「やぁやぁ、待ちわびたよ。早速そちらの凄い美人さんを紹介してもらってもいいかな?」
知盛のその言葉に、陽乃は笑顔で自己紹介をした。
「初めまして、ソレイユ・コーポレーション社長、雪ノ下陽乃です。
ここには、八幡君と明日奈ちゃんの、魂の姉という立場で来ています」
その魂の姉という造語を聞いた知盛は、感銘を受けたように言った。
「これはまた大物が……しかし、魂の姉ときましたか。
どうやら二人とは、とてもいい関係のようですね」
「ええ、彼のハーレムメンバーとして、明日奈ちゃんに公認されるくらいには」
「おいこら姉、最近本当に馬鹿になってないか?さすがにちょっと心配になってきたぞ」
八幡は即座にそう突っ込んだが、陽乃はあっさりと受け流し、こう言った。
「と、まあこのように、彼は常に私の事を、とても気に掛けてくれています」
再び突っ込もうとした八幡より先に、知盛が笑顔で言った。
「美人でスタイルもいい上に、実に個性的な方ですね、結城知盛です、宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願いします」
二人は握手をし、八幡は、とりあえずそれ以上突っ込むのをやめる事にした。
「で、八幡君、親父の印象はどうだった?何か言われなかったかい?」
「とても偏屈なじじいでしたね。だから面と向かって、じじいって呼んでやりました」
「ははっ、親父をじじい呼ばわりか、すごいな君は」
その知盛の言葉に、八幡は、少しばつが悪そうに言った。
「すみません、実のお父さんに対して、ちょっと失礼な呼び方でしたね」
それを聞いた知盛は、楽しそうに言った。
「いやぁ、君の胆力に感心しただけさ。気にしないでじじいのままでいいよ」
「分かりました。で、その後ですが、いきなり日本刀で斬りかかられました」
「ええっ?い、一体何があったんだい?」
知盛は、さすがにそこまでは想定外だったようで、慌てた口調で八幡に尋ねた。
「最初に章三さんが、こっちの要求を伝えたんですよ。
まあ、レクトが今度、倉エージェンシーっていう芸能プロダクションと、
業務提携をするって話なんですけどね、でもまったく聞く耳を持たないって感じでした」
それを聞いた知盛は、合点がいったという風に、嘆息しながら言った。
「ああ~、芸能関係だったかぁ……うちはほら、章三さんから聞いたかもだけど、
例えばアイドルが、人には言えない病気で入院するとか、
スキャンダルが発覚した時に緊急入院するとか、昔からそういう方面で関係が深いからね」
八幡はそれを聞き、丁度いい機会だと思い、知盛にこんな質問をした。
「知盛さんは、提携についてはどう思います?」
「どう思うも何もさ、たかが提携一つで何か大きな変化がある訳でもないし、
うちが担ってきたそういう部分の需要が無くなる事も無い、まったく何の問題も無いよ」
「なるほど……」
(やっぱり知盛さんに、理事長になってもらうのが正解だな)
八幡はそう思い、話を続けた。
「話が反れましたね。で、章三さんが、こちらからの条件を提示しようとしたんですけど、
どうせ言っても受け入れないという気がしましたし、まあ実際そうだったんですが、
ただ条件だけ提示して帰るのも癪だったんで、それを俺が止めてですね、
試しにあのじじいを真っ二つにするイメージで、殺気を飛ばしてみたんですけど」
「殺気!?」
「はい、そしたらあのじじい、こっちの殺気に直ぐに反応して、
いきなり日本刀で斬りかかってきたんですよ」
「う……うちの親父がすまない、八幡君、怪我は無かったかい?」
「問題無いです、護身用のこれで迎撃したんで」
そう言って八幡は、護身用の警棒を知盛に見せた。
「それって警棒かい?ちなみにどうやって迎撃したんだい?」
「それはですね……知盛さん、ちょっとそのボールペンを日本刀に見立てて、
試しにこっちに斬りかかってきて下さい」
「ん、分かった」
知盛は八幡にそう言われ、ボールペンを振りかぶり、八幡に斬りかかろうとした。
その瞬間に知盛の手は跳ね上げられ、知盛は大きく体勢を崩した。
その瞬間に、知盛の咽喉に警棒が突きつけられ、
ついでに首には明日奈の手刀が添えられていた。
「すみません、痛くなかったですか?」
八幡のその心配をよそに、知盛は興奮した口調で八幡に言った。
「うわ……八幡君、今何やったの?いきなり体勢が崩れたんだけど、合気道か何か?
それに明日奈ちゃんも、いつの間に……まさかこれをそのまま親父に対してやったの?」
「はい、まんまこんな感じでしたね、明日奈も含めて。
ちなみに体勢が崩れたのは、ただのカウンターアタックの結果です」
「知盛さん、八幡君は、人相手だと、攻撃を全部弾いて相手の体勢を崩しまくって、
何もさせないまま倒すのが得意なんですよ」
「は、はは、あははははははは」
いきなり知盛は笑い出した。知盛は、悪い笑顔で八幡に尋ねた。
「八幡君、親父はびびってたかい?」
「う~ん、冷や汗は流してましたけど、その後は案外普通でしたね」
「それ、絶対内心ではびびってたと思うよ」
知盛は、とても愉快そうにそう言った。
そんな知盛に、八幡は気になっていた事を質問した。
「ところで知盛さん、SAOでの俺の事は、やっぱり患者さんから聞いたんですか?
あのじじいも、閃光のアスナの事は知ってたみたいですけど」
知盛はその八幡からの質問に、真面目な顔になり、こう答えた。
「やっぱり君は、あのハチマン君だったんだね。
その言い方だと、親父は閃光のアスナの名前しか知らなかったのかな。
僕の見ていた患者さん達から出てきた名前も、閃光のアスナの他は、
黒の剣士、神聖剣、銀影って呼び名だけでね、明日奈ちゃんの事は知ってたから、
もしかしたらと思って、他の病院の患者さんにも色々聞いて回ったんだよね。
それで出てきた名前が、ヒースクリフ、キリト、そしてハチマンの、三人の名前だったんだ。
それじゃあやっぱり、閃光のアスナってのは、明日奈ちゃんの事だったんだね」
「う……やっぱり叔父さんにそう言われると、
他人に言われた時と比べてすごく恥ずかしいです……」
そんな明日奈に知盛は、笑いながら謝罪した。
「ははっ、ごめんごめん、もう言わないよ。
それにしても章三、俺にくらいは教えてくれてもいいじゃないかよ。
前聞いた時は、知らないの一点張りだったよな?」
そう言われた章三は、何かに思い当たったのか、こう言った。
「そうか、知盛にはこの事は言ってなかったよな。
実はあの時明日奈はな、まだSAOから解放されてはいなかったんだよ。
明日奈はあの最後の百人のうちの一人だったんだ。
だから前に聞かれた時には、その事を話す精神的余裕が無くてな……」
「ええっ?そうか……あの時歯切れが悪かったのはそのせいか……
無神経な事を聞いてしまってすまなかった。そういえば犯人は確か、章三の会社の……」
「ああ、あれが私の罪だ。そのせいで、危うく明日奈を失う所だった。
だが、この八幡君のおかげで、またこうして明日奈をこの腕に抱く事が出来た。
いくら感謝してもし足りないくらいだよ。
しかもそんな彼が、もうすぐ私の息子になるんだ、こんなに嬉しい事は無い。
どうだ知盛、羨ましいだろう?」
それを聞いた知盛は、きょとんとした後、驚きの表情を浮かべた。
「確かに羨ましいけど、ええっ?それじゃまさか、あの事件を解決したのは……」
「ああ、ここにいる八幡君だ」
「どう?知盛さん、私の彼氏はすごいでしょ?」
「あ、ああ、そうだね。そうか……そうか……」
知盛はそう呟くと、少し潤んだ目で、しっかりと八幡の手を握りながら言った。
「八幡君、明日奈ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう……ありがとう……」
「知盛さん、明日奈を助けるのは、俺には当然の事なんで、
そこまで特別な事をした訳じゃないです」
「当然、な。それが言える奴は、そんなに多くないと思うけどね。
とにかくありがとう八幡君、本当にありがとう」
知盛は、何度も何度も八幡にお礼を言い、明日奈は嬉しそうに八幡に寄り添っていた。
「話が大分反れてしまったね。で、結局君達は、何が目的で、
倉エージェンシーとの提携を何としても結びたいんだい?」
「実はですね……」
八幡は、今回の事の経緯を、詳しく知盛に説明した。
それを聞いた知盛は、顔を赤くしながらこう言った。
「何だそのゴミ虫は。出来る事ならこの手で抹殺してやりたいよ」
「それについてはまあ、同感ですけどね」
「しかしまあ、君の持ってる力を考えた時、単純に叩き潰した方が簡単な気もするんだが、
それをしないのが君の欠点なんだろうね、僕から見ても、君は優しすぎる」
八幡はその言葉に、目を伏せながら答えた。
「自覚はあります……」
「まあしかし、それが君の長所でもあるんだろう」
知盛は笑顔でそう言った。
「話は分かった。僕が理事長になったら、親父に逆らってでも全面的に協力すると約束するよ」
「ありがとうございます。理事長選挙に勝つ為に、何か手立てはありますか?」
八幡のその問いに、知盛は考え込んだ。
「う~ん、一番簡単なのは、経子姉さんと、国友義賢を説得する事なんだけどね」
「その二人が、例の中立組のキーパーソンなんですか?」
「ああ、そういう事だね」
八幡はその答えに納得し、こう言った。
「経子さんについては、当てがあります」
「ん、経子姉さんの事を知ってるのかい?」
「はい、病気の娘さんがいるんですよね?」
「ああ、難病でね、正直あの子は、もう長くは無いだろうね……」
知盛は、とてもつらそうにそう言った。
八幡も沈痛な表情をしながら、知盛にこう尋ねた。
「そんなに難しい病気なんですか?」
「ああ……正直手の施しようがない。せめてあれが手に入れば、
せめて最後の時を、安らかに迎えさせてやれるんだが……」
八幡は、そんな知盛にそっと囁いた。
「えっと、それが当てです」
知盛はその八幡の言葉を受け、バッと顔を上げ、八幡に尋ねた。
「まさか君、メディキュボイドを知っているのかい?」
「知っているというかですね」
「その技術は今、うちが保有しているのよ知盛さん。
ちなみにうちの次期社長はこの八幡君だから、
彼がいいと言えば、私は直ぐにでも、その技術を結城系の病院に提供出来るわ」
その陽乃の言葉に知盛は驚愕した。
「まさかメディキュボイドの技術を保有していたなんてね……
そして八幡君が次期社長?やっぱり君はすごいな……」
知盛はそう呟いた後、何かに気付いたように、愕然とした顔で言った。
「って、まさか、君が出した条件ってメディキュボイドなのかい?
そして親父は、その申し出を断ったのかい?」
「はい」
「あのクソじじい、今度会ったら絶対に殴ってやる……」
知盛はその事に本気で腹をたてているようで、そう言った後、
懇願するように八幡と陽乃に言った。
「頼む、今から経子姉さんに会ってくれ。そして可能なら、メディキュボイドを、
経子姉さんの娘の楓ちゃんに、今すぐに使わせてやってくれ……」
その言葉を受け、八幡は陽乃に尋ねた。
「姉さん、機材の手配はどうなってます?」
「もちろん手配済みよ。もうすぐこっちに届くと思うわ」
「本当かい!?」
「ええ、直ぐにでも、その楓ちゃんに使ってもらう事が可能よ」
その陽乃の言葉を受け、知盛は経子に連絡をとった。
経子が直ぐに会うと返事をした為、一行は、経子の娘が収容されている、
その特殊な施設へ、急いで向かう事となった。
ちなみに章三は、どうやら話が進展しそうだと、倉エージェンシーとの提携話を進める為、
一旦一人でホテルへと戻る事となった。
そして八幡達はキットに乗り込み、目的地へと急いだ。
その目的地の施設の名は『SleepingForest』眠りの森、と言う。