ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/14 句読点や細かい部分を修正


第178話 制服とエンブレム

 比企谷家に泊まった明日奈は、次の日の朝、八幡と二人きりで朝食を食べていた。

八幡の両親は、毎度の事ながら、既に仕事に出掛けていた。

いつもは二人と一緒に朝食を食べている小町も、今日は生徒会の用事があるとの事で、

つい先ほど家を出ており、今は久しぶりの、二人での朝食なのだった。

食事を終えた後、八幡は明日奈に言った。

 

「それじゃあ明日奈、俺はちょっと用事があるから一緒にログインは出来ないんだが、

三人に、制服についての意見を聞いておいてくれよな」

「うん、任せておいて」

「あんまり派手じゃなくていいからな、シンプルなのがいいな」

 

 明日奈はこの日、たまたま都合のついた者達と、ALO内で待ち合わせをしていた。

今日の参加メンバーは、奇しくも同じ学年の女子で固められていた。

ユキノ、ユイユイ、ユミー、リズベットに、アスナを加えた五人である。

目的は、今度新しく揃える事にした、ギルドの制服のデザインを確認する為である。

ユイユイとユミーがいる為、おかしなデザインの場合は、ちゃんと却下されるはずだ。

役割の面から言っても、タンク、重装アタッカー、軽装アタッカー、魔法使い、ヒーラーの、

五種類のジョブが綺麗に揃っており、デザインを考慮する上でのバランス的にも理想的だ。

明日奈は、仮拠点として使用している宿屋に備え付けられている機能を使い、

外部にアクセスし、八幡に指示されたメールを呼び出した。

 

「今回のデザインは、海老名さんに頼んだらしいよ」

 

 明日奈が何となしにそう言うと、リズベット以外の三人は、硬直した。

 

「ちょ、ユミー、大丈夫かな?」

「さすがに後でお仕置きされるのが分かってて、とんでもないデザインにはしてないって、

あーしも信じたいけど、でもあの姫菜だしね……」

「ねぇアスナ、このデザイン、八幡君はチェックしたのかしら?」

 

 ユキノのその問いに、アスナは笑顔で答えた。

 

「『どうせこのメールを見ても、俺のセンスじゃ良し悪しの判断は出来っこないから、

全て五人に任せる』って、開く前に言ってたから、チェックとかしてないと思うよ」

「そう……まあとりあえず、見てみましょうか」

 

 ユキノはそれを聞き、達観した表情でコンソールを操作し、メールを開いた。

 

「あれ、ユキノとユイユイとユミーの名前がついてるファイルがあるね」

 

 デザイン案らしき添付ファイルをひょいっと覗き込んだリズベットがそう言い、

三人は、何ともいえない嫌な予感に包まれた。

どのファイルから開くか、しばらく目で牽制し合っていた三人だったが、

アスナが横から、ひょいっとユイユイの名前の付いたファイルを開いた。

その中身のデザイン画を見た五人は、ビシッと固まった。

そこには、必要以上に露出の激しい、胸の部分が強調された、

ビキニアーマーのようなデザインの服が表示されていた。ちなみに色はピンクだった。

ちなみに下には、『やっぱユイユイはこれっしょ!』と、姫菜の字らしき文が書いてあった。

 

「え、えっと……」

 

 一番最初に我に返ったアスナは、困ったようにそう言うと、黙ってファイルを閉じた。

 

「はぁ……」

「ねぇユミー、あたしって、姫菜から見るとこんなイメージなのかな?」

「大丈夫、まだギリギリ成長期だから。うん、諦めるのはまだ早い」

「私の遺伝子も、そろそろまともに仕事をしてくれないかしらね……」

 

 ユミーは、ため息をつきながら肩を竦め、

ユイユイは、そんなユミーに焦ったように問いかけていた。

リズベットはぶつぶつと呟いており、ユキノは自分の遺伝子に文句を言っていた。

 

「い、今のはさすがにちょっと、ね?」

「そうね、残りの二枚も、おそらくそういう路線だと思うから、ネタとして見てみましょう」

 

 そのユキノの言葉に、四人はうんうんと頷いた。

そしてアスナは次に、ユミーと書いてあるファイルを開いた。

 

「え……ツインテール?」

「普通ね……」

「そういえば昔姫菜に、ツインテールで変なコスプレをさせられそうになった記憶が……」

 

 それは、実は某青髪のボーカロイドに限りなく似たデザインであったのだが、

この中には、その存在を知る者はいなかった。

 

「あら、何か説明書きのような物が書いてあるわね……可動型ツインテールアーマー?」

 

 ユキノの言う通り、確かにそこには、可動型ツインテールアーマーと書いてあった。

そしてその下には、『敵の遠距離攻撃を感知すると、自動で髪が回転して防御する』

と書いてあり、ユミーは頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。

 

「姫菜の思考があーしには分からない……」

「まあまあユミー、でもデザイン自体は普通じゃない?あたし好きだな、こういうの」

「半袖ネクタイに、ミニスカートって、何かかわいいね」

「コンセプトはありかもしれないわね」

「うん、かわいいかも!」

 

 可動型ツインテールアーマーの是非はともかく、デザイン自体は五人には好評であり、

最終候補に残される事になったのだが、後日八幡に、即却下される事となる。

主に版権の問題から、これはやめた方がいいと判断したのであろう。

 

「さて、最後はユキノのファイルだね」

「ちょっと見るのが怖いわ……」

「それじゃ開いてみるね」

 

 アスナがファイルを開き、ユキノ用のデザインが公開された瞬間、ユキノが言った。

 

「これは採用せざるを得ないわね」

「えええええええええ」

「待って待ってユキノン、気持ちは分かるけどストップストップ!」

「ユキノって、こういうのが好きなんだ?」

「へぇ、ちょっと意外」

 

 それは、かつて雪乃がメイド喫茶で着せられたメイド服に酷似していた。

ただ一点違う所があるとすれば、その頭には、ネコミミが燦然と輝いているという事だった。

ちなみに雪乃がメイド服に忌避感が少ないのは、かつてこの姿を八幡の前で披露した時、

彼の反応が良かったという記憶が、頭の片隅に残っていた為である。

ネコミミに関しては言わずもがなである。

 

「あなた達、一体何を言っているの?最高のデザインじゃない」

「誰か、ユキノを止めて!」

「ユキノ、さすがのあーしも興味が無いではないけど、うん、やっぱ無理」

「駄目よ、これは候補として残すわ」

「一度こうなったユキノンは、テコでも動かないかも!」

「あはははは、ユキノにこんな一面があったなんて、知らなかったなぁ」

「リズ、笑ってないで、ユキノを止めるのを手伝って!」

 

 こうしてすったもんだの末、このデザインも、一応最終候補に残される事となった。

後日これを見たハチマンは、一瞬手を止め、葛藤するような表情を見せたのだが、

断腸の思いでこれを却下した。だがやはり少し未練があったのだろう、

その時隣にいた明日奈に、試しに一度、この格好をしてみないかと尋ねてみたのだが、

顔を真っ赤にした明日奈に正座をさせられ、お説教をされる事になる。

もっとも後日明日奈は、まったく予想外の形でメイド服を着る事になるのであった。

その後、姫菜が真面目に考えた、数点のデザイン画が公開され、

それを元に五人が頭を悩ませた結果、八幡の、シンプルにという意見も考慮され、

装甲があしらわれたレザータイプの制服が、本命候補として決定された。

色は八幡の指定で黒であった。これはキリトのイメージカラーを考慮に入れた結果だろう。

尚、肩の部分は、各人でアレンジ出来るよう、特に何も付けない事とされた。

 

「でも、さすがに地味すぎる気もするのだけれど、大丈夫なのかしら」

 

 ユキノが素直に、そんな感想を述べた。

 

「あ、えっとね、左胸の所にギルドのエンブレムを入れて、その下に、

各人がデザインした個人マークを入れるようにするみたい。えっとね……こんな感じ」

 

 アスナがコンソールを操作すると、立体化されたデザイン画の左胸の部分に、

ギルドのエンブレムが浮かび上がった。それは先日八幡が、メンバーに先行公開した物で、

刃が下向きになった、赤と白の剣が二本交差した形のエンブレムであり、

その上に、おそらく明日奈の個人マークなのであろう、

レイピアが十字に組まれたマークが表示された。

 

「あら」

「何か格好いい!」

「いいじゃん」

「いい感じだね、アスナって感じ」

「あ、ねぇリズ、あのマーク、あたしの盾にもお願い!」

「オッケーユイユイ、任せて!」

 

 四人は、感心したように、口々にそう言った。

先ほどまではとても地味に見えた服が、今はまるで違う服に見えるのだ。

 

「なるほど、マーク一つでこんなに変わるものなのね」

 

 ユキノの言葉に同意し、皆、うんうんと頷いた。

 

「という訳で、一週間を目安に、自分のマークを考えておいてほしいんだって」

「分かったわ。まあ私は猫のシルエットって、もう決めているのだけれど」

「あたしはどうしよっかなぁ……」

「あーしもこういうの決める時、すごい悩むタイプなんだよね」

「私は鍛冶師のハンマーを、うまい事アレンジしようかな」

「ところで、ギルドの名前はもう決まったのかしら?」

 

 ユキノのその問いに、アスナは少し困った表情で言った。

 

「私はもう知ってるんだけど、多分八幡君は、自分の口で伝えたいって思ってると思うから、

制服を作り終わって、その後全員が集まった時に発表するって感じになるんじゃないかな」

「なるほど、了解したわ。ちなみにおかしな名前だったりはしない?大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

「アスナがそう言うなら大丈夫ね、安心したわ」

 

 こうしてこの日の目的は、一応達成され、五人は雑談に入った。

しばらく和気あいあいと雑談に興じた後、リズベットが、突然思い出したように言った。

 

「あっ、そうだ!ねぇねぇみんな、GGOってゲーム、知ってる?」

「確か、ザ・シード規格のFPSじゃなかったかしら。少し前に広告を見た気がするわ」

「あーしの記憶だと、FPSって、自分視点で銃で撃ち合うゲーム、だよね?」

「あたし、そのゲームの広告なら見た事ある!」

「で、リズ、それがどうしたの?」

「確か今、そのGGOってゲームの、初めての公式大会が開かれているはずなんだよね。

ここでも見れるよね?ちょっと試しに見てみない?」




男子の制服のイメージは、フロートテンプルに殴りこみをかけた、デコース君の服の肩から先の部分を取るのが一番近いイメージになると思います。
女子の制服のイメージは、血盟騎士団のアスナの制服の黒バージョンの胸の部分に、
上記のデコース君の装備の胸の部分を流用した感じの服装が一番近いイメージになるのではないかと思われます。
最後の数行の部分、迷いに迷いましたが、GGO編ではなく、こちらに持ってくる事にしました。GGO編は当初、「第一回」バレットオブバレッツ(原作の2つ前の大会)から始めようかと漠然と考えていましたが、結局本エピソードに突っ込む事にしました。その為投稿がやや遅めになってしまいました、申し訳ありません。

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