ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第211話 情報源はあいつ

「あっ、アルゴさん!」

「お~うアーちゃん、何か怒ってるみたいだけど、またハー坊が何かやらかしたのか?

ってか、何でここにいるんダ?」

「アルゴさんこそ何でここに?実は八幡君の同窓生?」

「いや、オレっちはただのやじ馬だナ」

「そうなんだ」

 

 明日奈は三人の中に、顔見知りであるアルゴの姿を見付け、声を掛けた。

次にアスナはエルザと薔薇を一瞥すると、表面上は笑顔のまま八幡の方を向いた。

 

「ねぇ八幡君、その二人は誰なのかな?

もし良かったら、『大切な彼女』の私に、是非紹介してくれないかな?」

 

 明日奈は、『大切な彼女』の部分を強調しながら、八幡にそう言った。

八幡は、明日奈がまだお怒りモードのままだと悟り、何とか事態の収拾をはかろうとした。

八幡は最初に、薔薇に指示を飛ばした。

 

「おい薔薇、あそこの空いたテーブルにその二人を連れていけ。そこで待機だ」

「あっ、うん」

 

 その八幡の呼び掛けを聞いた明日奈は、あれが薔薇さんなんだと理解し、肩の力を抜いた。

八幡はその、明日奈の怒りが一瞬弛緩した隙を突き、明日奈を背後からそっと抱き締めた。

 

「えっ、えっ?」

 

 戸惑いつつも、こんな所でもう、甘えんぼうさんなんだから、と、

頬を染める明日奈の耳元に口を寄せ、八幡はそっと囁いた。

 

「明日奈、あれがピトだ。何故あいつがここにいるのかは分からないが、

もしかしたら、さっきおみやげを受け取る為に会った時に、

俺が明確にここに来る事を禁止しなかったせいかもしれん」

「あ、あの人ピトだったんだ!でもどこかで見た事があるような……」

「まあな、あいつは歌手の神崎エルザだからな」

「ええっ!?」

 

 明日奈は思わず大きな声を出してしまい、慌てて自分の口を塞いだ。

周囲の者達は何事かと思ったが、二人の会話で聞こえたのは、その明日奈の声だけだった為、

事情が分かる者は当然皆無だった。ただ二人の表情からすると、

どうやら明日奈の怒りは霧散したようだと、周りの者達はほっと胸をなでおろした。

 

「と、いう訳で明日奈、緊急事態だ。お前はあの三人と合流し、

決してGGOでの名前を呼ばないようにピトに言い含めてくれ。あと情報収集な。

俺達の名前がピトにバレるのはもう仕方がない。まああいつの名前は分かってるんだし、

あいつは俺を裏切らないから特に問題は無いはずだ。と、いう訳で、頼んだ」

「うん、任せて」

 

 明日奈はそう言うと、三人が待つテーブルへと歩み寄っていった。

そうなると、当然ゆっこと遥の矢面に、再び八幡が立つ事になる。

八幡は穏やかな口調で、粘り強く二人を説得しようと試みたが、

先ほど明日奈に言われた事がよほど頭にきたのだろう、頑として話を聞こうとはしない。

 

「なぁ、結局お前らは、俺に文句が言いたかっただけなんだろ?

別にそれでいいから、もうこれで終わりにしないか?」

「何よあんた、やっぱり逃げるの?」

「だから……」

 

 二人はもう、モンスタークレーマーとでも言うべき存在になっており、

正直本人達ももう、自分達が何をしているのか分かっていないと思われた。

先ほどまで二人に同調していた者達も、二人からは距離を置いていた。

そして乱入してきた三人の下に向かった明日奈は、情報収集に励んでいるかと思いきや、

楽しそうに、自己紹介を行っていた。

 

「薔薇さんは初めましてですね。結城明日奈です」

「は、はい、宜しくお願いします」

 

 明日奈は知らない事だが、薔薇は明日奈の大ファンだったので、かなり緊張していた。

次に明日奈はエルザの方を向き、じろじろとエルザの顔を見た。

エルザも同様に、明日奈の顔をじろじろと見ると、開口一番にこう言った。

 

「シズだよね?すっごい美人!これはさすがに勝てないわ、もう無理無理~って感じ!

他にも何人か、シャナの周りには美人さんがいるみたいだし、

ねぇ薔薇ちゃん、やっぱり私達には愛人くらいがお似合いかなぁ?」

「あんたね、当たり前じゃない、明日奈様に敵う存在がこの世にいる訳ないでしょ!」

 

 明日奈は薔薇にいきなり様付けで呼ばれた為、やはり以前誰かから聞かされた、

薔薇が自分の事を崇拝しているという話は真実だったと感じたが、

さすがにこの状況では、直接は何も言わなかった。

エルザは普通に引いていた為無言であり、アルゴは職場で聞き慣れていた為、

この場には、薔薇に突っ込む者は誰もいないのであった。

明日奈は気を取り直し、エルザに注意も兼ね、話し掛けた

 

「私の事は明日奈って呼んでね。あとここではシズって呼ぶのは禁止だよ、エルザさん」

 

 エルザは、心得たという風に自分の胸を叩いた。

 

「うん、分かった!じゃあシャナの事はなんて呼べばいいの?」

「彼の名前は、比企谷八幡だよ」

「八幡、八幡、そっかぁ、ふふっ」

 

 エルザは、八幡の名前を教えてもらった事がとても嬉しかったようだ。

 

「ところで明日奈は、私の事知ってたんだ?」

「そりゃあまあ、ねぇ」

 

 明日奈はそう言うと、自分の携帯をとりだし、エルザに見せた。

その画面にはエルザの曲が表示されており、エルザはとても喜んだ。

 

「私の曲だ!聞いててくれたんだね」

「うん、何かこれを聞いてると、何故かSAOで戦っていた時の事を思い出すんだよね」

「それはそうだよ。だってその曲、そのまんまSAOをイメージして作った曲だからね」

「ええっ?」

「マジかヨ」

「そうなの?」

 

 三人はそれを聞き、さすがに驚いた。

 

「私の曲の半分くらいは、そんなイメージだよ。

ちなみに今度の新曲は、四天王をイメージしてみたよ!」

「そ、そうなんだ……」

 

 明日奈は、自分の事が曲になると知って、

嬉しさと気恥ずかしさが同居したような気分になった。

 

「頑張って歌うから、必ず聞いてね、明日奈」

「うん、約束する!」

 

 それでもやはり楽しみなのか、明日奈は笑顔でそう約束した。

次に明日奈は、何故三人がここに来たのか理由を尋ねる事にした。

 

「でも三人とも、よくこの場所が分かったね。というか、何故ここに?」

「えっとね、ちょっと前にね、八幡におみやげを渡したんだけど」

「あっ、そうだ、本当にありがとね、エルザ」

「うん、どういたしまして!」

 

 明日奈はお礼を言う事を忘れていた事に気が付き、エルザにお礼を言った。

 

「でね、その時に同窓会の話を聞いたんだけど、

その時に八幡が私にね、来るなって言わなかったから、行ってもいいのかなって思ってね、

駄目元で、初めて八幡に会った場所に行ってみたの」

「ちなみにうちの会社です」

「ああ、そういう事なんだ」

 

 薔薇が横から口を挟み、明日奈はそれを聞いて、

点と点が、徐々に線になっていくのを感じた。

 

「で、そしたら、薔薇ちゃんがいるのを見付けてね」

「ちなみに私の名前も、その時にバレました」

「そ、それは……」

「まあ全て、たまたま一緒にいた、材木座さんのせいなんですけどね。

それはもうペラペラと、止める間もなくバラしてくれました」

「あ!」

 

 明日奈は、これで繋がったと思った。

材木座なら、同窓会が開催されている場所を知っているはずだからだ。

 

「どうやら材木座っちはな、神崎エルザの大ファンみたいで、

エルザの全ての質問に、喜んで答えてたんだゾ」

「あ、あは……」

「ちなみにオレっちもたまたまその場にいたんだけどな、

面白そうだから着いてきたって訳だナ」

「なるほど、そういう事か……」

 

 明日奈は、これで一通りの事情を知る事が出来たかなと思いながら、

チラッと八幡の方を見た。八幡が苦労している姿を見た明日奈は、

また怒りの感情が沸きあがってきたのか、凄惨な笑みを見せ、

その明日奈の表情を見たエルザは『すごく喜び』明日奈に言った。

 

「ねぇ明日奈、あいつらを殺すんでしょ?それならいい考えがあるよ!」

「エルザ、何を思い付いたの?」

「アーちゃん、せめて殺すって言葉くらいは否定しろヨ……」

 

 アルゴは、常識的な対応として明日奈に突っ込んだ。

それに対し、明日奈はあっさりとこう答えた。

 

「まあ、似たようなものだし?」

「犯罪行為はやめてくれよナ」

 

 少し心配そうにそう言うアルゴに、エルザは言った。

 

「大丈夫、私の提案はもっと斜め上な感じだから!」

「そうか?それならまあ、いいけどナ」

「薔薇ちゃんとアルゴちゃんも、手伝ってね」

 

 エルザは突然二人にそうお願いした。二人は消極的にではあるが、

ここで断ると明日奈が怖そうだと思ったのか、一応了承した。

 

「さて、二人の言質もとった事だし」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、一体私達に何をさせるつもり?」

「それじゃあ説明するね!三人ともちょっと耳を貸して?」


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