次の日二人は、競うようにハチを狩っていた。何故こうなったかというと、話は少し遡る。
「ハチマン君、トレンブル・ショートケーキって知ってる?」
「何だそれ?」
「アルゴさんのガイドブックに書いてあったんだよね。なんか、とても美味しいんだって」
「そうか。で、それがどうしたんだ?」
「私達は、これからハチ狩りをします。そこで提案があります」
「ああ」
「どっちが多く狩れるか、勝負しましょう。
私が勝ったらハチマン君が私にケーキを奢ってくれる。
ハチマン君が勝ったら、仕方ないから自分で払います」
「俺にメリットが何も無い気がするんですけどね……」
「男の子が細かい事を気にしないの!それじゃレッツゴー!」
「はいはい」
結果は、言うまでもなくアスナの圧勝だった。
甘いものがかかると、女の子は強さが増すようである。
「それじゃ、ハチマン君の奢りって事で」
「お、おう……」
店に着き、ハチマンはメニューを見て驚愕した。
「なんだこれ、高っけぇ……」
そして出てきたケーキを見て、さらに驚愕した。
「なんだこれ……ショートケーキ?ショートの意味わかってんのか?」
それはとても巨大なケーキだった。
切り分けられてはいるが、どう見てもそれは、食べきれる量だとは思えなかった。
「これはさすがに私一人じゃ食べきれないみたい。取り分けてあげるから待っててね」
「お、おう。それでも三分の二は自分で食べるんですね……」
そしてケーキを口にした二人は、顔をほころばせた。
「うめえ……」
「すごい美味し~い!」
「このまろやかなクリームの口当たり……」
「くどくないぎりぎりのラインを保ってる、しっかりとした甘さだね!」
「高いだけの価値はあったな」
二人は時々顔を見合わせ、ケーキを心ゆくまで味わった。
「そういえばハチマン君って、男の子のわりに甘いもの平気だよね」
「おう、俺は甘いもの好きだぞ」
「私も好き!」
「まあ、女の子で嫌いな奴はいなさそうだけどな」
「あ、ねえ見て!幸運の値があがってるよ?そうだ!今のうちに武器強化しない?」
「リズが食べないと効果が無い気もするが、そうだな、いいかもな」
「それじゃ善は急げだね!やろう!」
アスナがリズベットに連絡をし、そのまま二人はリズベットの元へと向かった。
まずはハチマンの短剣から強化を開始する事になった。
ハチマンは気付かなかったが、いざ強化を開始しようという時、
アスナはこっそりと、ちょこん、とハチマンの服の裾をつまんでいた。
(幸福のお裾わけ、かな。友達なんだからこれくらいはいいよね)
アスナは気付いてはいなかったが、それはリズベットにしっかり見られていた。
(おやぁ、これはこれは……初々しいですなあ。ハチマンは気付いていないみたいだけど)
リズベットは、絶対成功させようと気合を入れてハンマーを振った。
そして無事それは成功し、次はアスナのウィンドフルーレの番となった。
もちろん今回もアスナは、ハチマンの服の裾をちょこんとつまんでいた。
ハチマンは終始気付かないままであった。
その甲斐もあったのだろうか、今回も無事に成功した。
強化された剣を受け取り、アスナはそれをとても大切そうに撫でていた。
それを見ていたハチマンは、少し考えつつ、アスナに話しかけた。
「なあアスナ、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「その剣なんだけどな、その、すげー大切そうだから言いにくいんだが、
多分強さ的に、四層くらいまでしか使えないと思うんだよ。
で、だ。その時アスナはどうするのかと思ってな」
アスナは、自分がこの剣を手放す姿が想像できなくて、狼狽した。
「すまん。俺の言い方が悪かった。
新しい武器を手に入れる方法なんだが……敵から取るか、宝箱から取るか、そしてもう一つ」
「もう一つ?」
「その武器をインゴットに戻して、他の素材と共に、新しい武器を作る」
「インゴットに……」
「アスナがとても大切にしているその武器の魂を、新しい武器に受け継がせるって感じか。
もしアスナがそうしたいなら、その、俺も何でも手伝うわ」
「武器の魂を……うん、私それがいい!大変でもそれを目指したい!」
「そうか」
ぶっきらぼうに言いつつも、ハチマンの目はとても優しかった。
それを見てリズベットも、とても嬉しくなった。
「私もアスナのためにもっと頑張るよ!」
「ありがとうリズ!」
こうして、第二層到達から数えて六日目の夜はふけていった。
次の日は、エギルから聞いていたフィールドボス討伐の日だった。
二人は参加する気はなかったが、見学だけでもという話になり、現地へ向かう事となった。
途中タランの町に立ち寄った時、アスナがとある屋台を指差して、言った。
「ハチマン君、タラン饅頭だって。名物みたいなものなのかな?」
「聞いた事ないな……せっかくだし、買ってってボス戦見物中にでも食べてみるか」
「そうしよっか」
二人はタラン饅頭を購入し、戦場予定地へと向かった。
聞いていた通りエギルはいなかった。そこには三つの集団がいた。
「キバオウがいるな。あっちが解放隊ってやつだな」
「もう片方の中心にいる人が、リンドって人みたいだね」
「もう一つの集団は何だろうな。ソロとかの集まりか?」
「それにしちゃまとまってるよね」
「お、始まるみたいだな」
「それじゃ始めようか。俺はリンド。みんなよろしく。
こちらの人達は、急遽参加を希望してくれた、レジェンドオブブレイブスのメンバーだ」
リンドがそう紹介するのを聞いて、ハチマンとアスナは顔を見合わせた。
「おいアスナ、聞こえたか?」
「うん。あれが昨日聞いたレジェンドオブブレイブスの人達みたいだね……」
「とりあえず、見てみるか」
「うん」
その後戦闘が始まったが、慎重に、かつ安全第一で進められたようで、
若干時間はかかったが、フィールドボスはピンチというピンチもなく無く討伐された。
レジェンドオブブレイブスのメンバーは、
レベルこそ若干足りていないようではあったが、
要所要所できっちりと大事な働きをしていたようだった。
第一層の攻略では見かけなかった者ばかりだったので、
最近急速に力を伸ばしてきたのだろうと推測された。……おそらく装備の力で。
「やっぱりそういう事みたいだな」
「……そうだね」
討伐隊のメンバーは、そのままに町に戻るようだった。
ハチマンとアスナは、牛人タイプの敵であるトーラス族相手の経験を積むために、
そのまま迷宮区へと向かう事にした。
「そういや、饅頭買ったんだったな」
「あ、そうだね。歩きながら食べよっか」
そして二人は、タラン饅頭を口にした。
そして、なんとも言えない表情になった。
「おいアスナ、これって……」
「クリームに、イチゴみたいなのが入ってる……しかも温かいね……」
「知ってた上で食べるなら、まあ悪くはないと思うが……」
「うんわかるよ。私も肉まんみたいなのだと思ってたよ……」
「……行くか」
「………うん」
迷宮区に一番乗りし、トーラスと初遭遇したアスナだったが、その姿を見て絶句した。
「ハチマン君」
「ん、どうかしたか?」
「セクハラだよ!!!!」
「え、あ、お、おう……俺なんかしちまったか?」
「違うよ。あれだよあれ!あんなの牛じゃないよ!」
アスナはトーラスを指差した。
トーラスは、言われてみれば確かに、上半身裸で腰ミノだけの姿だった。
「あ、あー……これはもう、慣れてくれとしか言えないわ、すまん」
「うー………」
そんなこんなで狩りが開始された。
主な目的は、トーラス族の使う特殊技への対処の練習をするためである。
その技、ナミング・インパクトは、一度くらうとスタンしてしまい、
連続でくらうと麻痺してしまう範囲攻撃である。
「どうだアスナ、対処できそうか?」
「もう何回かでいけると思う」
「雑魚の使うやつとボスの使うのは、まあ範囲の広さが全然違うらしいんだが、
タイミングは一緒らしいからな。ここでしっかり掴んどこうぜ」
その後きっちりと対処できるようになった二人は、今日の収穫を確認する事にした。
第二層迷宮区はまだ誰も入った事が無かったためか、
箱の数も多く、収穫はなかなか豊富なものとなった。
その中にハチマンは、珍しい物がいくつか入っているのを見つけた。
「チャクラムか……」
「何それ?」
「わかりやすく言うと、丸いブーメランだな」
「へぇー。ハチマン君は使えるの?」
「いや、体術スキルに加えて投擲スキルも持ってないと駄目だったと思う。
投擲スキルって微妙だし、取ってる奴いないと思うから、
現状は誰もこれを装備して投げられる奴はいないんじゃないか?」
「なるほどね」
「後はこれか。マイティ・ストラップ・オブ・レザー。
マジック効果つきのストラップ系鎧だな。防御が高く、筋力にボーナスがつくな」
「いい性能みたいだけど、ストラップ系って?」
「あー、上半身が、帯を巻いた半裸姿になる……んだ……が」
そう言ってアスナを見たハチマンの顔が赤くそまり、それを見たアスナは、
「ハチマン君。今何を想像したの?」
「いえ……何も想像してないです……そ、そうだ。これ、エギルに似合うんじゃないか?」
「むぅ~。絶対ごまかしてる!エギルさんか、エギルさんね。サマにはなりそうだけどね」
ハチマンは、その話題が蒸し返されないうちに、そろそろ戻ろうと提案した。