ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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このクラディール関連のエピソードは、意外と長くなります。
少しだけ言うと、八幡は、二ヶ所遠出をする事になります。後は秘密という事で!

2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第219話 同窓会を終えて~雪ノ下家とヴァルハラ

「雪ノ下さん、結衣、優美子、比企谷から電話で、今日はちょっと戻れないそうだよ」

「あら、それは残念ね。まあ彼には高校時代の積もる話なんて、

特に無いのかもしれないけどね」

 

 雪乃は葉山からそう連絡を受け、ふふっと笑いながら言った。

 

「ヒッキーにとっては、昔よりは今って感じだしね!」

「あーしは、修学旅行の時とかの、きょどった感じの態度とかを、

からかいたい気分はあったんだけどなぁ」

 

 結衣と優美子は雪乃の言葉を受け、残念ながらも楽しそうにそう言った。

 

「あっ、でも帰りはどうしよう?」

 

 そう言った結衣に、葉山は続けて言った。

 

「それについても聞いているよ。雪ノ下さん、外に車を待たせてあるから、

帰りはそれに乗って帰ってくれとの事だよ」

「都築でも呼んだのかしら」

「かもしれないね」

 

 その葉山の言葉に、雪乃はそう推測した。

そして少し後に、外に出た雪乃達三人を待っていたのは、当然の事ながらキットであった。

 

『雪乃、こちらです』

「キット!そう、外で待っていてくれたのは、あなただったのね」

『八幡に、そう頼まれましたので』

 

 それを聞いた雪乃は、少し驚いたようにキットに尋ねた。

 

「頼まれたって、まさかあなたの所有権は、今は八幡君に移っているの?」

『今の私のグランドマスターは八幡になっています。次点が陽乃とあなたです』

 

 雪乃はその言葉に意表を突かれた。

 

「……よくあの父さんが、それを許したものね」

『陽乃の話だと、旦那様は、八幡が私を気に入ったと聞いて、喜んで譲ると言ったようで、

奥様も積極的にそれに同意したようです。法律上の所有権自体は陽乃のままですが、

マスター権限は全て八幡に譲り、それに伴い保険関係の問題も調整したようです』

「……まったく、父さんも母さんも、八幡君の事が好きすぎでしょう」

 

 奇しくも雪乃は、南と同じような事を呟き、三人はそのままキットに乗り込んだ。

運転席には、形式だけとはいえ雪乃が座った。

 

「あれ、さっき喋ってた運転手さんはどこ?ゆきのんが運転するの?」

「あんた、いつの間に免許をとってたの?」

 

 そう疑問を呈する二人に対し、キットがこう答えた。

 

『いいえ、運転するのは私です』

「ええっ?く、車が喋った!?」

『初めまして、私はキットと言います。今日はお二人を家までお送りするように、

八幡に命令された為、参上しました』

「な、何これ……なんかすごい」

 

 こうして驚きつつも、三人はキットの運転でそれぞれの家路へとついた。

ちなみにいろはは久しぶりに小町と遊びに行くらしく、先に帰ったようだ。

そのまま二人を送った後、久しぶりに自宅へと戻った雪乃は父親に言った。

 

「父さん、よくキットを手放す気になったのね、ちょっと驚いたわ」

「ははっ、雪乃のそんな顔を見るのも久しぶりだね。

あの車を八幡君がとても気に入ってくれたと聞いたから、即決したんだよ」

「父さんは、八幡君の事が好きすぎよ……」

「あら、お父さんだけじゃなくて、私もなのだけど」

「母さん」

 

 突然後ろからそんな声が聞こえ、雪乃は慌てて振り返った。

 

「彼は雪ノ下家の恩人なのだから、これくらいするのは当然よ。

あなた達姉妹の絆を、前向きにしっかりと結んでくれたのだから」

「……」

「という建前でね」

「建前なの!?」

 

 雪乃は珍しくそう突っ込んだ。こんな雪乃の姿は、滅多に見られるものではない。

 

「確かにそっちも感謝はしているわよ。陽乃の能力や態度にはまったく不満は無かったし、

あなたに関しても、その能力に関しては特に心配するような事は無かったわ。

彼がいなくても、あなた達ならば立派に雪ノ下の家を守ってくれたと思う。

でもそれは多分、ただの停滞でしか無かったのよ」

「母さん……」

「私達は間違っていたんだよ、それを思い知らせてくれたのは陽乃だった。

お前は知らないかもしれないが、陽乃はこの前こんな事を言ったんだ。

『いずれ雪ノ下の家も、私のソレイユ・コーポレーションの傘下に収めるわ。

そうすれば、誰が社長になっても立派に家を守った事にはなるでしょう?

その上で私は、ソレイユの社長に八幡君を据える。そうすれば私達は自由に動けるわ。

政治家になるかどうかはその時に決める。地盤さえしっかりしておけば、

政治家に私達の息のかかった人間を送り込んでもいいでしょう。

だから私達はそれまで自由に動き、とにかく力を蓄えるのよ』とね」

「姉さんがそんな事を……」

 

 二人は雪乃に頷き、尚も言った。

 

「だから私達は相談して、もうお前達に、自分達の都合を押し付けるのはやめようと、

そう決めたんだよ。そして今、それはこの上なくいい結果を出している。

お前達の顔も明るくなったし、何よりお前が家に帰ってきてくれるようになった」

「昔から私は、あなた達の進路を私が管理する事こそが、

二人の幸せに繋がるとそう考えてしまっていたわ。でもそれは間違いだった。

最初に二人が私達の下に押しかけてきた時は、確かに反発もあったけど、

でもあなた達は立派に結果を出し、私達の期待以上の働きをしてくれた。

そして今、私達のコントロールを離れ、あなた達は羽ばたこうとしているわ。

これも全て彼のおかげなのよね」

「父さん、母さん……」

 

 そう言葉を詰まらせた雪乃に対し、二人は一転していたずらめいた表情でこう言った。

 

「でも実際問題、キットを譲ったのは、私達が、彼の事が大好きだからなんだけどね」

「ええ、本当に彼は、人たらしというか、気が付いたらもう好きになっていたわよね」

「二人とも、本当に彼の事が好きすぎよね……」

 

 雪乃のその呟きに、二人はしかしこう反撃した。

 

「まあそのおかげで、お前達の婚期が遅れそうなのが困った問題なんだけどね」

「いっそ法律が改正されて、二人とも八幡君が、奥さんにもらってくれないかしらね」

 

 少し顔を赤くしながらそれを聞き流した雪乃は、口に出してはこう言った。

 

「姉さんの最終目標は、もしかしたらそこなのかもしれないわね」

 

 二人の言葉を受け、冗談でそう言った雪乃だったが、

雪乃はその自分の言葉に固まり、二人も同時に固まった。

 

「いや、でも、まさか……なぁ?」

「……案外ありえるのかしら」

「さすがにそれは……でも姉さんならあるいは……」

「ま、まあ、この話はやめておきましょう」

「そ、そうだね」

 

 三人は、その話はそこでやめる事にした。

話しているだけでそれが現実になるような、そんな気がしたからだった。

 

「しかし、二人の婚期が遅くなる、もしくは結婚しないなんて事になったら、

うちとしてはちょっと困ってしまうわね」

「もう一人か二人子供を作るべきか、ちょっと検討しようか」

「そうね、それじゃあ雪乃、私達はちょっと用事が出来たから、

あなたは自分の部屋で、ゆっくり休んでなさいね」

「ちょ、ちょっと、父さん、母さん、いきなり何を言っているの!?」

 

 そんな雪乃の言葉には耳を貸さず、二人は去っていき、

雪乃は、二人も変わったわと思いながら自分の部屋に戻った。

 

 

 

 ちなみにこの話はその場だけでは終わらず、二人はこの後も何かとその話題に触れた。

その話題の中に、こんな話があった。

もし双子の姉妹が生まれたら、どうしようかという話だった。

 

『一人は彩りのある人生が送れるように、彩乃と、

もう一人は、幸せになるように、幸乃と名付けよう。

あやのとさちの、二人のイメージカラーは、明日奈と八幡にちなんで、白と黒にしよう』

 

 そんなとりとめの無い会話の中で、その二人はいつしか、苗字から一文字と、

イメージカラーからの連想で、白雪姫と、黒雪姫と呼ばれるようになっていた。

両親がそう楽しそうに妄想する姿を、陽乃と雪乃は、呆れながら聞いていたものだった。

その話が現実になるかどうかは、今はまだ、誰にも分からない。

 

 

 

 部屋に戻ると雪乃は、何か予感があったのだろう、そのままALOへとダイブした。

そして『ヴァルハラ・ガーデン』に着いた雪乃を出迎えたユイとキズメルがこう言った。

 

「ユキノさん、ユイユイさんとユミーさんが、お待ちかねですよ」

「誘ってないけど、多分ユキノも来ると二人は言ってたが、まさか本当になるとはな」

「そう、わざわざの出迎え、ありがとうね二人とも。

こうして誰かに迎えてもらうのは、何だかとても嬉しいわ」

 

 ユキノはユイとキズメルにそう言うと、中へと入っていき、

ソファーに腰掛けている二人に言った。

 

「二人とも、こんな所でどうしたの?」

「ユキノン!あたしは何となく、寝るには少し早いなって思って、

で、ここなら誰かいるかもって思って、何となくログインしてみたの」

「あーしも何となくかな、まあ確かに、誰かしらいるだろうとは思ってたけどね」

「まあ実際私も、そんな感じなのだけれど」

 

 三人はそう言うと、キズメルの煎れてくれたお茶を飲み、ふぅっと一息ついた。

どうやらキズメルは、ユイに色々と教わっているようで、

メイドのような事も、ある程度出来るようになっていた。

 

「そうだ、せっかく知り合ったんだし、ちょっとエルザさんのPVでも見てみない?」

「あーし見た事ないから、ちょっと興味あるかも」

「私も見てみたいわ」

「それじゃ決まりね」

 

 ユイユイはそう言いながらコンソールを操作し、エルザの動画を呼び出した。

 

「うわ」

「歌、すごく上手いね」

「これがあの人と同一人物だなんて、ちょっと信じられないのだけれど」

「これは……」

 

 その時キズメルが、感心したように呟いた。

キズメルはコンソールを自ら操作すると、二層の主街区、ウルバスの風景を映し出した。

それを見た一同は、その風景と曲のマッチングに感心した。

 

「これは多分、ここの事を歌っているのではないかと思ったんだが……」

「なるほど、もしかしてエルザさんは、βテストの時にウルバスを訪れて、

その時の事を歌にしたのかしらね」

「確かにこれを同時に見ると、納得出来るかも」

 

 そう口々に感想を言う三人の耳に、チャイムのようなものが聞こえた。

ユイが外部モニターを操作すると、そこには、フカ次郎の姿があった。

 

「フカ次郎さんみたいです、どうしますか?」

「入ってもらっていいのではないかしらね、一応見習い扱いなのだし」

「分かりました、今案内してきますね!」

 

 そしてユイの案内で中に入ってきたフカ次郎は、軽い調子でこう挨拶をした。

 

「たのも~う!フカ次郎ちゃんが、また挑戦しに来ましたよ!」

「こんばんはフカさん、でも困ったわね、今日はハチマン君もアスナもキリト君も、

三人ともいないのよね」

「ありゃ、それは残念」

「とりあえずフカ次郎さん、お茶をどうぞ!」

「や、どもどもー!ユイちゃんはいつもかわいいね、

そしてキズメルさんは、うちの嫁に来て欲しいくらいに格好良い美しいね!」

 

 それを聞いたキズメルは、真顔でこう答えた。

 

「嫁?嫁とは伴侶の事か?それならもう、私はおそらく、ハチマンの下へ嫁いでいると、

そう言えるのではないだろうか」

「かーっ、羨ましい!あれ、って事はつまり世間では、

私もリーダーの下に嫁入りを願っているように見えてしまうと!?」

 

 フカ次郎のその言葉に、三人は平然とこう答えた。

 

「そうね、私達も、実はそう見られていると思うわ」

「間違いないね」

「まあフカちゃん、他人の言う事なんか気にしなくてもいいと思うよ。

まあもっとも、ここにはそれを嫌がる人なんか一人もいないんだけど」

「何ですと!」

 

 フカ次郎は驚き、三人にこう尋ねた。

 

「あの、その、リアルのリーダーの事を、差し支えない程度に教えて頂いても?」

 

 その言葉を聞いた三人は、少し自慢するかのように、さりとて差し支えない範囲で、

ハチマンの事をフカ次郎に教えてあげる事にした。

 

「昔はちょっと目が腐っていたのだけれど、今はそれも解消されて、

いわゆる『イケメン』扱いされる事が多いわね」

「ぶっきらぼうだけど、実はよく他人の事を見てて、すごく優しいし」

「今度、ある大きな会社の社長に就任するらしいよ!本人まだ学生なんだけどね!」

「何ですと!?!?!」

 

 フカ次郎は先ほどと同じ言葉を、より強い調子で繰り返した。

 

「若くてイケメンで社長に就任予定とか、すごい優良物件じゃないですか!!!!」

「え?ああ、私達はもう慣れてしまっているけれど」

「確かにそう言われると……」

「これ以上ない超優良物件かも!?」

「是非、是非私を、その末席に加えて下さいっっっ!」

 

 フカ次郎はそう懇願したのだが、ここにいる三人には、それはどうしようもない。

 

「あーしが思うに、アスナがいる限り、それは無理だとは思うけど」

「でも末席っていうかまあ、関わり方にも色々あるしね!」

「あなたは何よりも先ず、ギルド入りを達成する必要があるのではないかしら」

「分かりました!今よりも、もっともっと頑張りまっす!」

 

 フカ次郎は、最後のそのユキノの言葉を受け、全身にやる気が漲ってくるのを感じた。

こうしてはいられないと、フカ次郎はその場を後にしようとしたのだが、

ふとそんな時、流れている曲と映像に耳と目がいったフカ次郎は、足を止めた。

 

「えっと、ちなみに今流れているこの曲は……」

「これはね、神崎エルザさんの曲だよ!」

「ほうほう、何と言えばいいか、月並みですが、すごくいい曲ですな……」

「もうちょっとゆっくりして、聞いてけばいいんじゃね?」

「はい、そうしますです!」

 

 フカ次郎は即答し、ソファーに並んで腰を下ろした。

その後も四人は、色々と仲良くガールズトークを繰り広げ、

しばらくしてその集まりはお開きとなった。

そしてフカ次郎は、ログアウトするやいなや、東京にいる友達に電話を掛けた。

 

「あ、コヒー?今日ね、すごくいい曲を見つけたんだ、神崎エルザって人の曲!

是非聞いてみて欲しいんだけど、うんそう、それそれ。後ね後ね、最近すごく楽しいんだ、

すごい人達と知り合いになってさ、今はその人達の仲間に入れて欲しくて、

もっともっと強くなろうって頑張ってるんだよね。本当にリーダーの人がすごくてさぁ……」

 

 こうして三人娘とフカ次郎は、それぞれの一日を終えた。


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