ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/13 句読点や細かい部分を修正


第175話 なるほど、それで?

 その日明日奈は、たまたま八幡の家に遊びに来ていた。

明日奈は八幡のベッドの上でごろごろしながら、八幡お勧めのラノベを読んでいた。

そんな明日奈に、八幡は立ち上がりながら声を掛けた。

 

「明日奈すまん、ちょっとトイレに行ってくる」

「は~い」

 

 八幡はそう言うと、部屋のドアを開け、階段を下りていったのだが、

明日奈はひき続きごろごろしながら、そのまま読書を続けていた。

そんな時、いきなり八幡の携帯の着信音が鳴った。

明日奈は、慣れた様子で八幡の携帯の画面に表示された名前を確認すると、

慣れた手付きで通話ボタンを押し、電話の向こうに呼びかけた。

 

「もしもし」

「あ、あれ……すみません、間違えましタ」

「え?間違ってないよ、アルゴさん」

「……もしかして、アーちゃんカ?」

「うん」

「……」

「アルゴさん?どうかしたの?」

 

 アルゴが明日奈の名前を確認した途端に無言になった為、

明日奈は何事かと思い、アルゴにそう尋ねたのだが、

アルゴは戸惑った様子で、逆に明日奈に聞き返してきた。

 

「な、なあアーちゃん、この番号、ハー坊の携帯の番号で間違いないよナ?」

「うん、あってるよ」

「そうカ……」

「ああ!八幡君に掛けたつもりが、電話に出たのが私だったから、

もしかして番号を掛け間違えたのかと思ったのかな?」

 

 明日奈は、これが八幡の携帯だと今さらながら思い出し、

いかにも盲点だったという感じでそう言った。

 

「まあ、ちょっとずれてるけど大体それであってるゾ」

 

 アルゴの本来の疑問は、何故八幡の携帯への着信に対して、

普通に明日奈が出るのかという事だったのだが、それを直接明日奈に聞く事は躊躇われた為、

アルゴはとりあえず、八幡が今何をしているのか、明日奈に尋ねる事にした。

 

「で、ハー坊はそこにいるのカ?」

「ついさっきトイレに行ったんだよね。ちなみに今は八幡君の部屋だよ。

あ、今戻ってきたみたい、ちょっと待っててね。八幡君、アルゴさんから電話~」

 

 電話の向こうから、足音と共に八幡の返事が聞こえ、すぐに八幡が電話に出た。

 

「おう、アルゴか?何かあったか?」

「その前に聞きたいんだけど、何でハー坊の携帯への着信を、

アーちゃんが普通にとってるんだ?まあ別に何かこっちに不都合がある訳じゃないけどサ」

「お?ああ、すまん、それは疑問に思うよな」

 

 八幡は、アルゴの疑問は当然だと思い、そう言った。

そして八幡はアルゴに、経緯の説明を始めた。

 

「簡単に言うとな、今俺の携帯に入ってるアドレスは、全員明日奈の知り合いなんだよ」

「ふむふむ」

「そうなると、俺の携帯にかかってきた電話に明日奈が出ても、何も問題はないだろ?

だから俺がその場にいない時は、明日奈にとってくれって言ってあるんだよ」

 

 アルゴはその八幡の説明に、微妙な気分になりながらも、口に出してはこう言った。

 

「それはまあ……男らしい、のカ?」

「おう、もっと褒めてくれ。俺はあまり他人に褒められた事が無いんでな」

 

 その八幡の言葉に、アルゴはため息をつきながらこう答えた。

 

「はぁ……まあ、交友関係の狭さには触れないでおいてやるカ」

「おい、お前それ、バッチリ言っちゃってるからな」

「まあ、狭くて太い関係の女子が多いって事で」

「失礼だな、男もいるぞ。え~と……家族以外で八人くらいは」

「うお、予想よりよりはるかに多いナ」

 

 アルゴはそう言うと、キリト、材木座、エギル、クライン、レコンの顔を思い浮かべた。

 

「五人までは分かるけど、あと三人がわからないな。八人って、見栄を張ってないカ?」

「失礼な、本当だぞ。残りの三人は、戸塚と、葉山、それに戸部だ」

 

 アルゴは前に材木座から、戸塚の名前を聞いた事があるのを思い出した。

 

「ああ~戸塚王子の名前は、前に材木っちから聞いた事があるな。

残りの二人の名前は聞いた事が無いけどな。高校の同級生カ?」

「王子ってお前な……まあいいや、

病院で須郷に襲われた時に、助けてくれたのが、その二人だな」

 

 アルゴはその話を聞き、その二人の事を、以前八幡に聞かされた事があるのを思い出した。

 

「ああ~!そういえば聞いた事があったあった。ちなみに、女子の人数は何人なんダ?」

「企業秘密だ」

「ふ~ん、家族の小町ちゃんを抜いて、十三人って所カ」

 

 アルゴは、ALOのメンバーの数を素早く計算し、そう言った。

 

「残念、十六人だ。その中でアルゴが知ってそうなのは、アスナ、リズベット、シリカ、

リーファ、ユキノ、ユイユイ、イロハ、ソレイユ、メビウス、ユミー、

後、この前説明した、クラインの彼女の平塚先生に、アルゴを足すと……あれ、十二人だな」

「ハー坊、オレっち、薔薇ちゃんとは同じ職場の同僚だゾ」

 

 八幡は、そういえばそうだったなと思いつつも、

知り合いだという事をアルゴに言った事は無いと思い、その事について尋ねた。

 

「正解なんだが、何で俺と薔薇が番号を交換してあるって知ってるんだ?」

「ああ、それは先日、珍しく薔薇ちゃんが、材木っちにキレててな、

その時携帯を取り出しながら『八幡に言いつけるわよ!』って言ってたのを見たんだゾ」

「何やってんだあいつら……」

 

 八幡は、そのアルゴの説明に頭痛を覚えたが、とりあえずスルーする事にした。

 

「まあそれで十三人か、さすがに計算が速いな、アルゴ」

「で、オレっちの知らない残りの三人は、浮気相手か何かカ?」

「んな訳ねーだろ、川崎、海老名、折本っていう、SAO以前の知り合いだな。

ちなみに全員明日奈と面識がある」

 

 明日奈と姫菜は、優美子の紹介で一度一緒に遊びにいった事があった。

ちなみにその時、姫菜が強引に誘って連れてきたのが沙希だった。

 

「ふむふむ、なるほど、ハー坊の企業秘密、しっかりとメモっておいたゾ」

「あれ……お、おい……」

「まさかちょっと煽ったくらいで、こんなに簡単に全員の名前を喋ってくれるとはナ」

「なん……だと……」

 

 八幡はアルゴの巧妙な煽りに上手く乗せられ、

全員の名前を教えてしまった事に気が付き、愕然とした。

だがそこは八幡である。転んでもタダでは起きない。

 

「まあ知られちまったなら仕方がないな。よし、情報料をよこせ」

 

 八幡はアルゴから見えないのをいい事に、ドヤ顔でそう言ったのだが、

そんな八幡にアルゴは、同じくドヤ顔で言った。

 

「なぁハー坊、情報料を払ってもいいんだが、その前に、

オレっちの情報屋としてのルール、覚えてるカ?」

「お前の情報屋としてのルール?……確かあれは……あ」

 

 アルゴの言葉を受け、その内容を思い出した八幡は、

自分が劣勢に立たされている事を自覚せざるを得なかった。

 

「どうやら気が付いたようだな。オレっちは、無償で得た情報は公開しない。

だが、対価を支払って得た情報は、遠慮なく商売のタネにするんだゾ」

「くっ……」

「つまり、ここでハー坊がオレっちから情報料を受け取った瞬間、

さっきの情報は、オレっちの商売のタネになるんだゾ」

「お、俺の情報なんか、買う奴はいないだろ」

 

 八幡は、最後の抵抗とばかりにそう言ったのだが、

少しの沈黙の後、電話の向こうから、アルゴが誰かと会話する声が聞こえた。

 

「お~い二人とも、ちょっといいか?

今、ハー坊のヒミツの情報を仕入れたんだけど、良かったら買ってみないカ?」

「アルゴ殿、今何と……八幡のヒミツの情報って言いましたか?

これは八幡に対して優位に立てるかもしれない絶好のチャンス!よし、言い値で買った!」

「えっ、えっ、本当に?買う買う、絶対買うわ、もちろん私も言い値で!

ふふふ、私だっていつまでもやられっぱなしじゃないわよ、

ついにあいつに一泡ふかせられるチャンス!」

「すまん俺が悪かった、そんな大した情報だとは思わないが、それでも勘弁してくれ」

 

 八幡は、電話の向こうの義輝と薔薇の声を聞き、すぐに折れた。

この勝負、八幡の完全敗北である。そんな八幡にアルゴが言った。

 

「まあそういう事なら今回は、特別に勘弁してやるゾ」

「お、おう、頼むわ」

 

 そこでこの話は終わりかと思われたが、その時アルゴが唐突に言った。

 

「……ハー坊、二人がハー坊に、何か言いたいみたいなんだガ」

「お?何かあったのか?別に構わないぞ」

「んじゃ今スピーカーで全員に聞こえるようにするゾ」

 

 その瞬間に、電話から材木座と薔薇の大声が聞こえてきた。

 

「八幡!!!!!」

「ちょっとあんた!!!!」

「お、おう……どうした?」

 

 電話の向こうの二人は、すごい剣幕でどうやら何かに怒っているように感じられ、

八幡は動揺し、単純に聞き返す事しか出来なかった。

 

「アルゴ殿との会話が少し聞こえてきたが、ふざけるなよ八幡!」

「そうよそうよ、ふざけるんじゃないわよ!」

「おい……お前ら一体どうしたんだよ……何か俺、怒らせるような事をしちまったか?」

「二十四人もアドレス帳に入ってるとか、リア充に成り下がったか、この裏切り者!」

「二十四人もアドレス帳に入ってるとか、一体私の何倍なのよ!ぶっとばすわよ!」

「す、すみませんでした……」

 

 電話の向こうから引き続き、ぶつぶつ呟く二人の声が聞こえてきた為、

八幡は素直に謝った。それでも二人の呪詛の声は止まらなかった為、

八幡は、内心恐怖を感じながら、二人に言った。

 

「わ、わかった……今度何かあったらちゃんと二人も誘うから、本当に勘弁してくれ……」

「本当だな、八幡!」

「本当ね?約束よ!」

「お、おう……任せろ」

 

 八幡は二人の剣幕に押され、とりあえずそんな約束をした。

それで満足したのか、二人はどうやら、大人しく仕事に戻ったようだ。

八幡は安堵したのだが、そんな八幡の肩を、明日奈がちょんちょんとつついた。

 

「ん?どうかしたか?」

「ふふっ、八幡君、そろそろアルゴさんにいじられ終わった?」

「ぐっ……まあそうだな」

 

 明日奈はそれを聞くと、上目遣いで八幡にお願いをした。

 

「それじゃあちょっと、私の声がアルゴさんに聞こえるようにして?」

「分かった」

 

 八幡は、明日奈の事をあざとかわいいと思いながら携帯を操作し、明日奈の言う通りにした。

 

「アルゴさん、聞こえる?」

「お?どうしたアーちゃん、何か用事カ?」

「そろそろ今日の本題について聞きたいんだけど、

多分進展、あったんだよね?ユイちゃんとキズメルの事」

「おお、さすがアーちゃんは勘が鋭いな、そうそう、今日はその事で連絡したんだゾ」

「本当かアルゴ、もうユイは大丈夫なのか?」

 

 二人の話を聞いていた八幡は、食いぎみに横から会話に参加した。

かなり脱線してしまったが、今日アルゴが八幡に連絡をとったのは、

最近姿が見えないユイとキズメルに関して話があったからだった。

 

「二人とも、心配だったろうに、長く待たせちまってすまなかったな。

やっとユイちゃんとキズメル復活の目処が立ったんだゾ」


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