その後義賢は、早速他の院長達の説得に周る事になり、
メディキュボイドの説明の為、陽乃もそれに付いていく事となった。
要は三人に気を遣ったのであろう。そしてその場には、八幡達三人が残された。
「でも本当に久しぶりだな駒央。いや、この場には俺達しかいないんだし、
昔の名前で呼び合えばいいか。他の皆とは、残された百人事件の関係で、
すぐに連絡がとれたんだが、すまんネズハ、正直に言うと、
ネズハの視界がアミュスフィアで解決しているかどうかが分からなくて、
即戦力になるかどうかが疑問だったから、連絡するのを後回しにしてたんだよ。
で、そのまま菊岡さんに頼みづらくなって、ここまで引っ張っちまった。本当にすまん」
「でもこうして会えたじゃないですか。きっと本当に僕の力が必要だったなら、
菊岡さんがこっそり手引きしてくれてたと思いますよ」
ネズハはそのハチマンの告白に、特に気分を害した様子も無くそう言った。
そしてネズハは、続けて少し寂しそうな顔でこう続けた。
「でも実際僕は、戦力にはならなかったと思います。
アミュスフィアでも、やっぱり遠近感に問題が出ちゃったんですよ」
「そうなのか……」
ハチマンは苦い顔でそう言った。そんなハチマンに、ネズハはこう尋ねた。
「ところでその、残された百人事件って、アレの事ですよね?
あの時何かあったんですか?」
「ああ、実はな……」
そしてハチマンは、アスナ救出に関する経緯をネズハに説明した。
ネズハはショックを受けたようで、とても悔しそうに言った。
「そんな事が……まさかナーヴギアを使えば、能力がそのまま持ち越せたなんて……
それならこんな僕でも、何かしら役にたてたかもしれないのに、僕は……」
「お前は何も知らなかったんだから気にするなって。
あんな雑魚は、俺がぱぱっと片付けておいたからな、どうだ、さすがは俺だろ?」
ハチマンは、場を明るくしようとわざとそう言い、ネズハも笑顔に戻った。
そしてネズハは、ハチマンとアスナを見比べながら、明るい声で言った。
「でも本当に、こっちでもお二人の仲が良さそうで、本当に良かったですよ。
最後にキリトさんがあいつを倒した時、アスナさんはもう砕け散ってたじゃないですか。
そしてハチマンさんも、あいつと同時に砕け散って……
あの時はもう焦って焦って、アスナさんが砕け散った瞬間に武器を投げたんですけど、
偶然すごいタイミングで攻撃が当たって、すぐにクリアになって、
詳しい状況を確認出来ないままベッドの上で目覚める事になったんですよね。
だからその時は、嫌な汗が止まりませんでした。
で、その後少ししてから、菊岡さんに会った時にお二人の安否を聞いたんですけど、
無事だって話だけで、詳しい事は教えてもらえなかったんですよ。
だからやっぱりどうしても心配で……」
「本当にあの時は神がかったタイミングだったぞ、よくやったな、ネズハ。
お前がいなかったら俺達は皆、ヒースクリフに倒されていたのは間違いないと思うぞ」
「はい、ハチマンさん……」
そう言って涙ぐむネズハの肩を、ハチマンはぽんぽんと叩いた。
「俺達は勝ったんだ、その結果だけが重要で、それ以外はどうでもいい、だろ?」
「はい!」
ネズハは明るい声でそう返事をし、ハチマンとアスナも笑顔でそれに応えた。
「でも、お二人は何故ここに?まさか僕の事を知って、
会いに来てくれたとかじゃないですよね?さっきは確か、理事長選挙がどうとか……」
そのネズハの疑問には、ハチマンが答えた。
「ああ、今回俺達は、知盛さんを理事長選挙に勝たせる為にここに来た。
その過程でこうしてネズハに会えた事は、幸運な副産物だったな」
「そうですか、知盛さんを……うん、何となく分かります。
少なくとも宗盛さんよりは頼りになりそうですし、
何よりあの人、すごく腕はいいですからね」
「そうなのか?」
「はい、前に医者志望の結城関係者の若手を集めて、
手術している所を公開した事があったんですけど、あれはもう鳥肌ものでしたね。
といっても、まだ医学の道を志す事に決めただけの、僕ごときの感想なんで、
長男の宗盛さんと比較して、段違いに凄いって事しか分かりませんけど」
「そうなのか、ちょっとアルゴに聞いてみるわ。
せっかくだしスピーカーモードにして、皆で話せるようにするか」
そう言うとハチマンは、『ネズミネコ』という名前を選択し、電話を掛け始めた。
「よぉアルゴ、ちょっと聞きたいんだが」
「誰がネズミネコなんだ?オレっちはただのネズミだぞ。
いや、まあ確かに、オレっちはキリっとした美人さんだから、
ネコっぽく見えるかもしれないけどナ」
そのアルゴの言葉に、ハチマンはドキリとした。
「キリっとした美人っていうその言葉はともかく……何の事だ?」
「薔薇の事は『拾った小猫』、ボスの事は『馬鹿姉』、オレっちの事は『ネズミネコ』、
って名前で登録してるみたいじゃないか、もう調査済だゾ」
「それ、シリーズものだったんだ……」
アスナのその呟きを聞いたアルゴは、ハチマンにこう尋ねた。
「ん、他にそこに誰かいるのカ?」
「アスナとそれ以外にもう一人いるが、身内だから問題ない。
それよりもまじかよ……お前の情報網、はんぱないな」
「ふ~ん、身内ねエ」
ハチマンはそう感想を述べつつも、先ほどのアルゴの言葉に、
確かに心臓の鼓動が早くなるのを感じた。そしてハチマンが何か言う前に、
突然アスナがアルゴに尋ねた。
「ねえアルゴさん、他の人の登録名は?」
「うっ……」
焦るハチマンをよそに、アルゴは淡々とアスナにこう言った。
「その情報は一人百円だナ」
「うわ、お手頃サービス価格だね!とりあえずワンコイン、適当に五人分お願い!」
「あいよ、毎度ありだナ」
「お、おい、お前ら……」
今回の情報は、アルゴが暇潰しに一人で調べたものである為、
情報売買に関するアルゴのルールには、どうやら抵触しないようだ。
「クラインは『先生を幸せにしなかったら殺す』ユキノは『怒らせるの禁止』
この辺りはどうやら、会話の途中で気にする事を書いてあるみたいだな。
変わったところだと、神崎エルザは『S変態M』菊岡さんは『腹黒メガネ』
そしてアーちゃんの登録名ハ……」
その瞬間、ハチマンは叫んだ。
「待てアルゴ、その情報、言い値で買おう」
「えええええええ、待って、待ってアルゴさん、それ、私が言い値で買うから!」
アルゴが返事をする前に、二人はそう言った。
そしてしばらく沈黙が続いた後、アルゴは重々しくこう答えた。
「よし、アーちゃんと契約するゾ」
「なんでだよ、俺の方が早かっただろ!」
「アーちゃんが買った情報は五人分だろ?オレっちはまだ四人の情報しか伝えてない。
それにハー坊は将来、間違いなくアーちゃんの尻に敷かれるだろ?
オレっちは権力者の側につくんだゾ」
「ぐっ……」
そしてハチマンが顔面蒼白になる中、アルゴの口からその登録名が告げられた。
「アーちゃんの登録名は、『明日奈・H』」
「えっ……?そ、それって私がエッチだって事!?」
アスナはそう言うと、何故かほんのりと頬を染め、ハチマンの顔を見た。
「あ、ああ、そ、そうだな……」
ハチマンは盛大に目を泳がせながら、アスナにそう答えたので、
アスナはどうやら違うようだと理解した。ではどういう意味なんだろう?
そんなアスナの疑問に、アルゴが淡々と答えた。
「違う違う、アーちゃん、そのHは、比企谷のHだゾ」
「うわあああああ」
それを聞いた瞬間に、ハチマンはそう叫び、頭を抱えた。
そんなハチマンにネズハが駆け寄り、優しく声を掛けた。
「ハチマンさん、大丈夫、僕はちゃんと、お二人の絆は理解してますから」
そしてアスナは上気した顔で、ぶつぶつとその言葉を呟いていた。
「明日奈・Hは明日奈・比企谷……明日奈・Hは明日奈・比企谷……
そう、私の名は、比企谷明日奈、うん、これからはそう名乗ろう!」
「アーちゃん……嬉しいのは分かるが、暴走しすぎだゾ」
その言葉に明日奈はハッと我に返り、もじもじしながらアルゴに言った。
「う、うん、ありがとうアルゴさん、こういうのはやっぱり、正式に結婚してからだよね。
よし、ハチマン君、今すぐ婚姻届にサインして!」
「アーちゃン……」
「じょ、冗談だから、私は大丈夫だから!」
そんな二人の姿を見て、ネズハは嬉しそうに言った。
「あは、あの頃に戻ったような気がして、なんだかとても嬉しいです」
その声を聞いたアルゴは、瞬時に声の主が誰か分かったのか、ネズハに話し掛けた。
「お~う、誰かと思ったら、その声はネズっちか。そうか、会えたんだナ」
「アルゴさん、お久しぶりです。はい、偶然なんですが、会う事が出来ました!」
「良かったな、ネズっち。ところでネズっち、話が盛大に横に反れちまったから、
そろそろハー坊を正気に戻してやってくれないカ?」
「あ、はい、分かりました」
ネズハはそう返事をすると、ハチマンの頬をペチペチと叩き、アルゴの意思を伝えた。
「ハチマンさん、アルゴさんがそろそろ本題に入りたいと」
「お、おう……そうだよな」
そしてハチマンは立ち上がり、咳払いを一つすると、アルゴに言った。
「えっとな、結城知盛さんの、医者としての評判が知りたいんだが、
アルゴは当然その情報は持ってるよな?」
「ああ、もちろんだぞ。医学研究に関してはそれなり、手術の腕は天才的らしい。
ただ一つ欠点があってナ」
「欠点?」
「他人の模倣は得意で、完璧にこなすが、前例の無い手術は苦手なんだそうダ」
「なるほど……」
「一方、経営的な事については、逆に革新的っていう、面白い人だナ」
アルゴのその的確な説明を聞き、ハチマンは、彼の事を大体理解する事が出来た。
「あと、この前頼まれた病気の情報だけどな、かなりの難病である事は間違いないようだぞ。
手術の成功例は過去に三例だけらしい。ちなみに母数は万単位だな。
だがまあ逆に言えば、三例は、手術の成功例があるって事だナ」
「そこまでか……」
「そして、その最後の一例は、アーガス・アメリカのサポートの元、
動画も含めて詳細なデータがとられたらしいぞ。
それでその手術の難易度が下がるんじゃないかと、その時は話題になったらしいナ」
その意外な名前に、ハチマンは驚いた。
「アーガスだと?じゃあそのデータは……」
「ああ、SAOの騒ぎでそっちも共倒れになったはずだな。
なので、その時のデータが残っているかどうかは不明だゾ」
「至急各方面に当たってみてくれ」
「分かった。もしかしたらレクトにそのデータが残ってるかもしれないからナ」
そしてハチマンはアルゴとの通話を終え、再びネズハとの会話を続ける事にした。
「しかしまさか、ネズハが医者の家系だったとは予想外だったな。
まあそれを言ったら、家系的には明日奈もなんだが」
「ご先祖様は職人の家系なんで、まあそこまで大きく変わったとも言えないんですけどね」
「職人?何のだ?」
「鉄砲鍛治……ですかね」
鉄砲鍛治、そして国友と聞いて、ハチマンには、一つ思い当たる名前があった。
「それってもしかして、戦国時代に鉄砲鍛治で名を馳せた、国友家の事か?
もしかしてネズハは、その子孫なのか?」
「はい、まあうちは分家の一つにすぎませんが、
それもあって、SAOでは鍛治をしてたんですよね。
元々何か物を作るのは大好きなんですよ」
「ふむ……」
ハチマンは少し考え込んだ後、ネズハにこう言った。
「実は今、俺たちはALOをメインに活動してるんだが、
それとは別に、ラフコフ絡みでGGOをプレイしてるんだよ。GGOは分かるか?」
「ラフコフ絡み……それは穏やかじゃないですね。GGOは、名前だけは知ってますね」
そしてハチマンは、GGOをプレイする事になった経緯をネズハに説明した。
「そうですか……あいつらまだ活動してるんですかね?」
「さすがに犯罪に手を染める可能性は低いと思うが、
出来ればマークくらいはしておきたいからな」
「なるほど……で、僕はGGOで職人をすればいいんですか?」
ハチマンはそのネズハの言葉に感心した。
ネズハはハチマンの意図を正確に理解してくれたようだ。
「さすがに話が早いな、ネズハ。もし可能なら、GGOをプレイして、
俺達のチーム専属の鍛治師になってくれないか?その為に可能な限りのサポートはする。
お前の体に流れるその血を、GGOで開花させてみないか?」
「それなら視界の問題もクリア出来そうですね。
分かりました、今を生きる国友の男として、その頼みはこの国友駒央が引き受けます」
「ネズハ、いや、駒央、ありがとな。まあせっかくプレイするんだから、楽しくやろうぜ」
「ネズハ君、また宜しくね」
「はい、お二人とも、これからも宜しくお願いします!」
こうしてネズハの、GGOへの電撃参戦が決定した。
「ところでさっき、ハチマンさんの携帯に、神崎エルザって名前があったような……
まさか本人じゃないと思いますけど、僕、ファンなんですよね」
「おおそうか、それなら今度、エルザ本人に会わせてやるよ。サインもしてもらうか?
あいつは今や、自らすすんで俺の下僕になってるからな」
「げ、下僕?えっ……ええっ?い、一体何があったんですか、ハチマンさん!」
ハチマンとアスナとの再開や、諸々の話以上に、
そのハチマンの言葉は、ネズハにこの日一番の衝撃を与えたのだった。