「おいピト、お前、こんな事やってる暇があるのか?
今は、あ~、仕事で全国を回ってる真っ最中なんだろ?」
「大丈夫大丈夫、息抜きは必要でしょ?それに私、シャナに会うと逆に元気が出るから!」
「まあ無理はするなよ」
「シャナに心配してもらった!嬉しい!」
「……」
ピトフーイは毎回こんな調子なので、最近のシャナは、
その類のピトフーイの発言に、一々突っ込む事はしなくなっていた。
シャナが否定しない為に調子に乗ったのか、ピトフーイは続けてこんな事を言った。
「ねぇシズ、どうやらシャナも、大分私の事を大切に思ってきたみたいだし、
今度三人で、くんずほぐれつホテルにでも……」
「ホッ……ホテ……」
シズカはそのピトフーイのとんでもない提案に、一瞬絶句した後、
両手を前に出してブンブンと左右に振りながら、焦った口調でピトフーイに言った。
「じょ、冗談なんだろうけど、そんなの絶対無理無理無理っ!」
「え~?大丈夫だって、私、男も女もイケる口だから!」
「調子に乗るな」
「痛ったあ~~~い!」
シャナが呆れた顔でピトフーイの頭に拳骨を落とし、ピトフーイは涙目で蹲った。
それを見たベンケイは、そっとシノンに近寄ると、三人をチラ見しながら言った。
「ねぇシノノン、大人になるって、ああいう事なのかな?」
「わ、私に聞かないでよ、そんなの知らないわよ!」
シノンはそう答えると、顔を赤くしながらそっぽを向いた。
今日は、五人は、ツアー中であるピトフーイが、
少し時間が出来たからと言ってログインしてきた為、クエストモブを狩る為に集まっていた。
ちなみにケーキ食べ放題は、ピトフーイが東京に戻ってきた後に行く事になっていた。
「さて、そろそろ目的地に着くな。ベンケイ、周囲に他のプレイヤーの姿はあるか?」
「今は大丈夫なんだけど、それとは別にね、う~ん……」
ベンケイは、何か気になる事があるようだ。
「お兄ちゃん、街でさ、何か視線を感じなかった?」
「そんなの最近はずっとだな」
「そっか、実は街でさ、ほら、BoBでお兄ちゃんに真っ二つにされた人がいたじゃない」
「ゼクシードか」
「そうそう、その人がね、物陰からこっちの様子を伺ってるのを見ちゃったんだよね」
「あいつがか」
シャナは、ふむ、と考え込む仕草をし、それを受けてシノンが言った。
「ゼクシードなら私も見たかも」
「シノンはゼクシードを知ってるのか?」
「一緒になった事は一度も無いんだけど、私もほら、シャナの動画はよく見てたからね。
あいつの顔はもうすっかり覚えちゃった」
「負けた動画なんて恥ずかしいから、あまり何度も見ないでくれ……」
そんなシャナの珍しい姿に、四人は顔を見合わせ、むふふっと笑った。
その笑いを無視し、シャナはシノンに話の続きを促した。
「それでシノン、ゼクシードの奴はどんな感じだった?」
「う~ん、どこかと連絡をとっていたように見えたかな。
今は姿が見えないってなら、後日どこかで、こっちを襲撃してくるかもね」
「そうか……よし、ロザリアに監視させるか」
「ロザリア?」
この中で唯一ロザリアの事を知らないシノンが、鸚鵡返しにそう聞き返してきた。
ちなみにベンケイも、どういう人物かは知っているが、会った事は無い。
シノンの問いに答えたのは、シャナではなくピトフーイだった。
「ロザリアちゃんは、私のライバルだよ」
「ライバル?昔からいる人?強いの?」
「ううん、シャナの下僕一号にどっちがなるかっていう、宿命のライバルだよ」
「はぁ?」
シノンは冷たい目でシャナの方を見た。
「お前もそろそろ分かってきただろ?こいつらが勝手に言っているだけだぞ」
「あ~……またいつものパターンなのね……」
シノンは頭に手を当て、頭痛を抑えるような仕草をした。
ピトフーイは気にせず、尚もシノンに言った。
「シャナの寵愛は二人とも受けられてるからそこはいいんだけど、
ここでどっちの序列が上になるかで、愛される時間が変わるからね!
これは女のプライドを賭けた戦いだから、頑張らないといけないのよ!」
「ねぇピト、あんた頑張るとこ間違えてない!?」
「ここで頑張らなくていつ頑張るって言うの!ふざけないで!」
「逆ギレ!?」
そんな二人の間に、シャナが割って入った。
「やめろシノン、分かるだろ?こいつはこういう奴なんだよ。
当然俺の寵愛なんてものは存在しないし、愛される云々も妄想だ。
むしろ俺は、常識人なお前の事を一番評価している。お前だけが頼りだ。
だからまともにこいつの相手をするな」
「わっ、私を一番……?そ、そう、まあそういう事なら」
「あーっ!またもライバル出現?仕方ないなぁ、シノノンも一緒にホテル行く?」
「行かないわよ!!!」
「はい、そこまで!」
そろそろ頃合いだと思ったシズカが、そこに割って入った。
「二人とも、もうすぐ戦闘だよ、そろそろ準備しよう」
「は~い」
「了解」
シズカの言葉を聞いた途端に、二人とも戦士の顔になった。
どうやらモードが切り替わったらしい。
シャナの見た感じ、シノンも今の会話に本気で腹を立てている訳ではなく、
案外楽しんでいるようだ。ピトフーイは言わずもがな。
(ま、普段はこれくらいゆるい方が、この関係も長続きしそうだから、これはこれでいいか)
シャナはそう考え、五人はそのままクエスト用に用意された、
インスタンスエリアへと侵入していった。
「うわ、何あれ」
「大きい亀?ガ○ラ?」
「確か名前は、アスピドケロンとか言ったか」
「うわ、定番すぎる名前!」
「まあ、オリジナルの名前を新たに考えるのが面倒臭かったんだろ。さて、作戦だが」
クエストモブは、頭まで硬い甲羅で覆われた、巨大な亀だった。
「最終的にはあの頭を破壊すればオーケーだ。
俺は遠距離からあの頭を狙って、出来るだけ甲羅を破壊する。
シズ、ケイ、ピトの三人は、ローテーションを組んで、
あいつの前足を一本づつ徹底的に狙ってくれ。前足を両方破壊する事が出来れば、
あいつはそのまま前に倒れるから、その後に頭を集中的に狙えばそれで終了だ。
シノンは中距離から前衛の三人のフォローをしてくれ。
やばそうな時は、前足の付け根を攻撃すれば、一瞬足の動きが鈍る。
もっとも敵の攻撃が直撃しても、一発で死ぬほどの攻撃力は無いから、
まあ狙撃の練習だと思って、気楽にな」
「「「「了解!」」」」
こうして戦闘が始まった。先ずはシャナの狙撃から開始された。
シャナは地面に伏せ、M82を構えると、あっさりと亀の頭に攻撃を命中させた。
巨大な亀はその攻撃を受け、のそりとこちらの方を向いた。
そこに横合いから、シズカとベンケイが突撃し、足への集中攻撃を開始した。
どうやら最初はピトフーイはフォローに回るようだ。
シノンは亀の前足の動きを注視し、落ち着いた様子で正確に足の付け根を狙っていた。
(まあ、動きも鈍い、楽な敵を選んだからな、特に問題も無さそうだ)
その考えの通り、ほどなくして亀の前足の一本が破壊された。
シズカら三人は、それを見て一旦下がると、今度は反対方向から、
もう一本の前足に集中攻撃を開始した。シノンはマイペースで狙撃を続け、
もう一本の足が破壊される前に、シャナも頭の甲羅を完全に破壊する事に成功した。
そしてついにもう一本の足も破壊され、アスピドケロンはズズッと前方に倒れ、
その無防備な頭をさらけ出した。そこに前衛三人が集中砲火をくらわせ、
そのまま頭を破壊されたアスピドケロンは、あっさりと消滅した。
「やった!」
「レベルアップです!」
「思ったより簡単だったね」
「う~ん、昔やった時は、もっとてこずったような……」
シズカ、ベンケイは、どうやらレベルアップしたようだ。
シノンも思ったより戦闘が楽だった事に、少し拍子抜けしたようだ。
ピトフーイは、シャナが近付いてくるのを待ってシャナに尋ねた。
「ねぇシャナ、こいつの前足ってさ、二本破壊した後、また再生しなかったっけ?」
「ああ、そうだな、頭に一定ダメージが入ると復活する」
「でも今は復活しなかったよね、何で~?」
「正確には、頭の甲羅に一定ダメージが入ると、だな。
だから普段はこんなに簡単にはいかないはずだ。足が再生する度に、
段々と敵の攻撃も激しくなるしな」
「あ~!だから先に、頭の甲羅を割ったんだね」
「ま、そういう事だ」
ピトフーイはそれを聞いて納得したが、次の疑問が生まれたようだ。
「あれ、でもどうして他の人達は、そうしないの?」
「普通の狙撃銃だと、頭の甲羅を破壊するまでに、相当時間がかかるから、だろうな」
「ああ~、つまりこれって、そのハチニーちゃんのおかげか!」
「ハチニーちゃん?これの事か?」
「うん、それ、M82でしょ?だからそのまんまハチニーちゃん」
「ハチニーちゃん、な」
幼い頃、シャナ~八幡はベンケイ~小町に、そう呼ばれていた事を思い出していた。
小町はかつて、八幡の事を、八兄ちゃん八兄ちゃんと呼んでいたのだった。
ベンケイもその事を思い出したのか、顔に疑問符を浮かべるシズカの耳に、
そっとその事を告げたようで、シズカはシャナを見ながら納得の表情を浮かべた。
「ハチニーちゃんが、どうかした?」
同じように顔に疑問符を浮かべていたピトフーイが、シャナにそう尋ねた。
シャナは頭を振り、ピトフーイに返事をした。
「何でもない。後な、ピト、この銃の愛称はもう別にあるんだよ」
「え?何々?聞いてもいい?」
「この銃はたった今、アハトと名付けた」
「今なんだ!?」
その言葉を聞いた四人の中で、シズカだけがハッとした。
そしてシズカは、シャナがそれほどまでに、この銃の事を大切に思っているのだと、
心の底から理解した。かつての相棒の名前をつけるほどに。
こうしてこの日、シャナのM82に新しい名前が付けられる事になった。
もっともシャナは、誰にも分かりやすいようにと基本M82とそのまま呼び続けた為、
その名前は別の武器に冠せられる事となるのだが、それは別のお話である。