ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/14 句読点や細かい部分を修正


第183話 送れ

「こちらハチマン、感度はどうか、送れ」

「こちらキリト、問題なし、送れ」

「了解、アスナはどうか、送れ」

 

 パーティチャットからそんな声が聞こえ、アスナは慌てて会話モードを切り替えた。

 

「え、えっと……?こちらアスナ、大丈夫、聞こえるよ、お、送れ?」

 

 アスナは、多分ちゃんと聞こえるかどうか聞きたいんだろうなと考え、

二人の真似をしつつ、そう答えた。ハチマンはそれを聞くと、すぐに報告を始めた。

 

「たった今、俺が担当のフィールドボスフラグを全てクリアした、送れ」

「あ、こっちも全部クリアしたよ!……送れ?」

「了解……対象を確認中……発見、これより戦闘に入る、送れ」

 

 報告を受けたキリトが、遠くで待機していたレコンにハンドサインを送る。

それを見たレコンは、何かを探すそぶりを見せ、発見したのか、すぐにハンドサインを返す。

どうやら問題なくフィールドボスのPOPを確認したようだ。

それを聞いていたユキノが、呆れたように横から会話に参加した。

 

「あなた達はさっきから、一体何をやっているのかしら……」

「ユキノの乱入を確認、言い訳は任せた、これより帰投す、交信終了」

 

 間髪入れず、ハチマンはそう言うと、会話を終了した。

 

「なっ……お、おい、ハチマン!ずるいぞ、ハチマン!」

「キリト君、任せたよ!こっちも戻るね、交信終了!」

「アスナまでハチマンの真似すんなよ!おい、おい!」

「聞いているのかしら?……キリト君?」

「はっ、はい!」

 

 キリトは、ギギギギッという音を立てながらユキノの方へと振り返った。

 

「ユキノ、前と比べてちょっと性格変わってないか?」

「その言い方は正確では無いわね。前と比べてと言うなら、本来はこちらが素よ。

この前あの二人に、ありのままでいるようにって言ってもらったの」

「うん、ユキノンは、本来こんな感じだよ!」

「そっか、なるほどな。それじゃそういう事で!」

 

 ユイユイが嬉しそうに、ユキノの隣に駆け寄ってそう言い、

キリトはそれに合わせ、手をシュピッと上げると、そのまま立ち去ろうとした。

 

「ユイユイ、捕まえて」

「おっけー!」

 

 ユイユイはユキノにそう頼まれ、キリトの襟首をぐいっと掴み、そのまま持ち上げた。

キリトは何とか逃れようとしたが、こう見えてユイユイは、キリト並のパワーを誇っている。

いかにキリトとはいえ、そんな体制でユイユイから逃れる事は不可能だった。

キリトは借りてきた猫のようにユイユイに首根っこを掴まれ、

しどろもどろになりながら、説明を始めた。

 

「えっと、昨日たまたま、ハチマンとレコンと一緒になってですね、

宿屋でとあるアニメの一挙放送を一緒に見たんですけど、

その時の自衛隊の方々の無線での遣り取りとか、ハンドサインがツボにはまって、

それでついノリで練習してみたというか……そういう事です、はい」

「何故いきなり敬語なのかしら。でも、昨日の一挙放送って、まさかとは思うのだけれど、

遠くから魔法を撃たせて、弾ちゃ~く、今!とかやろうとはしていないわよね?」

「ユキノも見たのかよ!」

 

 キリトはその予想外の言葉に、思わず突っ込んだ。

ユキノは虚を突かれたのか、一瞬ぽかんとし、直後に顔を赤らめながら、

もじもじと言い訳がましく説明を始めた。

 

「いえ、その……ハチマン君が入院中に、何度かアニメを見ている事があって、

私もたまに一緒に見ていたのだけれど、その中に、その作品があったのよ」

「なるほど……」

 

 ユキノの説明に、キリトは納得したように呟いた。

 

「お、おほん、そういう訳で、この話はここで終わりにしましょう、

さっさとフィールドボスを倒すわよ、指揮はキリト君に任せるわね」

 

 ユキノは露骨に話題を変え、そう提案した。

 

「そうだな……よし、やるか!ってユイユイ、そろそろ俺を降ろしてくれ」

「あっ!」

 

 ユイユイは突然そう言われ、慌てて手を離した為、キリトはそのまま地面に激突した。

 

「痛っ!」

「ご、ごめん!」

「いや、だ、大丈夫だ」

「ふふっ、あなた達、何をやっているの」

 

 倒れたキリトに、ユキノがそう言いながら手を差し出した。

キリトはその手を掴み、立ち上がろうとしたのだが、

そんなキリトに、ユキノはこの日一番の笑顔で言った。

 

「弾ちゃ~く、今!は、私に言わせて頂戴。一度言ってみたかったのよね」

 

 突然そんな事を言われ、ユキノの笑顔をぽかんと見つめるキリトに、

同じくぽかんとしていたユイユイが、こっそり囁いた。

 

「さっきはああ言ったけど、ユキノン、やっぱりちょっと性格変わったかも」

「実はハチマンに、かなり影響受けてるのか?」

「もしかしたらそうかも。でもまあこんなユキノンも悪くないよね」

「違いない」

「ほらあなた達、さっさと行くわよ」

 

 ユキノにそう声を掛けられ、二人は気を取り直し、すぐに返事をした。

 

「お、おう!」

「今行く!」

 

 前方を見ると、他のメンバーは既に集結していた。

キリトはそれを見ると、背中の大剣を抜き、真っ直ぐにフィールドボスのいる方向を示した。

 

「よし、ヴァルハラ・リゾート、出撃だ!」

 

 続いてユキノが指示を出す。

 

「まず敵が見える所まで移動しましょう。敵に感知されないように気を付けて」

 

 それに、おう!と返事をした一同は、そのままフィールドボスへと向かって歩き出した。

やがてフィールドボスが姿を現し、一同は戦闘体制をとった。

 

「まずはリーファさん、イロハさん、ユミー、クリスハイトさんの四人で魔法攻撃を。

私が、今!と叫んだら、ユイユイを先頭に、全員で突撃よ!

敵のヘイトを取りすぎたと思ったら、その人は一時的に下がるのを徹底する事。

私は右翼を、メビウスさんは左翼をカバーでお願い」

「聞いた通りだ、行くぞ!魔法攻撃用意!」

 

 ユキノの指示の後、キリトがそう声を掛け、四人は魔法の詠唱を開始した。

四人は他の者の詠唱に合わせ、うまく発射のタイミングを調整していく。

そして頃合だと見たのか、キリトが合図を出した。

 

「攻撃開始!」

 

 それを聞いた四人が、同時に魔法を発動させる。

リーファの風、イロハの炎、ユミーの雷、クリスハイトの光、

四属性の攻撃魔法が、絡み合いながらボスへと向かっていく。

 

「弾ちゃ~く…………今!」

「行っくよ~!おおおお!」

 

 ユキノのその言葉と同時に、ユイユイが雄たけびをあげながら突撃し、

他の者もその後に続いて走り出し、攻撃を開始した。

ゲストとして呼ばれたユージーン、カゲムネ、アリシャ、サクヤの四人も、

何度も一緒に行動している為か、他のメンバーとしっかり呼吸を合わせ、

その実力をいかんなく発揮していた。

別行動でフィールドボスのフラグをクリアしたハチマンとアスナは、

途中で合流し、仲間達の下へ向かって全力で走っていたのだが、

その二人が到着する頃には、既にフィールドボスは爆散していた。

 

「くそ、間に合わなかったか」

「みんな、倒すのがすごい早いね!」

 

 そう言う二人に向かって、一同は思い思いに親指を立てたり、手を振ったりした。

 

「それじゃあこのまま少し休憩して、その後は迷宮区に突撃だ」

 

 そのハチマンの指示に従い、一同は休憩に入り、

トイレに行ったり水分を補給する為に、交代でロールアウトする事にした。

ハチマンは脳内に迷宮区のマップを思い浮かべ、攻略ルートをチェックしていたのだが、

そんなハチマンにユージーンが声を掛けてきた。

 

「信じられないくらいスムーズだな、ハチマン」

「お、ユージーンか、今日は手伝ってもらって、本当にありがとな」

「いや、お前達と一緒に行動するのは楽しいから、何も問題は無いさ」

 

 ユージーンは機嫌良さそうにそう答えた。

 

「今日はこのまま二十二層を目指すのか?」

「ああ、そのつもりだ。その先に行く予定は、今の所無い。

まあ、個人単位でのボス攻略への参加は自由だって、皆には言ってあるけどな」

「そういえば詳しく聞いてなかったな、二十二層に、何かあるのか?」

「それは俺も聞いておきたい」

「それ、私も聞きたい!」

「差し支えなければ、私にも説明を頼む」

 

 いつの間に来たのか、カゲムネ、アリシャ、サクヤも、ハチマンにそう尋ねてきた。

ハチマンは丁度いい機会だと思い、四人に今回の行動についての説明を始めた。

 

「……そういえば、あのピクシーの娘の姿を、最近見ていなかったな」

「そうか、そういう事か」

「ねぇ、ユイちゃんって、ハチマン君にとって、どういう存在なのかな~?」

「確か、娘と言っていたように思うが」

「ああ、それはな……」

 

 ハチマンは、この四人なら、ペラペラと他人に漏らしたりしないだろうと思い、

かつてSAOであった出来事を、かいつまんで説明した。

それを聞いたユージーンは、目をうるうるさせながらハチマンの肩を叩き、

カゲムネは黙って頷いた。アリシャとサクヤは、少し離れたアスナの所に行き、

アスナの手を握りながら何事か話し掛け始め、アスナは笑顔でそれに答えていた。

 

「しかし、お前達がかつてホームにしていたその塔は、どうやら特殊な拠点のようだな」

「ああ、多分、隠しホームなんだと思う。見つけたのは偶然だけどな」

「……もしかして、そういう場所が他にもあるのかもしれんな」

「ジンさん、俺達も探してみますか?」

「そうだな、それもいいかもしれん」

 

 ユージーンは、笑顔でカゲムネにそう答えた。

 

「しかしお前らは、本当に強いな」

「まあ、SAO時代のアドバンテージがあるからそう見えるんだろうな」

「多分それだけじゃないさ」

 

 ユージーンはそう言うと、眩しそうにハチマンの仲間達を眺めた。

 

「お前達をみていると、種族ごとにいがみあっていた昔の自分達が、馬鹿みたいに感じる」

「まあ、そういう仕様だったんだから、仕方ないだろ」

「それはそうなんだが、アインクラッドに来てから、まあちょっと、な」

 

 ユージーンは空を見上げながらそう言った。

 

「ここでは種族ごとの争いなんて、あまり意味が無いからな」

「この後もこうやって一緒に遊ぶ事もあれば、戦わなくてはいけない時もあるだろうさ、

これからも宜しくな、ユージーン、カゲムネ」

「ああ、今度は負けないぞ」

 

 ハチマンとユージーンは握手を交わし、カゲムネもそれに混じった。

二十一層の攻略は、尚も続く。


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