一般社会では、車の運転は、自動運転かオートマが主流となっており、
マニュアル操作の車を動かせる者は、ほとんどいない設定となっております。
2018/02/18 句読点や細かい部分を修正
「冒険~?」
「ああ」
「要するにモブ狩りでしょ?確かにレベルを上げるには最適だと思うけど」
ピトフーイの平凡な感想に、シャナは黙って首を振った。
「冒険って言ったら、未知の探求に決まってるだろ。モブ狩りはそのついでだ」
「んん~?良く分からないんだけど」
「お前よくそんなんで、魂を焦がすような云々って言えたもんだな」
「うぐっ」
ピトフーイは、シャナの矛先が先日の自分の失態に向いた為か、ぎゃふんという顔をした。
「この続きは、とりあえず誰もいない街の郊外で話そう」
シャナのその提案により、四人は場所を移動し、街から外へ出た。
そこでシャナは、ピトフーイにいきなり質問を始めた。
「ところでお前さ、GGOを何だと思ってるんだ?」
「えっと、ストレス発散の道具?」
「どうやって発散するんだ?」
「気に入らない奴を、圧倒的な力で片っ端からぶっ殺す!」
「その為にお前、メジャーな効率重視の狩場へ行って、モブ狩りをしてレベルを上げたよな?
で、成長した後は、主に対人戦ばっかりやってきたんだろ?
ついでにお前、ゲーム内コインをリアルマネーで買ってるだろ」
「あ、うん……その……やっぱりコインを買うのは、シャナ的に駄目だった?」
ピトフーイは、その事をシャナに責められているのかと思い、
少しうな垂れた調子で、上目遣いでシャナの様子を伺った。
「別に駄目じゃない。現実で金銭に余裕がある奴が、
手っ取り早くゲームを楽しむ為にリアルマネーをつぎ込む事は、
ゲーム内の経済を上手く回すためにも必要な事だ」
「で、でしょ?」
「お前の職業柄、プレイがとことん効率重視になるのも頷ける。
モブ狩りプレイヤーも、それを狩る奴らも、基本メジャーな狩場に行くから、
お前も基本、街とそことの往復ばかりしていたんだろ?」
「うん、大体そんな感じ」
そしてシャナはピトフーイをじっと見つめると、冷たい目でこう宣言した。
「断言しよう、お前はこのゲームを一%も遊べていない。
ほんの一部の要素だけを触ってみて、遊んだ気になっているだけだ。
好き勝手な事をしてストレス解消をしたつもりでも、実はそんな気分になっているだけで、
実際にはほとんどストレスは解消出来ていない。だからすぐにストレスがたまり、
再び好き勝手なプレイに走る事になる、お前はそんな悪循環を繰り返しているだけだ」
ピトフーイは、そのきつい言葉にカッとなったのか、シャナに向かって叫んだ。
「じ、じゃあ、シャナなら私のこのどうしようもないストレスを、綺麗に消してくれるの?」
「そんなのは俺にも無理だ。だがお前の望みを少しだけ叶えてやる事は出来る」
「どうやって?」
「お前、茅場晶彦の事は当然知ってるよな?」
シャナがいきなりそう話題を変えた。ピトフーイは戸惑いながらも頷いた。
「SAOを作った人」
「その茅場が、死ぬ直前に何をしたか知っているか?」
「確か、自分で脳を焼き切って自殺したとか何とか……」
「報道だとそうだな。だが、それは少し違う」
ピトフーイはそのシャナの言葉で、シャナが自分に、
自分が求めていると言った真実の一部を話してくれようとしている事に気が付いた。
何と言っても実際にSAOをクリアした人物なのだ。その言葉が作り話であるはずがない。
ピトフーイは一言も聞き逃すまいと、シャナの言葉に黙って耳を傾けた。
「茅場は死ぬ間際に、自分の脳を大出力でスキャンした。
だから茅場の精神は、多分今もネットの中のどこかで生き続けている」
「えっ……嘘……」
作り話であるはずがないと思いながらも、ピトフーイはそう言わずにはいられなかった。
だがピトフーイが本当に衝撃を受けたのは、次の言葉だった。
「そして俺は、その茅場の残った精神から、『ザ・シード』を受け取った。
それを俺は、仲間の力を借りて拡散した。そして生まれたのが、新生ALOや、このGGOだ。
『ザ・シード』については、説明の必要は無いよな?」
「嘘……」
ピトフーイは、そのすさまじい内容に絶句し、そう繰り返す事しか出来なかった。
と言う事はつまり、シャナの言いたい事はもしかして……
「そ、それじゃあGGOって」
「そう、少し飛躍した言い方をすれば、SAOの亜種と言えなくもない。
なのでお前は、SAOをプレイしたいという望みを、斜め上な方法で既に叶えている」
「で、でも、ゲーム性が全然違うし……」
「何故そう決め付ける」
シャナは真面目な顔でそう言った。
「このゲームの設定をよく思い出してみろ。この世界は、最終戦争が起こった後に、
宇宙に脱出した俺達がこの星に戻ってきて、戦っているみたいな設定だろ?
本来銃は、設定のメインじゃないんだよ。つまりだ」
「うん」
「この世界はな、お前が考えているよりも、ずっとずっと広いんだよ。
お前が見たのは、世界全体のほんの一部にしか過ぎない、だからこその冒険だ。
それはSAOで未知の世界を冒険する事と、まったく変わらない。
お前の知らない物も沢山ある。ピト、俺達と一緒に、この広い世界を一緒に冒険しよう」
そう言いながら、シャナはピトフーイに手を差し出した。
ピトフーイは顔を紅潮させながら、その手をしっかりと掴んだ。
「事情は分からないけど、話が纏まったみたいだね」
「おっと、すまん二人とも。軽く説明だけしておくわ」
「あ、シャナ、自分でするから」
「そうか?じゃあ任せた」
ピトフーイはそう言うと、かつて自分がSAOをプレイしようとして、
果たせなかった経緯を二人に説明した。
「そっか、それじゃあピトは、もしかしたら攻略組の、
二人目の女性プレイヤーになってたかもしれないんだね」
「攻略組?」
「お前の言う、三十人のトッププレイヤーの呼び方だ」
「へぇ、攻略組って呼ばれてたんだ」
ピトフーイは、SAOの話が色々聞けるのが嬉しいようで、弾んだ声でそう言った。
「まあ、いくつかのギルドの集まりなんだけどね。血盟騎士団とか、聖龍連合とかね」
「三人は、どこかのギルドに入ってたの?」
「最終的には血盟騎士団だな。俺が参謀で、シズカが副団長だ。
リーダーは神聖剣で、黒の剣士は最後まで無所属だった。
ちなみにケイは、SAOはやっていない」
「あ、そうなんだ。シャナとシズカが無事で、本当に良かったね、ケイ」
「うん、ありがとう、ピト!」
ピトフーイは、意外にもそんな気を遣う発言をし、ケイは素直にピトにお礼を言った。
そんな一連の会話に対し、シズカが当然の疑問を投げかけた。
「ところでシャナ、色々話しちゃってるけど、いいの?」
シャナがそうしているのだから平気なのだろうと思いつつ、
シズカは一応シャナにそう確認した。シャナは頷くと、ピトフーイの方を見ながら言った。
「こいつは俺には逆らえない事になってるからな、絶対に大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ、リアルできっちり弱みを握ってあるからな」
「うん、握られてるから信用してね!」
「そっか、ロザリアさんのポジションか……」
そのやり取りを聞いたシズカは、そう呟いた。さすがに理解が早い。
かつては純真だった明日奈も、段々八幡を取り巻く雰囲気に染まってきているようだ。
「それじゃあ出発するとするか。車の用意をしてくるから、三人は少し待っててくれ」
「え、車があるの?」
「ああ、今時マニュアル車の運転免許なんて、持ってる奴の方が少ないから、
そもそも動かせる奴もほとんどいないんだが、街でレンタル出来るぞ。
まあそうは言っても、実は俺もこの前限定解除するまでオートマしか乗れなかったけどな。
ちなみに今から用意する車は俺の持ち物だ。
さすがに歩いて回るには、この世界は広すぎるからな」
そう言うとシャナは一人で街へと戻っていき、その場には女性三人が残された。
三人は意気投合したのか、楽しく会話を続けていたのだが、
偶然そこに、とある一人の女性プレイヤーが通りかかった。
モブ相手に狙撃の練習をしようとしていたシノンである。
シノンは三人を見て少し警戒するそぶりを見せた。
特にピトフーイの事を噂で聞いていたのか、あからさまにピトフーイを警戒していた。
しかし三人は、ちらっとこちらを見ただけで、
シノンに攻撃をしようとするそぶりを一切見せず、
本当に楽しそうに会話を続けていた為、シノンは逆に気になり、
しばらく立ち止まってその三人を眺めていた。
よく観察すると、その三人全てが女性プレイヤーな事に、シノンは驚いた。
シノンの知り合いには、互助会のメンバー以外の女性プレイヤーは一人もいないからだ。
ちなみにそんなシノンが、唯一野良の女性プレイヤーとして知っていたのがピトフーイだった。
そこに街の方から大きな車が走ってきた。シャナの駆るハンヴィーである。
「え、あれって、街のレンタル屋に並んでる車じゃない」
シノンは、いきなりの大型ジープの登場に少し驚いた。
実際にこの車が走っている所なぞ、一度も見た事が無いからだった。
シノンは運転しているのが誰なのか気になり、尚も観察を続けたのだが、
車の運転席から姿を現したのがシャナだった為、シノンは驚愕した。
そんなシノンに気付いたのか、シャナはシノンをじっと見つめた。
だが、シノンが狩りに行く途中だと思ったのか、シャナは軽く手を振っただけで、
特にシノンに話し掛けようとはしなかった。
「あれってシャナじゃない。しかも女性プレイヤーを三人も連れてるって……
しかも一人はあのピトフーイだし……」
シノンはどういう事情なのか知りたいと思ったが、声を掛ける勇気は出なかった。
逆にシノンが、ずっとこっちを見つめている事が気になったシズカが、
シャナと何か話したかと思うと、いきなりシノンの方へと向けて歩き出した為、
シノンはその場を去る事も出来ず、ただ近付いてくるシズカを見つめていた。
「こんにちは!」
「あ、こ、こんにちは」
「えっと、シノンさん、だよね?先日シャナに、間違って狙撃された。
私はシズカ、今日キャラを作ったばかりの新人だよ」
「そうなんだ、私はシノン、宜しくね、シズカ」
「うん、宜しくね!でね、えっと、これから私達、あの車で遠征に出るんだけど、
もし迷惑じゃ無かったら、貴方も一緒に行かない?」
そのシズカの意外な申し出に、シノンは興味を引かれたのか、咄嗟に頷いた。
「えっと、うん、私なんかで良ければ……」
「やった、それじゃこっちだよ、シノン!今仲間を紹介するね」
こうしてシノンを加え、五人になった一行は、世界の果てへと向け、冒険を開始した。
こうして作者も、斜め上の展開へと走り出すのです(汗