ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第232話 荒野の蹂躙戦

「私ちょっと、滅多に人が来ない近場で、これを試射してくる。

ロザリアさん、誰か来ないかどうか、見張っててもらえない?」

「分かりました」

「ケイ、ちょっと近接戦闘の練習に付き合って」

「いいですよ。シノンさん、時間が無いから一時間後にまたここに集合で」

「オーケーよ」

 

 こうして四人は慌しく動き出した。実は八幡は、もし誰かが死んでも、

ロザリアにドロップ品を回収するように指示を出していたのだが、

ロザリアはその事を言おうとはしなかった。八幡に口止めされていた為である。

小町もその事には薄々気付いていたが、何も言わなかった。

そして一時間後、四人は再集結し、ロザリア一人が情報収集の為に外に出た。

 

「シノノン、どうだった?」

「筋力は足りるけど、かなり重い。移動するのに問題は無いけど、

私にはまだ、固定砲台としてしか運用出来ないかも」

「十分ですよ。それじゃあシノンさんの遠距離狙撃で戦闘開始ですね。

最初に出来るだけ倒してもらって、混乱した敵を片っ端から狩りましょう」

「分かったわ、最初にゼクシードさえ倒せれば、後は問題ないだろうしね」

「はい!」

 

 そのベンケイの提案に、二人はすぐに同意した。

そしてシノンは、少しはリラックス出来たのか、ニヤニヤしながらピトフーイに言った。

 

「ねぇピト、もし間違って、あなたの頭を撃ち抜いちゃったらごめんね」

「えっ?まあそれならそれで、ちょっと興奮するかも……

って、駄目駄目、シャナの武器が無くなっちゃったら、私絶対に怒られる……

でもそれもかなり興奮するかも……」

 

 そう呟くピトフーイから、ベンケイとシノンはズザッと距離を取った。

 

「ちょっとちょっと、何で二人とも、そんなに遠くに移動するの?」

「へ、変態が染るのはちょっと……」

「私、最近あんたの事、全然普通じゃんって思ってたけど、やっぱり勘違いだったわ」

「シノノンだって、シャナ……」

「皆さん、今戻りました」

「ロザリアさん、待ってたわ!」

 

 まさにちょうどその時、ロザリアが入室してきた。

シノンはピトフーイの言葉を遮るように、ロザリアにそう呼び掛けた。

どこかで見たような光景である。

 

「今大雑把だけど、三人で作戦を決めてた所なの」

「後ね後ね、シノノンが実はシャナ……」

「ロザリアさん、何か報告があるんじゃないの?

さあ、ピトも雑談はそのくらいにして、ロザリアさんの話を聞きましょう」

「むぅ……中々手ごわい……」

 

 ピトフーイはそう呟いたが、時間が無いのは確かなので、ここは一旦引く事にしたようだ。

そしてロザリアが、シノンに促されて報告を始めた。

 

「こちらにも動きがありました。ついさっきゼクシードが、

集めた仲間を引き連れてモブ狩りに出かけました」

「オーケー、みんな、狩りの準備を始めましょう」

 

 ピトフーイは、その先ほどからの、ロザリアの丁寧な物言いに疑問を抱いたのか、

空気を読まずにロザリアにこう言った。

 

「ねぇ、さっきから思ってたけど、ロザリアちゃんは何でいつもとキャラが違うの?

確かに普段は控えめな態度でいるって話は聞いたけど、

最近私といる時は、もっとこう、婚期を逃しそうで、何とかいい男を捕まえて、

色仕掛けで既成事実を作ってしまおうと焦ってる、お局様みたいな態度だったじゃない?

もしかしてシノノンがいるから猫を被ってるの?それなら大丈夫だよ。

シノノンは、今度リアルでケーキ食べ放題に一緒に行こうとしてるくらい、

私と一緒でもうすっかりシャナの虜だから、信用して地を出しちゃってもいいんだよ?」

 

 そのピトフーイの言葉に、シノンは反論しようとしたのだが、

それより先に、ぷるぷると肩を震わせたロザリアがこう叫んだ。

 

「誰が婚期を逃しそうで、何とかシャナを相手に、

色仕掛けで既成事実を作ってしまおうとたまに思ってしまう、花の乙女なのよ!」

「うわ……ロザリアちゃん、本音がだだ漏れだよ。

あとこっそり最後を改変しないで。お局様だよ、お局様」

「ロザリアさんって、こういう人だったんだ……」

「これはお兄ちゃんに報告せねば……」

「ちょっ、ケイさん、それはやめて!もうお局様でいいから!」

 

 どうやらロザリアにとっては、お局様認定よりも、シャナへの報告の方が嫌なようだ。

そしてロザリアはベンケイに、ぺこぺこ頭を下げた。

 

「ごめんなさいごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎたわ。

今度何かプレゼントするから、シャナには内緒で、ね?」

「やった~、タナボタでプレゼントをゲット!

ロザリアさん、今度お兄ちゃん経由で、必ず連絡するね!」

「あっ……うん」

「シャナを経由してとか、ケイも意外と容赦ないわね。

完全に逃げ道を塞いでるじゃない……」

「そりゃあ、あのシャナの妹だからね」

「ああ、その言葉、すごくしっくりくるわ……」

 

 こうして多少のトラブルはあったものの、三人は、

ロザリアの案内で早速ゼクシード達の下へと向かう事にした。

 

「よ~し、殺すと書いて殺りにいくよ!野郎ども、今日は女子会だ!」

「「お~!」」

 

 そのピトフーイの言葉は、内容的には色々とおかしいものであったが、

ベンケイとシノンはそれに同調し、気勢をあげた。

そして四人は出撃し、ロザリアが案内を務めた。

そんな三人をこっそり見つめる者達がいた。シャナとシズカである。

 

「何とか間に合ったな」

「それじゃ、見つからないようにこっそり見学しよっか」

「まあ、多分あっさりと終わるだろうけどな」

 

 二人はそのまま、先行する四人の後をつけていった。

ちなみにその際は、姿が見えなくなるギリギリの距離から単眼鏡を使っていた。

それは何故かというと、当然の事ながら、ピトフーイのありえない勘に対する対策である。

 

「ゼクシード達はあそこか」

「ここって、かなり見通しのいい荒野だよね」

「まあ新人を連れてモブ狩りをするなら、

プレイヤー狩りが近付いてきた時にすぐ見つけられるように、

こういった開けた場所で戦うのはセオリーではある。ただし、狙撃される恐れが無ければな」

「シノノンのお手並み拝見だね」

「だな」

 

 一方その頃、先行していた四人は、少し離れた岩場で最後の確認を行っていた。

 

「それじゃあ私は戻るけど、あんた達、絶対に死ぬんじゃないわよ」

「ロザリアさん、やっぱり普段はそういう話し方なんだ」

「ロザリアでいいわよ、シノン。さっきまでの姿は、擬態よ擬態。

情報収集の基本なんだって。もっとも師匠の受け売りなんだけどね。

守ってあげたくなるような大人しい女性を前にすると、男は口が軽くなる、ってね」

「なるほど……」

「それじゃあ私は街へ戻るわ。勝利の報告、期待しているわよ」

 

 そう言ってロザリアは去っていった。もっとも実際は、シャナ達と合流しただけである。

 

「ロザリアさん、こっちこっち」

「あいつらの様子はどうだ?緊張したりしてないか?」

「大丈夫、やる気満々よ。でも変に入れ込んだりはしていない」

「理想的な状態だね」

「ええ」

 

 その間に、シノンはその場にある岩山へと上り、既に狙撃体制を整えていた。

 

「ケイ、ピト、どうやらゼクシードは、一人で指揮をしながら監視をしているみたい。

指揮している最中に進んで、監視状態になったら停止で、タイミングは私が指示するわ」

「「了解」」

 

 そしてベンケイとピトフーイは、いわゆるほふく前進で、じりじりと前へと進んでいった。

二人は、移動と停止を繰り返し、今や、敵から百メートルくらいの距離にまで近付いていた。

 

「これ以上はまずいわね、いつ見つかってもおかしくはない。

二人はもう、そのまま進んで頂戴。発見された瞬間に、私があいつを狙撃するわ」

「頑張れ、シノノン!」

「シノンさん、気楽にいきましょう!」

「任せて。私が狙撃したら、二人はそのまま攻撃開始よ」

 

 二人はそのままじりじりと進み、シノンはスコープごしに、

ゼクシードの一挙手一投足を、注意深く観察していた。

そしてついにその瞬間が訪れた。ゼクシードの表情が驚きに歪んだ瞬間、

シノンは銃のトリガーを、コトリと落とすように引いた。

その瞬間にゼクシードの頭が吹っ飛んだ。

周りの者達は、最初はその事に気が付かなかったが、

少し後に、慌てた顔でゼクシードの方を見た。どうやら遅れていた銃撃音が今届いたのだろう。

着弾の方が、音の伝わる速さよりも早いのだ。

 

「命中」

 

 シノンは極力感情を排した声でそう言うと、次の狙撃を開始し、

またたく間に三人のプレイヤーを死亡させた。

そしてその声を合図に、ベンケイとピトフーイも、近距離から銃撃を始めた。

その銃撃で、更に十人のプレイヤーが倒れ、敵の残りは六人となった。

その六人は、どうやらそこそこ目端がきくようで、何とか安全を確保しようと、

その場に伏せ、必死で退路を探していた。だが六人ともパニック状態に陥っていたようで、

一人が銃を撃ち始めると、それに釣られ、あらぬ方向へ、やみくもに銃を撃ち始めた。

 

「あの人達、どこに向かって銃を撃ってるんですかね」

「弾切れを狙うよ、あいつらは銃のリロードの技術が低い。ケイ、せっかく練習したんだし、

近接戦で決着をつけよう」

「了解!」

「狙撃で援護するわ、行って!」

「ありがとうシノノン」

 

 二人は短剣を抜き、そのまま生き残りの敵へと突っ込んだ。

シノンは、敵が落ち着いて銃に弾込めが出来ないように、敵が潜んでいそうな茂みに、

容赦なく銃弾を撃ち込んでいった。

 

「くそっ、くそっ、上手く弾込め出来ねえ……こうなったらこっちも接近戦を……」

「馬鹿、お前、近接武器なんか持ってないだろ、逃げるんだよ!」

「わ、分かった」

 

 そう言って、走って逃げようとした男二人は、そのままシノンに狙撃された。

残った四人のうちの二人は、既にケイとピトフーイの手により、首を刎ねられていた。

そして最後に残った二人は女性プレイヤーだったのだが、

震えながら抱き合っており、もはや戦意はまったく無いようだった。

 

「あんた達で最後ね、銃で撃たれるのと、短剣で切り裂かれるの、どっちがいい?」

 

 ピトフーイにそう言われた二人は、泣きながら土下座し、命乞いを始めた。

 

「ごめんなさい、私達はあの男の口車に乗って、つい付いてきちゃっただけなんです」

「そう、悪いのは全部あのゼクシードって男なんです、だからお願いします、

殺さないで下さい殺さないで下さい」

 

 ピトフーイは、その惨めな二人の姿を見て、一旦手を下ろした。

ベンケイも困ったように黙っていた。そこにシノンが合流し、

二人はそのまま、三人に見下ろされる格好になった。

 

「シャナのオーダーは全滅させろ、だったわよね。どうする?」

「こうなると、ちょっと哀れですよねぇ」

「普通なら考えるまでもないんだけどね。あなた達、名前は?」

「ユッコです」

「ハルカです」

 

 それを聞いた瞬間に、ピトフーイが目にも止まらぬ速さで動き、二人の首を刎ねた。

ベンケイとシノンは、そのいきなりのピトフーイの行為に驚いた。

 

「い、いきなりどうしたの?ピト」

 

 ピトフーイはその問いにはすぐには答えず、ベンケイにこう質問した。

 

「ケイ、あなたシャナから、先日の同窓会の話、聞いてない?」

「特に何も。うちのお兄ちゃん、そういう事はあんまり話してくれないんですよね」

「詳しくは今度オフで会った時にでも話してあげるけど、その時シャナを侮辱した、

馬鹿二人組の名前が、ゆっこと遥って二人組だったの。だからつい、ね」

「さすがに本人だって事は無いんじゃない?でもそういう事情なら仕方がないか」

「まあ、ミッションコンプリートです、さあ、帰りましょう!」

 

 こうして、シャナの信頼に応える為の三人の聖戦は、問題なく完遂された。

ユッコとハルカが、当然本人だった事は、言うまでもないだろう。




明日はゆっこと遥サイドの話になります。
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