ゆっこと遥はこの日、特に深い考えも無いまま、初めてGGOに降り立っていた。
「えっと……ユッコでいいんだよね?」
「うん、そうだよハルカ、とりあえず、色々教えてくれそうで、
ついでにお金を貢いでくれそうな、お人よしの男を探そう」
そして二人は、初めて経験するフルダイブ環境に、
驚きと戸惑いを感じながらも、観光気分で街の中をあちこち歩き回った。
「何かここって、随分荒廃した雰囲気の街だよね」
「これって一本横の道に入ったら、アブナイ人とかがたむろってたりするのかな?
どうする?試しに入ってみる?」
「え~?でも怖くない?」
「大丈夫、これはあくまでゲームなんだから」
「まあ、それもそっか」
そして二人は、たまたま入った横道の奥で、たまたまゼクシードに声を掛けられ、
そのまま流されるように彼についていく事になった。
ちなみにゼクシードは、単に二人が女性だったから声を掛けただけである。
当然戦力になるだろうとは思ってはいない。
実際の所、シャナに対抗して、取り巻きの女性を確保しようとしただけだった。
(ピトフーイは、あれは女にはカウントしなくていいから、
これでこっちは女が二人、あっちはあの、ロザリアとかいう女が一人。
これで完全に俺の勝ちだな)
ゼクシードはそう考え、一人ほくそ笑んでいた。
そして二人も、いいスポンサーが見つかったとほくそ笑んでいた。
「ねぇユッコ、この人大会に出るくらい強い人みたいね」
「ちょっと頭が悪そうだけど、そこがまたいいよね、簡単に貢いでくれそうだし」
「いいスポンサーが見つかったね」
「うん」
二人がそんな会話を交わしているとは露知らず、そのままゼクシードは仲間を募り、
今こうしてユッコとハルカは、荒野に狩りに来ていた。
「シャナ討伐隊って、そのシャナって奴、そんなに強いのかな?」
「まあこっちは二十人もいるんだし、余裕でしょ。あっちは一人、多くて三人らしいし」
「囲んで銃を撃ちまくればいいだけだしね」
「さ、ハルカ、せっかく装備も一式買ってもらった事だし、私達も少しは楽しもうよ。
私、銃を撃つのって初めてなんだよね」
「当たり前じゃない、むしろユッコが経験者だったらドン引きだよ」
「あはははは、確かにね」
そして二人は、ゼクシードにアドバイスをもらいつつ、モブに対しての攻撃に参加した。
二人は運動部出身だったせいか、案外いい動きを見せ、
ゼクシードは、これはいい拾い物だったと二人の事を少し見直した。
「ユッコ、私達イケてるよね?」
「うん、他の新人の人達よりも、いい動きが出来てるよね」
「これならお金もすぐにたまりそうだよね」
「だね!」
そしてその瞬間にそれは起こった。ゼクシードの頭がいきなり吹っ飛ばされたのだ。
ユッコとハルカは、何が起こったのか分からず棒立ちになったが、
遅れて銃声が聞こえてきた為、それで二人は、今何が起こったのかを漠然と理解した。
「今のって、銃声?」
「え?え?敵の姿なんか、どこにも……」
「音が遅れて聞こえたから、かなり遠くから撃たれたんじゃない?」
「あ、花火と一緒か!」
さすがは腐っても総武高校の卒業生である。それくらいの知識はあるようだ。
「ハルカ、危ない!」
突然ユッコがハルカの頭を押さえ、二人は同時に地面へと倒れ込んだ。
次の瞬間、二人の頭の上を大量の銃弾が通過し、更に十人ほどの仲間が死亡した。
「ユッコ、今何があったの?」
「敵っぽいのが二人、あっちから走ってくるのが見えたから、危ないって思って……」
「あ、ありがとう、でもこれからどうすればいいんだろ」
「私にも分からないよ……」
「とりあえず逃げとく?」
「かな、このまま低い体勢で、他の人が撃たれてる間に逃げよう」
だが、二人のその決断は、実行される事は無かった。もう遅すぎたのだ。
二人の目の前で、更に二人が銃で撃たれ、残りの二人もナイフで首を刎ねられた。
「ひいいいいい」
「やばいやばいやばい」
それを見た二人はもう何もする気にはなれず、その場で抱き合って震えていた。
そんな二人の前に、顔に刺青をした、いかにも恐ろしげな風貌の女性が立ちはだかり、
その女性は二人に向かってこう言った。
「あんた達で最後ね、銃で撃たれるのと、短剣で切り裂かれるの、どっちがいい?」
それを聞いた二人は、泣きながら顔を見合わせると、揃って土下座し、命乞いを始めた。
「ごめんなさい、私達は、あの男の口車に乗って、つい付いてきちゃっただけなんです」
「そう、悪いのは全部あのゼクシードって男なんです、だからお願いします、
殺さないで下さい殺さないで下さい何でもしますから!」
その二人の言葉を聞いて、刺青の女性が武器を下ろしたのを見て、
二人はこれは助かったかなと思い、心から安堵した。
同じ女性が相手だったのも、二人にとっては、安心出来る要素の一つであった。
もっともそれは、ピトフーイの事を知らない、無知ゆえの間違った安心ではあったが。
そしてその後、遠くから、巨大な銃を持った女性のプレイヤーが歩いてくる姿が見えた。
それを見たハルカは疑問に思い、思わず刺青の女性にこう問いかけた。
「あれ、女性が三人……?あの、シャナって男の人はいないんですか?」
「捕虜は黙ってな、殺しちゃうよ?」
「はっ、はい、すみません!」
その刺青女性の迫力にびびったハルカは、慌てて謝罪し、そのまま押し黙った。
隣のユッコがハルカを気遣うそぶりを見せたが、その間に巨大な銃を持った女性が合流し、
ユッコとハルカは三人に囲まれ、見下ろされる形となった。
「シャナのオーダーは、全滅させろ、だったわよね。どうする?」
二人はその、巨大な銃を持った女性の言葉に震え上がった。
「こうなると、ちょっと哀れですよねぇ」
次に二人は、その小柄な女性の言葉に安堵した。
「普通なら考えるまでもないんだけどね。あなた達、名前は?」
あ、やっぱりこの人達、シャナって人の仲間なんだ、
そう思った二人は、そのまま素直に、その問いを受けて自分の名前を名乗った。
「ユッコです」
「ハルカです」
その瞬間に、二人の意識は途絶えた。
二人が最後に見た光景は、何故かいきなり上下が逆になった自分達の視界と、
ナイフを握った刺青女性の姿だった。そして少ししてから、二人の意識は再び覚醒した。
「はぁ……はぁ……一体何が……」
「もしかして今私達、殺された?」
「あ、ハルカ!」
「ユッコ!」
二人は、隣にお互いの姿を見つけ、ほっとした。
周りを見回すと、そこはどうやら二人が最初に降り立った、ゲームの開始地点だった。
「ハルカ、どこまで覚えてる?」
「えっと、上下が逆さまで、ナイフを構えるあの刺青の女の人が見えた」
「あ、私と一緒だ。って事は……」
二人は話を総合し、刺青女性に首を刎ねられ、ここに戻されたのだろうと結論付けた。
そんな二人に声を掛けてくる者がいた、ゼクシードである。
「よぉ、遅かったな。結構生き延びたのか?すごいな、二人とも」
「あ、ど、どうも……」
「あの、他の人達は……」
そう問われたゼクシードは、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「全員逃げちまった」
「あ、そうなんですか……」
そして二人は、どうする?といった表情で顔を見合わせた。
それを見たゼクシードは即座に頭を下げ、二人に謝罪した。
「すまん、今回の事は、完全に俺のミスだ。
もっと見張りに人数を裂いておけば良かったのに、ついみんなの成長を優先してしまって、
そこらへんが疎かになってしまった。そしてユッコとハルカの戦う姿に見蕩れてしまって、
一瞬意識が反れた瞬間に遠くから撃たれちまった、本当にすまん!」
ゼクシードは、せっかく確保した女性プレイヤー二人を手放す訳にはいかないと、
印象を悪くしないように、お世辞を混ぜながらそうまくしたてた。
「もし二人が良かったら、これからも俺と行動を共にして欲しい。もちろん十分な支援はする」
それを聞いた二人は、再び顔を見合わせた。
「ちょっと二人で話してもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
そう言ってユッコとハルカは、少し離れた所に移動し、ヒソヒソと小声で相談を始めた。
「ねぇ、どうする?」
「確かにひどい目にあったけど、別にあの人のせいじゃないよね?」
「謝ってくれたし、私達の事、褒めてくれたしね」
「もしかして惚れられちゃった?私達って実は魔性の女?」
「だね、間違いないよ!」
「戦い方や、自力でのお金の稼ぎ方とか、そういうノウハウを勉強する為と思って、
しばらく一緒に行動してもいいかもね」
「その間にあいつから、出来るだけお金も引き出せばいいね」
「だね、うちら魔性の女だし!」
そう、色々と勘違いした自分本位な会話を交わした二人は、
ニコニコと笑顔を作り、ゼクシードの下へと戻った。
「やられっぱなしじゃ悔しいし、これからもお世話になります」
「一緒に頑張りましょう!」
「あ、ありがとう、これからも宜しくな、ユッコ、ハルカ。
良かったらお詫びに飯でも奢るよ、VRで飯を食った経験ってあるか?」
「無いです!すごく興味があります!」
「初めてです、ありがとうございます!」
「それじゃ早速行こうぜ、こっちだ」
こうして、それぞれの思惑を抱えながら、三人は今後も行動を共にする事になった。
一方その頃、意気揚々と凱旋したベンケイ、ピトフーイ、シノンを、
先に戻っていたシャナ達一行が出迎えていた。
「よお、その様子だと見事にやり遂げたみたいだな。さすがは俺の見込んだ仲間達だな」
「お兄ちゃん、もう戻ってたんだ」
「シャナ!うん、蹂躙してやったよ!褒めて褒めて!」
「シャナ、こんな大事な物を託してくれてありがとう。やっぱりこれ、すごいね……」
ベンケイは、ロザリアが一緒なのを見て、実はとっくに戻ってたんでしょ?
とでも言いたげな、疑わしそうな目をシャナに向けたままそう言い、
ピトフーイは、見た目はまるで豹が飼い主に甘えるかのようだったが、
言葉としてはとても子供っぽい事を言った。
そして最後にシノンが、大切そうに胸に抱えていたM82をそっとシャナに差し出しながら、
名残惜しそうな表情でそう言った。
とりあえずベンケイの表情については何も触れず、シャナは笑顔で三人に言った。
「それじゃあどこかの店で、飯でも食いながら話を聞かせてもらうか。
ああ、この時間だと晩飯に差し支えるか?それじゃあ甘い物でもいいな」
「やったー!シャナの奢り?」
「当然お兄ちゃんの奢りだね!」
「当たり前だろ。慰労も兼ねて、いくらでも好きな物を頼んでくれ」
その言葉で、ベンケイの疑いの視線も霧散したようだ。現金なものである。
そんな喜ぶピトフーイとベンケイの横で、シノンはシャナに、ニヤリとしながら言った。
「私も今日は遠慮しないからね」
「おう、シノンは特に体力を使っただろうから、いくらでも好きな物を注文してくれ。
あれ、重かっただろ?」
「そうね、もう少し筋力が欲しいと感じたわ」
「それじゃあまた、皆で狩りにでも行くか」
「うん、その時は喜んで参加させてもらうわ」
こうしてシャナ一行が向かった店は、偶然にも、ゼクシード達が入った店とは、
道を挟んで反対側にある高級店だった。ちなみにゼクシード達が入った店は、
そこまで高級という事は無く、普通の店である。お互いの姿は見えない位置だったので、
シャナもゼクシードも、相手がすぐ近くにいようとは、まったく想像すらしていなかった。
いやぁ、本当に偶然ですねぇ。