ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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エピローグが一話だけとは誰も言っていない!
すみません作者がアレなので、当然エピローグは一話じゃ終わりませんでした……

2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第216話 常識を超える男

「今日は久々に、参謀らしい権謀術数の限りを尽くす姿を見れて、とても良い日でした」

「いや、俺は何もしてな……」

「はっはっは、謙虚な所もさすがですな」

「いや、だから俺は何も……」

 

 場が落ち着いた後、ゴドフリーは、とても嬉しそうに八幡をベタ褒めしていた。

どうやら八幡が何を言おうと、それを全て肯定的に受け取ってしまうようだ。

 

(お父さん、比企谷の事が好きすぎでしょ……)

 

 南は内心でそう思い、父のその態度に若干引いた。

 

「儂同様、南も参謀の事が大好きみたいですからな、

これからもうちの南を宜しくお願いします、参謀」

「ひょえっ!?」

「どうした南、変な声を出して」

「う、ううん、何でも無い」

 

(私をお父さんと同列に扱わないで!でもまあ、今は確かにほんの少しは好きだけどさ)

 

 南はそう思い、改めて八幡の方を向くと、ペコリと頭を下げた。

八幡はその南の態度に戸惑いつつ、ゴドフリーにこう答えた。

 

「まあそう言われても、俺と相模にはまったく接点が無いからな、

こういう場でしか会う事も無いと思うが……まあその時は、普通に世間話でもしようぜ」

「あ、うん、比企谷が嫌じゃなければ」

「別に嫌じゃないさ、お前はあの、ゆっことか遥とかいう連中とは違うだろ」

「うん、さすがにあれと一緒にはされたくないというか、ああはなりたくないかも」

「ははっ、お前も中々言うよな」

 

(でも、昔のうちも、傍から見るとあんな感じに見えてたんだろうなぁ……はぁ……)

 

 内心そんな事を考え、少し落ち込む南をよそに、八幡は、尚もゴドフリーと会話を続けた。

 

「ところでゴドフリー、これからどうするんだ?」

「そうですな、特に用事は無いんですが、儂がこのままここにいるのも場違いですし、

とりあえず一度帰って、南から連絡があったらまた迎えに来ようかと」

「なるほど、それじゃあ相模、せっかくだから俺達と世間話でもするか」

「あ、う、うん」

 

 少し沈んだ顔で、それでも精一杯笑顔を作り、そう答えた南を見て、

いきなり陽乃がゴドフリーに声を掛けた。

 

「ゴドフリーさんは、すぐに帰らなくてはいけないという訳ではないんですよね?」

「ええ、まあそうですな」

「なるほど……隼人、ちょっといい?」

 

 陽乃は葉山を呼び、いきなりこう宣言した。

 

「陽乃さん、何か?」

「隼人、八幡君と明日奈ちゃんと南ちゃんを、しばらく借りるわよ」

「……理由を聞いても?」

「積もる話もあるだろうから、その三人と私とゴドフリーさんと、

後はここに置いておく訳にもいかないから、エルザちゃんも一緒に、別の店に一時避難をね」

「なるほど、そうだね、それがいいかもしれない」

 

 葉山はその説明を聞き、納得したようにそう答えた。

ゴドフリーも、八幡や明日奈とはまだ話し足りないようで、嬉しそうにそれを承諾した。

南は、何で私もと戸惑いながらも、特に反対の意思を示そうとはしなかった。

 

「それじゃ八幡君、あなたがこの子の保護者なんだから、エルザちゃんを運んで頂戴」

「今、ものすごく嫌な決め付けをされた気が……」

「違うの?」

「いえ……まあ俺に責任がありますよね。しかし……なぁ明日奈、変態って染らないよな?」

「ど、どうだろう……」

 

 明日奈はそう言いながら、逃げるように一歩下がろうとしたのだが、

八幡は、絶対に逃がさんと言わんばかりに、素早く明日奈の手を掴んだ。

 

「ちょ、やめて、変態が染っちゃう!」

「大丈夫、自分の彼女が多少変態になっても、俺は気にしない」

「比企谷、その発言はちょっと引くわ……」

「はっはっは、参謀は相変わらず懐が広いですな」

「お父さんは、比企谷の事が好きすぎだから!」

 

 南は黙っていられなくなったのか、そう絶叫した。

それに苦笑した八幡は、そのまま黙ってその場に腰を下ろし、

明日奈も何だかんだ言いながらも、その八幡の背中にエルザを乗せようとした。

 

「儂も手伝いますぞ、副団長」

「あ、うん、ありがとうゴドフリー」

 

 こうして無事にエルザを店から連れ出した一行は、

そのまま店を出て、八幡の車が停めてある駐車場へと向かった。

八幡と明日奈は、エルザを後部座席に寝かせると、陽乃にどこへ行くのかを確認した。

 

「場所は了解しました。ところでハル姉さん達は、何で移動するんですか?」

「これ」

「……これは?」

「あっ、これ、うちのギルドのエンブレムじゃない」

 

 陽乃が八幡に見せたのは、ヴァルハラ・リゾートのエンブレムの形をした、

小型のマイクのような物だった。

 

「なんか通信機みたいな」

「その通りよ、それはあなたが持っていなさい。まあ、いつか役にたつ時もあるでしょう。

あ、私の分は別にあるから、気にしなくていいからね」

「……これはどう使えば?」

「それに向かって呼びかけると、キットが来てくれるわ」

「おお……」

 

 八幡は、そういった未来的なシステムが大好きだったので、

わくわくしながら、その通信機に向かって呼びかけた。

 

「おいキット、聞こえるか?今俺のいる場所に、すぐに来てくれ」

「了解しました、八幡」

 

 マイクを通してキットの声が聞こえ、八幡は、まだかなまだかなと、

まるで子供のようにぶつぶつ言いながら、きょろきょろと辺りを見回した。

 

「……ねえ明日奈さん、比企谷は何をやってるの?」

「えっとね、もうすぐ相模さん達の乗る車が、ここに来てくれるんだよ」

「そうなんだ」

 

 南は、外人の運転手でも雇ってあるのかなと思いながら、同じように辺りを見回した。

そして遠くから、黒くて派手なスポーツカーが近付いてくるのを見つけた南は、

あれかなと思いながら車の運転席を見た。だがそこには誰も乗っていない。

 

「ひっ」

「どうした相模」

「あ、あの車……勝手に動いてる……」

 

 南の指差す先に、キットを見つけた八幡は、嬉しそうにキットに手を振った。

 

「お~いキット、ここだここだ!」

『久しぶりですね、八幡』

「キット、久しぶり!」

『久しぶりです、明日奈』

「く、車が喋った!?」

 

 もしかして、車の幽霊?と、ビクビクしていた南は、そのやり取りを見て驚愕した。

そしてゴドフリーは、キットを見ると、わなわなと震えだした。

 

「こ、これはまさか……」

「お、ゴドフリーは、キットの事を知ってるのか?もしかして、子供の頃に見てたか?」

「当然ですぞ、大ファンです!」

 

 ゴドフリーは、興奮ぎみにそう叫んだ。

 

「そうかそうか、これが現代に蘇った、あのキットだ」

「おおおおお、さすがは参謀、一生付いていきます!」

 

 南は呆然としながら、その光景を眺めていた。

今日初めて知った、今の八幡を取り巻く環境は、ことごとく南の常識を超えていた。

そんな南の残ったわずかな常識が作用したのだろうか、南はぽつりと八幡に言った。

 

「ねぇ、これ、道交法とか大丈夫なの?」

「あ……いや、あれ、確か最近大丈夫になったんだったか?」

「そうね、自動運転に対応する為、最近道交法が改正されたから、今はもう問題は無いわ」

「あ、そうなんですか」

 

 南はその説明にとりあえず納得し、八幡の周囲はこういうものなのだと、

諦めにも似た気持ちで現実を受け入れた。

そして陽乃と相模父娘はキットに乗り込み、八幡と明日奈も八幡の車に乗り込み、

二台の車は、陽乃が予約を入れた、個室完備の店へと向かった。

そして店に着くと、八幡はエルザの頬をペチペチと叩き、エルザを起こそうとした。

 

「うう~ん、シャナ、もっとぉ」

 

 それを聞いた瞬間、八幡は、とても嫌そうな顔をして明日奈に言った。

 

「明日奈、頼む」

 

 明日奈はそれを聞いた瞬間、ぶんぶんと首を振ったのだが、そのときエルザがこう呟いた。

 

「ほらぁ、シズもこっちに来て、一緒にシャナに罵声を浴びせてもらおう」

「い、嫌あああああああ!」

 

 明日奈はそれを聞いた瞬間に、エルザの頬を引っ叩いた。

そのおかげでエルザは覚醒し、そんなエルザに八幡が事情を話し、

一行はやっと店内へと入る事が出来た。

 

「ふう……何とか落ち着けたか……」

「参謀、お疲れですな!」

「まあ、あんな目に遭った後だからな……」

 

 八幡は、恨みのこもった目でエルザをちらっと見た。

エルザがそんな八幡に親指を立ててきた為、八幡はため息をつきながらエルザに言った。

 

「俺はああいうのは、別に望んでないんだが……」

「ええ~?だってだって、八幡が悪く言われるのは嫌だよ!」

 

 エルザがそう言いながら涙ぐんだのを見て、八幡は慌ててエルザをなだめた。

 

「す、すまん、俺の為に頑張ってくれたのに、今の言い方は無いよな。ありがとな、エルザ」

「う、うん」

 

 エルザは涙ぐんだまま八幡に頷き、下を向いた。

だが南は見てしまった。下を向いたエルザが、ニヤリとしながら舌を出す所を。

南は何か一言言うべきかと一瞬考えたのだが、

エルザが突然南の方を向き、とても魅力的な笑顔でウィンクをしてきた為、

南はクスリと笑うと、そのまま何も言わない事にした。

 

「まあいいじゃありませんか参謀。参謀がモテるのは、まったくもって事実なのですからな」

「いや、まあそうは言うがな、ゴド……っと、相模さん」

「私の事はゴドフリーでいいですぞ、参謀」

「まあ確かに、相模さんだと、相模とかぶるしな」

 

 そう言って八幡は、チラリと南の方を見た後、ゴドフリーに言った。

 

「ところでゴドフリーの本名は、何て言うんだ?」

「そういえば自己紹介をしていなかったですな。儂の本名は、相模自由と言います。

これからも末永く、宜しくお願いします」

「俺は比企谷八幡だ。こっちが、結城明日奈。

ついでにこちらが、俺の上司になる予定の雪ノ下陽乃さんで、これはおまけの神崎エルザな。

っと、こっちにも相模を紹介しないとか。こちらは相模南、俺の元同級生だ」

 

 八幡はそう全員の紹介をし、五人はそれぞれ会釈をした。

 

「ところでゴドフリー、フリーの部分は、自由って名前から来てるんだろうなって、

何となく分かるけど、ゴドの部分は何か意味があるの?」

「相模のガミの部分が神っぽいなと思って、ゴッド・フリー、から、ゴドフリーになったと、

まあ、そんなただの語呂合わせですぞ、副団長」

「なるほど、まあ本名でプレイしてた俺と明日奈に比べると、捻りがきいてるよな」

「いやいや、そのおかげで良い事もあったではありませんか」

「ん、何かあったか?」

 

 ゴドフリーのその言葉に、八幡と明日奈は首を傾げた。

 

「うちの南が、高校の同級生が参謀かもしれないと思ったのは、まさにそのおかげですぞ」

「あっ、確かにそうだね!」

「そう言われると、そうかもしれないな」

 

 三人は顔を見合わせ、楽しそうに笑い合った。

だが当の南は、高校の同級生という言葉が出た途端、体を固くした。

 

「ん、相模、どうかしたのか?何か悩みでもあるなら、俺で良ければ聞くぞ」

 

 そんな南の様子に気付いた八幡が、そう声を掛けた。南は何を言えばいいのか分からず、

無意識に救いを求めてか、きょろきょろと辺りを見回した。

そんな南に対し、陽乃が優しく話し掛けた。

 

「頑張りなさい。その為に、私はあなたをここに連れてきたんだから」

 

 その陽乃の言葉が、南の背中を押した。

 

「ねぇ比企谷、うちの話を聞いてくれる?」

「ああ」

「あのね、うち……うちね……」

「おう」

「昔の事を、今ここであんたに謝りたいの!」

 

 八幡は、その予想外の言葉に面食らった。それは自由も同じだったようだ。

 

「お、おい南、それはどういう……」

「お父さんにも、せっかくだから聞いて欲しいの。

うちが高校の時、どれだけ駄目な子だったのかを」

 

 その言葉を聞いた自由は、大人しく引き下がると、黙って腕を組み、

八幡は南の表情からその覚悟を見てとったのか、静かな口調で言った。

 

「分かった、それでお前の気が済むならいくらでも聞く」


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