ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第233話 それぞれの思惑

 ゆっこと遥はこの日、特に深い考えも無いまま、初めてGGOに降り立っていた。

 

「えっと……ユッコでいいんだよね?」

「うん、そうだよハルカ、とりあえず、色々教えてくれそうで、

ついでにお金を貢いでくれそうな、お人よしの男を探そう」

 

 そして二人は、初めて経験するフルダイブ環境に、

驚きと戸惑いを感じながらも、観光気分で街の中をあちこち歩き回った。

 

「何かここって、随分荒廃した雰囲気の街だよね」

「これって一本横の道に入ったら、アブナイ人とかがたむろってたりするのかな?

どうする?試しに入ってみる?」

「え~?でも怖くない?」

「大丈夫、これはあくまでゲームなんだから」

「まあ、それもそっか」

 

 そして二人は、たまたま入った横道の奥で、たまたまゼクシードに声を掛けられ、

そのまま流されるように彼についていく事になった。

ちなみにゼクシードは、単に二人が女性だったから声を掛けただけである。

当然戦力になるだろうとは思ってはいない。

実際の所、シャナに対抗して、取り巻きの女性を確保しようとしただけだった。

 

(ピトフーイは、あれは女にはカウントしなくていいから、

これでこっちは女が二人、あっちはあの、ロザリアとかいう女が一人。

これで完全に俺の勝ちだな)

 

 ゼクシードはそう考え、一人ほくそ笑んでいた。

そして二人も、いいスポンサーが見つかったとほくそ笑んでいた。

 

「ねぇユッコ、この人大会に出るくらい強い人みたいね」

「ちょっと頭が悪そうだけど、そこがまたいいよね、簡単に貢いでくれそうだし」

「いいスポンサーが見つかったね」

「うん」

 

 二人がそんな会話を交わしているとは露知らず、そのままゼクシードは仲間を募り、

今こうしてユッコとハルカは、荒野に狩りに来ていた。

 

「シャナ討伐隊って、そのシャナって奴、そんなに強いのかな?」

「まあこっちは二十人もいるんだし、余裕でしょ。あっちは一人、多くて三人らしいし」

「囲んで銃を撃ちまくればいいだけだしね」

「さ、ハルカ、せっかく装備も一式買ってもらった事だし、私達も少しは楽しもうよ。

私、銃を撃つのって初めてなんだよね」

「当たり前じゃない、むしろユッコが経験者だったらドン引きだよ」

「あはははは、確かにね」

 

 そして二人は、ゼクシードにアドバイスをもらいつつ、モブに対しての攻撃に参加した。

二人は運動部出身だったせいか、案外いい動きを見せ、

ゼクシードは、これはいい拾い物だったと二人の事を少し見直した。

 

「ユッコ、私達イケてるよね?」

「うん、他の新人の人達よりも、いい動きが出来てるよね」

「これならお金もすぐにたまりそうだよね」

「だね!」

 

 そしてその瞬間にそれは起こった。ゼクシードの頭がいきなり吹っ飛ばされたのだ。

ユッコとハルカは、何が起こったのか分からず棒立ちになったが、

遅れて銃声が聞こえてきた為、それで二人は、今何が起こったのかを漠然と理解した。

 

「今のって、銃声?」

「え?え?敵の姿なんか、どこにも……」

「音が遅れて聞こえたから、かなり遠くから撃たれたんじゃない?」

「あ、花火と一緒か!」

 

 さすがは腐っても総武高校の卒業生である。それくらいの知識はあるようだ。

 

「ハルカ、危ない!」

 

 突然ユッコがハルカの頭を押さえ、二人は同時に地面へと倒れ込んだ。

次の瞬間、二人の頭の上を大量の銃弾が通過し、更に十人ほどの仲間が死亡した。

 

「ユッコ、今何があったの?」

「敵っぽいのが二人、あっちから走ってくるのが見えたから、危ないって思って……」

「あ、ありがとう、でもこれからどうすればいいんだろ」

「私にも分からないよ……」

「とりあえず逃げとく?」

「かな、このまま低い体勢で、他の人が撃たれてる間に逃げよう」

 

 だが、二人のその決断は、実行される事は無かった。もう遅すぎたのだ。

二人の目の前で、更に二人が銃で撃たれ、残りの二人もナイフで首を刎ねられた。

 

「ひいいいいい」

「やばいやばいやばい」

 

 それを見た二人はもう何もする気にはなれず、その場で抱き合って震えていた。

そんな二人の前に、顔に刺青をした、いかにも恐ろしげな風貌の女性が立ちはだかり、

その女性は二人に向かってこう言った。

 

「あんた達で最後ね、銃で撃たれるのと、短剣で切り裂かれるの、どっちがいい?」

 

 それを聞いた二人は、泣きながら顔を見合わせると、揃って土下座し、命乞いを始めた。

 

「ごめんなさい、私達は、あの男の口車に乗って、つい付いてきちゃっただけなんです」

「そう、悪いのは全部あのゼクシードって男なんです、だからお願いします、

殺さないで下さい殺さないで下さい何でもしますから!」

 

 その二人の言葉を聞いて、刺青の女性が武器を下ろしたのを見て、

二人はこれは助かったかなと思い、心から安堵した。

同じ女性が相手だったのも、二人にとっては、安心出来る要素の一つであった。

もっともそれは、ピトフーイの事を知らない、無知ゆえの間違った安心ではあったが。

そしてその後、遠くから、巨大な銃を持った女性のプレイヤーが歩いてくる姿が見えた。

それを見たハルカは疑問に思い、思わず刺青の女性にこう問いかけた。

 

「あれ、女性が三人……?あの、シャナって男の人はいないんですか?」

「捕虜は黙ってな、殺しちゃうよ?」

「はっ、はい、すみません!」

 

 その刺青女性の迫力にびびったハルカは、慌てて謝罪し、そのまま押し黙った。

隣のユッコがハルカを気遣うそぶりを見せたが、その間に巨大な銃を持った女性が合流し、

ユッコとハルカは三人に囲まれ、見下ろされる形となった。

 

「シャナのオーダーは、全滅させろ、だったわよね。どうする?」

 

 二人はその、巨大な銃を持った女性の言葉に震え上がった。

 

「こうなると、ちょっと哀れですよねぇ」

 

 次に二人は、その小柄な女性の言葉に安堵した。

 

「普通なら考えるまでもないんだけどね。あなた達、名前は?」

 

 あ、やっぱりこの人達、シャナって人の仲間なんだ、

そう思った二人は、そのまま素直に、その問いを受けて自分の名前を名乗った。

 

「ユッコです」

「ハルカです」

 

 その瞬間に、二人の意識は途絶えた。

二人が最後に見た光景は、何故かいきなり上下が逆になった自分達の視界と、

ナイフを握った刺青女性の姿だった。そして少ししてから、二人の意識は再び覚醒した。

 

「はぁ……はぁ……一体何が……」

「もしかして今私達、殺された?」

「あ、ハルカ!」

「ユッコ!」

 

 二人は、隣にお互いの姿を見つけ、ほっとした。

周りを見回すと、そこはどうやら二人が最初に降り立った、ゲームの開始地点だった。

 

「ハルカ、どこまで覚えてる?」

「えっと、上下が逆さまで、ナイフを構えるあの刺青の女の人が見えた」

「あ、私と一緒だ。って事は……」

 

 二人は話を総合し、刺青女性に首を刎ねられ、ここに戻されたのだろうと結論付けた。

そんな二人に声を掛けてくる者がいた、ゼクシードである。

 

「よぉ、遅かったな。結構生き延びたのか?すごいな、二人とも」

「あ、ど、どうも……」

「あの、他の人達は……」

 

 そう問われたゼクシードは、苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

「全員逃げちまった」

「あ、そうなんですか……」

 

 そして二人は、どうする?といった表情で顔を見合わせた。

それを見たゼクシードは即座に頭を下げ、二人に謝罪した。

 

「すまん、今回の事は、完全に俺のミスだ。

もっと見張りに人数を裂いておけば良かったのに、ついみんなの成長を優先してしまって、

そこらへんが疎かになってしまった。そしてユッコとハルカの戦う姿に見蕩れてしまって、

一瞬意識が反れた瞬間に遠くから撃たれちまった、本当にすまん!」

 

 ゼクシードは、せっかく確保した女性プレイヤー二人を手放す訳にはいかないと、

印象を悪くしないように、お世辞を混ぜながらそうまくしたてた。

 

「もし二人が良かったら、これからも俺と行動を共にして欲しい。もちろん十分な支援はする」

 

 それを聞いた二人は、再び顔を見合わせた。

 

「ちょっと二人で話してもいいですか?」

「ああ、もちろんだ」

 

 そう言ってユッコとハルカは、少し離れた所に移動し、ヒソヒソと小声で相談を始めた。

 

「ねぇ、どうする?」

「確かにひどい目にあったけど、別にあの人のせいじゃないよね?」

「謝ってくれたし、私達の事、褒めてくれたしね」

「もしかして惚れられちゃった?私達って実は魔性の女?」

「だね、間違いないよ!」

「戦い方や、自力でのお金の稼ぎ方とか、そういうノウハウを勉強する為と思って、

しばらく一緒に行動してもいいかもね」

「その間にあいつから、出来るだけお金も引き出せばいいね」

「だね、うちら魔性の女だし!」

 

 そう、色々と勘違いした自分本位な会話を交わした二人は、

ニコニコと笑顔を作り、ゼクシードの下へと戻った。

 

「やられっぱなしじゃ悔しいし、これからもお世話になります」

「一緒に頑張りましょう!」

「あ、ありがとう、これからも宜しくな、ユッコ、ハルカ。

良かったらお詫びに飯でも奢るよ、VRで飯を食った経験ってあるか?」

「無いです!すごく興味があります!」

「初めてです、ありがとうございます!」

「それじゃ早速行こうぜ、こっちだ」

 

 こうして、それぞれの思惑を抱えながら、三人は今後も行動を共にする事になった。

一方その頃、意気揚々と凱旋したベンケイ、ピトフーイ、シノンを、

先に戻っていたシャナ達一行が出迎えていた。

 

「よお、その様子だと見事にやり遂げたみたいだな。さすがは俺の見込んだ仲間達だな」

「お兄ちゃん、もう戻ってたんだ」

「シャナ!うん、蹂躙してやったよ!褒めて褒めて!」

「シャナ、こんな大事な物を託してくれてありがとう。やっぱりこれ、すごいね……」

 

 ベンケイは、ロザリアが一緒なのを見て、実はとっくに戻ってたんでしょ?

とでも言いたげな、疑わしそうな目をシャナに向けたままそう言い、

ピトフーイは、見た目はまるで豹が飼い主に甘えるかのようだったが、

言葉としてはとても子供っぽい事を言った。

そして最後にシノンが、大切そうに胸に抱えていたM82をそっとシャナに差し出しながら、

名残惜しそうな表情でそう言った。

とりあえずベンケイの表情については何も触れず、シャナは笑顔で三人に言った。

 

「それじゃあどこかの店で、飯でも食いながら話を聞かせてもらうか。

ああ、この時間だと晩飯に差し支えるか?それじゃあ甘い物でもいいな」

「やったー!シャナの奢り?」

「当然お兄ちゃんの奢りだね!」

「当たり前だろ。慰労も兼ねて、いくらでも好きな物を頼んでくれ」

 

 その言葉で、ベンケイの疑いの視線も霧散したようだ。現金なものである。

そんな喜ぶピトフーイとベンケイの横で、シノンはシャナに、ニヤリとしながら言った。

 

「私も今日は遠慮しないからね」

「おう、シノンは特に体力を使っただろうから、いくらでも好きな物を注文してくれ。

あれ、重かっただろ?」

「そうね、もう少し筋力が欲しいと感じたわ」

「それじゃあまた、皆で狩りにでも行くか」

「うん、その時は喜んで参加させてもらうわ」

 

 こうしてシャナ一行が向かった店は、偶然にも、ゼクシード達が入った店とは、

道を挟んで反対側にある高級店だった。ちなみにゼクシード達が入った店は、

そこまで高級という事は無く、普通の店である。お互いの姿は見えない位置だったので、

シャナもゼクシードも、相手がすぐ近くにいようとは、まったく想像すらしていなかった。




いやぁ、本当に偶然ですねぇ。
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