「……とまあ、これが当時あった事件の全容だな」
「そんな事が……」
雪乃達が『ヴァルハラ・ガーデン』でガールズトークを繰り広げている頃、
八幡達の説明も終わり、陽乃達三人は、SAO組の者達が、写真の男を嫌う理由を理解した。
「これがその、クラディールって訳ね」
「そんな奴だったんだ、これはもう、ぶちのめして支配下に置くしかないね!」
「支配下?」
そのエルザの言葉に、南は目を丸くした。
八幡は南に、エルザも実はストーカー被害にあっていた事、今はその男を傍に置いている事、
等を軽く説明した。南はエルザを心配そうに見つめたが、
当のエルザがまるで問題の無さそうな態度をとっている為、南はそういう事もあるのかと、
何となく納得し、それ以上何か言うのをやめた。
「まああの時もケースもエルザのケースも、結局似たようなものなんだよな。
ストーカーされる方が、する方よりも遥かに強い場合は、油断さえしなければ、
最終的には簡単に解決出来るって、まあそんな理屈だけどな」
「現実だと中々そうはいかないよね」
「まあな」
八幡はその南の言葉に重々しく頷いた。次に八幡は、エルザの方を向いて言った。
「あいつを支配下に置くつもりはない」
「え~?何で何で?」
そのエルザの疑問に、八幡は子供っぽくこう言った。
「あいつの視線の触れる所に、明日奈を置く事は絶対に許さん。
あの蛇のような視線は正直気持ち悪い。とにかくあいつは嫌いだ」
「ほぉ~」
「へぇ~」
「ふ~ん」
「何だよお前ら」
エルザは感心したように、陽乃は面白そうに、そして南は、少し拗ねたようにそう言った。
明日奈は両手を頬に当て、いやんいやんと体を揺すっていた。
そんな明日奈を見て、三人はアイコンタクトをとったかと思うと、
突然立ち上がり、いきなりジャンケンを始めた。
「やった、私が明日奈ちゃんだ!」
「私が比企谷だね」
「うわ~ん、クラディールを引いちゃった~」
「は?は?」
何が起こっているのか理解できない八幡は、困ったようにゴドフリーの顔を見た。
ゴドフリーは大人らしく、落ち着いた態度で首を振った。そして寸劇が始まった。
み「ど、どうか、うちのアスナにだけは手を出さないで!何でもするから!」
エ「はっはぁ~、あの女は俺が好きにしてやるぜ、ずっとエロい事をやりまくりだ!」
み「ドカ~ン」
エ「ぎゃ~、お前、何で動けるんだ~」
み「そんなのお前が俺の罠にはまったからに決まってるだろ、この外道が!」
は「私もいるよっ!ゴドフリー、大丈夫?」
ゴ「お、おお?ふ、副団長?ありがとうございます?」
エ「副団長、何故ここに!」
は「そんなの決まってるじゃない、ハチマン君のいる所には、常にこの私、
可憐で格好いい、アスナちゃんがいるのよ!」
そう言いながら陽乃は、実際その指には何もはまっていないが、
左手の薬指の指輪をエルザにアピールするような仕草をし、ドヤ顔で八幡の顔を見た。
その陽乃のドヤ顔に、八幡の顔は引きつった。明日奈はもじもじと八幡の後ろに隠れた。
「大体合ってますな」
ゴドフリーが重々しくそう宣言した。八幡は顔を赤くして四人に抗議した。
「ゴドフリーも、ちゃっかり小芝居に参加してるんじゃねえ!
それにお前ら、わざわざ演技してまで、一々あの場面を再現すんな!」
「だって、ねぇ……」
「うん」
「だよねぇ……」
「な、何だよお前ら」
三人のジト目を受け、八幡は先ほどと同じ台詞を言った。
「あんな話を聞かされた後で独占アピールとか、羨ましくって砂糖を吐きそうなんですけど」
「お父さんの命を救ってくれた事には感謝するけど、
でも比企谷は、明日奈さんへの愛をアピールしすぎだから!」
「私決めた!生まれ変わって明日奈になる!」
「お前ら俺にどうしろと……」
さすがに自覚はあるようだが、それでも納得がいかない八幡は、そう呟いた。
助け船を出したのはゴドフリーだった。
ゴドフリーは落ち着いた様子で、諭すように八幡に言った。
「まあまあ参謀、これもモテる男の宿命だと思って、ここはじっと我慢ですぞ。
かく言う私も、若い頃は……」
「お父さん、嘘はやめて」
「す、すまん南、見栄っぱりなお父さんを許してくれ」
「はぁ、お母さんには内緒にしておいてあげるね」
その父娘の遣り取りで、場は一応落ち着き、本題へと戻る事となった。
「で、問題は、こいつをどうとっちめてやるかだけど」
「少なくとも犯罪には問えませんな、もし何か証拠があれば、儂が逮捕してやるものを」
「は?ゴドフリーの職業って、もしかして警察関係か何かなのか?」
「そういえば言ってなかったですな、儂はこういう者です」
ゴドフリーはそう言うと、名刺を取り出し、八幡に渡した。
「警視正、相模自由って……これってかなりえらいんじゃ……」
「大きな警察署の署長くらいの役職ですな。あの事件で出世も遅れる事になりましたが」
「あら、ゴドフリーさんって、キャリアだったのね」
「まあ、そういう事ですな。なので何か事件性があれば、
例え上に睨まれようと、儂が何とかします」
八幡はそんな自由を見て、呆然と呟いた。
「だからお前、あの頃からあんなにお堅い考え方をしてたんだな……」
「ゴドフリー、すごいすごい!」
「いやぁ、参謀と副団長にそう言われると、少し照れますな」
「俺は全然褒めてないけどな」
「それじゃあ、そっち方面はゴドフリーさんにに任せる事にしましょう」
陽乃がそう話を締めくくったが、どうやら八幡には、別に何か心配事が生まれたようだ。
「しかしゴドフリー、これから俺達がやろうとしてる事って、脅迫罪か何かにならないか?」
ゴドフリーはその問いに、少し考えながらハッキリと言った。
「そうですな、直接本人を脅したらそうなりますな。
なので、自主的に次期社長を降板するように仕向ければ、ギリギリ大丈夫だと思います。
実際に被害を受けている者もいる訳ですし、その辺りは許容範囲内という事で」
「なるほどな、それじゃあまず、章三さん経由でレクトにも一応話を振ってみて、
提携の話を進めてもらって、ある程度してから、そういえばって感じで、
俺達と社長との面会をセッティングしてもらって、その席にあいつを呼べばいいのか」
八幡はそう考えを纏めると、更にこう言った。
「あいつの他に倉エージェンシーの後を継げる人材がいれば、更にベストなんだがな」
「あっ、それならさっきも言ったけど、あいつの弟がいいんじゃない?
お父さんに似てすごくまともな人だよ。
ちょっと上昇志向な所もあるみたいだから、そういう事なら最適じゃない?」
エルザがそう言い、八幡は頷いた。
「そうか、それは最高の人材だな。よし、それでいこう」
「ついでにその場に弟も呼べばいいんじゃないかしら。当然弟への根回しはするけどね。
最初の話をその弟に持ち込むついでに、
SAO時代の兄の行動について、『事実だけを教えて』あげればいいわね」
「くれぐれも、犯罪性の無いように頼みますぞ」
「真実を教えるのは、犯罪にはならないわよね?」
「ええ、もちろんですとも」
ゴドフリーのお墨付きが出た事で、こうして方針は決まり、
一同はそれに合わせて動き出す事となった。
「ところで最悪一度は、クラディールの前に明日奈ちゃんが出る事になる訳だけど、
八幡君的にそれはいいの?」
「う……」
八幡は目に見えて葛藤していたが、そんな八幡に陽乃は再び言った。
「ハチマン君のいる所には、常にこの私、可憐で格好いい、アスナちゃんがいるのよ!」
「分かりました、今回は我慢しますから!もうそれはやめて下さい!
確かに俺と明日奈は常に一緒にいるのが当たり前ですから、当然今回も同行してもらいます」
「私も行くよ!」
エルザがそう言い、八幡は、当然だという風に頷いた。
「まあお前は当事者だからな、一緒に行かない方が不自然だろう。
それに社長に、今までお世話になったお礼も言わないとな」
「うん」
「それなら儂も行きますぞ」
「ゴドフリーも?」
「儂はあいつの元同僚ですからな、同行する口実としては、問題ないでしょう。
それに儂が行って身分を明かせば、国家権力がその場にある事になる訳ですから、
あいつも何か暴力的な手段に訴えたりも出来なくなるでしょうし」
「見た目的にも怖いしね」
明日奈は、ゴドフリーの頼もしい見た目に対し、そう言った。
「任せて下さい副団長、恩返しでもありますし、今度は私がちゃんとお守りしますぞ」
「うん!」
そんな五人を、南は眩しそうに見つめていた。
そんな南に気が付いた八幡は、優しい声で南に言った。
「おい相模、今回はお前の出番は無いが、いずれまたこういう事があるかもしれん。
その時は、俺の片腕としてしっかり働いてもらうから、
今回は大人しく、俺達の勝利の報告を家で待っててくれよな」
「べ、別にうち、あんた達の事なんか、全然心配してないし!
でも……うん、そうなれるように、しっかり勉強して待ってるね」
南はそう宣言し、ついでに八幡にこんな頼み事をした。
「い、いつまでもうちの事、相模って呼ぶのは、お父さんと混じって混乱するかもだから、
特別に今後はうちの事、南って呼んでもいいんだからね」
八幡は、その言葉に苦笑すると、最後にこう言った。
「ああ、今後とも宜しくな、南」
「うんっ!」
南はその言葉に、嬉しそうに返事をしたのだった。