ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

206 / 1227
2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第205話 懐かしきその名

「おいピト、お前、こんな事やってる暇があるのか?

今は、あ~、仕事で全国を回ってる真っ最中なんだろ?」

「大丈夫大丈夫、息抜きは必要でしょ?それに私、シャナに会うと逆に元気が出るから!」

「まあ無理はするなよ」

「シャナに心配してもらった!嬉しい!」

「……」

 

 ピトフーイは毎回こんな調子なので、最近のシャナは、

その類のピトフーイの発言に、一々突っ込む事はしなくなっていた。

シャナが否定しない為に調子に乗ったのか、ピトフーイは続けてこんな事を言った。

 

「ねぇシズ、どうやらシャナも、大分私の事を大切に思ってきたみたいだし、

今度三人で、くんずほぐれつホテルにでも……」

「ホッ……ホテ……」

 

 シズカはそのピトフーイのとんでもない提案に、一瞬絶句した後、

両手を前に出してブンブンと左右に振りながら、焦った口調でピトフーイに言った。

 

「じょ、冗談なんだろうけど、そんなの絶対無理無理無理っ!」

「え~?大丈夫だって、私、男も女もイケる口だから!」

「調子に乗るな」

「痛ったあ~~~い!」

 

 シャナが呆れた顔でピトフーイの頭に拳骨を落とし、ピトフーイは涙目で蹲った。

それを見たベンケイは、そっとシノンに近寄ると、三人をチラ見しながら言った。

 

「ねぇシノノン、大人になるって、ああいう事なのかな?」

「わ、私に聞かないでよ、そんなの知らないわよ!」

 

 シノンはそう答えると、顔を赤くしながらそっぽを向いた。

今日は、五人は、ツアー中であるピトフーイが、

少し時間が出来たからと言ってログインしてきた為、クエストモブを狩る為に集まっていた。

ちなみにケーキ食べ放題は、ピトフーイが東京に戻ってきた後に行く事になっていた。

 

「さて、そろそろ目的地に着くな。ベンケイ、周囲に他のプレイヤーの姿はあるか?」

「今は大丈夫なんだけど、それとは別にね、う~ん……」

 

 ベンケイは、何か気になる事があるようだ。

 

「お兄ちゃん、街でさ、何か視線を感じなかった?」

「そんなの最近はずっとだな」

「そっか、実は街でさ、ほら、BoBでお兄ちゃんに真っ二つにされた人がいたじゃない」

「ゼクシードか」

「そうそう、その人がね、物陰からこっちの様子を伺ってるのを見ちゃったんだよね」

「あいつがか」

 

 シャナは、ふむ、と考え込む仕草をし、それを受けてシノンが言った。

 

「ゼクシードなら私も見たかも」

「シノンはゼクシードを知ってるのか?」

「一緒になった事は一度も無いんだけど、私もほら、シャナの動画はよく見てたからね。

あいつの顔はもうすっかり覚えちゃった」

「負けた動画なんて恥ずかしいから、あまり何度も見ないでくれ……」

 

 そんなシャナの珍しい姿に、四人は顔を見合わせ、むふふっと笑った。

その笑いを無視し、シャナはシノンに話の続きを促した。

 

「それでシノン、ゼクシードの奴はどんな感じだった?」

「う~ん、どこかと連絡をとっていたように見えたかな。

今は姿が見えないってなら、後日どこかで、こっちを襲撃してくるかもね」

「そうか……よし、ロザリアに監視させるか」

「ロザリア?」

 

 この中で唯一ロザリアの事を知らないシノンが、鸚鵡返しにそう聞き返してきた。

ちなみにベンケイも、どういう人物かは知っているが、会った事は無い。

シノンの問いに答えたのは、シャナではなくピトフーイだった。

 

「ロザリアちゃんは、私のライバルだよ」

「ライバル?昔からいる人?強いの?」

「ううん、シャナの下僕一号にどっちがなるかっていう、宿命のライバルだよ」

「はぁ?」

 

 シノンは冷たい目でシャナの方を見た。

 

「お前もそろそろ分かってきただろ?こいつらが勝手に言っているだけだぞ」

「あ~……またいつものパターンなのね……」

 

 シノンは頭に手を当て、頭痛を抑えるような仕草をした。

ピトフーイは気にせず、尚もシノンに言った。

 

「シャナの寵愛は二人とも受けられてるからそこはいいんだけど、

ここでどっちの序列が上になるかで、愛される時間が変わるからね!

これは女のプライドを賭けた戦いだから、頑張らないといけないのよ!」

「ねぇピト、あんた頑張るとこ間違えてない!?」

「ここで頑張らなくていつ頑張るって言うの!ふざけないで!」

「逆ギレ!?」

 

 そんな二人の間に、シャナが割って入った。

 

「やめろシノン、分かるだろ?こいつはこういう奴なんだよ。

当然俺の寵愛なんてものは存在しないし、愛される云々も妄想だ。

むしろ俺は、常識人なお前の事を一番評価している。お前だけが頼りだ。

だからまともにこいつの相手をするな」

「わっ、私を一番……?そ、そう、まあそういう事なら」

「あーっ!またもライバル出現?仕方ないなぁ、シノノンも一緒にホテル行く?」

「行かないわよ!!!」

「はい、そこまで!」

 

 そろそろ頃合いだと思ったシズカが、そこに割って入った。

 

「二人とも、もうすぐ戦闘だよ、そろそろ準備しよう」

「は~い」

「了解」

 

 シズカの言葉を聞いた途端に、二人とも戦士の顔になった。

どうやらモードが切り替わったらしい。

シャナの見た感じ、シノンも今の会話に本気で腹を立てている訳ではなく、

案外楽しんでいるようだ。ピトフーイは言わずもがな。

 

(ま、普段はこれくらいゆるい方が、この関係も長続きしそうだから、これはこれでいいか)

 

 シャナはそう考え、五人はそのままクエスト用に用意された、

インスタンスエリアへと侵入していった。

 

「うわ、何あれ」

「大きい亀?ガ○ラ?」

「確か名前は、アスピドケロンとか言ったか」

「うわ、定番すぎる名前!」

「まあ、オリジナルの名前を新たに考えるのが面倒臭かったんだろ。さて、作戦だが」

 

 クエストモブは、頭まで硬い甲羅で覆われた、巨大な亀だった。

 

「最終的にはあの頭を破壊すればオーケーだ。

俺は遠距離からあの頭を狙って、出来るだけ甲羅を破壊する。

シズ、ケイ、ピトの三人は、ローテーションを組んで、

あいつの前足を一本づつ徹底的に狙ってくれ。前足を両方破壊する事が出来れば、

あいつはそのまま前に倒れるから、その後に頭を集中的に狙えばそれで終了だ。

シノンは中距離から前衛の三人のフォローをしてくれ。

やばそうな時は、前足の付け根を攻撃すれば、一瞬足の動きが鈍る。

もっとも敵の攻撃が直撃しても、一発で死ぬほどの攻撃力は無いから、

まあ狙撃の練習だと思って、気楽にな」

「「「「了解!」」」」

 

 こうして戦闘が始まった。先ずはシャナの狙撃から開始された。

シャナは地面に伏せ、M82を構えると、あっさりと亀の頭に攻撃を命中させた。

巨大な亀はその攻撃を受け、のそりとこちらの方を向いた。

そこに横合いから、シズカとベンケイが突撃し、足への集中攻撃を開始した。

どうやら最初はピトフーイはフォローに回るようだ。

シノンは亀の前足の動きを注視し、落ち着いた様子で正確に足の付け根を狙っていた。

 

(まあ、動きも鈍い、楽な敵を選んだからな、特に問題も無さそうだ)

 

 その考えの通り、ほどなくして亀の前足の一本が破壊された。

シズカら三人は、それを見て一旦下がると、今度は反対方向から、

もう一本の前足に集中攻撃を開始した。シノンはマイペースで狙撃を続け、

もう一本の足が破壊される前に、シャナも頭の甲羅を完全に破壊する事に成功した。

そしてついにもう一本の足も破壊され、アスピドケロンはズズッと前方に倒れ、

その無防備な頭をさらけ出した。そこに前衛三人が集中砲火をくらわせ、

そのまま頭を破壊されたアスピドケロンは、あっさりと消滅した。

 

「やった!」

「レベルアップです!」

「思ったより簡単だったね」

「う~ん、昔やった時は、もっとてこずったような……」

 

 シズカ、ベンケイは、どうやらレベルアップしたようだ。

シノンも思ったより戦闘が楽だった事に、少し拍子抜けしたようだ。

ピトフーイは、シャナが近付いてくるのを待ってシャナに尋ねた。

 

「ねぇシャナ、こいつの前足ってさ、二本破壊した後、また再生しなかったっけ?」

「ああ、そうだな、頭に一定ダメージが入ると復活する」

「でも今は復活しなかったよね、何で~?」

「正確には、頭の甲羅に一定ダメージが入ると、だな。

だから普段はこんなに簡単にはいかないはずだ。足が再生する度に、

段々と敵の攻撃も激しくなるしな」

「あ~!だから先に、頭の甲羅を割ったんだね」

「ま、そういう事だ」

 

 ピトフーイはそれを聞いて納得したが、次の疑問が生まれたようだ。

 

「あれ、でもどうして他の人達は、そうしないの?」

「普通の狙撃銃だと、頭の甲羅を破壊するまでに、相当時間がかかるから、だろうな」

「ああ~、つまりこれって、そのハチニーちゃんのおかげか!」

「ハチニーちゃん?これの事か?」

「うん、それ、M82でしょ?だからそのまんまハチニーちゃん」

「ハチニーちゃん、な」

 

 幼い頃、シャナ~八幡はベンケイ~小町に、そう呼ばれていた事を思い出していた。

小町はかつて、八幡の事を、八兄ちゃん八兄ちゃんと呼んでいたのだった。

ベンケイもその事を思い出したのか、顔に疑問符を浮かべるシズカの耳に、

そっとその事を告げたようで、シズカはシャナを見ながら納得の表情を浮かべた。

 

「ハチニーちゃんが、どうかした?」

 

 同じように顔に疑問符を浮かべていたピトフーイが、シャナにそう尋ねた。

シャナは頭を振り、ピトフーイに返事をした。

 

「何でもない。後な、ピト、この銃の愛称はもう別にあるんだよ」

「え?何々?聞いてもいい?」

「この銃はたった今、アハトと名付けた」

「今なんだ!?」

 

 その言葉を聞いた四人の中で、シズカだけがハッとした。

そしてシズカは、シャナがそれほどまでに、この銃の事を大切に思っているのだと、

心の底から理解した。かつての相棒の名前をつけるほどに。

こうしてこの日、シャナのM82に新しい名前が付けられる事になった。

もっともシャナは、誰にも分かりやすいようにと基本M82とそのまま呼び続けた為、

その名前は別の武器に冠せられる事となるのだが、それは別のお話である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。