ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/14 句読点や細かい部分を修正


第179話 第一回バレットオブバレッツ

 リズベットのその言葉に、四人は興味を引かれたのか、すぐに頷いた。

アスナはALOの宿屋の機能を使って外部に接続し、

GGO関連の、それっぽいサイトを探し始めたが、それはすぐに見つかった。

 

「え~っと……第一回バレットオブバレッツ公式中継?リズ、これかな?」

「そう、それそれ!」

「それじゃあ今、映してみるね」

 

 アスナが再びコンソールを操作すると、五人の目の前のモニターに、

大会の舞台なのだろう、荒涼とした市街地の風景が表示された。

画面の中では、二人のプレイヤーが対峙していた。

 

「ねぇこれ、銃で撃ち合うゲームなんだよね?でも何か二人とも、ナイフ持ってない?」

 

 その二人の装備を見て、ユイユイが首をかしげながら言った。

一人はナイフとハンドガンを装備し、もう一人は両手にナイフを装備していた。

そのプレイヤーの背後には、長い銃が転がっている。

 

「おそらくスナイパーの所にもう一人が接近して、近接戦に移った所なのでしょうね。

どうやらこのゲーム、銃だけじゃなく、ナイフや剣を使う事もあるみたい」

 

 顎に手を当て、考え込むような格好でユキノはそう言った。

そんなユキノに、ユイユイが初歩的な質問をした。

 

「ねぇユキノン、スナイパーって、遠くから攻撃する職だっけ?」

 

 そんなユイユイに答えを返したのはアスナだった。

 

「確かそう。前に八幡君と一緒に見た映画に出てきたのを見た事あるけど、

すごい遠くから銃で狙撃する役目の人だね」

「それじゃあ銃を持ってない今、シャナって人の方が、やっぱり不利なのかな?」

「常識的に考えれば、そうなんじゃね?後ろの長い銃を拾ってる暇は無さそうだし」

「でも、サトライザーって人は動かないね。圧倒的に有利に見えるのに、何でだろ?」

 

 画面をよく見ると、ナイフとハンドガンを持ったプレイヤーの名前はサトライザー、

そしてナイフを二本持ったスナイパーのプレイヤーの名前は、シャナというようだ。

と、画面の隅に、二人に近付くプレイヤーの姿が表示された。名前は、ゼクシード。

どうやら、サトライザーとシャナが睨み合っているのをいい事に、

ゼクシードは、漁夫の利を狙って、隙を見て二人を倒そうと画策しているようだ。

当の二人はゼクシードに気付いているのかいないのか、お互いに目を離そうとはしない。

ゼクシードは銃を構えながら、自らの持つ銃の確実な命中圏内に二人を捕らえようと、

じわりじわりと前に出ていった。そんな時、それは起こった。

まずサトライザーが、シャナから目を離さないまま、いきなりゼクシード目掛けて発砲した。

その銃弾は、しかしながらわずかに反れ、ゼクシードは咄嗟に銃を構えようとした。

だが驚くべきは、その直後に起こった出来事だった。

ゼクシードが慌てながらサトライザーに発砲しようとした瞬間、

その銃は、飛び込んできたシャナによって踏みつけられ、

シャナはそのままの勢いで更に飛び上がり、ゼクシードの背後に着地した。

そしてゼクシードは、そのままシャナに、脳天から真っ二つにされた。

ゼクシードはそのままその場に倒れ、その頭の上にはDEADマークが表示されたが、

そんなゼクシードの方をまったく見る事なく、シャナはサトライザーから目を離さない。

そんなシャナにサトライザーが何か話し掛け、シャナもそれに答えたが、

その声は小さく、何と言ったのか、聞き取る事は出来なかった。

そんな時、ユキノが突然口を開いた。

 

「『とんだ邪魔が入っちまったな』『ああ、まったくだ』」

 

「ユキノン!?今の会話、聞き取れたの!?」

 

 驚くユイユイに、ユキノは事も無げに言った。

 

「いいえ、唇の動きを読んだのよ」

「それってもしかして、読唇術ってやつ!?」

「あんた、相変わらずデタラメにすごいね……」

 

 ユキノの答えにリズベットは驚き、ユミーは呆れながらもユキノを賞賛した。

なおも二人の会話は続き、ユキノはそれを実況していた。

 

「『暇つぶしで参加した大会だったが、世の中にはとんでもない化け物がいるもんだ』

『その言葉、そっくり返すぞ。あんた、アメリカかどっかの軍人上がりだろ?

しかも相当人を殺してるはずだ』

『ほう、分かるのか?』

『思い出したくはないが、昔、あんたと似たような目をした奴と戦った事があるんでね』

『お前、軍人だったのか?それとも傭兵崩れか何かか?』

『いや、俺はただの……』」

 

 そこでカメラの角度が変わり、二人の口元が見えなくなった為、

ユキノは二人の会話を実況する事を止めた。

 

「何かすごかったね……」

「そうね、どうやらサトライザーって人は、本物の軍人みたいね。

シャナって人は、どうやら違うようね。あの動き、一体何者なのかしらね。

ゼクシードという人は、何というか……無様ね」

「まあ、大会に出るくらいだから、あのゼクシードってのも、相当腕は立つんだろうけど、

素人のあーしが見ても、根本的にレベルが違うって気がした」

「鍛冶師の視点だと、シャナって人の武器は量産品に見えたから、やっぱり腕なのかな」

「まだ話してるわね、何を話しているのかしら」

「気になるよね!」

 

 どうやらユキノは会話が気になって仕方がないようで、他の者もそれに同意した。

 

「ねぇアスナ、中継カメラの位置をこちらから変える事は出来ないのかしらね。

ねぇアスナ……聞いてる?ねぇ……アス、ナ?」

 

 ユキノの怪訝そうな声を聞き、他の者達もアスナの方を見た。

そのアスナは、何事かぶつぶつと呟いていた。

 

「まさかサトライザーって、あいつ……?ううん、会話からするとおそらく、

似たような目の奴ってのがあいつの事だ……私の印象でも、確かに違う気がする……」

「アスナ?ちょっとアスナ?何かあったの?」

 

 リズベットに揺すられ、アスナは今気が付いたかのように、ハッと四人の顔を見た。

そしてアスナは、首を振りながら言った。

 

「ううん、ごめんね。どうやら勘違いだったみたい」

「そう、それならいいのだけれど、何か困った事があったなら、すぐに言って頂戴」

「そうそう、あたし達、仲間なんだしね」

 

 まずユキノがそう言い、リズベットが言葉を繋ぐ。

そしてユイユイとユミーも、アスナに笑顔を向けた。

アスナはその気持ちをとても嬉しく思い、四人に笑顔で言った。

 

「うん!ごめんね、実はあのサトライザーって人が、もしかしたら、

SAOにいた殺人ギルドのリーダーなんじゃないかって思ったの。

でも、どうやら勘違いだったみたい」

「ええっ?それってPoHの事?」

 

 PoHの事をよく知るリズベットは、驚きながらそう言った。

残りの三人は、PoHに関する知識は無い為、そのやり取りを見守っていたが、

三人とも、殺人ギルドという言葉を聞き、少し不安そうな顔を見せていた。

そんな三人に、アスナとリズベットはPoHの事を説明した。

 

「そう……そんな人が……まさに狂人と言うべきね」

「価値観が全然違うみたいな?」

「あーしもさすがに気持ち悪いと思うけど、まあ生まれ育った環境が違うんだろうね」

「で、何でアスナは、あれがPoHじゃないって分かったの?」

 

 そのリズベットの問いに、アスナは曖昧な答えを返した。

 

「勘……かな……」

「勘なの?」

「うん……何となくとしか」

「まあ、アスナがそう言うのなら、多分正しいのだと思うわ」

「ユキノ、信じてくれるの?」

 

 アスナがきょとんとしながらユキノにそう尋ねた。そこにユミーが割って入った。

 

「へぇ~、あんたなら、『そんな非科学的な事、信じられるはずがないじゃない。

根拠を理論的に示してもらえないかしら』

とか言うと思った。あーしの記憶だと、昔はそんな感じじゃなかった?」

 

 それを聞いたユキノは、頬をふくらませ、少しすねたように言った。

 

「それは私の真似なのかしら?そうね……

昔の私なら、確かに似たような事を口にしたかもしれないわ。

でも、今はそうじゃない事を知っている。

ちょっと気取った言い方だけど、私も戦いに身を置くようになってから、

似たような経験を何度もしてきたもの。頭ごなしに否定する事は、もう出来ないわ。

それがどれだけ非科学的な事であってもね」

「なるほどねぇ」

「特にアスナは、私なんかよりも、もっときつい状況で戦い続けてきたんだもの。

その勘はおそらく、非科学的な訳じゃなく、経験に裏打ちされたものなのではないかしら」

「経験、ね」

「確かにそういうのは、あるかもね」

 

 アスナはそのユキノの論評に、深く頷いた。その時突然リズベットが叫んだ。

 

「見て!戦いが始まったよ!」

 

 残りの四人はその言葉を聞いて、慌ててモニターを見た。

モニターの中では、サトライザーとシャナの壮絶な戦いが繰り広げられていた。

その二人の戦いは、キリトやハチマンの戦いを見慣れた五人の目から見ても、

まったく遜色の無いものだった。それから何分経っただろうか、ついに決着の時が来た。

ハンドガンの有無が、やはり結果的に大きかったのか、

サトライザーの銃弾が、ついにシャナを捕らえた。シャナは地面にどっと倒れ、

サトライザーもその場に座り込んだ。そして、ユキノの実況が、再び始まった。

 

「『ふう、紙一重だな』

『あんた、本当に強ぇな。この借りはいずれ返す』

『ハッ、もしまたこんな機会があったら、また返り討ちにしてやるぜ』

『それじゃああばよ、サトライザー』

『ああ、あばよ、シャナ』」

 

 その言葉と共に、シャナの頭の上にDEADマークが点灯し、

サトライザーは次の獲物を求めて消えていった。

その後もサトライザーの戦闘は、何度かモニターに映ったが、

それは全て、虐殺と言っていいほど一方的な蹂躙劇であった。

五人の目から見ると、最初の戦いが実質決勝戦のようなものだった。

そしてそのまま、サトライザーが優勝という結果で、

第一回バレットオブバレッツは幕を閉じる事となる。




何とも言えませんが、残り十話以内で次の章に突入します。
デスガンが登場するのは、第三回バレットオブバレッツになりますが、
この作品は、第二回の大会前からなんとなく時系列順に進んでいく事になる予定です。
原作とは、大会の構成も少し違う感じになります。ちなみにサトライザーはもう出ません!出るとしても名前だけになります。

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