「さて、今の気分はどうだ?茅場晶彦の功績を自分の物だと偽る事しか出来ない須郷さん」
「…………」
「ぼくのかんがえたさいきょうのまほう、が無いと何も出来なかったな、須郷さん」
「ガキが…………」
「スキルも武器も最強なんだよな?誰にも手も足も出なかった須郷さん」
「うるさい!……生意気なクソガキが!」
「それしか言えないのか……哀れだな」
「んなっ……」
「はぁ……可哀想だから、俺に一太刀でもあびせられたらあんたの勝ちって事でいいよ」
「ふ、ふざけるな!」
「あ?あんたここまでボロボロにやられて、まだ俺に勝てるつもりなのか?」
「くそっ、も、もうそれでいい!今日は一太刀で勘弁してやる!」
「……おい、今の聞いたか?」
「ある意味清清しいな」
「さすがに今のはちょっとね……」
「お兄ちゃん、大人になるってこういう事ならコマチ大人になりたくない!」
「まあせっかく須郷さんがこう仰って下さった事だし、ここは俺が代表でお礼を言っとくか。
神よ、恐悦至極に存じます。私ごときのご提案を受けて頂き感謝の念に堪えません」
ハチマンはそう言うと、須郷に向けて平伏した。
「馬鹿が!調子に乗りやがって!思い知らせてやる!」
須郷はそれを好機と見たのか、ドヤ顔でハチマンに向けて剣を振り下ろした。
しかしその剣はあっさりとハチマンにはじかれ、須郷はたたらを踏んだ。
「今なら当てる事くらい出来るだろうとか思ったのか?」
「な、何故当たらない!お前は下を向いてたじゃないか!」
「この体制なら、お前がどういう軌道で攻撃してくるのか簡単に予想出来るしな。
そんな事も分からなかったのか?これはゲームであって遊びじゃないんだよ」
「くっ、次は当ててやる!」
「はぁ、正直俺は拷問みたいなのはちょっと苦手なんだよな。
ほんとお前と向かい合ってるのがゲームの中で良かったわ。
少しはためらいなく攻撃出来……」
「く、くらえ!」
須郷はハチマンの言葉を最後まで聞かず、めちゃめちゃに剣を振り回した。
ハチマンはつまらなさそうにその攻撃を全てパリィしていた。
コマチはそのハチマンの技術を見て感心し、キリトとアスナにこう尋ねた。
「キリトさん、お姉ちゃん、あれが噂のお兄ちゃんの得意技ですか?
ただ受けるんじゃなくて、全部即カウンターが撃てるパリィ状態になってるみたいですけど」
「そうだな、あれがハチマンの基本スタイルだよ」
「本当は左腕にギミックの仕込まれた盾を装備するんだけどね、ほら、ここには無いから」
「そうなんですか……何をやっても全部カウンターで返ってくるってすごい嫌ですね……」
「まあ今はカウンターを入れてないみたいだけど、
さすがにそろそろ相手をするのがめんどくさくなって、一気に畳み掛けるんじゃないか?」
「あ、見て、今ハチマン君あくびした」
「お兄ちゃん、飽きてきたんですかね……」
「まあこのままただで済ますわけはないだろうけどな」
「時間もあれだし、そろそろ終わらせるわ」
ハチマンはそう言うと、タイミングを見計らって、強烈なカウンターをくらわせた。
須郷は数メートル後ろに飛ばされ、地面に大の字で転がった。
「があああああ!」
「はいおしまいっと」
ハチマンは【エクスキャリバー】を遠くに蹴り飛ばし、須郷の腹を踏みつけた。
そして思ったより穏やかな表情で、須郷に語りかけた。
「左手を失って、すごい激痛だろうに、よく意識を保ってられるな、
ほんのちょっとだけあんたを見直したよ。主にその執念を、だが」
「当たり前だ!俺は神なんだからな!」
「まだ言うか……それさえ無ければ案外あんたとはいい友達に……は絶対にならないが、
とりあえずあんたには、いくつか話しておかないとな」
「……」
「もう既にあんたのやった事はほぼ全部、政府にバレてるぜ。
この後アスナの証言がとれ次第、レクト・プログレス社に警察がなだれ込むだろうな」
「くそっ……お前さえいなければ……」
「あー、高く評価してくれるのは有難いんだがな、
例え俺がやらなくても、そこにいるキリトが必ずやった。
キリトがやらなくても必ず残りのSAOサバイバーのうちの誰かがやった。
あんたは色々と上手くやったつもりだろうが、
俺達の二年間は、あんたなんかにいいようにされるほど軽いもんじゃないんだよ」
「……」
「ところでこいつがこのまま逮捕されたら、どのくらいの罪になるんだ?誰かわかるか?」
ハチマンは振り返り、三人に尋ねた。
「うーん……殺人罪には問われないし、未成年の拉致監禁?」
「巨額の賠償を背負わされるのは間違いないんだろうけど、罪っていうならどうなんだろ」
「現行法じゃ対応出来ない可能性もあるんじゃないですかね?」
「そうか……まあそこらへんは、陽乃さんに任せるとして、
こいつがおかしな事を考えないように、ちょっとクギは刺しとくか。
お~いアスナ、コマチ、ちょっと目をつぶって耳を塞いどいてくれ」
「う、うん……」
「お兄ちゃん、一体何をするつもりなの……」
二人が目と耳を塞いだのを確認すると、ハチマンはおもむろに、
須郷の股間目掛けて武器を突き刺した。
「ぎゃああああああああああああああああ」
「おいハチマン!俺にだけ変なもん見せるなよ!」
「俺だって嫌なんだが、こいつがまた別の女性に対しておかしな事を考えないように、
きついのをお見舞いしといた方がいいって思ったんだよ。付き合わせて悪い」
「くそ……しばらく夢に見そうだ……」
「すまんすまん、今度何か奢るから勘弁な」
「約束だぞ!」
「それじゃキリト、アスナとコマチにもういいぞって合図してくれ」
「ああ」
キリトによって合図をされた二人は、今やピクピクと痙攣するだけになった須郷を見て、
ハチマンが何をやったのかなんとなく想像がついたが、
決してその話題に触れようとはしなかった。
「さて、トドメをさすか。それともアスナがやるか?」
「ううん、ハチマン君に任せるよ。もうそんな男、見たくもないから」
「分かった。おい須郷、お前は自宅にいるんだろ?
まだそっちまで警察は行ってないと思うから、少しでも良心があるなら、そのまま自首しろ。
後一応言っておくが、俺は今、アスナの病院のすぐ近くからログインしてるから、
お前がアスナに何かしようとしても無駄だ。
もっともさっきも言ったが、アスナの病室には警察の人が詰めてるはずなんだけどな。
それじゃあさよならだ、冷たい刑務所の中で、自分の愚かさを悔いろ」
そう言うとハチマンは、須郷の左目に剣を突き刺した。
須郷の体はビクッと痙攣したが、叫び声を上げる事は無かった。
あえて目を狙ったのは、残りのHPを全損させるために、クリティカルを狙ったためだった。
ハチマンの計算通り、その攻撃で須郷のHPは消し飛び、
最初に設定した通り、須郷はそのままログアウトして消えていった。
その瞬間、いきなりALO全体に【オベイロンが討伐されました】
というシステムメッセージが流れた。
今回の戦闘に参加した全ての者は、生き残った者も戦闘で倒れた者も、
等しくそれを見て大歓声を上げ、勝利を喜んだ。
「うお、何だこのメッセージ」
「こんなメッセージが設定してあったのか……」
「でもこれで、下のみんなに勝利が伝わったと思うから、良かったね、お兄ちゃん!」
「そうだな、俺達の勝利だ!」
「おう!」
「お姉ちゃん、遠慮しないでお兄ちゃんに抱きついていいよ?」
「うん、コマチちゃんありがとう……ハチマン君!」
アスナはハチマンに駆け寄り、目を潤ませながら、その胸に顔を埋めた。
ハチマンはアスナの頭を撫でながら、三人にこう言った。
「こうして終わってみて思うんだが、須郷も実は被害者なのかもな。
ずっと茅場晶彦という天才と比べられて、劣等感を抱き続けてきたんだろうな」
「まあそうかもしれないが、あいつのやった事は決して許される事じゃないからな……」
「もうこういうのは最後にしたいよな。人をいたぶるのはやっぱ好きになれないわ。
もっともまたアスナがこんな目にあったら、俺は同じ事をするだろうけどな」
「ハチマン君、ごめんね……」
「お姉ちゃんが謝る事なんか何も無いですよ!」
「そうだぞ。とりあえずログアウトしたら、その場にいる警察に須郷の事を告発してくれ。
俺は今、アスナのすぐ近くからインしてるから、
ここを出たらすぐ会いに行く。それまでもうちょっとだけ待っててくれよな」
「うん……ありがとうハチマン君、ありがとう、キリト君、コマチちゃん」
「よし、それじゃあログアウトするか!」
「そうですね、コマチもお姉ちゃんの病院に行きたいけど、この時間だとさすがになぁ」
「明日連れてってやるよコマチ。とりあえず今日は寝とけ。
キリトは今日は、携帯の前で徹夜だけどな」
「そうだな……うん、徹夜だな」
「何かあるの?」
「ああ、こいつな、リズの枕元に、自分の名前と携帯の番号を書いたメモを、
ずっと置いてもらってるんだよ」
「あ、そういう事なんだね」
「とりあえず明日みんなと連絡を取り合って、アスナの見舞いの予定も立てないとな」
「それじゃあコマチは先に落ちて、ユキノさんや他のみんなに詳細を伝えてくる!」
「あ、俺も先にリーファに説明しないとだな、それじゃみんな、また明日な!」
「私も早く落ちて、警察の人に説明しないとだね、ハチマン君、後でね!
ユイちゃんも、必ずまた会いに来るからそれまで待っててね」
「はいママ、また今度です!」
「おう、また後でな」
そう言って、アスナとキリトとコマチの三人は、ログアウトした。
残されたハチマンは、大声で空に向かって呼びかけた。
「ここにいるんだろ?晶彦さん」