「私ちょっと、滅多に人が来ない近場で、これを試射してくる。
ロザリアさん、誰か来ないかどうか、見張っててもらえない?」
「分かりました」
「ケイ、ちょっと近接戦闘の練習に付き合って」
「いいですよ。シノンさん、時間が無いから一時間後にまたここに集合で」
「オーケーよ」
こうして四人は慌しく動き出した。実は八幡は、もし誰かが死んでも、
ロザリアにドロップ品を回収するように指示を出していたのだが、
ロザリアはその事を言おうとはしなかった。八幡に口止めされていた為である。
小町もその事には薄々気付いていたが、何も言わなかった。
そして一時間後、四人は再集結し、ロザリア一人が情報収集の為に外に出た。
「シノノン、どうだった?」
「筋力は足りるけど、かなり重い。移動するのに問題は無いけど、
私にはまだ、固定砲台としてしか運用出来ないかも」
「十分ですよ。それじゃあシノンさんの遠距離狙撃で戦闘開始ですね。
最初に出来るだけ倒してもらって、混乱した敵を片っ端から狩りましょう」
「分かったわ、最初にゼクシードさえ倒せれば、後は問題ないだろうしね」
「はい!」
そのベンケイの提案に、二人はすぐに同意した。
そしてシノンは、少しはリラックス出来たのか、ニヤニヤしながらピトフーイに言った。
「ねぇピト、もし間違って、あなたの頭を撃ち抜いちゃったらごめんね」
「えっ?まあそれならそれで、ちょっと興奮するかも……
って、駄目駄目、シャナの武器が無くなっちゃったら、私絶対に怒られる……
でもそれもかなり興奮するかも……」
そう呟くピトフーイから、ベンケイとシノンはズザッと距離を取った。
「ちょっとちょっと、何で二人とも、そんなに遠くに移動するの?」
「へ、変態が染るのはちょっと……」
「私、最近あんたの事、全然普通じゃんって思ってたけど、やっぱり勘違いだったわ」
「シノノンだって、シャナ……」
「皆さん、今戻りました」
「ロザリアさん、待ってたわ!」
まさにちょうどその時、ロザリアが入室してきた。
シノンはピトフーイの言葉を遮るように、ロザリアにそう呼び掛けた。
どこかで見たような光景である。
「今大雑把だけど、三人で作戦を決めてた所なの」
「後ね後ね、シノノンが実はシャナ……」
「ロザリアさん、何か報告があるんじゃないの?
さあ、ピトも雑談はそのくらいにして、ロザリアさんの話を聞きましょう」
「むぅ……中々手ごわい……」
ピトフーイはそう呟いたが、時間が無いのは確かなので、ここは一旦引く事にしたようだ。
そしてロザリアが、シノンに促されて報告を始めた。
「こちらにも動きがありました。ついさっきゼクシードが、
集めた仲間を引き連れてモブ狩りに出かけました」
「オーケー、みんな、狩りの準備を始めましょう」
ピトフーイは、その先ほどからの、ロザリアの丁寧な物言いに疑問を抱いたのか、
空気を読まずにロザリアにこう言った。
「ねぇ、さっきから思ってたけど、ロザリアちゃんは何でいつもとキャラが違うの?
確かに普段は控えめな態度でいるって話は聞いたけど、
最近私といる時は、もっとこう、婚期を逃しそうで、何とかいい男を捕まえて、
色仕掛けで既成事実を作ってしまおうと焦ってる、お局様みたいな態度だったじゃない?
もしかしてシノノンがいるから猫を被ってるの?それなら大丈夫だよ。
シノノンは、今度リアルでケーキ食べ放題に一緒に行こうとしてるくらい、
私と一緒でもうすっかりシャナの虜だから、信用して地を出しちゃってもいいんだよ?」
そのピトフーイの言葉に、シノンは反論しようとしたのだが、
それより先に、ぷるぷると肩を震わせたロザリアがこう叫んだ。
「誰が婚期を逃しそうで、何とかシャナを相手に、
色仕掛けで既成事実を作ってしまおうとたまに思ってしまう、花の乙女なのよ!」
「うわ……ロザリアちゃん、本音がだだ漏れだよ。
あとこっそり最後を改変しないで。お局様だよ、お局様」
「ロザリアさんって、こういう人だったんだ……」
「これはお兄ちゃんに報告せねば……」
「ちょっ、ケイさん、それはやめて!もうお局様でいいから!」
どうやらロザリアにとっては、お局様認定よりも、シャナへの報告の方が嫌なようだ。
そしてロザリアはベンケイに、ぺこぺこ頭を下げた。
「ごめんなさいごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎたわ。
今度何かプレゼントするから、シャナには内緒で、ね?」
「やった~、タナボタでプレゼントをゲット!
ロザリアさん、今度お兄ちゃん経由で、必ず連絡するね!」
「あっ……うん」
「シャナを経由してとか、ケイも意外と容赦ないわね。
完全に逃げ道を塞いでるじゃない……」
「そりゃあ、あのシャナの妹だからね」
「ああ、その言葉、すごくしっくりくるわ……」
こうして多少のトラブルはあったものの、三人は、
ロザリアの案内で早速ゼクシード達の下へと向かう事にした。
「よ~し、殺すと書いて殺りにいくよ!野郎ども、今日は女子会だ!」
「「お~!」」
そのピトフーイの言葉は、内容的には色々とおかしいものであったが、
ベンケイとシノンはそれに同調し、気勢をあげた。
そして四人は出撃し、ロザリアが案内を務めた。
そんな三人をこっそり見つめる者達がいた。シャナとシズカである。
「何とか間に合ったな」
「それじゃ、見つからないようにこっそり見学しよっか」
「まあ、多分あっさりと終わるだろうけどな」
二人はそのまま、先行する四人の後をつけていった。
ちなみにその際は、姿が見えなくなるギリギリの距離から単眼鏡を使っていた。
それは何故かというと、当然の事ながら、ピトフーイのありえない勘に対する対策である。
「ゼクシード達はあそこか」
「ここって、かなり見通しのいい荒野だよね」
「まあ新人を連れてモブ狩りをするなら、
プレイヤー狩りが近付いてきた時にすぐ見つけられるように、
こういった開けた場所で戦うのはセオリーではある。ただし、狙撃される恐れが無ければな」
「シノノンのお手並み拝見だね」
「だな」
一方その頃、先行していた四人は、少し離れた岩場で最後の確認を行っていた。
「それじゃあ私は戻るけど、あんた達、絶対に死ぬんじゃないわよ」
「ロザリアさん、やっぱり普段はそういう話し方なんだ」
「ロザリアでいいわよ、シノン。さっきまでの姿は、擬態よ擬態。
情報収集の基本なんだって。もっとも師匠の受け売りなんだけどね。
守ってあげたくなるような大人しい女性を前にすると、男は口が軽くなる、ってね」
「なるほど……」
「それじゃあ私は街へ戻るわ。勝利の報告、期待しているわよ」
そう言ってロザリアは去っていった。もっとも実際は、シャナ達と合流しただけである。
「ロザリアさん、こっちこっち」
「あいつらの様子はどうだ?緊張したりしてないか?」
「大丈夫、やる気満々よ。でも変に入れ込んだりはしていない」
「理想的な状態だね」
「ええ」
その間に、シノンはその場にある岩山へと上り、既に狙撃体制を整えていた。
「ケイ、ピト、どうやらゼクシードは、一人で指揮をしながら監視をしているみたい。
指揮している最中に進んで、監視状態になったら停止で、タイミングは私が指示するわ」
「「了解」」
そしてベンケイとピトフーイは、いわゆるほふく前進で、じりじりと前へと進んでいった。
二人は、移動と停止を繰り返し、今や、敵から百メートルくらいの距離にまで近付いていた。
「これ以上はまずいわね、いつ見つかってもおかしくはない。
二人はもう、そのまま進んで頂戴。発見された瞬間に、私があいつを狙撃するわ」
「頑張れ、シノノン!」
「シノンさん、気楽にいきましょう!」
「任せて。私が狙撃したら、二人はそのまま攻撃開始よ」
二人はそのままじりじりと進み、シノンはスコープごしに、
ゼクシードの一挙手一投足を、注意深く観察していた。
そしてついにその瞬間が訪れた。ゼクシードの表情が驚きに歪んだ瞬間、
シノンは銃のトリガーを、コトリと落とすように引いた。
その瞬間にゼクシードの頭が吹っ飛んだ。
周りの者達は、最初はその事に気が付かなかったが、
少し後に、慌てた顔でゼクシードの方を見た。どうやら遅れていた銃撃音が今届いたのだろう。
着弾の方が、音の伝わる速さよりも早いのだ。
「命中」
シノンは極力感情を排した声でそう言うと、次の狙撃を開始し、
またたく間に三人のプレイヤーを死亡させた。
そしてその声を合図に、ベンケイとピトフーイも、近距離から銃撃を始めた。
その銃撃で、更に十人のプレイヤーが倒れ、敵の残りは六人となった。
その六人は、どうやらそこそこ目端がきくようで、何とか安全を確保しようと、
その場に伏せ、必死で退路を探していた。だが六人ともパニック状態に陥っていたようで、
一人が銃を撃ち始めると、それに釣られ、あらぬ方向へ、やみくもに銃を撃ち始めた。
「あの人達、どこに向かって銃を撃ってるんですかね」
「弾切れを狙うよ、あいつらは銃のリロードの技術が低い。ケイ、せっかく練習したんだし、
近接戦で決着をつけよう」
「了解!」
「狙撃で援護するわ、行って!」
「ありがとうシノノン」
二人は短剣を抜き、そのまま生き残りの敵へと突っ込んだ。
シノンは、敵が落ち着いて銃に弾込めが出来ないように、敵が潜んでいそうな茂みに、
容赦なく銃弾を撃ち込んでいった。
「くそっ、くそっ、上手く弾込め出来ねえ……こうなったらこっちも接近戦を……」
「馬鹿、お前、近接武器なんか持ってないだろ、逃げるんだよ!」
「わ、分かった」
そう言って、走って逃げようとした男二人は、そのままシノンに狙撃された。
残った四人のうちの二人は、既にケイとピトフーイの手により、首を刎ねられていた。
そして最後に残った二人は女性プレイヤーだったのだが、
震えながら抱き合っており、もはや戦意はまったく無いようだった。
「あんた達で最後ね、銃で撃たれるのと、短剣で切り裂かれるの、どっちがいい?」
ピトフーイにそう言われた二人は、泣きながら土下座し、命乞いを始めた。
「ごめんなさい、私達はあの男の口車に乗って、つい付いてきちゃっただけなんです」
「そう、悪いのは全部あのゼクシードって男なんです、だからお願いします、
殺さないで下さい殺さないで下さい」
ピトフーイは、その惨めな二人の姿を見て、一旦手を下ろした。
ベンケイも困ったように黙っていた。そこにシノンが合流し、
二人はそのまま、三人に見下ろされる格好になった。
「シャナのオーダーは全滅させろ、だったわよね。どうする?」
「こうなると、ちょっと哀れですよねぇ」
「普通なら考えるまでもないんだけどね。あなた達、名前は?」
「ユッコです」
「ハルカです」
それを聞いた瞬間に、ピトフーイが目にも止まらぬ速さで動き、二人の首を刎ねた。
ベンケイとシノンは、そのいきなりのピトフーイの行為に驚いた。
「い、いきなりどうしたの?ピト」
ピトフーイはその問いにはすぐには答えず、ベンケイにこう質問した。
「ケイ、あなたシャナから、先日の同窓会の話、聞いてない?」
「特に何も。うちのお兄ちゃん、そういう事はあんまり話してくれないんですよね」
「詳しくは今度オフで会った時にでも話してあげるけど、その時シャナを侮辱した、
馬鹿二人組の名前が、ゆっこと遥って二人組だったの。だからつい、ね」
「さすがに本人だって事は無いんじゃない?でもそういう事情なら仕方がないか」
「まあ、ミッションコンプリートです、さあ、帰りましょう!」
こうして、シャナの信頼に応える為の三人の聖戦は、問題なく完遂された。
ユッコとハルカが、当然本人だった事は、言うまでもないだろう。
明日はゆっこと遥サイドの話になります。