「そうなんですか、ゼクシードさん、すごいですね」
「いやぁ、それほどでも」
「いえいえ、すごいですよぉ、何万人の中の、一握りのトップじゃないですか」
「二人にそう言ってもらえると、何か自信がついちゃうなぁ」
店に入ってから、ユッコとハルカは、ひたすらゼクシードを持ち上げようと、
しきりに彼の事を褒めまくっていた。それはあくまでゼクシードから、
出来るだけ多くの恩恵を得られるようにと、そう考えた為であったが、
ここには奇妙な逆転現象が存在した。ゼクシードは、確かにシャナから見れば、
ただの路傍の小石のような存在であったが、他の大多数のプレイヤーにとっては、
BoBに出て決勝まで残るようなプレイヤーというのは憧れの存在でもあるようで、
実際にこの店でも、ユッコとハルカは、自分達に向けられる憧れの視線を感じていた。
それはほとんどがゼクシードに向けられた視線だったのだが、
時折ユッコとハルカにも同じような視線を向けてくる者がおり、
そのほとんどが、少数ではあるが、しかし確かに存在している、
他の女性プレイヤーからの視線だった為、二人はゼクシードと一緒にいる自分達も、
他の者から見れば憧れの存在なのだと勘違いし、
ゼクシードを選んだ事は正解だったとほくそ笑んでいた。
一方その頃、通りを挟んだ向かいの店では、シャナ達が会話に花を咲かせていた。
ちなみに高級店だけの事はあり、最上階にある上に完全個室であり、
他の者からの視線はシャットアウトされていた。
「で、最初はシノノンの狙撃から開始する事にしたの」
「確かに最初に頭を潰すのはセオリーだな。特に今回は、相手は新人ばっかりな訳だしな」
「でしょでしょ。まあ仮に外したとしても、
私かケイが、確実にあいつを仕留めれば良かった訳だしね」
そのピトフーイの発言に対し、シノンは頬を膨らませ、抗議した。
「あんな動かない的なんか、さすがに外さないわよ」
「シノノン、分かってるって、例えばだよ、例えば!」
「ですです、シノンさんはこの所、すごく狙撃の腕を上げてきてますしね」
「そ、そうかな……」
そう言うとシノンは、ちらっとシャナの方を見た。
シャナはその視線に対し、頷きながら言った。
「俺のM82はすごいからな、この結果は当然だ」
「シャナ!」
シズカはそんなシャナの頭を、めっと言いながら叩くと、
フォローするように、シャナの真似をしながらシノンにこう言った。
「ごめんねシノノン、シャナってほら、素直じゃないから……今のを訳すとね、
『俺のM82を使わせるくらいだぞ、当然腕を認めているに決まってるだろ』
って意味になるんだからね」
シャナの言葉に一瞬しょぼんとしたように見えたシノンは、
その言葉の意味を理解し、すぐに立ち直り、シズカに笑顔を見せたのだが、
直後にジト目でシャナの方を見ながら言った。
「あんたね、たまには素直に相手を褒めてもいいんじゃない?」
「じ、自分から褒めた事だって何度もあるぞ」
「シャナはね、今のシノノンみたいに、感想を求められちゃうと、
ついつい捻くれた事を言っちゃうんだよね」
「私もシャナとはもうそこそこ長く付き合ってるし、それ、何となく分かるわ」
「おい、二人して俺にレッテルを貼ろうとするな、俺はいつも、とても素直で正直だ」
そのシャナの発言に対し、ベンケイは呆れた顔で言った。
「あのねお兄ちゃん、自分でも信じていない事を、他人に主張するのはどうかと思うよ。
そもそもその、すぐ恥ずかしがって捻くれて誤魔化す所が、
今のお兄ちゃんの周りの、愛人志願者の乱立を招いているんだからね」
「お、おい、ケイまで……」
「はぁ、本当に苦労するよね、お義姉ちゃん」
「うん、基本的に天然だからね、天然ジゴロだよ、まったくもう」
シズカはそう言って、ちらりとシノンの方を見た。シノンは何故か、少し俯いていたが、
そのシズカの視線に気付くと、急に笑顔を作り、それに同意した。
「本当に、どうしてこんな奴がモテるんだか、まったく理解出来……ないわ」
シノンのその言葉は尻すぼみであった。そのまま笑顔を崩さず、
しかしシノンは、内心何かに葛藤するように、自分の考えに没頭していた。
それを見たシズカは、残りの女性陣にひそひそと話し掛けた。
「みんな、どう思う?」
「落ちてるね」
「落ちてるわね」
「やっぱり陥落してましたか」
ピトフーイ、ロザリア、ベンケイが順番にそう言い、シズカは、ため息をついた。
「これはもう明日にでも、予定してたケーキ食べ放題に行って、
ハッキリと身内として引き込む必要があるね」
「明日なら空いてます」
「私も大丈夫」
「私とシャナは、私の両親と一緒に京都に行かないといけない用事があるんだけど、
どうせうちの両親の予定が空くまでにもう少しかかるし、こっちも問題無いよ。
せっかくだし、予定が空くならロザリアさんも参加したら?」
「え、いいの?」
「うん、もちろんだよ、皆でシャナに奢ってもらおう」
「やった、是非お願い!」
その四人のひそひそ話に居心地が悪くなったのか、シャナが四人に声を掛けた。
「お、おいお前ら、一体何を……」
その言葉を無視し、シズカは笑顔のまま考え込んでいるシノンに声を掛けた。
「ねぇシノノン、明日って何か、予定とか入ってる?」
その言葉に我に返ったのか、シノンは慌ててこう答えた。
「えっ、あっ、ごめん、えっと、明日は特に何も予定は無いわ」
「それじゃあさ、もし良かったら、明日の放課後、
この前予定したケーキ食べ放題に、皆で行こうと思うんだけど」
その言葉を聞いたシノンは、少しまごまごしながらシズカに聞き返した。
「それって、シャナももちろん来るんだよね?」
「うん、お財布だからね!」
「お財布な……」
そのシズカの言葉に、シャナは少し落ち込んだ様子を見せた。
そんなシャナの様子を見て、シノンはまるで自分を納得させるかのようにこう言った。
「リアルで知らない男と会うのって、やっぱり色々問題があるかなって、
ちょこっと迷った部分もあるんだけど、
うん、シャナは男じゃない、お財布、お財布……大丈夫、うん、参加する」
「やった、それじゃ決まりね、えっと、待ち合わせ場所は……」
その後、待ち合わせ場所も決まり、会話は再び今日の戦闘の話へと戻った。
「ユッコとハルカ?」
「うん、確かにそう名乗ったから、イラっとして首を刎ねちゃった、てへっ」
「てへっ、じゃねえよ、さすがに本人な訳ないだろ」
「でも、そんな偶然、逆にあるかなぁ?ユッコとハルカって組み合わせって、
そんなにありふれた名前じゃないと思うんだけど」
「それはまあ……確かにな」
「ねぇ、その二人って、どういう人なの?」
そのシノンの問いに、ピトフーイは、固有名詞を上手にぼかしながら、
以前あった事をシノンに説明した。
「うわ、嫌な奴らね」
「でしょでしょ?人の話を聞かないで、自分の考えに凝り固まってるのって最悪だよね」
「まあ事情は了解したわ、本人の訳は無いと思うけど、顔も覚えてるし一応気にしとく」
「うん!」
「お前ら、あんまり赤の他人に迷惑をかけるなよ。
新人の女性プレイヤーをいびる趣味は、俺には無いからな」
シャナのその言葉に、二人は頷いた。
「まあ確かにあの二人、完全に素人っぽかったしね」
「でも、ゼクシードに関しては、これで諦めるとも思えないし、今後も注意ね」
「私も彼の動向については、情報収集を進めておくわ」
「ロザリア、頼んだ」
「はい、それじゃあ注文した品も揃った事だし、今度はそっちも楽しもう」
シズカのその提案を受け、六人はリラックスした雰囲気で食事を開始した。
ガッツリ食べる者、スイーツを楽しむ者、それぞれだったが、
皆に共通していたのは、その笑顔だった。
隣の店で、色々思惑を抱きながら、表情を作って会話していた三人と比べると、
こちらの六人は難しい事は考えず、ただひたすらその場の雰囲気を楽しんでいた。
「美味しかった!さすがは高級店!」
「すごく楽しかったわね」
「うん、VRの醍醐味って、こういう部分も、確かにあるよね」
「どんな遠くの人とでも、すぐに会えるしね」
食事が終わり、そう楽しそうに話す一同にシャナは言った。
「それじゃあ俺はまとめて支払いをしておくから、先に外で待っててくれ。
といっても、今日はこのまま解散するだけだけどな」
「うん、分かった……あっ」
その時シズカが何かに気付いたのか、店の入り口の横の、大きな窓の所に向かった。
「ここから見る景色って、何かすごいね」
「どれどれ」
「私も見たいです!」
シノンとベンケイも興味を持ったのか、同じく窓の方へと近寄った。
「それじゃあ私は外で待ってますね」
「私も外にいるね」
ピトフーイとロザリアは、そう言って先に外に出た。
他の三人は、窓から見える街のあちこちを指差し、色々と話していた。
ちなみにこの店は、雰囲気を重視する為、テーブルで料理を選んだ瞬間に、
同時に支払いが行われるタイプの店では無く、普通に現実と同じシステムになっていた。
いわゆる、わざわざ手間をかけさせる、高級店ならではの趣向である。
そして先に外に出たロザリアは、正面にも飲食店がある事に気が付いた。
「あら、あっちにもお店があるのね」
「うん、あっちは庶民的なお店だよ、普通私達が利用するなら、まああっちだよね」
「さすがはお財布付き……んっんっ、今のはシャナには内緒よ」
「うん、分かってるって……あれ?」
ピトフーイはその時、向かいの店から、
見覚えのある三人の男女が出てきたのに気が付いた。
その相手のうち、二人の女性がこちらを見てギョッとした。
残る一人の男性も、ピトフーイとロザリアを見てギョッとした。
「ピトフーイ、それに確かロザリアだったか?随分羽振りがいいじゃねえか、たまの贅沢か?」
その男、ゼクシードの言葉は、警戒を含みながらも比較的のんびりとした物だった。
そんなゼクシードに、慌てたような口調で、隣にいた二人の女性、ユッコとハルカが言った。
「ゼクシードさん、あの刺青女が、さっき私達を襲撃してきた奴です」
「はぁ?シャナの仕業じゃ無かったのか?」
どうやら三人は、今日の戦闘については思い出したくも無かったのか、
その事については、まったく話していなかったらしく、
それを聞いたゼクシードは、挑発するようにピトフーイに言った。
「お前が首謀者かよ、今日はやってくれたなピトフーイ、必ずこの借りは返すぞ」
「首謀者は俺だぞ、まあ俺は戦闘には参加してなかったけどな。
それにしてもピトを倒す?出来もしない事を言うのはやめた方がいいな、ゼクシード」
「シャナ、てめえ、ここにいたのか」
その時後ろの扉から、シャナが外に出てきて、ゼクシードに言った。
「シャナ、ゼクシード達はあっちの店で食事してたみたい」
「ああ、確かにそこは安くていい店だしな……こっちは高くていい店だが」
「おいシャナ……ちょっと金があるからっていい気になってるんじゃねえよ」
周辺にいた他のプレイヤー達は、そのやり取りに剣呑な雰囲気を感じ、
遠巻きに、その二組のにらみ合いを見物していた。
「俺の首に賞金を掛けたんだってな、ゼクシード。自分一人じゃ何も出来ないのか?
俺はいつでもお前とのタイマンを受けてやるぞ。どんな距離でもな」
「はっ、今は確かにお前の方が上だろうさ、だがこのゲームは、基本チーム戦だ。
いずれこのユッコとハルカと共に、俺がお前を倒してナンバーワンとなる!」
「ユッコとハルカ、ねぇ……」
シャナはそう言うと、二人をじっと見つめた。
二人はシャナの視線を受け、背筋が凍りつくのを感じたが、
それが同窓会の時に、ゴドフリーから受けたプレッシャーと同種の物だという事に、
未熟な二人はまったく気付く事が出来なかった。
そしてゼクシードは、ユッコとハルカを見つめるシャナを見て、
何を勘違いしたのか、シャナに向かってこう言い放った。
「どうだシャナ、その色気の無い男みたいな女は別として、お前の傍には女はロザリア一人、
こっちはユッコとハルカの美人コンビで二人だ。そっち方面では俺の完勝だな」
ピトフーイはその言葉に、多少自覚はあったのか少し悲しそうな顔をした。
その瞬間、ゼクシードに対し、どうでもいいという反応をしていたシャナは、
ピトフーイのその表情を見て、イラっとした表情を見せた。
久々の告知になります。明日の投稿分は、かなり力を入れて書きました。
六千文字オーバーになります。タイトルは『シズカ、舞う』です。
基本いつも通りですが、好きな人は好きな話だと思います。
そこまで衝撃的な話ではないと思いますが……