ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第248話 迎えにいこう

「まああいつとは色々あってな……正直振り回されてばっかりだわ」

「そうなんですか」

「あいつのキャラの名前はピトフーイという。あと、シノンっていうスナイパーと、

ベンケイっていう俺の妹が一緒だから、宜しくな」

「妹さんですか!はい、確かに覚えました」

「あと情報担当で、ロザリアって奴もいるんだが」

 

 ネズハはその名前に聞き覚えがあった為、何気なくこう言った。

 

「偶然ですね、確か昔、シリカさんを殺そうとした人がそんな名前でしたよね。

監獄送りになったと記憶してますけど、解放された後、どうしてるんですかね」

「いや、そいつ本人だ」

「えっ?ええっ!?」

 

 ネズハは再び驚愕した。

 

「ちなみにロザリアも、ピトフーイに対抗して俺の下僕を名乗ってる」

「そ、そうですか……本当にさすがですね、ハチマンさん……」

「まあ、褒められた気にはまったくならないがな」

 

 そんな二人に、思いついたようにアスナが言った。

 

「そういえば、会社の持ち物なんだろうけど、アミュスフィアがあったよね?

それを使えば私達もログインする事は可能じゃない?」

「そうだな……よしネズハ、せっかくだし、一緒にGGOをプレイしてみるか?」

「あ、はい、今夜からでも直ぐにプレイを開始出来るようにしておきますね」

「さすがネズハ、仕事が早いな。とりあえずスタート地点で待ち合わせするか。

ところでいきなりだからまだ決めてないかもしれないが、キャラネームは何にする?」

「そうですね……あ、そういえば、ハチマンさんとアスナさんの、

GGOでの名前は何て言うんですか?SAOと一緒ですか?」

 

 そのネズハの質問に、ハチマンは、そういえばそうだったと頭をかいた。

 

「そんな肝心な事を忘れるなんてな、俺の名前はシャナ、アスナの名前はシズカという」

「ええっ?」

「どうしたネズハ」

「ネズハ君、何かあった?」

 

 ネズハは自分のスマホを取り出し、何か操作したかと思うと、二人に画面を見せてきた。

そこには、先日雪ノ下陽乃監督作品として鑑賞する事になった、

例の動画の元の動画が流れていた。

 

「これか……」

「噂になってたんで昨日たまたま見てみたんですけど、これってお二人ですよね?」

「……ああ」

「……うん」

 

 二人は気恥ずかしいのか、ためらいがちにそう肯定した。

だが、ネズハは目をキラキラさせながら、次の動画を見せてきた。

 

「そ、それじゃあこれもですよね?」

 

 それは第一回BoBの映像だった。

こちらはまあ恥ずかしくはないので、ハチマンは胸を張ってそれに答えた。

 

「それは俺だな、まあこの時は負けはしたが、次は負けるつもりはない」

「やっぱりですか!お二人ともさすがですね!これは僕も負けてられませんね、

必ずゲーム内で最高の鍛治師になってみせますよ!」

 

 ネズハは、全身にやる気を漲らせながらそう言った。

二人もそれに引きずられるように、積極的に今後の方針を相談し出した。

 

「基本ネズハの能力は、鍛治の為に、力と器用さのみを上げる形になるだろうな。

いわゆるSTRとDEXだな。

他のプレイヤーはそこまで思い切ったステータス振りは出来ないはずだから、

その時点で、ネズハがトップになる事はほぼ確定的と言える」

「やっぱり筋力も、ある程度必要になるんですね」

「ああ、高性能のハンマーほど、要求STRが高いんでな」

「なるほど」

 

 ステータスの成長方針も決まり、戦闘もパワーレベリングをする事に決まった。

素材に関しては、今ある素材は全て提供される事となり、

道具に関しても、初期投資分は、ハチマンの豊富な財力がある為、まったく問題無いだろう。

 

「こうなったらどこかに拠点を借りるか」

「秘密基地みたいなやつですね!」

「そうだな、決まった拠点を持とうとする奴は少ないんだが、

工房はやはりあった方がいいからな」

「だね、ついでにそこを集合場所にすればいいね」

「ああ」

 

 そして三人は待ち合わせ時間を決めた。同時にネズハのキャラネームも決まった。

 

「では、イコマで」

「イコマ?何か由来があるのか?」

「漢字で書くと、一駒になるんですかね、実はご先祖様に、一貫斎っていう偉人がいて、

二百年前くらいの人なんですけど、空気銃や、反射望遠鏡を作った人なんですよね。

なのでそれにあやかって、一駒斎にしようかと思ったんですけど、長いので縮めた感じです」

「まじかよ、さすがに歴史がある家は違うな……」

 

 こうして方針も決まり、二人はとりあえずホテルに戻る事となった。

そしてホテルに戻った二人の前に、ニヤニヤしながら菊岡が姿を現した。

八幡は菊岡に、いきなり苦情を言った。

 

「おい腹黒メガネ、ちょっとサプライズが過ぎるんじゃないのか?

まあ正直感謝はしてるけどな」

「は、腹黒メガネ!?いや、当たってるだけに文句が言いづらいけどさ……

でもその様子だと、無事にネズハ君には会えたみたいだね」

「まあ、タイミングとしては最高だったから、正直助かった。

これでこっちに来た目的はほぼ達成出来たから、後はあの偏屈じじいを叩きのめすだけだ」

「あの人はもうかなりのご高齢なんだから、お手柔らかにね」

「そんな事したらこっちがやられちまう。あのじじい、かなり強いぞ」

 

 八幡はそう答え、更に菊岡にこんな質問をした。

 

「で、その腹黒メガネは、こっちに来てから何をこそこそと動いてるんだ?」

 

 八幡は、自分達に一度も同行しようとしない菊岡をいぶかしく思っていた。

今回の旅に付いてきた理由がよく分からなかったからだった。

そんな八幡に、菊岡はあっさりとこう言った。

 

「それは買いかぶりだよ八幡君、僕はこっちに来てから、何も動いてはいない。

しいて言うなら観光かな」

「観光?……そうか、ただのサボリだったか」

「人聞きの悪い、ただちょっと、自主的に休暇をとっただけだよ」

「帰ったら仕事が山積みになってそうだけどな」

「あ~聞きたくない聞きたくない」

 

 菊岡はそう言って耳を塞ぎ、その場に蹲った。

そんな菊岡を放置して、八幡と明日奈は自分達の部屋へと戻った。

 

「さて、ここからアミュスフィアでログインするとして、

こうなっちまうと、今から部屋を分けてもらうのもちょっとな」

「そうだね、仕方ないよね、うん、仕方ない」

 

 明日奈は嬉しそうにそう言った。

八幡も、別にあえて明日奈を悲しませるような事はしたくなかったので、

結局部屋割りはこのままという事になった。

そして約束の時間が来た為、二人はダブルベッドに仲良く横たわり、GGOへログインした。

一瞬にして視界が変わり、二人の目の前に、何故かピトフーイの姿が現れた。

 

「……え?」

「……はぁ?おい、何でお前がここにいるんだよ、意味が分からないぞ」

「ふっ、予想通り!えっと、何となくシャナが入ってくる気配がしたから、

前回ログアウトした地点まで全力で走ってきたの!」

「え?本当に?」

「うん!」

「この変態め……」

「だからシャナ、毎度毎度私の事を褒めすぎだよぉ」

 

 シャナは、またそれかと思いながら、ピトフーイの顔をじっと見つめた。

ピトフーイが、突っ込んでもらいたくてうずうずしているように見えたシャナは、

満面の笑みでピトフーイに言った。

 

「ああ、お前の事は、いくら褒めても褒め足りないからな、

だからついつい何度も何度も褒めたくなっちまうんだよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ピトフーイは愕然とした顔でシズカに駆け寄り、

その手を握ると、嬉しそうに上下させながら言った。

 

「シズ、聞いた?ついにシャナが落ちたよ!これはもう、私の大勝利だよね!」

「駄目か……」

 

 シャナは、この返しも効果なしかと肩を落とし、

シズカはその二人のやり取りを見て、苦笑しながら言った。

 

「シャナ、ピトの事はとりあえず置いといて、イコマを迎えに行かないと」

「お、そうだな、ちょっと急ぐか」

「え、何?新しい仲間が増えたの?どんな人?」

 

 ピトフーイはわくわくした顔で、その二人の会話に食いついた。

 

「そうだな、軽く説明しておくか」

「うん、お願い!」

 

 そしてシャナは、ピトフーイにイコマの素性を告げた。

 

「イコマは、まだお前が知らない、もう一人の、そして最後の英雄だ」

「もう一人の英雄?」

「そうだ。いいか、今から端的に、最後の戦いの事を教えてやる。ちゃんと理解しろよ」

「うん」

 

 そう言うとシャナは、一気にこうまくしたてた。

 

「黒の剣士VS神聖剣、黒の剣士硬直、閃光IN、かばって死亡。

時間制限は十秒、銀影IN、自分の体で神聖剣の武器を拘束、

黒の剣士再起動、神聖剣シールドバッシュ、額に遠隔攻撃で硬直、黒の剣士、

銀影ごと神聖剣を貫く、共に死亡、クリア、以上」

 

 ピトフーイはどうやら記憶力はいいらしく、

何故かラップ調でそのシャナの言葉をそのまま何度もなぞり、

状況を把握しようとしていたが、しばらくして、諦めたように言った。

 

「シャナ、私、今の説明、理解出来ないYO!」

「何でいきなりラップなんだよ……それにしてもお前、器用なのな」

「歌にすると覚えやすいんだよね、私の場合」

 

 その言葉を聞いたシズカは、感心した様子で、ピトフーイの事を褒めた。

 

「さっすがピト、まさに音楽の神だね!」

「えへっ」

「とりあえず、後で落ち着いたら詳しく説明してやるが、

その遠隔攻撃を放ったのが、今俺達の到着を待っているそいつだ。

ちなみにとある事情で、そいつは基本戦闘はしないが、うちの専属鍛冶師になる予定だ。

名はイコマという。お前の武器も強化してもらうといいぞ。という訳で宜しくな」

「おお、職人さん、しかも専属!大歓迎だよ!」

 

 イコマの事を褒められて気分を良くしたシャナは、鼻高々にこう言った。

 

「しかもイコマは、戦国時代から続く鉄砲鍛冶の家の人間だ。

つまりイコマには、今でもその職人魂が宿っているのだ」

「おおおおお、封印されし右手に宿る職人魂!胸が高鳴るぅ!」

「つまり、あいつが加入する事でのシナジー効果がだな」

「ピトだけじゃなく、シャナまでおかしく……」

「そんなのいつもでしょ」

「きゃっ」

 

 三人はいきなりそう声を掛けられ、慌てて振り向いた。その声の主はシノンだった。

 

「あんたたち、道の真ん中で、おかしな会話をしてるんじゃないわよ」

「し、シノノン、いつからそこに?」

「ピトの胸が高鳴ったくらいからかしらね」

「あ、じゃあたった今なんだ」

「まあそうね」

 

 そしてシノンは、呆れた顔でピトフーイを見ながら言った。

 

「まったくもう、ピトがいきなり『シャナの匂いがする!』とか言いながら、

すごいスピードで走っていくから、慌てて追いかけたんだけど、

まさか本当にシャナがいるとはね……」

「匂いって何だよ……」

 

 シャナは、色々と諦めた口調でそう言った。

 

「匂いは匂いだよ、シノノンは分からないの?シャナの匂い」

「分かる訳ないでしょ!」

「え~?愛が足りないんじゃない?」

「そんな愛は足りなくていいわよ!」

「じゃあ、どんな愛ならいいの?」

「そうねぇ、例えば……」

 

 シノンは何か言い掛けたのだが、そこで我に返ったのか、ハッとした顔をした。

よく見ると、ピトフーイとシズカが、ニヤニヤした顔でシノンの顔を見つめていた。

シノンは一瞬で顔を赤くし、拳を握ってぷるぷると震え出した。

そしてシノンは、いきなりシャナの腹にパンチをかました。

 

「ぐほっ、な、なんで俺に……」

「フン!」

「理不尽だ……」

 

 シャナはそう言うと、苦しそうにその場に崩れ落ちた。

そしてその体勢のまま、シャナはシズカにこう言った。

 

「悪いシズカ、ちょっと待たせちまってるから、先にイコマを迎えにいっててくれ……

今すぐ立つのは、今の俺にはちょっと無理だ……」

「あ~……シノノンもSTRタイプだもんね……うん、それじゃあ迎えに行ってくるね」

「頼む……」

 

 その会話を聞いたシノンは、おそるおそるシズカに尋ねた。

 

「あ……も、もしかして、誰かと待ち合わせとかだった?」

「そうなんだけど、向こうは私の顔も知ってるから、シャナがいなくても大丈夫。

一応シノノンはシャナについててあげて。ピト、行こう」

「うん!いやぁ、新しい仲間かぁ、楽しみだなぁ」

「え?ピト、それはどういう……」

 

 シノンはそのピトの言葉を聞き、事情を聞こうとしたのだが、

二人は既に待ち合わせの場所へと走り去っていた。

そしてその場には、シャナとシノンが残された。


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