ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第241話 大きな前進

「やぁやぁ、待ちわびたよ。早速そちらの凄い美人さんを紹介してもらってもいいかな?」

 

 知盛のその言葉に、陽乃は笑顔で自己紹介をした。

 

「初めまして、ソレイユ・コーポレーション社長、雪ノ下陽乃です。

ここには、八幡君と明日奈ちゃんの、魂の姉という立場で来ています」

 

 その魂の姉という造語を聞いた知盛は、感銘を受けたように言った。

 

「これはまた大物が……しかし、魂の姉ときましたか。

どうやら二人とは、とてもいい関係のようですね」

「ええ、彼のハーレムメンバーとして、明日奈ちゃんに公認されるくらいには」

「おいこら姉、最近本当に馬鹿になってないか?さすがにちょっと心配になってきたぞ」

 

 八幡は即座にそう突っ込んだが、陽乃はあっさりと受け流し、こう言った。

 

「と、まあこのように、彼は常に私の事を、とても気に掛けてくれています」

 

 再び突っ込もうとした八幡より先に、知盛が笑顔で言った。

 

「美人でスタイルもいい上に、実に個性的な方ですね、結城知盛です、宜しくお願いします」

「はい、宜しくお願いします」

 

 二人は握手をし、八幡は、とりあえずそれ以上突っ込むのをやめる事にした。

 

「で、八幡君、親父の印象はどうだった?何か言われなかったかい?」

「とても偏屈なじじいでしたね。だから面と向かって、じじいって呼んでやりました」

「ははっ、親父をじじい呼ばわりか、すごいな君は」

 

 その知盛の言葉に、八幡は、少しばつが悪そうに言った。

 

「すみません、実のお父さんに対して、ちょっと失礼な呼び方でしたね」

 

 それを聞いた知盛は、楽しそうに言った。

 

「いやぁ、君の胆力に感心しただけさ。気にしないでじじいのままでいいよ」

「分かりました。で、その後ですが、いきなり日本刀で斬りかかられました」

「ええっ?い、一体何があったんだい?」

 

 知盛は、さすがにそこまでは想定外だったようで、慌てた口調で八幡に尋ねた。

 

「最初に章三さんが、こっちの要求を伝えたんですよ。

まあ、レクトが今度、倉エージェンシーっていう芸能プロダクションと、

業務提携をするって話なんですけどね、でもまったく聞く耳を持たないって感じでした」

 

 それを聞いた知盛は、合点がいったという風に、嘆息しながら言った。

 

「ああ~、芸能関係だったかぁ……うちはほら、章三さんから聞いたかもだけど、

例えばアイドルが、人には言えない病気で入院するとか、

スキャンダルが発覚した時に緊急入院するとか、昔からそういう方面で関係が深いからね」

 

 八幡はそれを聞き、丁度いい機会だと思い、知盛にこんな質問をした。

 

「知盛さんは、提携についてはどう思います?」

「どう思うも何もさ、たかが提携一つで何か大きな変化がある訳でもないし、

うちが担ってきたそういう部分の需要が無くなる事も無い、まったく何の問題も無いよ」

「なるほど……」

 

(やっぱり知盛さんに、理事長になってもらうのが正解だな)

 

 八幡はそう思い、話を続けた。

 

「話が反れましたね。で、章三さんが、こちらからの条件を提示しようとしたんですけど、

どうせ言っても受け入れないという気がしましたし、まあ実際そうだったんですが、

ただ条件だけ提示して帰るのも癪だったんで、それを俺が止めてですね、

試しにあのじじいを真っ二つにするイメージで、殺気を飛ばしてみたんですけど」

「殺気!?」

「はい、そしたらあのじじい、こっちの殺気に直ぐに反応して、

いきなり日本刀で斬りかかってきたんですよ」

「う……うちの親父がすまない、八幡君、怪我は無かったかい?」

「問題無いです、護身用のこれで迎撃したんで」

 

 そう言って八幡は、護身用の警棒を知盛に見せた。

 

「それって警棒かい?ちなみにどうやって迎撃したんだい?」

「それはですね……知盛さん、ちょっとそのボールペンを日本刀に見立てて、

試しにこっちに斬りかかってきて下さい」

「ん、分かった」

 

 知盛は八幡にそう言われ、ボールペンを振りかぶり、八幡に斬りかかろうとした。

その瞬間に知盛の手は跳ね上げられ、知盛は大きく体勢を崩した。

その瞬間に、知盛の咽喉に警棒が突きつけられ、

ついでに首には明日奈の手刀が添えられていた。

 

「すみません、痛くなかったですか?」

 

 八幡のその心配をよそに、知盛は興奮した口調で八幡に言った。

 

「うわ……八幡君、今何やったの?いきなり体勢が崩れたんだけど、合気道か何か?

それに明日奈ちゃんも、いつの間に……まさかこれをそのまま親父に対してやったの?」

「はい、まんまこんな感じでしたね、明日奈も含めて。

ちなみに体勢が崩れたのは、ただのカウンターアタックの結果です」

「知盛さん、八幡君は、人相手だと、攻撃を全部弾いて相手の体勢を崩しまくって、

何もさせないまま倒すのが得意なんですよ」

「は、はは、あははははははは」

 

 いきなり知盛は笑い出した。知盛は、悪い笑顔で八幡に尋ねた。

 

「八幡君、親父はびびってたかい?」

「う~ん、冷や汗は流してましたけど、その後は案外普通でしたね」

「それ、絶対内心ではびびってたと思うよ」

 

 知盛は、とても愉快そうにそう言った。

そんな知盛に、八幡は気になっていた事を質問した。

 

「ところで知盛さん、SAOでの俺の事は、やっぱり患者さんから聞いたんですか?

あのじじいも、閃光のアスナの事は知ってたみたいですけど」

 

 知盛はその八幡からの質問に、真面目な顔になり、こう答えた。

 

「やっぱり君は、あのハチマン君だったんだね。

その言い方だと、親父は閃光のアスナの名前しか知らなかったのかな。

僕の見ていた患者さん達から出てきた名前も、閃光のアスナの他は、

黒の剣士、神聖剣、銀影って呼び名だけでね、明日奈ちゃんの事は知ってたから、

もしかしたらと思って、他の病院の患者さんにも色々聞いて回ったんだよね。

それで出てきた名前が、ヒースクリフ、キリト、そしてハチマンの、三人の名前だったんだ。

それじゃあやっぱり、閃光のアスナってのは、明日奈ちゃんの事だったんだね」

「う……やっぱり叔父さんにそう言われると、

他人に言われた時と比べてすごく恥ずかしいです……」

 

 そんな明日奈に知盛は、笑いながら謝罪した。

 

「ははっ、ごめんごめん、もう言わないよ。

それにしても章三、俺にくらいは教えてくれてもいいじゃないかよ。

前聞いた時は、知らないの一点張りだったよな?」

 

 そう言われた章三は、何かに思い当たったのか、こう言った。

 

「そうか、知盛にはこの事は言ってなかったよな。

実はあの時明日奈はな、まだSAOから解放されてはいなかったんだよ。

明日奈はあの最後の百人のうちの一人だったんだ。

だから前に聞かれた時には、その事を話す精神的余裕が無くてな……」

「ええっ?そうか……あの時歯切れが悪かったのはそのせいか……

無神経な事を聞いてしまってすまなかった。そういえば犯人は確か、章三の会社の……」

「ああ、あれが私の罪だ。そのせいで、危うく明日奈を失う所だった。

だが、この八幡君のおかげで、またこうして明日奈をこの腕に抱く事が出来た。

いくら感謝してもし足りないくらいだよ。

しかもそんな彼が、もうすぐ私の息子になるんだ、こんなに嬉しい事は無い。

どうだ知盛、羨ましいだろう?」

 

 それを聞いた知盛は、きょとんとした後、驚きの表情を浮かべた。

 

「確かに羨ましいけど、ええっ?それじゃまさか、あの事件を解決したのは……」

「ああ、ここにいる八幡君だ」

「どう?知盛さん、私の彼氏はすごいでしょ?」

「あ、ああ、そうだね。そうか……そうか……」

 

 知盛はそう呟くと、少し潤んだ目で、しっかりと八幡の手を握りながら言った。

 

「八幡君、明日奈ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう……ありがとう……」

「知盛さん、明日奈を助けるのは、俺には当然の事なんで、

そこまで特別な事をした訳じゃないです」

「当然、な。それが言える奴は、そんなに多くないと思うけどね。

とにかくありがとう八幡君、本当にありがとう」

 

 知盛は、何度も何度も八幡にお礼を言い、明日奈は嬉しそうに八幡に寄り添っていた。

 

「話が大分反れてしまったね。で、結局君達は、何が目的で、

倉エージェンシーとの提携を何としても結びたいんだい?」

「実はですね……」

 

 八幡は、今回の事の経緯を、詳しく知盛に説明した。

それを聞いた知盛は、顔を赤くしながらこう言った。

 

「何だそのゴミ虫は。出来る事ならこの手で抹殺してやりたいよ」

「それについてはまあ、同感ですけどね」

「しかしまあ、君の持ってる力を考えた時、単純に叩き潰した方が簡単な気もするんだが、

それをしないのが君の欠点なんだろうね、僕から見ても、君は優しすぎる」

 

 八幡はその言葉に、目を伏せながら答えた。

 

「自覚はあります……」

「まあしかし、それが君の長所でもあるんだろう」

 

 知盛は笑顔でそう言った。

 

「話は分かった。僕が理事長になったら、親父に逆らってでも全面的に協力すると約束するよ」

「ありがとうございます。理事長選挙に勝つ為に、何か手立てはありますか?」

 

 八幡のその問いに、知盛は考え込んだ。

 

「う~ん、一番簡単なのは、経子姉さんと、国友義賢を説得する事なんだけどね」

「その二人が、例の中立組のキーパーソンなんですか?」

「ああ、そういう事だね」

 

 八幡はその答えに納得し、こう言った。

 

「経子さんについては、当てがあります」

「ん、経子姉さんの事を知ってるのかい?」

「はい、病気の娘さんがいるんですよね?」

「ああ、難病でね、正直あの子は、もう長くは無いだろうね……」

 

 知盛は、とてもつらそうにそう言った。

八幡も沈痛な表情をしながら、知盛にこう尋ねた。

 

「そんなに難しい病気なんですか?」

「ああ……正直手の施しようがない。せめてあれが手に入れば、

せめて最後の時を、安らかに迎えさせてやれるんだが……」

 

 八幡は、そんな知盛にそっと囁いた。

 

「えっと、それが当てです」

 

 知盛はその八幡の言葉を受け、バッと顔を上げ、八幡に尋ねた。

 

「まさか君、メディキュボイドを知っているのかい?」

「知っているというかですね」

「その技術は今、うちが保有しているのよ知盛さん。

ちなみにうちの次期社長はこの八幡君だから、

彼がいいと言えば、私は直ぐにでも、その技術を結城系の病院に提供出来るわ」

 

 その陽乃の言葉に知盛は驚愕した。

 

「まさかメディキュボイドの技術を保有していたなんてね……

そして八幡君が次期社長?やっぱり君はすごいな……」

 

 知盛はそう呟いた後、何かに気付いたように、愕然とした顔で言った。

 

「って、まさか、君が出した条件ってメディキュボイドなのかい?

そして親父は、その申し出を断ったのかい?」

「はい」

「あのクソじじい、今度会ったら絶対に殴ってやる……」

 

 知盛はその事に本気で腹をたてているようで、そう言った後、

懇願するように八幡と陽乃に言った。

 

「頼む、今から経子姉さんに会ってくれ。そして可能なら、メディキュボイドを、

経子姉さんの娘の楓ちゃんに、今すぐに使わせてやってくれ……」

 

 その言葉を受け、八幡は陽乃に尋ねた。

 

「姉さん、機材の手配はどうなってます?」

「もちろん手配済みよ。もうすぐこっちに届くと思うわ」

「本当かい!?」

「ええ、直ぐにでも、その楓ちゃんに使ってもらう事が可能よ」

 

 その陽乃の言葉を受け、知盛は経子に連絡をとった。

経子が直ぐに会うと返事をした為、一行は、経子の娘が収容されている、

その特殊な施設へ、急いで向かう事となった。

ちなみに章三は、どうやら話が進展しそうだと、倉エージェンシーとの提携話を進める為、

一旦一人でホテルへと戻る事となった。

そして八幡達はキットに乗り込み、目的地へと急いだ。

その目的地の施設の名は『SleepingForest』眠りの森、と言う。


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