ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第201話 全ては勘の賜物

「……という訳で、一応調査を頼みたい」

「ふむ」

 

 八幡はGGOからログアウトすると、まずアルゴに連絡をとった。

 

「要するに、二人の人間の身辺調査をして欲しいんだナ?」

 

 アルゴにそう言われ、八幡は微妙な声で返事をした。

 

「本人達についてはまあ……特に問題が無いと思ってる。問題なのは、その交友関係だな」

「交友関係だけでいいのか?どういう事ダ?」

「エルザに関して言えば、芸能界は伏魔殿だからな。

おかしな奴が周りにいて、巡り巡ってこっちに何か害が及ぶようだと困るって感じだな。

シノンについてはそんな事は無いと思うが、まあ一応な。

シノンみたいな境遇だと、おかしな宗教団体とかが声を掛けてきてもおかしくないしな」

「五、六年前に、銀行強盗を間違って射殺してしまった少女ねぇ……

まあ調べるのは簡単だろうな。神崎エルザに関しては言うまでも無いナ」

「有名人だからな」

「それにしても、なぁハー坊」

 

 アルゴは呆れた声で八幡に言った。

 

「ん?」

「何でいきなり芸能人の知り合いが出来てるんだ?しかもあの神崎エルザ?

神崎エルザは、今一番注目されてるシンガーじゃないか。ちょっと信じられないゾ」

「会う事になったのは成り行きだ。正体を明かすつもりも探るつもりも無かったんだが、

そこであいつ、とんでもない行動に出やがったからな」

「とんでもない行動?」

 

 八幡は、思い出すのも疲れるといった感じで、深いため息を一つついた。

 

「いきなり免許証のコピーを渡してきやがったんだよあいつ」

「はあ?何だそれ?頭がいかれてんのカ?」

「まあ普通そう思うよな……」

 

 アルゴのその言葉に、八幡は深く同意した。

 

「まあ関わっちまったもんは仕方が無いし、今のところ俺には絶対服従……

って事はまったく無いが、俺の不利益になる事は絶対しないから、まあ問題ない」

「絶対服従……鬼畜かハー坊。アーちゃんにチクるゾ」

「明日奈も既に、事情は知ってる」

「そうなのカ」

「まあそんな訳で、調査の方、宜しく頼むわ。さすがに受け取った免許証の情報を、

お前に伝えるわけにはいかないから、そこはすまないが」

「いいっていいって、事務所の周辺を調べるだけだからナ」

「すまん、恩にきる」

「今度何か甘い物でも奢ってくれればいいゾ」

「了解だ」

 

 アルゴとの会話を終えた八幡は、次に薔薇に電話をした。

八幡はもしかしたら、薔薇もGGOにログインしているかもしれないなと思ったが、

どうやら違ったようで、薔薇は直ぐに電話に出た。

 

「もしもし」

「おう、どうだ、GGOにコンバート出来たか?」

「ええ、問題無いわ。少し街も歩いてみたけど、ナンパがすごくて困ったわ。

私なんかに声を掛けるなんて、あそこって本当に女性プレイヤーが少ないのね」

 

 私なんかと言いつつも少し自慢げなその薔薇の言葉に、八幡は平然とした声でこう答えた。

 

「あそこだと、性別だけが大事で、中身は全く問題にされないからな」

 

 その言葉の意味を直ぐに理解した薔薇は、八幡に抗議をした。

 

「失礼ね!私だって、まだ十分いい女でしょうが!」

「ああ、お前はいい女だと思うぞ」

「えっ?本当に?」

 

 薔薇はいきなり八幡にそう言われ、少し弾んだ声でそう聞き返した。

八幡は、とても優しい声でそれに答えた。

 

「ああ、本当だ。俺の基準だと、いい女ってのは絶対に俺と敵対しないか、

あるいは俺の役に立つ女の事だからな」

「……そうね、ええ、分かってたわよ。わざわざ聞き返した私が馬鹿なのよね」

「いい加減俺の事を分かれ」

「分かってるわよ」

 

(本当は、こんな私にも、すごく優しいって事とか、ね)

 

 薔薇がその言葉を口に出さず、こっそり呟いたりもしなかったのは、

多分どんな小声でも八幡は聞き取ってしまうだろうと、そう考えたからであった。

この辺りは確かに八幡の事をよく理解している部分であろう。

 

「で、本題なんだが、今ちょっと時間とれるか?」

「大丈夫よ」

「それじゃあGGOの中で、資金提供を済ませてしまいたいんだが」

「ええ、分かったわ。どこで待ち合わせする?」

「そうだな、初めてログインした場所でいいんじゃないか?」

「了解、すぐに行くわ」

「おう、それじゃあ後でな」

「ええ」

 

 八幡は電話を切ると、早速GGOへと再ログインした。

そしてシャナは待ち合わせの場所へ向かおうと歩き出したが、即座にクルリと向きを変えた。

向かう先にピトフーイの姿を発見した為だった。隣には、エムの姿も見える。

ピトフーイはエムと何か会話を交わしているようだった。

一瞬ピトフーイの目がチラリとこちらを見たような気がし、シャナは反射的に身構えた。

ところがこちらには気が付かなかったのか、特に何かしてくるという事も無かったので、

シャナは安心し、そのまま目的地へと向かおうとして、

少し回り道にはなるが、ピトフーイに背を向けたまま反対方向へと歩き出した。

そして次の角を曲がった時、今度は前方に、最近見慣れる事になった水色の髪の少女が、

友人らしきプレイヤーと何か会話を交わしているのが見えた。

 

「今度はシノンかよ……ったく、二人ともさっさと寝ろってんだよ」

 

 同じように起きているシャナにそんな事を言う資格が無いのは言うまでも無いが、

結果的にシャナは二人に挟まれる格好になり、どうしたものかと頭を悩ませたが、

フードを被っている事もあり、とりあえず道路を渡り、反対側の歩道を歩く事にした。

ちなみに何故ピトフーイの時に同じ事をしなかったのかというと、

ピトフーイの場合は、例えフードで顔を隠していても、

鋭い勘でこちらの存在を見破り、すぐに駆け寄ってくるような気がしていたからだった。

ちなみにその考えは、困った事に大正解であった。

ピトフーイは先ほどの一瞬で、当たり前のようにシャナの事に気が付いており、

今はエムに買い物を指示し、シャナの事を尾行している真っ最中だった。

いつもはその尾行に気付くシャナがその事に気が付かなかったのは、

シノン達の横を通った時に、その方角から聞こえてきた会話に気をとられたからだった。

シャナはシノン達からピトフーイという名前が聞こえてきた為、

そのまま横道に入り、二人の会話に耳を傾けていた。

 

「だから、新しく出来た友達と狩りに行ってきただけだって言ってるでしょ」

「でも、あのピトフーイと一緒だったのを見たって人がいたから、心配でさ……」

「それなら大丈夫、思ったより悪くない奴だったわ。もっとも条件付きだけどね」

「条件?それじゃあその条件以外の時は、やっぱり危ないんじゃ……」

「その条件以外であいつとつるむ事は無いから、本当に大丈夫だってば。

明日も学校だし、私も眠いからそろそろ落ちたいんだけど」

「あ、ごめん……そうだよね」

「……ごめん、心配してくれているのに、私も少し言いすぎたかも。

とにかく大丈夫だから安心してね。それじゃ、また明日ね」

「うん、また明日」

 

 そしてシノンはログアウトし、その場には、その少年だけが残された。

 

「上手く誤魔化してくれたか。痴話喧嘩みたいだったが、まあ特に問題は無さそうだな」

「それはどうかなぁ?」

「うわっ」

 

 いつの間に忍び寄ったのか、シャナの背中にいきなり誰かがおぶさってきた。

シャナはその声を聞き、それが誰なのか即座に理解した。

 

「お前な……エムはどうしたんだよ」

「ん~?買い物を頼むって口実で追い払った」

「あの一瞬で、俺に気付いたのか?」

「うん、私の子宮にビビッときたからね」

「この変態め……」

 

 シャナはそのピトフーイの変態的な勘に脱帽し、ため息をついた。

 

「それよりさ、あいつの事なんだけど」

 

 ピトフーイはシャナにおぶさったまま、

まだその場に残っていた、シノンの友達らしき少年を指差しながら言った。

 

「そういえばさっき何か言ってたな。あいつがどうかしたのか?」

「あいつの名前は確かシュピーゲル、何度か殺したから、名前だけは覚えてるんだけど」

「嫌な覚え方だな」

 

 シャナにそう言われながらも、ピトフーイは気にせず会話を続けた。

 

「シノノンとつるんでるのは知らなかったけど、大して強い奴じゃないから、

別に興味を持ってた訳じゃないんだけどさ、あいつ、多分エムと同じかも」

「はぁ?どういう事だ?シノンの下僕とでも言いたいのか?」

 

 ピトフーイはそのシャナの軽口にも動じず、真面目な顔でシャナに言った。

 

「そっちじゃない、ストーカーの方」

「あ?」

「目付きがね、私をストークしてた時のエムにそっくり」

「ゲーム内でそこまで分かるもんなのか?」

「まあ、勘と言えば勘かな」

「お前の勘か……」

 

 シャナは、ピトフーイの変態的な勘の鋭さを思い知らされたばっかりだったので、

もしかしたらそれは本当なのかもしれないと感じた。

 

「私はほら、こんな性格だからさ、エムとの関係もそれなりに落ち着いてるけど、

シノノンは一般人な訳じゃない。もしかしたらいずれ、ひと悶着あるかもよ?」

 

 それを聞いたシャナは意外に思い、ピトフーイに質問した。

 

「お前もしかして、シノンの事を心配してるのか?」

「うん」

「はぁ、何かお前、噂とは全然違うんだな」

「ううん、シャナの知り合い限定だよ。私は本当に噂通りの奴だよ」

「そうか」

 

 シャナはそれを聞き、ピトフーイは変人だが、悪人じゃないんだよなと改めて実感した。

そして二人の目の前でシュピーゲルもログアウトし、二人はそれを見て横道を出た。

 

「お前の意見は本当に参考になったわ。ありがとな、ピト」

「シャナに褒められた!やった!」

「調子に乗るな」

 

 シャナは、背中におぶさっていたピトフーイを下に下ろすと、

ピトフーイの頬をつねって、左右に引っ張った。

 

「ヒャナ、いひゃい」

「気にするな、愛の鞭だ」

「ひょれならいい!」

 

 それを聞いたシャナは、慌ててピトフーイの頬から手を離した。

ピトフーイは解放された後、してやったりという風にニヤニヤしていた。

 

「いい加減にしろ、変態。はぁ……おいピト、エムはまだ来ないのか?」

「ん~?わざわざ遠くの店を指定しておいたから、しばらく戻らないんじゃないかな」

「それじゃあ少し付き合え。これからロザリアと合流するから、顔を繋いでおけ」

「アイアイサー!」

 

 嬉しそうにそう答えるピトフーイを見て、シャナは決して悪い気はしなかった。

ピトフーイが、良くも悪くもとても真っ直ぐだと感じたからだ。

 

「それじゃ行くか」

「うん!」

 

 そして目的地へと近付き、最初に二人の目に飛び込んできたのは、

大人しそうな女性プレイヤーと、それに話し掛ける、どこかで見たプレイヤーの姿だった。




ちなみに最後に出てきたのは、エムではありません念の為!
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