病院に着いた八幡達を出迎えてくれたのは、リハビリ担当の鶴見先生だった。
「八幡君、こっちこっち。患者さんはこの車椅子にお願い」
「はい」
八幡は再び明日奈を抱き上げ、そっと車椅子に乗せた。
「明日奈、こちらの方がリハビリ担当の鶴見先生だ」
「結城明日奈です、先生、宜しくお願いします」
「初めまして、鶴見です、こちらこそ宜しくね、明日奈さん。
明日から一緒にリハビリを頑張りましょう」
「はい」
「それじゃ八幡君、このまま病室に向かいましょう」
一同は、そのまま八幡が先日まで入院していた病室へと向かった。
病室の前に着くと、鶴見はまだ仕事があるらしく、また明日ねと言って去っていった。
八幡は扉を開けようとしたが、壁に貼られていたSSの事を思い出し、
扉を開けるのを中断し、慌ててこっそりと陽乃にSSの事を尋ねた。
「陽乃さん、あのSSはどうしました?」
「ん~?新しいSSと入れ替えてあるよ。ほら、グランドクエストに突入する直前の奴」
「あー、あれですか」
「うん、だから安心していいよ」
「いや、俺は別に……」
「さすがにいきなりあれは、恥ずかしいだろうと思うしねぇ」
「……ありがとうございます」
「いえいえ~」
実は八幡は、グランドクエストが開始される直前に何枚か、
仲間達のSSを撮影していたのだった。
もちろん明日奈に見せようと思い、撮ったSSだった。
そして中に入ると、その時の写真が綺麗に整理されて一枚のパネルとして飾られていた。
「八幡君、これって……」
「ああ、明日奈を助ける為の戦闘に集まってくれた、仲間達の写真だ」
その人数の多さに、さすがの明日奈も驚いたようだ。
「うわぁ、すごいなぁ」
「ちなみにこれがキリトだ」
「あっ、確かにキリト君っぽいね」
「あとこれがリーファだな。驚け、キリトの妹だ」
「あっ、そういえば妹がいるって聞いた事があるかも」
「そしてこれが、クラインとエギルとシリカだな」
その瞬間に明日奈の興奮が、いきなり最高潮に達した。
「シ、シリカちゃんに猫耳が!」
「食いつくとこ、そこかよ」
「だって猫耳だよ?あのかわいいシリカちゃんに、猫耳がついてるんだよ?」
「はいはい、次の説明に移るぞ。ここからは明日奈の知らない人だからな」
八幡は、興奮状態の明日奈をなだめつつ、説明を続けた。
「これは分かるな」
「うん!我が愛しの妹コマチちゃん!そして猫耳!」
「そしてこれが、陽乃さんの妹のユキノだ。高校の部活仲間だな」
「奉仕部の人なんだね」
「こっちがユイユイ、同じく高校の部活仲間だな」
「話に聞いてた二人かな?早く会ってみたいなぁ」
この二人の事は何度も聞いていた為、明日奈はわくわくした顔でそう言った。
「すぐに会えるさ。そしてこれはイロハだ。元生徒会長で俺の後輩だな」
「八幡君と生徒会って、なんだかイメージが沸かないなぁ」
「こっちはメビウス先輩、元生徒会長で、ウンディーネの領主だな」
「って事は、二代続けて生徒会長と知り合いなのかな?」
「ああ、部活で色々と生徒会の手伝いをな。とりあえずここまでが、内輪の仲間だ」
そして陽乃が明日奈にこう尋ねた。
「ねぇ明日奈ちゃん、ここまでで何か気付かない?」
「ん?ハル姉さん、俺の説明で、何か気になる事でもありましたか?」
「ほら、明日奈ちゃんには包み隠さず事実を知らせないとね」
「事実、ですか?」
「えーっと……」
明日奈はSSをじっと見ながら考え込んだ。
そしてある事実に思い当たったのか、ポンと手を叩き、陽乃に返事をした。
「ハル姉さん、八幡君のSAO以外の知り合いが、女性しかいません!」
「正解~!」
「おいこらいきなり誤解を生むような事を……」
「で、どう思う?」
「やっぱり私の八幡君は、女性に人気なんだなって実感しました!」
「でしょう?私も含めて、みんな八幡君の事が大好きなんだよ!」
「はい!とても嬉しいですハル姉さん!」
八幡は陽乃に抗議をしかけていたが、その明日奈の言葉を聞いてビシッと固まった。
「八幡君、何を固まっているの?」
「いや、明日奈の脳内理論に俺の脳が付いていかないというかですね……」
「私はね、明日奈ちゃんは絶対にヤキモチを焼かないって思ってたよ」
陽乃が突然そんな事を言い、明日奈はきょとんとした顔で陽乃に言った。
「えっ?ヤキモチですか?私はそういうのは特には……むしろ想定内というか、
彼氏がもてるのは誇らしいです!」
「明日奈ちゃんはやっぱりすごいなぁ、普通はヤキモチを焼く場面なんだけどね」
「あ~、まあ二年間ずっと一緒にいて、ずっと八幡君を見てきたので、
何て言えばいいのかな……八幡君は女性に対しては不器用ですけど、
とても優しいですから、その分かりにくい優しさをちゃんと理解して、
八幡君を好きになる女性は多いんじゃないかって思ってましたしね。
八幡君、SAOの中では、約束した事はちゃんと守ってくれたんですよ。
そんな八幡君が、SAOの最後でずっと一緒だって約束してくれたんです。
だから何も心配する事は無いっていうか、何かあったとしても、
それは私の早とちりや勘違いだと思うから、だから私は大丈夫なんです、ハル姉さん」
「明日奈ちゃんは、すごいというか、強いんだね。羨ましいなぁ」
「あ、ありがとうございます」
ちなみにいずれ起こる死銃事件の際には、八幡の周りに女性が大量に増えた為、
明日奈はその女性達を飴と鞭を使って上手く制御していく事となる。
「でもね、そういう女は、得てして男にとっては便利な女になりがちなのも確かよ。
だからたまには、思いっきりヤキモチを焼いたり、わがままも言ってあげなさい。
それが円満の秘訣よ、明日奈ちゃん」
「あっ、そうですね、それじゃあ早速……これはどういう事なの八幡君!ぷんぷん!」
「ぷんぷんってお前……」
「じゃあ、えーっと、ぷいっ」
「かわいいな、おい」
「はい、私に見せ付けるのはそこまで!」
さすがに予想外の流れに耐えられなくなったのか、陽乃は二人にストップをかけた。
そんな中八幡は、一応明日奈に弁明をする事にした。
「明日奈、ALOをやっていたのがたまたま奉仕部繋がりのメンバーだっただけで、
俺の周りが女性だけって事は無いんだぞ。実際この前、葉山と戸部に会っただろ?」
「あっ……ごめんなさい、確かにその通りだね」
「ああ、そういえば隼人に会ったのね」
「うん!」
次に八幡は携帯を操作し、明日奈に写真を見せた。
「あとこういうのもいる。アルゴと一緒に外部からフォローしてくれた、材木座だ」
「うわ、大きな人だねぇ」
「あと、これが戸塚だ」
「え?これは女の子でしょ?」
「いや、正真正銘戸塚は男の子だからな」
「ええっ?この美少女が!?」
明日奈はそう言って探るような目つきで陽乃の顔を見た。
「あ、うん、確かに戸塚君は男の子だよ、明日奈ちゃん」
「そうなんだ……」
そんな明日奈に八幡は困った顔で抗議した。
「おい明日奈、さっきは俺の事、信じてるみたいな事を言ってなかったか?」
「そんな事言ってませ~ん、約束は守るって言っただけですぅ」
「あー、まあ確かにそうだったな」
「八幡君、時間も遅いし、残りの人の事もぱぱっと説明して、そろそろお開きにしましょう」
「確かにそうですね、よし明日奈、少し脱線しちまったが、続けるぞ」
「うん」
「これがレコンだ、リーファのクラスメイトだそうだ。
ちょっとなよっとしてはいるが、中々男気がある奴で、俺は気に入ってるぞ」
「そうなんだ」
「こっちはユージーン、キリトに負けるまで、ALOで最強と言われていた男だ。
サラマンダーの領主の弟だそうだ。こっちはシルフ領主のサクヤさん、
あとこっちが、ケットシー領主のアリシャさんだな」
「そんなに沢山えらい人と繋がりがあるんだね。短い期間だったはずなのに、すごいなぁ」
八幡はSSの説明を終えると、最後に陽乃の方を見てこう言った。
「次が最後になる。SSは無いんだが、この人が、事実上ALOで最強のプレイヤー、
陽乃さんこと、ウンディーネの元領主のソレイユさんだ」
「はい、私がソレイユでーっす!」
「ハル姉さんが最強?すごい!」
「半分引退してるような状態だけどね。ところで明日奈ちゃん、
またナーヴギアを被る勇気はある?」
「はい、大丈夫です。つらい思い出もあるけど、でもやっぱり、
私と八幡君が出会うキッカケになってくれたマシンですから、怖くありません。
というわけで、もう兄には絶対に返しません、私が使います」
「オッケーオッケー、それじゃあ昼のリハビリと平行して、
夜にプレイ出来るように、ALOのソフトを用意しておくね」
「はい、ありがとうございます、ハル姉さん!」
その日はそこでお開きとなり、八幡と陽乃は帰っていった。
明日奈は一人でSSを見ながら、ALOにインした時の事を考え、
自由自在に飛ぶ自分の姿を想像し、少し興奮してしまったため、すぐには寝れなかった。
ベッドから八幡の匂いがしていたという理由もあったのだが、
それは明日奈の名誉のためにも触れないでおく。
そんな時明日奈は、枕元に、一枚のメモと共に何かのスイッチが置いてあるのを発見した。
そのメモには、明日奈ちゃんにプレゼントだよ、という文字が書いてあった。
「これ、陽乃さんかな……とりあえず押してみよう」
明日奈がそのボタンを押すと、壁の写真が捲れ、その下から、
ハチマンとアスナの結婚写真が現れた。
「あっ……このSSのデータ、残ってたんだ……どうしよう、すごく嬉しい」
明日奈は、二度と見れないと思っていたSSを再び見る事が出来たため、
幸せいっぱいな気分に包まれ、そのままいつしか眠りについたのだった。