ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第234話 勘違いと的外れ

「そうなんですか、ゼクシードさん、すごいですね」

「いやぁ、それほどでも」

「いえいえ、すごいですよぉ、何万人の中の、一握りのトップじゃないですか」

「二人にそう言ってもらえると、何か自信がついちゃうなぁ」

 

 店に入ってから、ユッコとハルカは、ひたすらゼクシードを持ち上げようと、

しきりに彼の事を褒めまくっていた。それはあくまでゼクシードから、

出来るだけ多くの恩恵を得られるようにと、そう考えた為であったが、

ここには奇妙な逆転現象が存在した。ゼクシードは、確かにシャナから見れば、

ただの路傍の小石のような存在であったが、他の大多数のプレイヤーにとっては、

BoBに出て決勝まで残るようなプレイヤーというのは憧れの存在でもあるようで、

実際にこの店でも、ユッコとハルカは、自分達に向けられる憧れの視線を感じていた。

それはほとんどがゼクシードに向けられた視線だったのだが、

時折ユッコとハルカにも同じような視線を向けてくる者がおり、

そのほとんどが、少数ではあるが、しかし確かに存在している、

他の女性プレイヤーからの視線だった為、二人はゼクシードと一緒にいる自分達も、

他の者から見れば憧れの存在なのだと勘違いし、

ゼクシードを選んだ事は正解だったとほくそ笑んでいた。

一方その頃、通りを挟んだ向かいの店では、シャナ達が会話に花を咲かせていた。

ちなみに高級店だけの事はあり、最上階にある上に完全個室であり、

他の者からの視線はシャットアウトされていた。

 

「で、最初はシノノンの狙撃から開始する事にしたの」

「確かに最初に頭を潰すのはセオリーだな。特に今回は、相手は新人ばっかりな訳だしな」

「でしょでしょ。まあ仮に外したとしても、

私かケイが、確実にあいつを仕留めれば良かった訳だしね」

 

 そのピトフーイの発言に対し、シノンは頬を膨らませ、抗議した。

 

「あんな動かない的なんか、さすがに外さないわよ」

「シノノン、分かってるって、例えばだよ、例えば!」

「ですです、シノンさんはこの所、すごく狙撃の腕を上げてきてますしね」

「そ、そうかな……」

 

 そう言うとシノンは、ちらっとシャナの方を見た。

シャナはその視線に対し、頷きながら言った。

 

「俺のM82はすごいからな、この結果は当然だ」

「シャナ!」

 

 シズカはそんなシャナの頭を、めっと言いながら叩くと、

フォローするように、シャナの真似をしながらシノンにこう言った。

 

「ごめんねシノノン、シャナってほら、素直じゃないから……今のを訳すとね、

『俺のM82を使わせるくらいだぞ、当然腕を認めているに決まってるだろ』

って意味になるんだからね」

 

 シャナの言葉に一瞬しょぼんとしたように見えたシノンは、

その言葉の意味を理解し、すぐに立ち直り、シズカに笑顔を見せたのだが、

直後にジト目でシャナの方を見ながら言った。

 

「あんたね、たまには素直に相手を褒めてもいいんじゃない?」

「じ、自分から褒めた事だって何度もあるぞ」

「シャナはね、今のシノノンみたいに、感想を求められちゃうと、

ついつい捻くれた事を言っちゃうんだよね」

「私もシャナとはもうそこそこ長く付き合ってるし、それ、何となく分かるわ」

「おい、二人して俺にレッテルを貼ろうとするな、俺はいつも、とても素直で正直だ」

 

 そのシャナの発言に対し、ベンケイは呆れた顔で言った。

 

「あのねお兄ちゃん、自分でも信じていない事を、他人に主張するのはどうかと思うよ。

そもそもその、すぐ恥ずかしがって捻くれて誤魔化す所が、

今のお兄ちゃんの周りの、愛人志願者の乱立を招いているんだからね」

「お、おい、ケイまで……」

「はぁ、本当に苦労するよね、お義姉ちゃん」

「うん、基本的に天然だからね、天然ジゴロだよ、まったくもう」

 

 シズカはそう言って、ちらりとシノンの方を見た。シノンは何故か、少し俯いていたが、

そのシズカの視線に気付くと、急に笑顔を作り、それに同意した。

 

「本当に、どうしてこんな奴がモテるんだか、まったく理解出来……ないわ」

 

 シノンのその言葉は尻すぼみであった。そのまま笑顔を崩さず、

しかしシノンは、内心何かに葛藤するように、自分の考えに没頭していた。

それを見たシズカは、残りの女性陣にひそひそと話し掛けた。

 

「みんな、どう思う?」

「落ちてるね」

「落ちてるわね」

「やっぱり陥落してましたか」

 

 ピトフーイ、ロザリア、ベンケイが順番にそう言い、シズカは、ため息をついた。

 

「これはもう明日にでも、予定してたケーキ食べ放題に行って、

ハッキリと身内として引き込む必要があるね」

「明日なら空いてます」

「私も大丈夫」

「私とシャナは、私の両親と一緒に京都に行かないといけない用事があるんだけど、

どうせうちの両親の予定が空くまでにもう少しかかるし、こっちも問題無いよ。

せっかくだし、予定が空くならロザリアさんも参加したら?」

「え、いいの?」

「うん、もちろんだよ、皆でシャナに奢ってもらおう」

「やった、是非お願い!」

 

 その四人のひそひそ話に居心地が悪くなったのか、シャナが四人に声を掛けた。

 

「お、おいお前ら、一体何を……」

 

 その言葉を無視し、シズカは笑顔のまま考え込んでいるシノンに声を掛けた。

 

「ねぇシノノン、明日って何か、予定とか入ってる?」

 

 その言葉に我に返ったのか、シノンは慌ててこう答えた。

 

「えっ、あっ、ごめん、えっと、明日は特に何も予定は無いわ」

「それじゃあさ、もし良かったら、明日の放課後、

この前予定したケーキ食べ放題に、皆で行こうと思うんだけど」

 

 その言葉を聞いたシノンは、少しまごまごしながらシズカに聞き返した。

 

「それって、シャナももちろん来るんだよね?」

「うん、お財布だからね!」

「お財布な……」

 

 そのシズカの言葉に、シャナは少し落ち込んだ様子を見せた。

そんなシャナの様子を見て、シノンはまるで自分を納得させるかのようにこう言った。

 

「リアルで知らない男と会うのって、やっぱり色々問題があるかなって、

ちょこっと迷った部分もあるんだけど、

うん、シャナは男じゃない、お財布、お財布……大丈夫、うん、参加する」

「やった、それじゃ決まりね、えっと、待ち合わせ場所は……」

 

 その後、待ち合わせ場所も決まり、会話は再び今日の戦闘の話へと戻った。

 

「ユッコとハルカ?」

「うん、確かにそう名乗ったから、イラっとして首を刎ねちゃった、てへっ」

「てへっ、じゃねえよ、さすがに本人な訳ないだろ」

「でも、そんな偶然、逆にあるかなぁ?ユッコとハルカって組み合わせって、

そんなにありふれた名前じゃないと思うんだけど」

「それはまあ……確かにな」

「ねぇ、その二人って、どういう人なの?」

 

 そのシノンの問いに、ピトフーイは、固有名詞を上手にぼかしながら、

以前あった事をシノンに説明した。

 

「うわ、嫌な奴らね」

「でしょでしょ?人の話を聞かないで、自分の考えに凝り固まってるのって最悪だよね」

「まあ事情は了解したわ、本人の訳は無いと思うけど、顔も覚えてるし一応気にしとく」

「うん!」

「お前ら、あんまり赤の他人に迷惑をかけるなよ。

新人の女性プレイヤーをいびる趣味は、俺には無いからな」

 

 シャナのその言葉に、二人は頷いた。

 

「まあ確かにあの二人、完全に素人っぽかったしね」

「でも、ゼクシードに関しては、これで諦めるとも思えないし、今後も注意ね」

「私も彼の動向については、情報収集を進めておくわ」

「ロザリア、頼んだ」

「はい、それじゃあ注文した品も揃った事だし、今度はそっちも楽しもう」

 

 シズカのその提案を受け、六人はリラックスした雰囲気で食事を開始した。

ガッツリ食べる者、スイーツを楽しむ者、それぞれだったが、

皆に共通していたのは、その笑顔だった。

隣の店で、色々思惑を抱きながら、表情を作って会話していた三人と比べると、

こちらの六人は難しい事は考えず、ただひたすらその場の雰囲気を楽しんでいた。

 

「美味しかった!さすがは高級店!」

「すごく楽しかったわね」

「うん、VRの醍醐味って、こういう部分も、確かにあるよね」

「どんな遠くの人とでも、すぐに会えるしね」

 

 食事が終わり、そう楽しそうに話す一同にシャナは言った。

 

「それじゃあ俺はまとめて支払いをしておくから、先に外で待っててくれ。

といっても、今日はこのまま解散するだけだけどな」

「うん、分かった……あっ」

 

 その時シズカが何かに気付いたのか、店の入り口の横の、大きな窓の所に向かった。

 

「ここから見る景色って、何かすごいね」

「どれどれ」

「私も見たいです!」

 

 シノンとベンケイも興味を持ったのか、同じく窓の方へと近寄った。

 

「それじゃあ私は外で待ってますね」

「私も外にいるね」

 

 ピトフーイとロザリアは、そう言って先に外に出た。

他の三人は、窓から見える街のあちこちを指差し、色々と話していた。

ちなみにこの店は、雰囲気を重視する為、テーブルで料理を選んだ瞬間に、

同時に支払いが行われるタイプの店では無く、普通に現実と同じシステムになっていた。

いわゆる、わざわざ手間をかけさせる、高級店ならではの趣向である。

そして先に外に出たロザリアは、正面にも飲食店がある事に気が付いた。

 

「あら、あっちにもお店があるのね」

「うん、あっちは庶民的なお店だよ、普通私達が利用するなら、まああっちだよね」

「さすがはお財布付き……んっんっ、今のはシャナには内緒よ」

「うん、分かってるって……あれ?」

 

 ピトフーイはその時、向かいの店から、

見覚えのある三人の男女が出てきたのに気が付いた。

その相手のうち、二人の女性がこちらを見てギョッとした。

残る一人の男性も、ピトフーイとロザリアを見てギョッとした。

 

「ピトフーイ、それに確かロザリアだったか?随分羽振りがいいじゃねえか、たまの贅沢か?」

 

 その男、ゼクシードの言葉は、警戒を含みながらも比較的のんびりとした物だった。

そんなゼクシードに、慌てたような口調で、隣にいた二人の女性、ユッコとハルカが言った。

 

「ゼクシードさん、あの刺青女が、さっき私達を襲撃してきた奴です」

「はぁ?シャナの仕業じゃ無かったのか?」

 

 どうやら三人は、今日の戦闘については思い出したくも無かったのか、

その事については、まったく話していなかったらしく、

それを聞いたゼクシードは、挑発するようにピトフーイに言った。

 

「お前が首謀者かよ、今日はやってくれたなピトフーイ、必ずこの借りは返すぞ」

「首謀者は俺だぞ、まあ俺は戦闘には参加してなかったけどな。

それにしてもピトを倒す?出来もしない事を言うのはやめた方がいいな、ゼクシード」

「シャナ、てめえ、ここにいたのか」

 

 その時後ろの扉から、シャナが外に出てきて、ゼクシードに言った。

 

「シャナ、ゼクシード達はあっちの店で食事してたみたい」

「ああ、確かにそこは安くていい店だしな……こっちは高くていい店だが」

「おいシャナ……ちょっと金があるからっていい気になってるんじゃねえよ」

 

 周辺にいた他のプレイヤー達は、そのやり取りに剣呑な雰囲気を感じ、

遠巻きに、その二組のにらみ合いを見物していた。

 

「俺の首に賞金を掛けたんだってな、ゼクシード。自分一人じゃ何も出来ないのか?

俺はいつでもお前とのタイマンを受けてやるぞ。どんな距離でもな」

「はっ、今は確かにお前の方が上だろうさ、だがこのゲームは、基本チーム戦だ。

いずれこのユッコとハルカと共に、俺がお前を倒してナンバーワンとなる!」

「ユッコとハルカ、ねぇ……」

 

 シャナはそう言うと、二人をじっと見つめた。

二人はシャナの視線を受け、背筋が凍りつくのを感じたが、

それが同窓会の時に、ゴドフリーから受けたプレッシャーと同種の物だという事に、

未熟な二人はまったく気付く事が出来なかった。

そしてゼクシードは、ユッコとハルカを見つめるシャナを見て、

何を勘違いしたのか、シャナに向かってこう言い放った。

 

「どうだシャナ、その色気の無い男みたいな女は別として、お前の傍には女はロザリア一人、

こっちはユッコとハルカの美人コンビで二人だ。そっち方面では俺の完勝だな」

 

 ピトフーイはその言葉に、多少自覚はあったのか少し悲しそうな顔をした。

その瞬間、ゼクシードに対し、どうでもいいという反応をしていたシャナは、

ピトフーイのその表情を見て、イラっとした表情を見せた。




久々の告知になります。明日の投稿分は、かなり力を入れて書きました。
六千文字オーバーになります。タイトルは『シズカ、舞う』です。
基本いつも通りですが、好きな人は好きな話だと思います。
そこまで衝撃的な話ではないと思いますが……
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