
その観客の声の通り、そこにいたのは今日有終の美を飾る予定の理事長、雪ノ下朱乃であった。
配役は和人のセリフから分かる通り、王妃である。
「この女の命が惜しかったらここは大人しく引くんだな!」
「くっ、卑怯な………」
四人はその言葉を受けて武器を下す。だがそれを、当の朱乃が止めた。
「四人とも、剣を上げて戦いなさい!」
「で、ですが母上!」
「いいからやりなさい!」
「そ、そんな………」
「ええい、聞き分けのない!それでも私の息子ですか!」
そして朱乃はまさかのまさか、敵の武器に自ら飛び込み、その胸が剣に刺し貫かれた。
同時に観客席から悲鳴が上がる。
「なっ………」
「母上!」
「王妃様!」
「さあ、戦…い……な………さい!」
「くそおおおおおおおお!」
四人は涙を流しながら敵の王に斬りかかり、あっさりと倒した。
そして朱乃に駆け寄ると、そこにスポットが当てられる。
「よくやったわ、あなた達」
「母上………」
「「「王妃様」」」
「あなた達、
その言葉が全校生徒に向けて発信されているであろう事に気付かない者は一人もいなかった。
その証拠に生徒達全てが即座に朱乃に返事をしたのである。
「「「「「「「「はい!!!!」」」」」」」」
「ありがとう」
そして朱乃は役者の一人に戻り、そのままそっと目を閉じた。
同時に万雷の拍手が巻き起こり、それが収まった後、和人と八幡が舞台上で向かい合った。
「王子、この国の事、宜しくお願いします」
「ハティーがいなかったらこの国は滅びていた、心から感謝する」
「間に合って本当に良かったですよ」
「ハティーさえ良かったら、このまま我が国に残ってくれないか?」
「すみません、一応これでもSランク冒険者なんで、俺達の助けを待ってる人が沢山いるんです」
「そうか………」
「ですがこの国に何かあったらいつでも駆けつけます」
「ああ、その時は宜しく頼む」
『こうして追放された悪役令嬢ハティーは、救国の英雄となった』
そんなナレーションと共に二人は固い握手をし、そのまま幕が下りた。
直後に再び大きな拍手が巻き起こる。
八幡達の舞台はこのまま終了かと思われたが、直後に再び幕が上がった。
「ん?」
「何だ?」
観客達がざわつく中、現れたのは八幡と、横たわる朱乃の二人だけであった。
同時に舞台に設置されたスクリーンにスタッフロールが流れ始める。
「お?サプライズ?」
「凝ってるな」
「斬新」
「理事長、今までありがとうございました!」
そんな声が飛び交う中、舞台に曲が流れ始め、
同時に八幡が理事長の横に座り、聞いた事にないその曲に合わせて歌い始めた。
八幡の歌の技量はそんなに高くない為、決して上手とは言えなかったが、
その歌は妙に観客達の心を打ち、歌い終わった八幡と、
舞台袖から飛び出してきたキャスト達が並んで頭を下げるのと同時に凄まじい拍手が巻き起こり、
こうして八幡達の劇は、大成功で幕を閉じる事になったのだった。
「お父さん、楽しかったね」
「ああ、そうだね」
それはユナと徹大も当然例外ではなく、二人は余韻にひたりながらそんな会話を交わしていた。
だがその余韻を感じ続けていられたのは、ユナだけであった。
「なぁ、今の曲って何だ?」
「さあ………」
「聞いた事ないな」
「誰か知ってるか?」
その生徒達の言葉は徹大の耳に、妙にハッキリと飛び込んできた。
その理由は簡単であり、八幡の歌った歌に全く聞き覚えが無かった為、
無意識のうちに、徹大が興味を惹かれたせいである。
「ああ、あれは確か………」
そのせいで、その誰かの言葉に徹大がつい集中してしまったのは当然だろう。
「お前、歌姫って覚えてるか?」
だがその直後に聞こえてきた一つの単語のせいで、徹大の脳内は灼熱した。
「歌姫?ああ、アインクラッドの?」
「そうそう、さっきの歌って歌姫がさ、寝てる八幡さんの横でだけ歌ってたやつだよ」
実は先ほど歌われた歌は、かつて八幡が優里奈の前で口ずさんだ鼻歌であり、
知らないうちに覚えていたというその鼻歌をきちんと楽譜に起こし、
演奏したものであったが、八幡本人も覚えていないその由来を覚えていた者が、
どうやらここにいたようである。
「そうなのか?」
「ああ、他の人の前じゃ絶対に歌わなくて、その時だけ聞ける超レアな奴」
「ほええ、そうなんだ」
「歌姫、元気なのかなぁ」
「まああんなに歌が上手かったんだ、そのうちデビューとかしてくるんじゃね?」
「だな」
この会話を聞いて、灼熱していた徹大の脳は、急激に冷えていった。
『………もしかして、悠那は八幡君の事が好きだったんだろうか。
以前、スキャンの実験で見た被験者の記憶、あの時悠那は八幡君の事を師匠と呼んでいたし、
やはり悠那復活の為には八幡君の記憶が………』
徹大はそう考えながら、じっと八幡の方を見た。
『………………欲しい』
この日この時この瞬間に、徹大ははっきりと、八幡の事を
八幡が鼻歌を歌ったのは第545話、帰ってくるよね?の掃除中でした。
大まかな変更部分について書いておきます。
今後は今が三月として、とりあえず時事的な話をいくつか交えつつ、
夏休みを目安にオーディナル・スケール本編が入ります。
その後の夏休み後に、とある学校の特別試験に関わります。
始まりはソレイユ・エージェンシーに、一人の女の子がオーディションを受けに来る場面からでしょうか。
それから年末にアリシゼーションといった感じになる予定です。
あ、時事的とか夏休みとか年末とかは、すべて作中の暦という事で、宜しくお願いします。