ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第231話 信頼の証

「そうか、あの馬鹿が動いたか。敵は何人くらいだ?」

「二十人くらいかしら、でもほとんどが新人ね。

ほら、あんたってBoBの決勝の動画が中継されるまでは、

まったくの無名だったじゃない。だから今も、あんたの情報はほとんど流れてないみたいで、

それを警戒してか、古参のプレイヤーはまだ動こうとはしていない感じね」

「なるほど、状況は分かった。後はこちらで対処する。

ご苦労だったな薔薇、俺達も後で合流するから、ひき続き監視を頼む」

「分かったわ、任せて」

 

 そこで薔薇との通話は終了した。丁度その時、明日奈が戻ってきた。

 

「八幡君、お待たせ!」

「ん、和人と姉さんは?」

「二人は飲み物を買うからって、売店に行ったよ」

「そうか……なあ明日奈、家に戻ったら、すぐにGGOに入れるか?」

 

 八幡が少し緊張した様子でそう言った為、明日奈はきょとんとしながらこう答えた。

 

「大丈夫だけど、何かあったの?」

「ああ、実は……」

 

 八幡の説明を聞いた明日奈は、どんと胸を叩いた。

 

「分かった、返り討ちにいくんだね、任せて!」

「いや、今回はあの三人に任せるつもりだ。俺達は基本手出し無用のバックアップだな」

「あ、そうなんだ?」

「特にシノンには、スナイパーとして成功してもらいたいからな。

ついでにピトにも、今の殻をある程度破って欲しいと思ってる。

そのために保険を一つ掛けておいたから、今回はそれを使おうと思う」

「へぇ~、どんな?」

「実はな……」

 

 その八幡の説明を聞いた明日奈は、少し驚いた。

 

「そっか、八幡君は、そこまであの二人の事を買ってるんだね」

「俺の目に狂いが無ければ、あいつらは化けるはずだ」

「なるほど……それじゃあ八幡君、二人が戻ってくる前に、小町ちゃんに連絡だね」

「ああ」

 

 そして八幡は小町に電話を掛けると、何事か指示を出し始めた。

一方その頃、GGOでは、丁度ピトフーイがシノンの姿を見付けた所だった。

 

「あっ、シノノンじゃん、やっほー!」

 

 ピトフーイはシノンに、軽い調子でそう呼びかけた。

それに対してシノンは、普通にピトフーイに手を振り返した。

この二人、もうすっかり友達である。

 

「ハァイ、ピト、今日はシャナ達は?」

「今日はまだ見かけてないなぁ。そろそろシャナ成分が切れちゃうよぉ!」

「ふ~ん、今日はどうする?集まったら皆で何かする?」

 

 シノンも心得たもので、そのピトフーイの言葉を華麗にスルーした。

 

「シノノン、スルーしないでよ!」

「え~?だってあんたがシャナ大好きなのは、今更だし……」

「シノノンだって、シャナ……」

「ピトさん、シノンさん!」

「ケイ、待ってたわ!」

 

 まさにちょうどその時、遠くからベンケイが走ってくるのが見えた。

シノンはピトフーイの言葉を遮るように、ベンケイにそう呼び掛けた。

 

「ケイ、今ちょうど、これからどうしようかって話してた所なの」

「そ、その事なんですが、ついさっき、お兄ちゃんから緊急連絡が」

「シャナから?」

「緊急連絡?」

 

 二人は頭に疑問符を浮かべながらそう言った。

ベンケイはそんな二人を、レンタルルームへと誘った。

 

「とりあえず誰かに聞かれると困るので、部屋を借りてそこで説明します」

 

 そのベンケイの言葉に剣呑な雰囲気を感じたのか、

二人は黙ってベンケイの後に続いた。レンタルルームに入ると、そこには先客がいた。

 

「ロザリアちゃん!」

「ロザリアさん、わざわざありがとうございます」

「あ、初めまして。えっと……誰?」

 

 ロザリアとは初対面のシノンに対し、ベンケイがこう説明した。

 

「ロザリアさんは、お兄ちゃんの、え~っと……専属情報屋です」

「綺麗に言い変えたねケイ。シノノン、ロザリアちゃんはね、シャナの次席の下僕だよ!」

「初めましてシノンさん、私はシャナの筆頭下僕であるロザリアです」

「筆頭は私だよ!」

「私です」

「あ~はいはい、分かったから、それは二人の時に存分にやりあってね」

 

 シノンは何となく二人の関係を察し、これ以上付き合えないとばかりにそう言った。

そしてベンケイが、ここぞとばかりに会話に割り込んだ。

 

「という訳で、ロザリアさんから説明してもらいます!ロザリアさん、どうぞ!」

「それでは説明します。私が集めた情報によると、ゼクシードというプレイヤーが、

シャナの首に賞金を掛けました。近日中に襲撃してくるものと思われます」

 

 その言葉を聞いたピトフーイとシノンは、あまりに予想外の話だった為、ぽかんとした。

 

「ゼクシードって、BoBでシャナに真っ二つにされた、あの?」

「あはははは、シノノンの認識もやっぱりそれなんだね。うん、あの糞雑魚だよ」

「BoBの決勝に残ったくらいだから、それなりに腕は立つんだろうけど、

やっぱりあの姿を何度も見ちゃうとねぇ」

 

 シノンはそう言って肩を竦めた。

 

「でもいくら賞金を掛けたと言っても、あのゼクシードに協力する人なんているのかなぁ?

あいつって、基本嫌われ者じゃない?」

「はい、古参のプレイヤーは誰も彼の呼びかけには答えませんでしたね。

集まったのは、お金に困ってる中堅プレイヤーと新人が二十人前後といった所です」

「うんうんうん、やっぱりかぁ」

 

 ピトフーイは、そのロザリアの言葉に激しく頷いた。

そして次に、シノンがロザリアに質問した。

 

「新人って、武器とか装備、まともに持ってないんじゃない?」

「はい、どうやらゼクシードが自腹で買い与えたようですね」

「そうなんだ、あいつ、案外お金持ちなんだね」

 

 シノンはその事実に、少し驚いたように言った。

 

「彼は今回、シャナを倒す為に、全財産をつぎ込む事にしたようです」

「嘘ぉ?あいつもしかして、想像以上に馬鹿なの?」

「一回倒す為だけに全財産って……」

「ね、死んでも街に戻って、それで終わりじゃんねぇ?」

「つまり、そこまでシャナに対し、恨みを持っているという事ですね」

 

 そのロザリアの言葉に、他の三人は腕組みをしながら考え込んだ。

 

「BoBは、一応最高峰の大会な訳じゃない、そこでいくら真っ二つにされたからって、

そこまで恨みに思うものなのかな?」

「どうですかね……」

「あ、もしかして、この前の件なんじゃない?ロザリアちゃん」

「あいつ絡みで何かあったの?」

 

 ロザリアはそのピトフーイの言葉に頷き、シノンはそれを見てそう質問した。

 

「以前シャナと待ち合わせをしていた時に、

ゼクシードが私を、それはしつこくナンパしようとしてきたんです」

「うわ、あいつやっぱりそういう奴なんだ」

「で、最初は人違いだと困るから、私がロザリアちゃんかどうか確かめたんだけど、

本人だって確認が出来たから、大声でシャナにそう報告したの」

「ふむふむ」

「そしたらシャナがいつの間にかいなくなっててね、

それであいつが、シャナなんかいないじゃないかって言った瞬間にね、

魔法みたいにシャナがあいつの後ろに現れて、あいつの首にナイフを突きつけたの」

 

 ピトフーイは、少しうっとりしながらそう言った。

 

「でね、あいつが、『て、てめえ……シャナ』って言った瞬間、シャナがあいつに言ったの。

『あ?さんを付けろよデコ助野郎。お前、俺にもう一度真っ二つにされたいのか?』って」

「うわ……それ、ちょっと見てみたかったな」

 

 シノンのその言葉に、ロザリアはハッとした顔でこう言った。

 

「あ、実はその時、情報収集に役立てようと、私、撮影してました」

「本当に!?見せて見せて!」

「ロザリアちゃん、私にも!」

「あ、それじゃあ私にも」

「分かりました」

 

 ロザリアはそう言って、レンタルルームのモニターで動画を再生した。

それを見た三人は、それぞれ別の反応を見せた。

 

「うわ、お兄ちゃん、完全に怒ってる……」

「本当に消えたみたいに見えるね……すごいなぁ」

「はぁ……やっぱりシャナ、格好いい……」

「この最後の台詞で、ゼクシードの顔が真っ赤になってるね、よっぽどむかついたのかな?」

 

 シノンはそう言いながらロザリアの方を見た。

ロザリアはその視線を受け、真顔でこう言った。

 

「ゼクシードはまだ若いと思われますが、デコ助に反応したように見えますし、

恐らく若ハゲなのでしょう」

 

 三人はその言葉を聞いて笑い転げた。

 

「ロザリアちゃん、面白い!座布団一枚持ってきて!」

「あははははは、確かにそうかもだけど、あははははは」

「ロザリアさん、ナイスジョークです!」

「えっ?いや、私は別にジョークのつもりは……」

 

 困惑するロザリアをよそに、三人はしばらく笑い続けた。

それを見ていたロザリアも、釣られて笑い始め、その場にはしばらくの間、

四人の笑い声が響き続けた。やがて笑い疲れたのか、ピトフーイがベンケイに言った。

 

「で、ケイ、シャナはこの事については何て?」

「あっ」

 

 ベンケイはその言葉で我に返ったのか、慌てて他の三人に言った。

 

「三人とも、ストップストップ!それに関して、シャナから伝言を預かっています!」

「えっ?」

「シャナから伝言?なんだって?」

 

 ベンケイは、少し間を置く為に深呼吸をし、落ち着いた声で言った。

 

「多分ゼクシードは仲間を集めた後、必ず一度は外に連れ出して、

最低限戦えるように教育しようとするはずだから、私とピトさんとシノンさんで、

そこを襲って全滅させろと、そうお兄ちゃんは言ってました」

「うわお、三人で、二十人相手に奇襲をかけて、全滅させろって?」

「新人が混じってるなら、そこまで大変じゃなさそうだけど、事故はありそうだよね」

「まあ誰かが死んでも、目的を達成出来ればいいのかな」

 

 そう言葉を交わす二人に対し、ベンケイが言った。

 

「それに伴い、お二人に、渡す物があります!」

「え?」

「ん?」

 

 そう言ってベンケイが取り出したのは、二振りの短剣と、そして……M82だった。

 

「そ、それって……」

「シャナのM82じゃない……」

「お兄ちゃんの愛剣と愛銃です。これをお二人に託します」

「ほ、本当に?」

「これを私達に?」

 

 ごくりと唾を飲み込みながら、そう言う二人に、ベンケイは厳かな声で言った。

 

「『むかつくあの馬鹿を、これで軽く捻ってこい』お兄ちゃんは、そう言いました」

「そんな……」

「もし私達がうっかり死んだら、

そのアイテムがドロップしちゃって、消滅するかもしれないじゃない」

「私もそう言ったんですけど、お兄ちゃんは、その心配は絶対に無いって言ってました」

 

 それは、シャナからの最大級の信頼の言葉だった。

その言葉を受け取った二人は、武者震いを止める事が出来なかった。

そしてピトフーイは、ベンケイから短剣を、シノンはM82を、黙って受け取った。

その二人の目はギラリと光を放っており、二人は、絶対にシャナの信頼に応えようと、

炎を発するが如く、激しく燃えていた。

 

 

 

 ……狩りの時間が始まる。


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