ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第212話 ヒキタニ君ショー

「オレっちにそれをやれと……?ま、たまにはストレートに動いてみるのもいいカ」

「その話、乗った!」

 

 アルゴと薔薇はエルザの提案を聞き、正反対の反応を示した。

明日奈は話の内容を吟味するように、何事か考え込んでいた。

 

「もちろん明日奈が嫌だったら、この提案は無し!

でも暴力は駄目だし、人の話を聞かない人達みたいだし、

そんな相手にダメージを与えるには、ねぇ」

「よし、やろう」

 

 そのエルザの言葉に後押しされたのかどうかは分からないが、明日奈はキッパリと言った。

 

「私の彼氏が今はどれほどのリア充になったのか、あの二人に思い知らせよう」

 

 かつての同級生達がその言葉を聞いたら、

かつての八幡に一番似合わない言葉だと答えるのは間違いない。

もし本人に同じ言葉をぶつけたとしても、八幡はとまどいを覚えるだけだろう。

八幡の自己評価は未だに低いままなのだ。

それは八幡の美徳の一つでもあるのだが、彼女としては、たまに歯痒さも覚えるのだろう。

そんな明日奈の、八幡の彼女としてのプライドが、

どうやらエルザの提案でくすぐられたらしい。

 

「薔薇ちゃんとアルゴちゃんは、さっき協力するって言ってくれたからいいとして」

「確かに言ったガ……」

「はい、喜んで!」

「あそこにいる人達にも、協力して欲しいなぁ」

 

 エルザは、雪乃達三人を指差しながら言った。

 

「説得は私に任せて。といってもまあ、あの三人は絶対に断ったりはしないはずだけどね」

 

 明日奈は、少し腹黒さが見え隠れする表情でエルザにそう言うと、

三人の下へと向かい、何事か説明を始めた。

先ほどの言葉の通り、三人は明日奈の提案にうんうんと頷いており、

どうやら話を承諾したのは間違いないようだ。

こうして明日奈の下に、八幡派と目される者達が全員集められた。

その中には、何故か相模父娘まで混じっていた。

 

「え……うちがそれをやるの?」

「うちの南が参謀のお傍に?これは必ず撮影しておかねば……」

「何か恩返しと微妙にずれてる気もするけど……うん、まあいっか、やるよ、うち!」

 

 そして明日奈からエルザが正式に紹介されると、仲間達はどよめいた。

 

「どこかで見た顔だと思ったら……八幡君は、いつの間にエルザさんとお知り合いに?」

「えっと……」

「あ、えっとね、実はエルザさん、SAOのβテストに参加してたんだって」

「あ、うん、そうそう、そうなんだよね~」

 

 エルザは正直に答えていいものか迷い、明日奈の顔を見た。

その視線を受け、明日奈はGGOの事をここでバラすのは良くないと思い、

咄嗟にそう言った。確かにそれは事実だったので、何も嘘は言っていない。

普段の雪乃なら、明日奈のその態度に引っかかりを覚えたかもしれないが、

この時の雪乃は驚きが先に立ち、その明日奈の態度には気が付かなかった。

明日奈は、仲間達に勝手に想像させる事で、GGOの事を隠す事に成功したのだった。

ちなみにキリトやリズベットがこの場にいなかった事が、明日奈には幸いした。

二人は、八幡がβテストには参加しておらず、

その前の段階のテストに参加していただけな事を知っていたからだった。

もし二人がこの場にいたら、その場では何も言わずとも、確実に後で突っ込んできただろう。

 

「え?まじで?ヒキタニ君はもう、リスペクトとかそういうレベルじゃないわぁ、

これはもうゴッドヒキタニ君だわぁ」

「あ、後でサインして下さい、ファンなんです!」

「結衣、あんた、あーしの分の色紙もちゃんと買ってくるし」

 

 ゆっこと遥を相手に孤軍奮闘していた八幡は、その仲間達の動きに気が付き、

心の中で、何かやるなら早くしてくれと思い、チラチラとそちらの様子を伺っていた。

やがて明日奈が立ち上がり、何か合図を出した為、八幡は安心したのだが、

それは彼にとっては、ある意味拷問のような時間の始まりだった。

 

「あーテステス、うし、オッケーっしょ!それじゃ、ヒキタニ君ショーの、最初のお二人は」

「は?何だそれ……おい戸部、一体何を……」

 

 八幡にとっては、それはまったくの想定外であり、

戸部にどうなっているのか尋ねようとしたのだが、

戸部は八幡にウィンクを一つすると、そのままアナウンスを継続した。

 

「謎の美少女アルゴちゃんと、我等が実行委員長、相模南!」

「よし、やるか、さがみン」

「うん、アルゴさん、だっけ?宜しくね!」

 

 そのアナウンスと共に、一歩前に出た二人は、大胆にも八幡の両腕に抱き付いた。

 

「え、相模って比企谷の事嫌いじゃなかったっけ?」

「あの知らない子も、なんかかわいくないか?」

 

 周囲の者達は、いきなりのその展開にどよめいた。

 

「お前ら、一体何を……」

「別にいいだろ、せっかくアーちゃんから許可が出てるんだし、

たまにはオレっちにも役得があってもヨ」

「役得?役得って何だよ」

「皆まで言わせんなよ、この朴念仁メ」

 

 八幡は、そんなアルゴに何か言おうとしたが、横から南が八幡に話し掛けた。

 

「ねぇ比企谷、私のお父さんを助けてくれて、本当にありがとう」

 

 その心からの感謝のこもった視線を受け、八幡は優しげな瞳をし、南に言った。

 

「良かったな、相模」

「うん、あんたのおかげ!あの、だ、だから、これは感謝の印ね!」

 

 南はそう言うと、八幡の頬に口付けをした。

 

 その瞬間、周囲は更にどよめき、ゴドフリーは嬉しそうにその写真をとっていた。

 

「やるなさがみん、それじゃオレっちも遠慮なク」

 

 そう言ってアルゴも八幡の頬に口付けをし、棒立ちになった八幡を残し、

二人は後ろへと下がっていった。次に戸部が再びアナウンスをした。

 

「そしてお次は謎の美女、ロザリアさんと、由比ヶ浜結衣のツインピークス!」

「ツイン……何?」

「こういう事」

 

 きょとんとする結衣に対して薔薇は、お手本とばかりに八幡の腕を取り、

その腕を、自身の豊満な胸に挟んだ。

 

「ああ!」

 

 結衣はそのお手本の通り、忠実に薔薇の真似をした。八幡は下手に動く事も出来ず、

さりとて何を言っていいのかも分からず、完全にフリーズしていた。

薔薇がここぞとばかりに胸を押し付け、結衣もそれに対抗していた。

周囲の男子の目もそこに釘付けになっており、女子からひんしゅくを買っていた。

そして雪乃が、もういいでしょという冷たい視線で戸部を睨んできたので、

戸部は慌てて二人の胸から視線を外し、二人に呼びかけた。

 

「はい、とてもいい物をお持ちのお二人でした!男性陣は拍手!」

 

 その瞬間、周囲の男達から万雷の拍手が巻き起こった。

ちなみにこの瞬間が、今までの薔薇の人生の最盛期であった。

まあ今後どうなるかは分からないので、ここでは一応、今までの、としておく。

一方結衣にとってはどうかというと……後ろに下がった結衣の肩を、ぽんと叩く者がいた。

もちろん雪乃である。結衣は一瞬ビクッとしたが、雪乃の表情が普通だった為、

ほっと胸を撫で下ろした。そう、胸を撫で下ろしたのである。

その瞬間に雪乃のこめかみからビキッという音が聞こえ、雪乃は結衣に言った。

 

「ゆいゆい、最近少し太ったかなって気にしていたわよね。

私、ダイエットに最適な方法を知っているのだけれど、知りたいかしら?」

「えっ、本当に?教えて教えて!」

 

 結衣は雪乃の変化には気付かず、無邪気に雪乃に尋ねた。

 

「もぐのよ」

「……えっ?」

「脂肪を減らせば体重が減るのは当然でしょ?今すぐもぐのよ」

「えっと……何……を?」

「その無駄に大きな脂肪の塊に決まってるじゃない。本当は分かっているんでしょう?」

「ちょ、調子に乗ってすみませんでした!」

 

 結衣は一瞬で雪乃に頭を下げ、それを見た戸部は、雪乃の背後から、

ドス黒いオーラが出ているような気がした為、焦ったように次のアナウンスをした。

 

「次は我が校の誇るツインクイーン、氷の……えっ、明日奈さん、これマジで読むの?

あっ、はい、分かりました……氷の女王と、獄炎の女王だぁ!」

 

 戸部は明日奈に睨まれ、ヤケクソになって渡されたメモを読み上げた。

その瞬間、雪乃と優美子はジロッと戸部を睨んだのだが、その視線を受けた戸部は、

その場から逃げたい気持ちを何とか抑え、二人にそっと囁いた。

 

「明日奈さんが怖いんだからしゃーないっしょ……それにこれ、ヒキタニ君の為だべ?

二人とも、しゃっす!しゃっすしゃっす!」

 

 二人は、未だにフリーズしたままの八幡の姿をチラッと見ると、次に互いに睨み合った。

 

「仕方ないわね、言っておくけどここは引かないわよ。絶対に負けないわ」

「あーしも全力でいくかんね」

 

 二人はライバル意識をむき出しにし、八幡の下へと歩いていった。

薔薇と結衣のパフォーマンスで盛り上がっていた者達は、それを見て一瞬で沈黙した。

先手を取ったのは優美子だった。優美子は、いきなり八幡の足に自分の足を絡ませると、

全身を使い、八幡に熱い抱擁をした。その二人の姿は思ったよりも似合っており、

周囲の者達は改めて、八幡の見た目が実は整っていた事に気付かされた。

 

「なんか似合ってるな……」

「さっきから思ってたけど、三浦さん、いつの間に比企谷君と仲良くなったんだろ」

「比企谷君、さっきからモテモテじゃない?でも確かによく見ると、格好良いかも……」

 

 優美子はただ自分の欲望に忠実に振舞っただけだったのだが、

高校の時の二人の関係とのギャップもあるのだろう、八幡に対する周囲の評価を、

本人も意図しないまま劇的に改善する事に成功した。

一方その周囲の反応を敏感に感じ取った雪乃は、自分も何かパフォーマンスをしつつ、

八幡のフォローをしなくてはと考えた。私は何をすべきだろう……私の特性は……

 

(切れ味鋭い発言、そして並ぶ者が無い、猫の知識)

 

 実際にはただの毒舌な上、猫好きは趣味でしかないのだが、

雪乃はそんな事は露とも考えず、その思考に忠実に行動した。

 

「にゃ……にゃぁ……」

 

 雪乃は恥じらいながらも、必死ににゃぁにゃぁ言いながら八幡の腕にすがりつくと、

いきなり八幡の耳をカリッとかじった。その瞬間に八幡の意識が覚醒し、

八幡はぎょっとした顔で雪乃の方を向き、その顔をまじまじと見つめた。

その顔の近さに驚いた雪乃は、咄嗟に八幡の頬に自分の頬を擦り付けながら正面を向き、

この展開に付いていけずに棒立ち状態の、ゆっこと遥に向けて言った。

 

「ど、どう?私達の中心にいる彼は、こんなに女の子にモテるんだ……にゃん」

 

 その瞬間、場の空気が完全に固まった。八幡ですら固まった。

唯一明日奈だけが、よくやったわね雪乃、また一つ自分の殻を破ったわね、

とでも言いたいのか(あくまで他人から見た感想である)雪乃に対し、親指を立てていた。

周りの者達は呆気に取られつつも、口々に囁きだした。

 

「雪ノ下さんってああいうキャラじゃないよね?」

「ああ、絶対に違う。要するにあの変化は全て、比企谷のせいって事か?」

「すげぇ、比企谷君は、比企谷さんだったのか……」

 

(お前はどこの戸部だよ)

 

 八幡は内心でその男子生徒にそう突っ込むと、改めて左右の二人に話し掛けた。

 

「おいお前ら、一体何が起こってるんだ?」

「エルザさんが、あなたの凄さをあの人達に知らしめようって言うから」

「それが何でこうなる」

「タイプの違う色々な女性にモテる男って、すごいって思うでしょ?って言ってたし」

「エルザめ……」

 

 八幡は、非難を込めた瞳でじろっとエルザを見た。

エルザは、その視線はご褒美ですとでも言いたいのか、ゾクゾクとしたような、

恍惚な表情を見せた後に、次は真打ち登場だよと宣言し、明日奈と二人で前に出た。

それを見た雪乃と優美子は後ろに下がり、代わりに明日奈とエルザが八幡の横に立った。

 

「おいエルザ、お前ドSじゃなかったのかよ、何だその表情は」

「えっと……八幡限定?」

「この変態が……で、明日奈、これから何をするつもりだ?」

「即興のパフォーマンスだよ」

「うんとね、明日奈がよくカラオケで、私の曲を振り付きで歌ってるって聞いたからさ~」

「お、そうなのか?今度見せてくれよ……って違う、おい、お前らまさか……」

「せっかく私がいるんだし、八幡が芸能人にもモテるって事も、

あの二人に教え込んでやらないといけないでしょ?戸部君、ミュージック、スタート!」

 

 そのエルザの合図で、戸部が店の人に何かを頼み、

次の瞬間店内に、大音量で神崎エルザの曲が流れ始めたのだった。

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