ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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昨日は予約投稿の日にちを一日間違えてしまい、本当にすみませんでした


第124話 ざわつく央都

 その日、アルンにいたプレイヤー達は、不穏な気配を感じ、囁きあっていた。

 

「おい見たか?サラマンダー軍の奴らが大挙してアルンに押し寄せてきてるぞ」

「見た見た、ユージーン将軍も来てるみたいだぞ。まさか近くで戦争でもするつもりか?」

「あっちでシルフ領主とケットシー領主が何か話していたぞ。

周囲にはかなりの数の軍勢が展開してた。これはまじで戦争待ったなしかもな」

 

「嘘じゃねーって、確かにあれは【絶対暴君】だって。昨日街を通過する所を見たんだって」

「信じてないわけじゃないけどよ、さすがにな……っておい、あれ見ろ!

あれってウンディーネの領主のメビウスさんじゃないか?」

「まさかここにきて、ウンディーネも参戦するのか?

どこが組んでてどこが敵対してるのか、さっぱり分からねえ」

「メビウスさん、俺ファンなんだよなぁ……ああ……癒される……」

「分かる分かる、メビウスさんマジ女神だよな!それにしても、

これだけ色々な種族の軍が集まってるのに、まったく争う気配が無いのはどういう事だ?」

「本当にどうなってるんだろうな。中立都市の中での戦闘は禁止だからともかく、

小競り合いの一つも起こってないなんて、明らかにおかしい」

 

 また別の場所では、新たに到着したとあるパーティの事が噂になっていた。

 

「おい、ついに【絶対零度】が中立を捨ててどこかの勢力に肩入れする事にしたらしいぞ」

「俺が聞いた話だと、スプリガンの傘下に入ったって話だったんだけどな」

「え?まじで?【絶対零度】がスプリガンとつるんでる所なんか見た事無いんだが」

「俺知ってるぜ、軍の傘下とかじゃなく、個人の傘下に入ったらしい。

そいつのバックは、あの【絶対暴君】だって話だぜ」

「まじかよ……一旦アルンから逃げといた方がいいのか?

巻き込まれるなんて真っ平ごめんだぞ」

「それがどうもそういった心配は無いらしいんだよ。

知り合いの話だと、戦争はしないって上から通達があったらしいんだよな」

「たった一晩で一体何があったんだよ……」

「謎の指導者が現れて、またたく間に主だった勢力を傘下におさめたって事なんだろうな」

 

 一方その謎の指導者は、四人の領主とユキノに囲まれて困惑していた。

 

「なあ……何なんだこの街の雰囲気は」

「当たり前じゃない、つい昨日まで激しく争っていた勢力が一堂に会しているのに、

何の小競り合いも起こってないのだから」

 

 ユキノの言葉に、ユージーンが頷きながらつけ加えた。

 

「俺自身、昨日まで争っていた奴らと、今こうして談笑している事が信じられんからな」

「そうそう、昨日までなら、サーチアンドデストロイ!って感じだったよねサクヤちゃん」

「そうだなアリシャ、たった一つのキッカケで、こうまで環境が変わるとは驚きだな」

「三人とも仲がいいみたいで良かったよ。これもハチマン君のおかげだね!」

「いや、メビウスさん、これは主にソレイユさんの力だと思いますよ……」

「もう、私はハチマン君の配下なんだから、メビウスって呼び捨てにしなきゃだめだよ?」

「あ、すみません」

 

 そんなハチマンの姿を見て、ユキノはハチマンに活を入れた。

 

「あなたがそう思うのは仕方がないと思うけど、

そもそも今回姉さんが動いたのは、あなた達の強い意思の力に動かされたからだと思うわ。

だからもっと自信を持って、ここにいる五人をうまく使いなさい」

「使うってな……俺はお願いする立場だと思うんだがな……」

「お前が今回のリーダーなんだ、しっかりしろ!」

「ユージーン……よし……すまん、もう大丈夫だ」

 

 ハチマンは深呼吸し、まっすぐ五人の顔をみつめた。まずアリシャがハチマンに尋ねた。

 

「ところで確認したいんだけど、今回はとりあえず、

グランドクエストのクリアを目指すって感じでいいの?

君の話だと、未実装な可能性が高いわけじゃない?

まあもしそうだとしたら、確かに奥まで到達するだけでも価値がある。

運営に、どうなってるんだってはっきりと文句を言う事も出来るだろうしね」

 

 そのアリシャの問いを受け、ハチマンは少し悩んだ後、ユキノの顔を見た。

ユキノはハチマンに頷き、ハチマンは、覚悟を決めたようにこう切り出した。

 

「ここにいる四人に、大事な話がある」

 

 ハチマンの雰囲気が変わった事に気付いたのか、場が少し緊張した。

 

「そうか、まだその話には続きがあるんだな」

「グランドクエストが未実装だと証明したいだけじゃないだろうとは思っていたが」

「それって私達を信頼してくれたって事なんでしょ?ちょっと嬉しいかも」

「私はハチマン君に付いていくだけだから問題ないよ!」

「私は言うまでもないわね」

「すまんみんな。これから話す事は絶対秘密にしてくれ。まず事の起こりはな……」

 

 そしてハチマンは、自身がSAOサバイバーである事や、

ここに来た目的について、説明を始めた。

 

「まさか……いや、でも筋は通っているが……」

「ねえ、警察はその事を知っているの?」

「ああ。おそらくソレイユさんが外部でやる事があるって言ったのは、その事だと思う」

「これは大事になってきたな……」

「だが、ゲーマーとしては絶対に許せん。いや、人として許せん」

「これからの私達の行動が、その犯罪を暴くための第一歩になるんだね」

「ハチマン君とキリト君の大切な人がそんな事に……

私、こんなに怒ったのは生まれて始めてかも」

「メビウスさんが怒ってるところなんて、想像もつかないわね……」

「ユキノさん、私だってこういう時はさすがに怒るよ!」

「ご、ごめんなさい……」

「まあまあ、正直俺もかなり怒りを覚えている。人体実験などは絶対に許せないし、

グランドクエストを目指すALOプレイヤーの心を踏みにじる行為も許せん。

サラマンダー軍としても個人としても、お前に協力する事を約束する」

「シルフ軍も同様だ」

「ケットシーもね!」

「ウンディーネも!」

「小さな勢力ではあるけれど、もちろん私達も全面的にあなたを支持するわ」

「俺の勝手な想いにみんなを付き合わせてすまん。本当にありがとうな……」

 

 ハチマンは、五人の力強い宣言を聞き、不覚にも涙が出そうになった。

五人はハチマンの肩をぽんぽんと叩き、頷いた。

そしてその後実際の戦闘の進め方等が話し合われる事となった。

 

「ユキノ達を中心に、右翼にシルフ、左翼にサラマンダーが展開。

敵は基本上から来るから、ウンディーネ部隊は全体の後方を幅広くカバーしてくれ」

「私達ケットシーの虎の子の竜騎士部隊は、上空だね」

「アリシャ、装備は間に合ったのか?」

「うん、レプラコーンの職人達に頑張ってもらったよ。準備はバッチリ!」

「後は正面だな」

「サラマンダーの指揮はカゲムネに任せるつもりだ。俺がお前達の露払いを引き受けよう」

「ユージーン、すまんが頼む」

「俺の武器は対モンスター戦でこそ力を発揮するからな。片っ端から斬り伏せてやるさ」

「敵の時は嫌な奴だと思っていたけど、味方にすると頼もしいね!」

「それはこっちも同じだな」

「それじゃ残りの正面担当は……」

「それは当然俺達だろ、ハチマン」

「私もやるわよ、正面担当」

「キリト、リーファ!」

 

 部屋の入り口に、いつの間にかキリトとリーファが立っていた。

二人はハチマンに親指を立て、そのまま会話に加わった。

 

「すまん、ちょっと遅れた」

「別に不安には思ってなかったけどな」

「みんな、心配かけてごめん」

「リーファさん、スッキリした顔をしているわね。どうやら何も心配する事は無さそうね」

「うん、任せといて。露払いは、私とキリト君と、ユージーンの三人でやろう」

「ぼ、僕も加えて下さい!」

「レコン!?」

 

 突然そんな声が聞こえ、一同がそちらを振り向くと、

そこにいたのは昨日の殊勲者であるレコンだった。

 

「おお、レコン、アルンに到着したんだな。今回はよくやってくれた」

「はい、サクヤさん。シグルドはあの後どこへともなく去っていったみたいです」

「レコン、男を見せたな、格好良かったぞ」

「ああ、正直ちょっと惚れたな」

「ハチマンさん、キリトさん……」

「レコン、頑張ったわね」

「リーファちゃん……うん、ありがとう!」

「よし、これで準備は大体整った。みんなは自分の軍を纏め上げてくれ。

戦闘開始は一時間後くらいって事で、問題ないか?」

 

 一同は声を揃えて、おう!と叫び、散っていった。

その場に残っていたのは、ハチマンとキリトだけだった。

 

「いよいよだな」

「ああ」

「あと、ログインする前に陽乃さんからハチマンへの伝言を預かってきた。

展開完了、だそうだ。どういう意味だ?」

「アスナが目覚め次第証言をとって、容疑を固めるらしい。そしたら須郷も終わりだな」

「そっか、陽乃さんが現地にいるなら安心だな」

「ちなみに俺も今、アスナの入院している病院の近くに移動して、

そこからログインしているんだ」

「まじかよ……病院の自分の部屋からログインしたから気が付かなかった……」

「これが最後だ。絶対に勝とうぜ、キリト」

「ああ」

 

 そして一時間後、連合軍はグランドクエストの間へと突入した。


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