ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第202話 さんを付けろよデコ助野郎

「友達と待ち合わせの最中なんですよ、本当にごめんなさい」

「少しくらいいいじゃんよ~、どうせ大した奴じゃないんだろ?あんたの相手はさ」

「い、いえ、そこそこ強いんじゃないかと……」

「そこそこねぇ。そんな平凡な奴はほっとけって。

俺はあのBoBの決勝にも出たくらいの超有名人だぜ?

俺より強い奴なんか、このゲーム内には数えるほどしかいないって。

きっとあんたの友達も、俺が相手ならって、喜んで身を引くに違いないぜ?」

「あの……本当に無理です、ごめんなさい……」

 

 ピトフーイは、そんな会話を交わしている二人を指差しながら、シャナに話し掛けた。

 

「ねぇシャナ、何かもめてるみたいだけど、まさかあれがロザリアちゃんじゃないよね?

何か話し方も全然違うんだけど、他にそれっぽい人は、この辺りにはいないよね」

「どうだかな、俺もまだロザリアの外見は知らないんだよな」

 

 その言い寄られている女性プレイヤーは、つややかなストレートの長髪と、

少したれ目の優しげな目をした、とてもお淑やかそうに見える女性だった。

更に付け加えると、とても大きな胸をしていた。

 

「確かに胸は一致するが、他がまったく違うな、正直何とも言えん」

 

 その女性を観察し、そう言った瞬間、ピトフーイから殺気が迸った為、シャナは慌てた。

 

「おい、いきなり何だよ」

「あの女……胸でシャナの気を引くなんて絶対に許せない。

私には出来ないのに……ちくしょう、絶対にここで殺す」

 

 そのピトフーイの形相を見たシャナは、慌ててピトフーイを止めに入った。

 

「待て待て待て、相手を間違えるな。それに俺は女性を胸の大きさで区別したりはしない」

「……本当に?」

「ああ、シズだって普通だぞ、本当だ。だから落ち着け」

「分かった!ごめんねびっくりさせて!」

「お、おう……」

 

 ピトフーイは機嫌を直したのか、明るい声で言った。

 

(こいつは本当に、ころころ気分が変わるよな。

何がこいつを刺激するのか、これから少しずつ見極めていかないとな……)

 

 シャナはそんな、まるでピトフーイの保護者になったかのような事を考えながら、

これからどうしようかと考えた。女性を助けるのは間違いないとして、

もし人違いだった時の事を考えると、シャナとしてはあまり矢面に立ちたくはなかった。

 

(もうこれ以上、知らない女と知り合いになるのは勘弁だからな……)

 

 そのシャナの考えを敏感に察知したのか、率先してピトフーイが前に出た。

 

「シャナ、それじゃあ私があの子を助けてくるね」

「すまん、頼めるか?」

「うん!それに、同じ女の子同士の方が、角も立たないだろうしね!」

「それじゃあ宜しく頼むわ」

「任せて!」

 

 ピトフーイはそう言うと、その二人の方へと近付いていき、ストレートに声を掛けた。

 

「もしかして、ロザリアちゃん?」

「えっ……はい、そうです。え~っとあなたは……」

 

 ロザリアがそう聞き返すのを遮り、男が、ロザリアとピトフーイの間に割って入った。

 

「あ?何だてめえは。今この子とは、このゼクシード様が話している最中……

って、お、お前、ピトフーイか!」

 

 いきなりそう名前で呼ばれたピトフーイは、

自分の名前を知っていたその男の顔を、じっと見つめながら言った。

 

「あんた誰?何で私の事知ってるの?って、ゼクシード?どこかで聞いたような……」

「お前みたいな悪評高い奴、知ってるに決まってるだろ……

もっとも俺はお前にやられた事は一度も無いけどな!」

「うん、確かに私も、あんたみたいな奴を殺した記憶は無いね。

でもどこかで見た事ある顔なんだよなぁ……う~ん」

 

 ピトフーイは腕を組みながら首を傾げた。そんなピトフーイに、ゼクシードは言った。

 

「当たり前だ、俺はあのBoBの決勝に出たほどの男だからな!」

「あ!」

 

 ピトフーイはそれで思い出したのか、再びゼクシードの顔をじっと見つめると、

直後に我慢出来ないという風にプッと噴き出し、そのまま大笑いを始めた。

 

「そうだそうだ、あはははは!漁夫の利を得ようとして、

シャナに一瞬でやられた糞雑魚が、確かそんな名前だった!」

「く、糞雑魚だと!?」

「あははははは、そうそう、確かこの顔。

動画は何度も見たはずなのに、まったく印象に残って無かったわ、本当にごめんねぇ?」

「うるせえ!お前こそ、卑怯なだけのただの雑魚じゃないかよ、ピトフーイ!」

「あら、卑怯なだけかどうか、試してみてもいいのよ?坊や」

 

 突然ピトフーイが、妖艶な仕草でそんな事を言い、

ゼクシードはその迫力に押されたのか、押し黙った。

そんなゼクシードを見て、鼻で笑ったピトフーイは、くるっと振り向くと、

後方に向かって手を振りながら言った。

 

「シャナ~、やっぱりロザリアちゃんだったよ~」

 

 それを聞いたゼクシードは、驚いたように言った。

 

「なっ……シャナだと!?お前、いつからシャナとつるんでるんだよ!」

 

 ゼクシードは慌ててピトフーイの向いた方を眺めたが、そこには誰もいなかった。

 

「って、誰もいないじゃないかよ、ただのハッタリかよ」

「あれ?シャナ?」

「俺ならここだ」

「シャナ、いつの間に!」

 

 突然ゼクシードの背後から声が聞こえ、ピトフーイは嬉しそうに振り向いた。

釣られてゼクシードも慌てて振り向いたのだが、その顔は何者かにガッと掴まれた。

 

「て、てめえ……シャナ……」

「あ?さんを付けろよデコ助野郎。お前、俺にもう一度真っ二つにされたいのか?」

 

 シャナはゼクシードに、そんなどこかで聞いたような台詞を言った。

どうやらシャナ的には、いつか機会があったら言ってみたい台詞だったらしい。

ちなみにシャナも二人の会話を聞いて、やっとゼクシードの事を思い出した所だった。

そしてシャナはそのまま腕を引き、ロザリアとピトフーイから引き離すように、

ゼクシードを後方へと投げ飛ばすと、そのまま振り向き、二人を守るように立ちはだかった。

そのシャナの左右の腕に、ピトフーイとロザリアが抱き付いた。

この状況でシャナが二人を引き剥がす事は、ゼクシードに対抗する意味でも得策ではない。

シャナならそう判断すると思い、二人はこの機会を逃さずに、

思う存分シャナにくっつく事にしたのだった。計算高いピトフーイはともかく、

ロザリアも、普段はあんなに自分を低く見ているのに、こういった機会は逃さないのである。

やる時はやるロザリアであった。

 

「くっそ、これ見よがしに女を侍らせやがって、シャナ、お前はいつか殺す!」

「はいはい、お前のその未熟な腕で出来るもんなら、いつでもかかってこいよ」

 

 シャナは、サトライザーとの勝負を邪魔したゼクシードの事が気に入らなかった為、

ここぞとばかりにゼクシードを煽った。シャナは時々こんな子供っぽい所を見せる。

そんな部分に惹かれる女性は多いのだが、本人は別に意図してやっている訳ではない。

だが、まさに今一緒にいるピトフーイとロザリアには、効果はてきめんだったようだ。

ロザリアはゼクシードに見せつけるように、これみよがしに胸を押し付け、

ピトフーイはシャナの首に腕を回しながら、笑顔で言った。

 

「負け犬はさっさと消えなって。それとも今度は、私が殺してやろうか?」

 

 そのピトフーイの笑顔は、シャナに薦められて入れた刺青の効果もあったのか、

とても凄みのある笑顔であり、それにびびったゼクシードは慌てて立ち上がり、

お決まりの捨て台詞を吐きながら走り去った。

 

「くそ、覚えてろよ!」

「はいはい、お決まりの台詞を、ご苦労様~」

「もう二度と私に話し掛けないで下さい!」

 

 そしてゼクシードがいなくなると、シャナは途端に態度をひるがえし、

右腕と首にまとわりつく二人を振り払った。

 

「お前ら、いい加減に離れろ」

「ふ~、堪能したわ」

「ご、ごめんなさい、シャナ」

「ったく、俺がお前らを振りほどけないと思って、ここぞとばかりにくっつきやがって」

 

 シャナはそう言いつつも、少し赤い顔をしていた。

それを見た二人は、顔を見合わせて、含み笑いを交わした。

それを敏感に察知したシャナは、二人の頭に拳骨を落とした。

 

「痛い痛い!」

「ちょっとあんた、痛いじゃない!」

「ピトは自業自得だろ、我慢しろ。それにしても、やっと普段の調子に戻ったか、ロザリア。

話し方を聞いて、本当にお前なのか全然確信が持てなかったぞ。あれはどういう事だ?」

 

 シャナにそう尋ねられたロザリアは、完全に素に戻り、あっけらかんと言った。

 

「だって、私があんたに頼まれたのは情報収集じゃない。

そんな私が目立つ訳にはいかないでしょ?

出来るだけ影を薄く、そして控えめに、そこに私がいるのが自然な事のように振舞う。

そう、臨時の師匠に教わったんだもの。だから絶対にキャラを崩さないようにしてたの」

「臨時の師匠、ねぇ」

 

 そう聞いたシャナの脳裏に、ニャハッと笑うアルゴの顔が浮かんだ。

シャナはそういう事かと納得し、とりあえずピトフーイとロザリアを互いに紹介した。

 

「それじゃ、こっちがピトフーイで、こっちがロザリアだ。

お前らちゃんと仲良くしろよ。あともし何かに気付いたら、しっかり連絡を密に頼むぞ」

「ええ」

「は~い!」

 

 二人の返事を確認したシャナは、何かに気付いたような風を装い、ピトフーイに言った。

 

「それじゃピト、そろそろエムも戻ってくる頃だろ、そろそろお前も戻った方がいいぞ」

「あ、そうだね。それじゃロザリアちゃん、またね!シャナもまたね!」

 

 そう言ってピトフーイは、手を振りながら去っていった。

ピトフーイがいなくなったのを確認すると、いつの間に撮影したのか、

シャナはロザリアに、二枚のSSのデータを渡しながら言った。

 

「さて、邪魔者も追い払った事だし、本題に入るぞ。

ロザリア、当面のお前のターゲットは二人。一人はシュピーゲルという男。

そしてもう一人はエムという男だ。この写真のこいつがシュピーゲル、隣はシノンと言う。

そしてこのピトと一緒に写ってるのがエムだ」

「この二人が、ラフコフの奴らと関係がありそうなの?」

「いや、単にGGOで始めて知り合った、このシノンとピトの相方ってだけだな」

「そうなんだ」

 

 ロザリアはシャナに頷くと、話の続きを目で促した。

 

「二人のリアルについてはアルゴに調査を頼んだ。

なのでゲーム内の二人の交友関係については、お前に頼みたい」

「それはいいんだけど、何か気になる事でもあるの?」

「いや、基本的には自衛の為だな。個人的には、シノンとピトの事は信用してる。

だが周りの奴に関しては、必ずしもそうは言いきれない。だから念の為に調査を頼むのさ」

「そういう事ね、分かった、やってみる」

「リアルを割ろうとか、そんな事は考えなくてもいいからな。

怪しい奴と関わってはいないか、俺達に害を与える可能性はあるか、

その辺りだけを調べてくれればいい」

「うん」

 

 ロザリアは力強く頷くと、続けて言った。

 

「要するにあんたと、あんたの仲間の安全の為って事でいいのよね」

「ああ、それで間違いない」

「本当にあんたって仲間思いなのね……ちょっと羨ましい」

「はぁ?」

 

 シャナが呆れた声でそう言ったので、ロザリアはビクッとした。

 

「お前だってとっくにその一員だっての。あんまり自分を下に見るのもいい加減にしろ」

 

 その言葉に一瞬明るい顔を見せたロザリアは、次の瞬間再び下を向き、ポツリと言った。

 

「でも、私はまだ……」

「まだ、何だよ」

「シリカに謝ってない……」

 

 その言葉にシャナは意表を突かれた。

シャナとした事が、その事をすっかり失念していたのだ。

 

「そうか……すまん、俺もその事はすっかり失念していた。

よし、今度セッティングしてやるから、お前シリカに直接会って謝ってみろ」

 

 シャナにそう言われ、ロザリアは少しおどおどしたが、

直後にキッと真面目な表情になり、シャナに言った。

 

「うん、お願い。私はあんたや他の人達と一緒に前に進みたい。

その為にも直接シリカに会って、きちんと頭を下げて、自分の口で謝るわ」

 

 そんなロザリアを見て、シャナは優しい目をしながらその頭に手を乗せ、

恥ずかしがるロザリアをよそに、その頭をなで続けたのだった。

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