急に文章がおかしくなったら、そこはまだいじっていない所です、すみません。
八幡のキャラですが、そういった事情で、現在(200話)のキャラ付けに、
どうしても引きずられている部分があるので、原作との乖離が大きくなっている箇所が多いです、ご容赦下さい。
キリトとアスナのカップル以外はありえないという方と、ずっと原作通りの性格でまったく変化しない八幡が見たいという方はこのまま引き返す事をお勧めします。
第001話 プロローグ~職場見学にて
その日、比企谷八幡は、ついに待ち望んでいた日を迎える事となった。
今日は二○二二年十二月二十五日。ついに世界初のVRMMORPGである、
『ソードアート・オンライン(通称SAO)』の正式サービスがスタートする日だ。
クリスマスイベントの達成感がまだ残っていた八幡は、
ベッドの上でその瞬間を今か今かと待ち構えていた。
何故ゲーマーでもない八幡が、VRMMO等という、
まさに八幡の天敵のようなコンテンツをこんなに待ち望んでいるのかというと、
ここで時は職場見学まで遡る。比企谷八幡はそこで、
天才茅場晶彦と、ソードアート・オンラインに出会ってしまった。
世界初の完全なるVR機能を実現させたゲーム機『ナーヴギア』が発売されてから、
既にいくつかのタイトルが発売されていたが、
その革新的な仕様ゆえ、ハードの性能をきちんと引き出せているゲームはまだ皆無だった。
偶然か必然か、葉山隼人が職場見学に選んだのは、
今度新しく、ナーヴギアで発売されるゲーム、
ソードアート・オンラインの開発会社『アーガス』だった。
実際に画面を見て、八幡は、中二病が再発しそうになるのを必死に堪えていた。
(ゲームもついにここまできたか……昔から予想はされてたけど、なんだよこれ。
もう言葉も出ないわ……いつも通り戸部は、べーべー煩いし、
三浦と由比ヶ浜も、驚きのあまり、声も出ないようだな。
海老名さんは、何かに腐レーダーが反応したのか、鼻血を出して休んでいたようだ。
本当あの人ブレねーよな……こういう時に場を整える葉山ですら、画面に見入っているようだな)
もちろん八幡も、ひたすら画面を見つめている事しか出来なかった。
その後何人かが実際にプレイを体験出来る事となったが、
当然プロのぼっちである八幡が志願できるはずもなく、
指を咥えて見ているしか出来なかったわけなのだが。
「どうだい、ソードアート・オンラインは」
不意打ちのようにそう声をかけられた八幡は、反射的にこう答えていた。
「なんていうか遊びじゃないんだ、これこそゲームなんだって感じっすね、
自分でもおかしな言い方だと思うんすけど。
人の手で創り出された世界だけど確かにここに存在するっていうか、その、本物っていうか……
俺が手に入れたくても手に入れられない本物が、ここにはあるんですかね」
背後から息を呑む気配がした。
八幡は、自分は今、誰と話していたのだろうと我に返り、慌てて振り向いた。
驚いたような、それでいてどこか嬉しそうな表情をした白衣の男がそこにいて、
興味深そうにこちらをじっと見ていた。
その顔は、雑誌等でよく見る、あまりにも有名な顔だった。
(茅場晶彦。天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。
この人みたいな人は本物ってものを手に入れているのだろうか。
というか、本物などという、今まで考えた事もない言葉を、何故俺は使ったのだろう)
それがとても輝いている物のように感じられて、
ちっぽけな自分の悩みとあいまって、八幡は少し居心地の悪さをおぼえた。
「そうか、本物か……君はそう思ってくれるのか」
「す、すみません、つい感じた事が…その……思わず口に出たというか……
なんで本物なんて言葉が口をついて出たのか、自分でも不思議なんです」
「確かに不思議だね。だが謝る必要はまったく無いよ。むしろ私は嬉しかった」
そして茅場は、はにかんだ顔で、こう続けた。
「君はプレイ体験に志願しなかったのかい?このソードアート・オンラインは、
君みたいな人にこそ是非体験してみて欲しいゲームなのだけどね」
「す、すみません、興味がないとかそういうのじゃなくて……その、アレがアレなんで……」
咄嗟にいつもの調子で言い訳をしてしまった八幡は、自分が少しみっとないと感じた。
(さすがに知らない人と流暢に話すのは、俺にはまだ無理だよな)
茅場は、八幡の返事を聞いて少し考えたようなそぶりを見せたかと思うと、
おもむろに名刺を取り出し、八幡に差し出してきた。
「もし君さえ良かったらだが、夏休みにβテスト直前の調整のバイトをやってみないか?
この名刺にある会社の番号に連絡をくれれば、採用するように手配しておこう」
「あ、ありがとうござい…ます。でも何で俺になんか…」
「君から何かを感じたから、どんな形であれ、体験してみて欲しいんだ。
βテスターは、学校の関係で無理だろうからね」
プロのぼっちを自称する八幡だったが、
さすがにその場でおかしな事を言うわけにもいかず、少し考えてからこう答えた。
「もし機会があれば前向きに検討し、善処します」
八幡は、精一杯まじめに答えたつもりだったが、言葉遣いは明らかに変だった。
だがその返事を聞いて、茅場はとても嬉しそうにこう言った。
「ははは、やっぱり君は面白いな。あまり気がのらないようだが、期待せずに待っているよ。
それではこの後も、SAOの世界を楽しんでくれたまえ」
そして茅場は、何かに気付いたのか、うっかりしたという顔で、八幡に再び質問をした。
「そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね」
「あ、はい、比企谷八幡です。職場見学に来ました、総武高校の二年生です」
「比企谷君か。総武高校……もしかして、雪ノ下陽乃という人を知っているかい?」
八幡は突然雪ノ下の名前が出てきた事に驚いたが、陽乃、という名前には聞き覚えが無い。
(陽乃……雪乃……似ているが……)
「雪ノ下雪乃、という知り合いならいます。同級生で、うちの部の部長をやってます」
「そうか……私もその名前には聞き覚えがないが、ご家族の方かもしれないね。
いや、つまらない事を聞いて悪かったね」
「良かったら今度、確認しておきましょうか?」
「いや、それには及ばないよ比企谷君。
総武高校と聞いて、なんとなく聞いてみただけだからね。
それじゃ、まだ仕事が残ってるんでお先に失礼するよ。今日は君と出会えて、
とても有意義だった。またな、比企谷八幡君」
そういい残し茅場は去っていった。
「またな、か……」
八幡はしばらくその場から動く事が出来ず、今の出来事について考えていた。
(あの茅場晶彦と直接会話出来るとは、あまつさえバイトに誘われちゃうなんてな……
とりあえず今度、材木座に自慢しよう。
そして雪ノ下……雪ノ下なんて苗字、そうそうあるわけないしな……ま、いいか)
八幡は気持ちを切り替える事にした。
(考えるのは後でいい。それよりも今は……)
「ヒッキー?何かあった?」
「いや、何もねえよ由比ヶ浜、ただこのゲームを開発してる人とちょっと話をしただけだ」
「そうなんだ~、これ、ほんと超すごいよね。もう何もかもびっくりだし!」
「ああ、そうだな……本当にすごいな……」
(この創られた世界に比べて、俺の悩みは何と小さいのだろうか。
そもそもこれは悩みと呼べるのだろうか)
そんな事を考えつつ、八幡はその時がくるタイミングを計っていた。
(これでいいのかはわからない。だが、このままでいいはずはないのだ。
由比ヶ浜のような、とても優しいトップカーストの人間が、
俺なんかと一緒にいていいはずなどないのだから)
そしてこの直後、比企谷八幡は、由比ヶ浜結衣との関係をリセットした。
本当にこれで良かったのかどうか。
答えもわからないまま、何かから逃げるように、八幡はバイトの申し込みをした。
結果的にその直後に八幡と由比ヶ浜との関係は改善されたのだが、
その過程で、八幡は雪ノ下陽乃と出会った。
(この人と茅場さん、どっちが上なんだろうか。
まあ、さすがに茅場さんの方がすごいんだろうとは思うが、
比較対象になりうる時点でとんでもない才能である事は確かだな。
とりあえず俺は、出来るだけ陽乃さんに会わないように努力をする事にしよう。
なんか怖いんだよな、あの人……)
ちなみに茅場の事は、陽乃が怖くて聞けていない。
そのせいか、うっかりバイトの事が陽乃にバレた時は、根堀り葉掘り色々と聞かれた。
(同じ理系のはずだし、目標とする人であるのかもしれないが、しかしやっぱりなぁ……)
そう思った八幡は、せっかくの機会だからと、
茅場との関係を、陽乃に思い切って聞いてみたのだが、結局何も答えてはもらえなかった。
ただその時の陽乃の瞳は、本当に怖かったようだ。
(もうあの人に関わるのは、極力避けよう……何か気に入られている気もするが、気のせいだ)
こうして人生で一番忙しい夏休みを八幡は過ごしていたのだが、
その過程で、八幡は茅場を、晶彦さんと呼ぶようになっていた。
ちなみに雪ノ下陽乃には、秋以降陽乃呼びを強制されている。八幡には拒否権は無いようだ。
(晶彦さんは本当に尊敬できる人だと思う。何より怖くないのがいい。
何より晶彦さん自身もかなりの隠れぼっちなのだから。親近感もわくよな。
しかし今年の夏は、人生で一番ハードな夏休みだった気がするな。
過密なスケジュールの中、突然ぶっこまれた千葉村での活動あたりでは、
本当に死ぬかと思った。やっぱり働きたくないでござる、がベストだ)
そして月日は過ぎ、夏休みが終わって、茅場も最後の追い込みなのだろう、
忙しそうにしているせいか、八幡ともやや疎遠になっていた。
八幡は八幡で文化祭、体育祭、クリスマスイベントと順調にイベントをこなしていた。
その過程で八幡は、本物を手に入れられるかもしれないという期待を持ってしまった自分に、
まだ気づいてはいなかったが、確実に変化は現れていた。
そして八幡は、結局ナーヴギアとSAOを、バイト代で購入した。
(忙しい日々だったが、そう悪くはなかったと、今なら言える気がしないでもない。
これも変化と言えるのかもしれない。ソードアート・オンラインの中で、
一体俺は、どんな経験をするのだろうか。ちょっとは期待しちゃってる俺発見っと)
最後に八幡の名誉のために1つだけ書いておこう。
彼自身は、あくまで日々の息抜きのために、たまにやってみるだけのつもりなのである。
ぼっちにはやはりMMOは鬼門である事に変わりはないのだから。