「お姉ちゃ~ん!」
「コマチちゃん!」
アルンに着いた五人を、ユキノとコマチが出迎えた。
コマチは嬉しそうにアスナに駆け寄り、思う存分甘えているようだ。
それを見たハチマンは、危機感を持ったのか、おずおずとコマチに尋ねた。
「お、おいコマチ……コマチはお兄ちゃんとお姉ちゃん、どっちが好きなんだ?」
「はあ?」
コマチがとても嫌そうにハチマンに返事をしたため、ハチマンは泣きそうになったが、
次の瞬間コマチが満面の笑みを浮かべてハチマンに近付いてきたので、
ハチマンは感動し、両手を広げてコマチをハグしようとした。
だがコマチはそれをスルリとかわし、ハチマンに言った。
「そんなのお姉ちゃんに決まってるでしょ、ゴミいちゃん」
「ぐはっ」
ハチマンはそれを聞き、その場に崩れ落ちた。
さすがにそれを見てかわいそうだと思ったのか、コマチはこうつけ加えた。
「そもそも聞き方が悪いよ、どっちが好きか、じゃなくて、
どっちも好きだよな?って聞かれたら、うんって答えたのに」
それを聞いたハチマンは少し立ち直り、コマチに向かってもう一度質問した。
「そ、そうか、そうだな。よしコマチ、お兄ちゃんとお姉ちゃん、どっちも好きだよな?」
「うん、かなり差は開いてるけど、どっちも好きだよ、お兄ちゃん!」
「そ、そうか。まあ好きには違いないな。コマチ、俺もお前の事を、とても愛してるぞ!」
「うん、コマチはそうでもないけど、でもありがとう、お兄ちゃん!」
コマチはそれで話は終わったといわんばかりにアスナの下へと戻っていった。
だがハチマンが満足したようだったので、それはそれで良かったのだろう。
そんな二人を見て、珍しくいたずら心が沸いたのか、突然ユキノがコマチに尋ねた。
「ちなみにコマチさん、私とハチマン君ではどちらが好きなのかしら?」
「ユキノさん!」
「ユイユイとハチマン君とでは?」
「ユイユイさん!」
「イロハさんとハチマン君とでは?」
「イロハ先輩!」
「お、おい、コマチ……」
「よく分かったわ、ありがとう、コマチさん」
「はいっ!」
ユキノはにっこりと微笑み、満足そうに後ろに下がった。
ハチマンは目に見えて落ち込んでおり、
キリトとリズは、ハチマンを慰めるようにハチマンの肩をぽんと叩いた。
「お前ら……」
ハチマンは、救われたような気持ちで二人の顔を見た。
そこにあったのは、ニヤニヤとした笑顔であり、ハチマンは絶叫した。
「お前らもかああああああああ!」
「ハチマン君、静かになさい。事実なのだから、これはもう仕方がない事なのよ」
「ぐっ、ユキノ……」
「さて、それじゃあそろそろ自己紹介といきましょうか。
私はユキノ、アスナさん、リズさん、初めまして」
「私はコマチです!リズさん、初めまして!」
「アスナです、宜しくお願いします」
「リズです、鍛治師をやってます、よろしくね!」
コマチはそんなリズベットの姿を見て、興味深そうな顔をした。
どうやらレプラコーンを見た事がほとんど無かったようだ。
「リズさんはレプラコーンなんですね」
「うん、マニュアルを見たら、鍛治とかが得意だって書いてあったから、
これだ!って思ったんだよね」
「なるほど、それじゃあ今度みんなで素材とかを取りにいきましょう」
「うん!」
コマチとリズは、すぐに意気投合したようだ。
ハチマンは、まさかと思いつつも、もう一度コマチに尋ねた。
「コマチ……まさかとは思うが、俺とリズ、どっちが好きだ……?」
「リズさん!」
「何……だと……」
ハチマンは再び崩れ落ちた。ソレイユはそのハチマンの襟首を掴み、
ずるずると引きずりながらユキノに言った。
「ユキノちゃん、それじゃあ仮の拠点に案内して頂戴」
「ええ、それじゃあ行きましょうか」
一同はユキノの後を追い、歩き始めた。
ちなみにハチマンはソレイユに引きずられたままだった。
それを見たアスナはコマチに近付き、こっそりとこう尋ねた。
「コマチちゃん、本当はハチマン君の事、大好きなんでしょう?」
「もちろんです!でも面と向かってそう言うと、
お兄ちゃんはコマチに好かれる努力をしなくなるかもだから、
簡単には言ってあげません!」
「なるほどね、ソレイユ姉さんも同じような事を言ってたかも」
「円満の秘訣ですね!」
「そうだね」
ユキノが案内してくれた家は、町外れのこじんまりとした一軒家だった。
仮の拠点としては十分な広さがあるように見える。
「ちゃんとした物件を探すのは、ハチマン君がギルドを設立した後の話になるわね」
「それまでの仮の拠点としては、十分だな」
「あなたは早く、ギルドの名前を考えなさい」
「お、おう……頑張る」
そして一同は中に入り、とりあえず落ち着く事にした。
「あと二時間くらいしたら全員集まると思うのだけれど、それまでどうしましょうか」
「ちなみに今日集まるのは、どんなメンバーなんだ?」
「ハチマン君の作るギルドに入る予定のメンバーよ、キリト君」
「なるほどな、これから一緒に冒険をする仲間って事だな」
「毎回全員が集まるのは無理だと思うのだけれど、今日は調整して集まってもらったわ」
「ん、という事は……」
ハチマンは、ソレイユをじっと見つめた。
「きゃぁ、ハチマン君が獣のような目で私を見てる!助けて、アスナちゃん!」
「ハチマン君……」
「あーはいはい、俺が聞きたいのは、ソレイユさんもメンバーの一人なのかって事だよ」
「え?当たり前じゃない。もっともほとんど参加は出来ないけどね……
ハチマン君のせいで私、とても忙しくなっちゃったから……」
「あ……う……す、すみません、ソレイユさん」
「ハチマン君、また姉さんのペースにはまっているわよ」
「う……」
「まあでも忙しくなったのは確かだし、しばらくは仕事を頑張らないとかな」
「ハチマン君、気にしなくてもいいのよ。今の姉さんはとても楽しそうだもの」
「そうだね、こんなかわいい妹もいるしね」
そう言ってソレイユは、再びアスナに抱き付いた。
それを見たユキノの眉がピクッと動いたのを、ハチマンは見逃さなかった。
(ユキノはやっぱりアスナに、何か思うところがあるのか……?
俺の立場で言うのは難しいが、何とかしないとだな……)
「話が途中で反れたわね。今日ここに集まるのは、クラインさん、エギルさん、
シリカさん、リーファさん、レコン君、ユイユイ、イロハさん、メビウスさん、
あとはえーと、私は知らない人なのだけれど、アルゴさんよ」
その予想外の名前に、三人はとても驚いた。
「アルゴさん!?」
「アルゴが来るのか?」
「そうか、アルゴが……」
「もっともアルゴちゃんも、仕事が忙しくてほとんど来れないと思うけどね」
「いや、たまに話が出来るくらいでも十分だよ」
「そうだな……そうすると総勢……十六人か?」
「今後増えるかもだけど、最大でも二十人くらいでしょうね」
「結構な規模だな、頑張れ、ハチマン」
「お、おう……」
ちなみにハチマンのギルドのメンバーは、二十人を遥かに超える規模となる。
そしてその後、続々と人が集まってきた。
クライン、エギル、シリカの三人は、リズとの再会を喜び、近況を報告し合っていた。
メビウスは、ハチマンの隣でSAO時代の話を聞いているようだ。
リーファはキリトにリズベットの事を聞いており、
リズベットと早く仲良くなろうと努力している様子が伺えた。
そして扉がノックされ、二人のプレイヤーが入ってきた。
「ごめん、お待たせー」
「いやー、やっと到着しましたね」
「ユイユイ、イロハ、遅かったな」
「いやー、ちょっとウンディーネの領都まで行ってたんだよね~」
「何故そんなところに?」
「人を迎えに行ったんだよ。ユミー、こっちこっち」
「ユミー?」
「こっちですよ、先輩」
「先輩?」
二人に案内されて、一人の女性プレイヤーが、おずおずと中に入ってきた。
全員が見守る中、そのプレイヤーは挨拶を始めた。
「えーっと、あーしは、ユミー、です、宜しくお願いします」
「えっ?三浦さん!?」
「まさか三浦なのか?」
「あ、三浦さんか!」
総武高校組に加え、面識のあったキリトも、それが誰なのか分かったようだ。
「ついに三浦……ユミーもVRMMOデビューか、どんな感じだ?」
「うん……リアルすぎてちょっとびっくり……
魔法を使うってのも、すごく新鮮な体験だったかな」
「そうか……えーっと、俺の元同級生の、ユミーだ。
初心者だから、みんな色々と教えてやってくれ」
ハチマンがそう紹介し、一同は口々にユミーに挨拶をした。
ユミーは普段とはまったく違う様子で、おずおずと挨拶を返していた。
「ユミーさん、大丈夫?いつもと性格がまったく違うみたいだけど」
「ユキノ……そりゃあ、あーしだって緊張くらいするし」
「まあすぐに慣れるわ。大丈夫、ここには変な人はいないから」
「レコン以外はね」
リーファがそう茶々を入れ、レコンはリーファに抗議した。
「リーファちゃん、ひどいよ!」
そんなレコンをハチマンがフォローした。
「まあまあ、俺はお前の事をかなり高く評価してるぞ、レコン」
「ハ、ハチマンさん……僕、僕……」
ハチマンはそんなレコンの肩をぽんぽんと叩き、レコンは感動したように頷いた。
「そんなわけで、これで全員揃ったな。みんな、これからも宜しく頼む」
「待って待って、アルゴさんは?」
「オレっちならここだぞ、アーちゃん」
「きゃあ!」
いつの間にか、アスナの後ろにアルゴが立っていた。
ハチマンは気付いていたようだが、どうやら黙っていたらしい。
ちなみにコマチも気付いていたが、ハチマンが何も言わないので黙っていたようだ。
「まあそういう事だ。みんな、これからも宜しくな」
こうして現時点でハチマンのギルドに入る予定のメンバーが全員揃った。
彼らは今後、様々な冒険を繰り広げていく事になる。