ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第206話 シノンの変化

 五人の会話はまだ続いていた。

ピトフーイは、アハトアハトと呟きながら、シャナにその由来を質問した。

 

「アハト?どんな意味?」

「ドイツ語の八だな」

「へぇ~、グーテンモルゲン!」

「何言ってるんだお前……」

「シルブプレ?」

「それはフランス語だからな……」

「そうだっけ?」

 

 呆れるシャナを無視して、ピトフーイは尚も言った。

 

「ところで二は?二はどこ?」

「……旅にでも出たんじゃないか」

「へぇ~、かわいい子には旅をさせろって奴だね!」

「ああ、だからお前は、絶対に旅になんか出なくていいからな」

「ムキー!」

 

 二人の漫才のような会話を聞きながら、次にシノンがシャナに質問した。

 

「ねぇシャナ、あんた今、もう別にあるって言ったわよね。

その銃の名前、今付けたばっかりのはずなのに、別に何か由来があるの?」

「そうだな……」

 

 その質問に対し、シャナは何かを懐かしむような表情をした。

その表情を見たシノンは、不覚にもドキッとした。

 

「アハトは、正確にはアハト・ファウストと言う。

俺がSAO時代に使っていた、おそらくサーバーにたった一つしか存在しなかった、

盾と格闘武器の中間みたいな存在の装備だ」

「そうなんだ」

 

 シノンはそれ以上、何も言わなかった。

シャナがどれだけ、その装備の事を大切にしていたか、何となく理解した為だった。

だが、ピトフーイはその性格故か、当然黙ってはいなかった。

 

「そうなんだ!うん、アハト、いいね!その銃にピッタリの素敵な名前だね!」

「お前さっき、二はどこだとか、グーテンモルゲンとか言ってたよな」

「え~?そんな事言ったっけ?シャナの気のせいだよ~」

 

 それを聞いたシャナは、黙ってピトフーイの頭に拳骨を落とし、

ピトフーイはその痛さに、黙ってその場に蹲った。

そんなシャナに、シノンが別の質問をした。

 

「ねぇシャナ、話は変わるけどさ、もしかして今のアスピドケロンって、

アハトがあれば、シャナ一人で倒せたよね?」

「そうだな、実際倒したからな」

「やっぱり……本当に反則だね、その銃」

「敵の感知範囲外から、つまり距離さえしっかりとって攻撃すれば、

敵に襲われる事も無く、一方的に攻撃出来るからな」

 

 シノンはふむふむと頷きながら、他にいくつか狙撃についてシャナに質問した。

 

「このフィールドだと、端からなら攻撃はくらわないの?」

「ああ、狭いフィールドだと、お手上げだけどな」

「このタイプの敵って、他にも存在するの?私にも出来るかな?」

「他にもいるぞ、今度案内してやろう。まあ敵によっては、お前の今持ってる銃でも、

そういう事が可能な敵もいるかもしれないが、

少しでも勝率を上げる為に、いっそもうちょっと射程の長い銃を買ってみるか?」

「考えてみる」

 

 シノンは狙撃手を目指すと決意した時から、すごい向上心を見せていた。

もはやシノンは、シャナの弟子といってもいいレベルであり、

シャナもそんなシノンを、好ましく思っていた。

さっき冗談めかして言った、一番評価しているという言葉も、あながち冗談では無い。

そこに、蹲った体勢のままのピトフーイが会話に加わった。

 

「ねぇシャナ、対物ライフルの出物が無いのって、やっぱりそういう理由なのかな?

確かにピーキーな武器だけど、はまると強すぎるから?」

「それは……あるかもしれないが、どうなんだろうな」

「シャナはその銃、どうやって手に入れたの?」

「アハトか……これはな……」

 

 シャナは、思い出すのもつらそうに話を始めた。

 

「おいピト、街の地下に、恐ろしく強い敵がいるのは知ってるか?」

「あ~、その噂、聞いた事があるかも!」

「前にな、街の地下を探索していた時に、たまたまその中の一体に遭遇してな……」

「え?一人で?」

「ああ」

「うわぁ、よく無事だったね、っていうか、よく倒せたね、一人で弾は足りたの?」

「いや、無理だった……」

 

 シャナは本当につらそうにそう言った。

 

「でな、弾も無くなり、さすがにここで死ぬしかないかと思った俺に、

最後に残されたのが、このナイフでな」

 

 シャナはピトに、ナイフを二本、ひらひらと振って見せた。

 

「こいつを持って特攻して、二時間戦い続けてやっと倒す事が出来たって訳だ。

そしてその敵から、このアハトがドロップした」

 

 それを聞いた四人は、そんな事はシャナにしか出来ないと思い、

どれほど困難な道だったのかを想像し、絶句した。

 

「……よく死ななかったね」

 

 やっと言葉を発したシズカに、シャナは言った。

 

「幸いその敵は人型だったんでな。一度でもくらったら死んでただろうが、

まあ、何とかなったわ」

「あ、人型だったんだ」

「銃を乱射してくるたちの悪い敵だったけどな、何とか懐に入れたから、

後はいつも通りにやるだけだったな。長時間神経を使い続けるのは、本当にきつかった」

「そっか、じゃあまあ、勝つ可能性は少しはあったんだね」

「まあ、そういう事だ」

 

 その会話を理解していたのは、シズカとベンケイだけだっただろう。

シノンは訳が分からないという風に黙り込み、こういう時に遠慮しないピトフーイが、

代表してシャナに質問をした。

 

「人型だと、何かあるの?」

「ん?ああ、俺は人型相手は、昔から得意なんでな」

「得意って……それだけで勝てるもの?」

「そういやお前とは、結局まともには戦ってないよな。

そうだな、試しにやってみるか。おいピト、ナイフを持って俺に攻撃してこい」

「うん、分かった」

 

 そしてピトフーイはナイフを構え、シャナと対峙した。

それをシノンは興味深そうに見学していた。

そしてピトフーイが攻撃目標を決め、動き出そうとした瞬間、

ピトフーイのナイフが弾かれ、ピトフーイの首にナイフが突きつけられた。

ピトフーイは体勢を立て直す事も出来ず、何もする事が出来なかった。

シノンはその一連の動きを見て、首を傾げた。

 

「ねぇピト、あんた何で今、無防備にシャナの攻撃を受けたの?」

「ち、違うよシノノン、今私、確かに攻撃しようとしたんだよ!」

「え?そんな風には、ちっとも見えなかったけど」

「とにかく違うの!」

 

 ピトフーイはシノンにそう抗議を続けたが、シノンは理解出来なかった。

そんなシノンにシャナが言った。

 

「それじゃあシノン、次はお前がやってみろ」

「あ、うん。ナイフにはあんまり慣れてないけど」

 

 シノンは、ピトフーイからナイフを借りると、ぎこちなく構えを取り、

シャナに攻撃をしようとした。そう、しようとした。

その瞬間に、攻撃をしようとしていたナイフがいきなり後方に弾かれ、

シノンは何も出来ない体勢のまま、シャナにナイフを突きつけられた。

シノンは今、自分の身に何が起こったのか漠然と理解し、ピトフーイに言った。

 

「ピト、ごめん、あんたの言った通りだった」

「でしょでしょ?もう訳がわかんないでしょ?

私もシノノンも、攻撃しようって筋肉に力を入れた瞬間に武器を弾かれたみたいな?」

「うん、そんな感じ」

「まあ、大体それで合ってる」

 

 シャナがそう言い、二人は唖然としてシャナを見つめた。

 

「これが……シャナが四天王って言われた秘密?」

「別に秘密じゃないが、大体そんな感じだ」

「……人相手だと、ほぼ無敵って訳ね」

「俺は基本、カウンター使いだからな。もっともそんな俺でも、勝てない奴もいる。

神聖剣とか、黒の剣士とか、閃光とかな」

「全員四天王じゃないの……」

「あいつらやシズカの戦闘スタイルとは、相性が悪いんだよ。

まあ、ほとんどの奴には負けないけどな」

「なるほど……すごいね、シズカ」

「シズカの突きは、俺でも完全に見切るのは難しいからな。

たまに成功しても、結局手数でやられちまう」

「そっかぁ……そっかぁ……」

 

 とにかく強い者に憧れる傾向のあるピトフーイは、

改めてシズカとシャナを尊敬の目で見つめた。

シノンでさえも、似たような目で二人を見つめていた。

 

「まあそんな訳で、俺は随分苦労はしたが、このアハトを手に入れたって訳だ。

だからシノンも、もし対物ライフルが欲しいなら、どんな時も決して諦めるな。

最後まであがいてあがいてあがき続けろ。多分その先に、まだ見ぬお前の武器がある」

「うん、すごく参考になる話だった。ありがとう、シャナ」

 

 この時のシャナの話を、シノンは決して忘れなかった。

とりあえずシノンはこの日、銃を新調する事を決め、

その為にしばらくはシャナ達と一緒に行動する事を決めた。

シノンはこの後、シュピーゲルと前ほど一緒に行動しなくなり、

その事が後の事件の遠因となっていくのだが、この時は誰もそんな事は理解していなかった。

今のシノンはとにかく、最近知り合ったこの四人と一緒に行動するのがとても楽しかった。




明日から、GGO世界を一時離れ、暴走ぎみな中編エピソードが始まります。

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