「ん、いつの間にか新着動画が来てたのか、って、既にすごい閲覧数ではないか……
波に乗り遅れるとは、この義輝、一生の不覚!」
話は一旦、前日の夜まで遡る。
「ほうほう、おおっ?何だこの動きは……世の中にはまだまだすごい人がいるんだな……
しかし女性でこの動きは、噂に聞く明日奈さんクラスか……」
「何ぶつぶつ言ってるの?材木座君」
「おわっ、ボ、ボス!」
「何?またえっちな動画でも見てるの?」
「そ、そんなもの、職場では一度も見た事が無いです!」
「職場では、ね」
その言葉に抗議しようとする義輝を制し、陽乃はその動画を覗き込んだ。
「ん~?んんんんん~……ちょっと義輝君、この動画、最初から見せて」
「あっ、はい。ボスはこの動画に興味が?」
「興味というか、ちょっと気になる事があるのよね。
ちょっと待っててね材木座君。お~いアルゴちゃん、ちょっとこっちに来て」
陽乃はその動画の再生を一時停止させ、アルゴを呼んだ。
「何だ?ボス」
「ちょっとこの動画を見てみて欲しいの」
「動画?」
「義輝君、再生して」
「は、はい」
そして動画が終わり、陽乃はアルゴに感想を聞いた。
「アルゴちゃん、どう思った?」
「どう思ったも何も、アーちゃんはやっぱりすごいなとしカ」
「あ、やっぱり?」
「ななな何ですと!?本人だったのか……」
アルゴはあっさりとそう断定した。
「で、これは当然ハー坊で、これは薔薇だろ?
で、こっちの小さいのは、多分こまッチで、残りの二人は知らない奴だナ」
「むむむ、あいつめ、また新しい取り巻きの女性を増やしたのか……何と羨まけしからん!」
「なるほどねぇ……ありがとう。義輝君、この動画、保存して私に頂戴」
「分かりました。でも、一体何に使うんですか?」
「そんなの決まってるじゃない、くふふふふふ」
その陽乃の表情を見て、絶対に良からぬ事を考えているなと思った義輝は、
心の中で八幡に謝罪した。
(すまん八幡、悪いとは思うが、社畜は上司には逆らえないのだ……ってかリア充爆発しろ!)
そして話は再び現在へと戻る。八幡達六人が、ケーキの素晴らしい味を堪能し、
食後のお茶で一息ついていた時、突然それは起こった。
店内の照明が暗くなり、突然天井から、プロジェクターのスクリーンが降りてきたのだ。
「な、何だ?」
そして唐突に、スクリーンに映像が映し出された。
最初の画面に映し出されたのは『雪ノ下陽乃 監督作品』の文字だった。
「えっ……?ハル姉さん?」
「嫌な予感しかしないんだが……」
次にBGMと共に、日本刀を持っている八幡の姿と、
それをしげしげと見つめている明日奈の姿が映し出された。
「あっ、これ、前ハル姉さんの家に行った時、
飾ってあった日本刀を振らせてもらった時の映像じゃない?」
「こっそり録画してやがったのか……」
そして、ナレーションが始まった。
≪愛する少女を守る為、刀を手に取った少年は、ボスとの戦いに勝利し、
愛する少女と共に、そのまま旅に出た≫
そして画面には、キットに乗り込む八幡と明日奈の姿が映った。
「って、ただ車に乗ってるだけの映像じゃねーか……」
≪そして二人は長い放浪の末、とある惑星へとたどり着いた。
その惑星は刀が通用しない、銃の世界だった≫
「どこだ馬鹿姉!どうやって車で他の惑星にたどり着くんだよ!」
「八幡君、ま、まあ落ち着いて」
≪その惑星で、少年は、新たな仲間を得た≫
『俺と戸部も、比企谷と一緒に戦った仲間だからね』
「あっ、これ、同窓会の映像だ」
「そういえば、あの時録画してるって言ってたな……」
≪だがその二人は、この男に殺された≫
そして画面の中の葉山と戸部の顔に×が付けられ、ゼクシードの顔がアップで映った。
「あれっ」
「何でゼクシードの映像が……」
≪しかし少年はめげずに、再び新たな仲間とめぐり合ったのだった≫
そして画面には、昨日の夜、ゼクシード達と対峙した時の映像が映し出された。
「……え?」
「おい、何でこの映像が存在してるんだ?」
「そういえばあの時、何人かが撮影してたような気がしたわね」
「まじかよ小猫……」
「小猫って言うな!」
『お前……それが何か戦闘に関係があるのか?お前も男なら、実力を示せよ』
『ぎゃはははは、負け惜しみかよシャナ』
『二度目は許さん』
≪少年は、以前仲間を殺された時の事を思い出し、そう言った。
だが宿敵ゼクシードは、余裕の態度でシャナを挑発した≫
『シャナ、女にもてないってのは、悲しいよなぁ』
『おいゼクシード、さすがにイラついたわ、俺はお前を、徹底的に潰す』
≪こうして不利な状況の中、戦いが始まろうとしていたその時、
かつての仲間達が……ん~、アルゴちゃん、もうちょっとここ、捻れないかな?
何か八幡君が、もてないひがみを言ってるように見えちゃうわよね?≫
≪根本的に、素材が足りないぞ、ボス≫
≪ん~、まあいいや、めんどくさいし、後は編集無しでいっか!≫
≪死ね、リア充!≫
「……え~っと」
「アルゴと材木座も噛んでやがったか……」
そして映像は、シズカ達がビルから飛び出して来た所から、普通に再生され始めた。
『初めまして、私はシズカ。彼の半身にして、彼と永遠に運命を共にする者』
その自分の恥ずかしい姿を目の当たりにした明日奈は、いきなり絶叫した。
「きゃああああああああああああああ」
そしてシズカがシャナの顔に手を添えた瞬間に、映像が途切れた。
「ん、編集無しじゃないのか?」
≪この場面は、教育上問題があるのでお見せ出来ません。
っていうか、独り身の私に、こんな刺激的な映像を見せるなんて……≫
「って愚痴かよ!」
「ちょっと姉さん、ここが肝心な所じゃない!」
「明日奈、気持ちは分かるが落ち着け」
「そうよ明日奈、落ち着きなさい」
「おい詩乃、他人事みたいに言ってるけどな、次は確かお前の出番だぞ」
そしてその言葉通り、次にシノンの姿が映し出された。
『今シズカが言った通り、私も彼と運命を共にする者』
「あああああ、ち、違うから、これはそういう意味じゃないから!」
「分かってるって、明日奈に合わせたんだろ?別に誤解なんかしないから、安心しろ」
「ちょっとあんた、何で誤解しないのよ、ふざけるんじゃないわよ!」
「え、ええ~……何でいきなりキレてんだよ……意味が分からん」
そして次に映し出されたのは、ベンケイとロザリアだったが、
当然二人は平然としていた。
「私達は平気ですよね、薔薇さん」
「ええ、これも日頃の行いかしらね」
そんなのんびりとした事を言った薔薇に、エルザは凍りつくような冷たい声で言った。
「薔薇ちゃん、とても大事な話があります。
もぎますか?もぎます、もぐ時、もげばもごう」
「ちょっ……エルザ、一体何を……」
「ダイエットに協力してあげるから、そこを絶対に動かないで」
「ち、違うの、あれはわざとじゃなくて、胸の上で手を組むのがつらかったの……」
だが、その薔薇の言葉は、当然火に油を注いだだけだった。
「ちっ、絶対に殺す」
「ひっ……」
胸を強調する薔薇に、エルザの怒りが頂点に達するかと思われたその時、
モニターに、ピトフーイを抱き寄せるシャナの姿が映った。
ピトフーイは慌てて自分のスマホを取り出し、
シャナに抱かれるピトフーイの姿を、アップで撮影していた。
「おいエルザ、お前何やって……いや、何でもない……」
八幡は、エルザがはぁはぁ荒い息を吐いているのを見て、それ以上何も言わない事にした。
どうやらこのまま自分の胸の事は誤魔化せそうだと、薔薇は心から安堵した。
そして映像の中では、いよいよシズカが剣を取り出した。
「あっ、お義姉ちゃん、どうやってやったのかと思ってたけど、実は空いてる左手で、
こっそりコンソールを操作してたんだね」
「あ、バレた?こうして映像で見ると、やっぱり分かっちゃうよね」
「でもすごいよお義姉ちゃん、私には絶対出来ないもん!」
「明日奈は器用なんだね」
「動くわよ」
そう薔薇が言った瞬間、シズカの姿が画面から消えた。
「「「「は?」」」」
「お前ら落ち着け、撮影してた奴が目で追いきれなくて、明日奈が画面の外に出ただけだ」
「いや、それにしてもだよお兄ちゃん」
「結構引いて撮影してるのにね」
「一体どんなスピードよ」
「えへっ」
明日奈はその言葉に、照れながらそう答えた。
そして次の瞬間、映像が巻き戻り、スロー再生が始まった。
「親切だなおい。ってか編集無しとか言ってたのはどうなった」
「多分ボスも、同じように明日奈の事が見えなかったんじゃないかしら」
「魔王でも見えないとか、さすがだね!」
「ここね、来るわよ」
六人は、そのまま画面を注視した。だが、やはり明日奈の姿は見えなかった。
「……」
「あれ?」
「見えませんね……」
「見えないね……」
「あっ、また画面が戻って、今度はコマ送りに!」
ほんの少しだけ映像が巻き戻ったかと思うと、今度はコマ送りでの再生が始まった。
さすがにコマ送りなので、そこには明日奈の姿がバッチリと捉えられていた。
ただし一コマだけ……
「えっと、一コマだけ映ってますね」
「でもこれ、映像がブレてるんだけど……」
「えへっ」
再び照れる明日奈に、詩乃は呆れたように言った。
「ねぇ明日奈、あんた化け物だったんだね……」
「もう~シノのん、それは褒めすぎだよぉ……」
「私、褒めてないわよ!?」
そして画面に、ゼクシードに剣を突きつけるシズカの姿が映し出された。
撮影者も、どうやら何が起こったのかやっと理解し、そちらにカメラを向けたらしい。
そしてシズカが、二度三度とゼクシードを追い詰めるその姿に、四人は興奮した。
「まさにシズカ姫ね、すごい……」
「綺麗ね……」
「やっぱりうちのお義姉ちゃんは最強!」
「私やっぱり、明日奈の娘になる!」
「おいピト、お前もう自分が何を言ってるか分かってないだろ……」
そして最後に、シズカが短剣をしまった瞬間、そこにいきなりシャナが現れた。
「「「「「は?」」」」」
「何で八幡君まで驚いてるの……」
「いや、映像だとこう見えるのかって、ちょっと驚いた……」
「まあ、確かにね。でもこれなら多分、すぐにコマ送りが始まるんじゃないかな」
その明日奈の言葉通り、すぐにコマ送りの映像が映し出された。
そこにはちゃんと、シャナの姿が映っていた……一コマだけ。
「また一コマ……」
「八幡、あんたも化け物だったんだね……」
「もう~シノのん、それは褒めすぎだよぉ……」
「八幡君、真似しないで!」
「あんたにシノのんって呼ばれると、違和感が半端ないわ……」
そしてそこで映像が終わり、次にノーカット版が流れ始めた。
映像で見ると、シャナが、ピトフーイが侮辱された瞬間に完全にキレているのがよく分かり、
ピトフーイを抱き寄せる所では、全員が拍手をした。
「八幡君、えらい!」
「お兄ちゃん、よくやった!」
「やっぱりあんたって、優しいのよね」
「いいなぁ……って、別に羨ましがってなんかないわよ!?
仲間を大切にするその姿への感想だからね!」
「詩乃、言ってる意味がよくわからん、とりあえず落ち着け」
そして最後に、エルザが目をうるうるさせながら八幡に言った。
「八幡、私の為に怒ってくれて、ありがとう!」
「まあ、当然の事だからな」
そして映像が終わり、店の照明が明るくなった。
直後にパチパチパチと拍手が聞こえ、夜子と優が八幡達の方へと歩いてきた。
「いや~、何ていうか、さすがですね、八幡さん、明日奈さん」
「見てたんですね……」
そう言う八幡の横で、明日奈は、恥ずかしそうに頬を押さえ、いやんいやんと呟いていた。
「八幡さん、陽乃さんが、あなたにこれを渡してくれと」
優がそう言って差し出してきたのは、
この映像が録画されているのであろう、ブルーレイディスクだった。
「ちなみに陽乃さんは、そう言った後、逃げるように去っていきました」
「くそっ、どうも気配が無いと思ってたら、やはり逃亡した後だったか……」
「ははっ、でも、すごくいい物を見させてもらいましたよ。
やっぱり八幡さんは、すごく仲間を大切にしてるんですね」
八幡はその言葉に照れた表情を見せ、残りの五人に散々からかわれる事となり、
その姿を、夜子と優が嬉しそうに眺めていた。
「それじゃあ八幡さん、明日奈さん、そして皆さん、またいつでもいらして下さい」
「今日はお会い出来て、本当に嬉しかったです」
「こちらこそ、お会い出来て嬉しかったです」
「お二人とも、お幸せに」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
こうして思わぬサプライズもあったが、六人はますます交流を深める事となった。
そして数日後、八幡と明日奈、章三、京子、陽乃、菊岡の六人は、
結城本家へと向かう為、新幹線で京都へと旅立っていった。
一方その頃、ゆっこと遥は、BoB決勝の映像を二人で視聴していた。
「見事に……」
「真っ二つだね……」
そして二人は初めて、シャナの本気の戦いをその目で見る事となった。
「うわ……」
「やばいね……」
「この人に、私達は勝たないといけないんだ……」
「どう考えても、無理なんじゃない?」
「う、うん……でもやるしかないよね……」
「だね……」
へっぽこ二人組の、無謀な戦いは続く。