ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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前回に引き続き、一部の方にはご不快かもしれない表現があります。ご注意下さい。


第129話 戦いの終わり

「さて、今の気分はどうだ?茅場晶彦の功績を自分の物だと偽る事しか出来ない須郷さん」

「…………」

「ぼくのかんがえたさいきょうのまほう、が無いと何も出来なかったな、須郷さん」

「ガキが…………」

「スキルも武器も最強なんだよな?誰にも手も足も出なかった須郷さん」

「うるさい!……生意気なクソガキが!」

「それしか言えないのか……哀れだな」

「んなっ……」

「はぁ……可哀想だから、俺に一太刀でもあびせられたらあんたの勝ちって事でいいよ」

「ふ、ふざけるな!」

「あ?あんたここまでボロボロにやられて、まだ俺に勝てるつもりなのか?」

「くそっ、も、もうそれでいい!今日は一太刀で勘弁してやる!」

「……おい、今の聞いたか?」

「ある意味清清しいな」

「さすがに今のはちょっとね……」

「お兄ちゃん、大人になるってこういう事ならコマチ大人になりたくない!」

「まあせっかく須郷さんがこう仰って下さった事だし、ここは俺が代表でお礼を言っとくか。

神よ、恐悦至極に存じます。私ごときのご提案を受けて頂き感謝の念に堪えません」

 

 ハチマンはそう言うと、須郷に向けて平伏した。

 

「馬鹿が!調子に乗りやがって!思い知らせてやる!」

 

 須郷はそれを好機と見たのか、ドヤ顔でハチマンに向けて剣を振り下ろした。

しかしその剣はあっさりとハチマンにはじかれ、須郷はたたらを踏んだ。

 

「今なら当てる事くらい出来るだろうとか思ったのか?」

「な、何故当たらない!お前は下を向いてたじゃないか!」

「この体制なら、お前がどういう軌道で攻撃してくるのか簡単に予想出来るしな。

そんな事も分からなかったのか?これはゲームであって遊びじゃないんだよ」

「くっ、次は当ててやる!」

「はぁ、正直俺は拷問みたいなのはちょっと苦手なんだよな。

ほんとお前と向かい合ってるのがゲームの中で良かったわ。

少しはためらいなく攻撃出来……」

「く、くらえ!」

 

 須郷はハチマンの言葉を最後まで聞かず、めちゃめちゃに剣を振り回した。

ハチマンはつまらなさそうにその攻撃を全てパリィしていた。

コマチはそのハチマンの技術を見て感心し、キリトとアスナにこう尋ねた。

 

「キリトさん、お姉ちゃん、あれが噂のお兄ちゃんの得意技ですか?

ただ受けるんじゃなくて、全部即カウンターが撃てるパリィ状態になってるみたいですけど」

 

「そうだな、あれがハチマンの基本スタイルだよ」

「本当は左腕にギミックの仕込まれた盾を装備するんだけどね、ほら、ここには無いから」

「そうなんですか……何をやっても全部カウンターで返ってくるってすごい嫌ですね……」

「まあ今はカウンターを入れてないみたいだけど、

さすがにそろそろ相手をするのがめんどくさくなって、一気に畳み掛けるんじゃないか?」

「あ、見て、今ハチマン君あくびした」

「お兄ちゃん、飽きてきたんですかね……」

「まあこのままただで済ますわけはないだろうけどな」

「時間もあれだし、そろそろ終わらせるわ」

 

 ハチマンはそう言うと、タイミングを見計らって、強烈なカウンターをくらわせた。

須郷は数メートル後ろに飛ばされ、地面に大の字で転がった。

 

「があああああ!」

「はいおしまいっと」

 

 ハチマンは【エクスキャリバー】を遠くに蹴り飛ばし、須郷の腹を踏みつけた。

そして思ったより穏やかな表情で、須郷に語りかけた。

 

「左手を失って、すごい激痛だろうに、よく意識を保ってられるな、

ほんのちょっとだけあんたを見直したよ。主にその執念を、だが」

「当たり前だ!俺は神なんだからな!」

「まだ言うか……それさえ無ければ案外あんたとはいい友達に……は絶対にならないが、

とりあえずあんたには、いくつか話しておかないとな」

「……」

「もう既にあんたのやった事はほぼ全部、政府にバレてるぜ。

この後アスナの証言がとれ次第、レクト・プログレス社に警察がなだれ込むだろうな」

「くそっ……お前さえいなければ……」

「あー、高く評価してくれるのは有難いんだがな、

例え俺がやらなくても、そこにいるキリトが必ずやった。

キリトがやらなくても必ず残りのSAOサバイバーのうちの誰かがやった。

あんたは色々と上手くやったつもりだろうが、

俺達の二年間は、あんたなんかにいいようにされるほど軽いもんじゃないんだよ」

「……」

「ところでこいつがこのまま逮捕されたら、どのくらいの罪になるんだ?誰かわかるか?」

 

 ハチマンは振り返り、三人に尋ねた。

 

「うーん……殺人罪には問われないし、未成年の拉致監禁?」

「巨額の賠償を背負わされるのは間違いないんだろうけど、罪っていうならどうなんだろ」

「現行法じゃ対応出来ない可能性もあるんじゃないですかね?」

「そうか……まあそこらへんは、陽乃さんに任せるとして、

こいつがおかしな事を考えないように、ちょっとクギは刺しとくか。

お~いアスナ、コマチ、ちょっと目をつぶって耳を塞いどいてくれ」

「う、うん……」

「お兄ちゃん、一体何をするつもりなの……」

 

 二人が目と耳を塞いだのを確認すると、ハチマンはおもむろに、

須郷の股間目掛けて武器を突き刺した。

 

「ぎゃああああああああああああああああ」

「おいハチマン!俺にだけ変なもん見せるなよ!」

「俺だって嫌なんだが、こいつがまた別の女性に対しておかしな事を考えないように、

きついのをお見舞いしといた方がいいって思ったんだよ。付き合わせて悪い」

「くそ……しばらく夢に見そうだ……」

「すまんすまん、今度何か奢るから勘弁な」

「約束だぞ!」

「それじゃキリト、アスナとコマチにもういいぞって合図してくれ」

「ああ」

 

 キリトによって合図をされた二人は、今やピクピクと痙攣するだけになった須郷を見て、

ハチマンが何をやったのかなんとなく想像がついたが、

決してその話題に触れようとはしなかった。

 

「さて、トドメをさすか。それともアスナがやるか?」

「ううん、ハチマン君に任せるよ。もうそんな男、見たくもないから」

「分かった。おい須郷、お前は自宅にいるんだろ?

まだそっちまで警察は行ってないと思うから、少しでも良心があるなら、そのまま自首しろ。

後一応言っておくが、俺は今、アスナの病院のすぐ近くからログインしてるから、

お前がアスナに何かしようとしても無駄だ。

もっともさっきも言ったが、アスナの病室には警察の人が詰めてるはずなんだけどな。

それじゃあさよならだ、冷たい刑務所の中で、自分の愚かさを悔いろ」

 

 そう言うとハチマンは、須郷の左目に剣を突き刺した。

須郷の体はビクッと痙攣したが、叫び声を上げる事は無かった。

あえて目を狙ったのは、残りのHPを全損させるために、クリティカルを狙ったためだった。

ハチマンの計算通り、その攻撃で須郷のHPは消し飛び、

最初に設定した通り、須郷はそのままログアウトして消えていった。

その瞬間、いきなりALO全体に【オベイロンが討伐されました】

というシステムメッセージが流れた。

今回の戦闘に参加した全ての者は、生き残った者も戦闘で倒れた者も、

等しくそれを見て大歓声を上げ、勝利を喜んだ。

 

「うお、何だこのメッセージ」

「こんなメッセージが設定してあったのか……」

「でもこれで、下のみんなに勝利が伝わったと思うから、良かったね、お兄ちゃん!」

「そうだな、俺達の勝利だ!」

「おう!」

「お姉ちゃん、遠慮しないでお兄ちゃんに抱きついていいよ?」

「うん、コマチちゃんありがとう……ハチマン君!」

 

 アスナはハチマンに駆け寄り、目を潤ませながら、その胸に顔を埋めた。

ハチマンはアスナの頭を撫でながら、三人にこう言った。

 

「こうして終わってみて思うんだが、須郷も実は被害者なのかもな。

ずっと茅場晶彦という天才と比べられて、劣等感を抱き続けてきたんだろうな」

「まあそうかもしれないが、あいつのやった事は決して許される事じゃないからな……」

「もうこういうのは最後にしたいよな。人をいたぶるのはやっぱ好きになれないわ。

もっともまたアスナがこんな目にあったら、俺は同じ事をするだろうけどな」

「ハチマン君、ごめんね……」

「お姉ちゃんが謝る事なんか何も無いですよ!」

「そうだぞ。とりあえずログアウトしたら、その場にいる警察に須郷の事を告発してくれ。

俺は今、アスナのすぐ近くからインしてるから、

ここを出たらすぐ会いに行く。それまでもうちょっとだけ待っててくれよな」

「うん……ありがとうハチマン君、ありがとう、キリト君、コマチちゃん」

「よし、それじゃあログアウトするか!」

「そうですね、コマチもお姉ちゃんの病院に行きたいけど、この時間だとさすがになぁ」

「明日連れてってやるよコマチ。とりあえず今日は寝とけ。

キリトは今日は、携帯の前で徹夜だけどな」

「そうだな……うん、徹夜だな」

「何かあるの?」

「ああ、こいつな、リズの枕元に、自分の名前と携帯の番号を書いたメモを、

ずっと置いてもらってるんだよ」

「あ、そういう事なんだね」

「とりあえず明日みんなと連絡を取り合って、アスナの見舞いの予定も立てないとな」

「それじゃあコマチは先に落ちて、ユキノさんや他のみんなに詳細を伝えてくる!」

「あ、俺も先にリーファに説明しないとだな、それじゃみんな、また明日な!」

「私も早く落ちて、警察の人に説明しないとだね、ハチマン君、後でね!

ユイちゃんも、必ずまた会いに来るからそれまで待っててね」

「はいママ、また今度です!」

「おう、また後でな」

 

 そう言って、アスナとキリトとコマチの三人は、ログアウトした。

残されたハチマンは、大声で空に向かって呼びかけた。

 

「ここにいるんだろ?晶彦さん」


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