ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第122話 涙

「さて、何から話せばいいかな」

「まず目的から話すのが一番いいのではないかしらね、後はそこに肉付けしてく感じで」

「そうだな、リーファ、ちょっと分かりにくいかもしれないけど勘弁な」

「うん、分からなかったら途中で聞くから大丈夫だよ」

「ああ、いつでも話をさえぎって質問してくれ。まず最初に俺達の本当の目的なんだが、

この世界樹の上にいる、ティターニアを救い出す事だ」

「えっ?」

 

 リーファは、ハチマンがいきなりおかしな事を言い出したので、少し混乱した。

 

「まあそういう反応になるよな。あー、分かりやすく言うとな、

今のティターニアは、NPCじゃなくプレイヤーなんだ。中の人がいるんだよ」

「中の……人?え?え?」

「ああ。ティターニアの中の人はな、自分の意思に反して、

ずっとあそこに閉じ込められてるんだ」

「えっ、だって、ティターニアは妖精の女王で、当然NPC……あれ?」

「常識で考えればそうなんだよな。キッカケはな、このユキノ達が撮ったSSなんだよ」

「スクリーンショット?」

「ああ。少し前にプレイヤー数人が、外周から世界樹の上に行こうとした事件があっただろ?

それをやったのが、ここにいるユキノ、ユイユイ、イロハ、コマチの四人なんだ」

「え、あれをやったのって、ユキノ達だったんだ?」

「ええ、実はそうなのよ、リーファさん」

「で、その時にコマチが上空でSSを撮ったんだが、その写真の人物が、

俺の知り合いのとある人に酷似していてな、それを確かめるために、

どうしてもグランドクエストをクリアする必要があったんだよ」

「でも、グランドクエストは未実装って……あっ、もしかして、

未実装だからこそティターニアがNPCじゃなくても誰にもバレる心配が無い……?

だから難易度をあそこまで高くして、誰にもクリア出来ないようにした……?」

 

 ハチマンは、リーファの勘の良さに少し驚いた。

 

「すごいなリーファ、おそらくその通りだ。

難易度については、未実装なのがバレないようにだろうな。

そして奴らはその裏で違法行為を行っている」

「違法行為……」

「違法行為って言い方じゃ足りないな。重大な犯罪行為だ」

「そこまでなの?一体この上に捕まっているのは誰なの?」

「この上に捕まっているのはな……SAOのプレイヤーだ」

「えっ、それって……」

「リーファも知ってるだろ?SAOに囚われたまま、

まだ目覚めない百人のプレイヤーの事を」

「まさか……そんな……」

「そのまさかだ。目覚めない百人のうち、少なくとも一人は、確実にこの上に囚われている。

さっき俺が上に飛び上がった時、話す事が出来たんだ。間違いなく本人だった」

「何ですって?会話が出来たの?」

 

 横で話を聞いていたユキノが、驚いてそう尋ねてきた。

 

「実はさっきな、ALOのIDカードを手に入れたんだ。

それをユイが使う事によって、上との交信が一時的に可能になったんだよ」

「そういう事だったのね……という事はつまり、

グランドクエストの部屋の奥の壁を抜けられる目処もこれでついたのかしら」

「壁を……抜ける!?」

「ああ。リーファ、このユイはな、元々SAOのカーディナルシステムの一部なんだ。

だからALOのIDさえ入手出来れば、壁を抜けて上に行く事が出来る。

何故ならこのALOに使われているサーバーは、SAOのサーバーのコピーだからだ。

俺達がグランドクエストにこだわっているのは、つまりそういう事なんだ」

「そんな……そんな事って……」

「信じられないかもしれないが、全て事実だ。

始めてALOにログインした直後から、俺達のスキルはほぼカンストしていた。

おそらくナーヴギアにセーブされていたSAOのデータが適用されたんだろうな」

「それじゃあ、あなた達はもしかして……」

「ああ。俺、キリト、クライン、エギル、シリカの五人は、

ナーヴギアでログインしているSAOサバイバーなんだ」

 

 リーファは、SAOサバイバー、という言葉を聞き、心臓の鼓動が早まるのを感じた。

この人達はもしかして兄の知り合いだったりするのだろうか。それともまさか……

リーファは改めてキリトをじっと見つめた。

もし上にいるのがあのリズって人なのだとしたら……もしかしたらキリト君は……

 

「あ、あの……上にいる人って、何て人……なのかな?」

「上にいるのはアスナって言って、ハチマンと結婚してた人だよ」

 

 ハチマンの代わりにキリトがそう答え、リーファは少しホッとしたが、

言葉の意味を理解し、驚いて聞き返した。

 

「結婚!?ハチマン君の奥さん!?」

「ああ。SAOにはそういうシステムがあったんだよ」

「まあ、そういう事だ。俺は、アスナを救い出すためにここに来たんだ」

「そのためにあのナーヴギアをもう一度かぶったの?怖くなかったの?」

「怖くなかったと言えば嘘になるな。でも、かぶらないという選択肢は俺には無かった」

「そう、なんだ……すごいね」

「俺一人じゃ勇気が出なかったかもしれないが、俺には頼れる仲間がいたからな」

 

 ハチマンはそう言い、仲間達の顔を見回した。皆それを見て、嬉しそうに頷いた。

 

「ここにいる仲間の他に、外部から協力してくれているアルゴって仲間がいる。

アスナにIDカードを渡してくれたのも、そのアルゴらしい」

「もしかして、政府の協力者っていうのがそのアルゴさんなのかしら」

「ああ。俺も驚いたんだが、どうもそうらしいな」

「ハチマン君の仲間はどのくらいいるの?」

「そうだなリーファ、SAO時代、俺には七人の仲間がいた。

キリト、クライン、エギル、シリカ、アルゴ、そして上にいるアスナ、

残りの一人は、実は囚われた百人の中に入っちまってるんだ。

ゲーム内では存在は確認されていないんだが、おそらくアスナを解放する事が出来れば、

後はアスナの証言によって政府が動き、それによってその仲間も解放されるはずだ。

だからとりあえず今は、アスナを全力で助け出す事だけを考えればいい」

「ああ。絶対にアスナは助ける。そしてリズも必ず解放する」

 

 そのキリトの言葉を聞き、リーファの心臓がドクンと大きな音をたてた。

リズ……今キリト君は確かにリズと言った。それではやはりキリト君は……

 

「あの……キリト君……」

「ん、どうした、リーファ?」

「キリト君は……もしかして、その……和人……お兄ちゃん……?」

「えっ?あれ……もしかして、リーファって、スグ……なのか?」

「おお?」

「この前一瞬だけ病室で会ったキリト君の妹さん?」

 

 一同がざわつく中、リーファは頷き、キリトに言った。

 

「うん、スグだよ……お兄ちゃん」

「まじか……全然気付かなかった……」

「うん……そう……だね……私はでも……あれ、なんか……

おかしいな、何で私泣いてるんだろ……」

 

 リーファはいつの間にか、自分が泣いている事に気が付いた。

それを見たキリトは、おろおろする事しか出来なかった。

 

「ご、ごめん、ちょっと今日は落ちるね……」

 

 そういうとリーファはログアウトしていった。

キリトは困ったように仲間の顔を見回したが、そんなキリトに、

何かを察したのだろう、女性陣が口々に言った。

 

「キリト君、一度自宅に戻って妹さんと話した方がいいかもしれないわ」

「うん、この時間ならまだ間に合うはず。急いだ方がいいかも」

「早く行ってあげて下さい!」

「わかった。ハチマンすまん、ちょっと行ってくる」

「あー……なるほどな、うん、急いだ方がいい、道中気を付けてな」

 

 キリトはログアウトすると、すぐに病院に外出許可をとり、自宅へと向かった。

残された者達の中では、クラインだけが未だに事態を飲み込めていないようだった。

 

「なぁ、結局どういう事だ?」

「俺は何となく分かったぞ、クライン」

「私も察しましたよ、クラインさん」

「エギルとシリカは分かったのか……」

「クライン、多分リーファは、キリトの事が好きだったんじゃないかな。

それが兄だと知ってショックを受けたんじゃないか」

「あー……」

 

 そのハチマンの推測は微妙に間違っていたのだが、

さすがにリーファが既にキリトをいとこだと知っていると予想するのは、

いくらハチマンでも現実で直葉とちゃんと話した事が無かったため、無理だった。

 

「まあ、こればっかりはな、俺達には口が出せない問題だから、キリトに任せよう」

「そうね、私達はとりあえず、実務面の話をしておきましょう」

 

 

 

 和人は電車に揺られながら、直葉の事を考えていた。

直葉の涙については、正直心当たりは無かった。

 

(いや、俺と直葉の間に心当たりは無くても、キリトとリーファの間にならあるいは……)

 

 和人は、八幡が推測したのと同じような事を考えていた。

だが恋愛経験が決して豊富とは言えない和人は、

直葉に会ってから自分がどうすればいいのか、まったく分からなかった。

 

(とにかくちゃんと話すしかないな……)

 

 自宅に着くと、両親は今日は遅いようで、まだ帰っていなかった。

和人は深呼吸をして、直葉の部屋のドアをノックした。


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