無事に誤解も解け、合流した一行は、シャナの案内で、
レンタル工房を手に入れる為に旧市街へと向かっていた。
旧市街はそういった施設の他に、商店が立ち並ぶ一角であり、
当然人も多く活気に満ちた街であった。
その中に、場違いな程に豪華なビルが一つ建っていた。
その中には誰も入れないようで、たまに近付く者はいたが、
その扉は頑として侵入者を拒んでいるようだった。
一体何のビルなんだろうといぶかしげに見つめる一行を前に、
シャナはそちらに平気な顔で近付くと、何かカードのような物を取り出し、
平然とその扉を開け、入り口から一同に手招きをした。
「シャナ、ここは?」
「ここは、一定以上の資産を持つ者しか入れない、会員制のビルだな。
ショップとかもあるぞ。で、この中に部屋のレンタルをしている一角があるんだよ」
「そんなのがあったんだ……」
「だから言ったろピト、お前が今いるこの世界は、
まだまだお前の知らない物で溢れているんだってな」
「うん、私、もっとこの世界の事を知りたい!」
そして中へ入った後、シャナはイコマに様々な部屋を見せ、
イコマは職人的な見地から意見を述べた。
そしてとある部屋をイコマがいたく気に入った為、シャナはそこを借りる事にし、
他のメンバーの分の臨時パスを発行し、
こうして身内専用の工房兼拠点を無事に確保する事が出来た。
「うわぁ、ここが私達の拠点になるんだね」
「よく映画とかである、壁や壁の中のスペースに自分の銃を仕舞っておいて、
出撃の時にそこから取り出すなんて事も可能だぞ」
そう言ってシャナは、武器庫らしき部屋の扉を開けた。
するとそこには、シャナが別に借りていた個人ストレージから自動で転送されたのか、
様々な武器弾薬が、ずらりと並べられていた。
「なっ……何これ……」
「さすがですね、シャナさん!」
「うわぁ、すごいすごい!」
「どうだイコマ、男のロマンだろ?」
「分かります、男はどうしても、こういうのを集めたくなりますよね!」
「だろ?これはお前が好きに改造してくれていい」
「おお、これは腕が鳴りますね……」
そして改めてソファーに座り、落ち着いた五人は、今後の方針を話し合い始めた。
「とりあえず今から無限地獄にでも行って、ある程度イコマのレベルを上げない?
そうしたら、色々な事が出来るようになるだろうし、
どのスキルを取るかとかの選択肢もかなり増えると思う」
シノンのその提案に、一同は頷いた。
「そうだな、あそこのモブ相手なら、遠近感も関係無いだろうしな」
「イコマ君、今夜はすごく悩むだろうから寝れないね」
「ですね……とりあえず得た経験をどう使うか、しっかり調べないと」
イコマはこういうのは久々な為、とても嬉しそうにそう言った。
「イコマきゅん、私の武器も、そのうち改良して凄いのにしてね!」
「あ、はい……そうだ!ピ、ピトさん、その、今度もし良かったら、
サインをもらえませんか?大ファンなんです!」
そのイコマの言葉に、ピトフーイはとても嬉しそうに答えた。
「私の歌、聞いてくれてるんだ、ありがとう!もちろんいくらでもサインするよ!」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ、英雄のイコマきゅんにそう言ってもらえて、凄く嬉しい!」
「いや、僕なんかが英雄だなんて……」
「何言ってるんだよ、お前がいなかったら、俺もシズも、
今この場でこうして笑ってる事なんか出来なかったんだぞ、謙遜するな」
「は、はい!」
イコマは照れた表情で頷いた。そしてシャナはシノンに一本の銃を提示した。
「シノン、今日はこれを使ってみろ。使用感が対物ライフルに近いからな。
射程もその分少し長めになっている」
「分かった、私専用の銃を手に入れた時の為の練習だと思って頑張ってみる」
「おう、その意気だ」
そしてシャナ達は、お決まりの無限地獄へと出発した。
別の場所で素材を狙っても良かったのだが、イコマが初回という事もあり、
経験値の獲得を優先させたのである。
そんなシャナ達をたまたま見掛け、その後を追い掛ける者達がいた、ゼクシード一行である。
「ゼクシードさん、あれって……」
「シャナ……どうやらこっちには気付いてないみたいだな」
「リベンジのチャンス?」
「よし、追うぞ」
そしてシャナ達が、宇宙船に入っていくのを見たゼクシードはほくそえんだ。
「あいつら多分、上からモブを射撃して、さばききれなくなったら逃げるつもりだな。
よし、それを狙ってここで待ち伏せだ。
とにかく入り口に集中して、あいつらが出てきたら即射撃だ」
「任せて」
「すぐ撃てばさすがに当たるよね」
そして上からの銃声が響き渡り、それがしばらく続いたかと思うと、唐突にやんだ。
「よし、銃声がやんだな、そろそろ出てくるぞ。とにかく入り口に集中だ」
そんな三人の後方から、ガチャリガチャリと、何か足音のようなものが聞こえ、
そちらを何となく見たハルカは、焦ったように叫んだ。
「ゼ、ゼクシードさん、後ろ後ろ!」
「ん?うおおおおお、撃て、撃て!」
突然大量の敵が三人の後方から襲い掛かってきた為、
ゼクシード達は慌ててそちらに攻撃を開始した。だがゼクシード達は知らなかった。
銃を撃ち続ける限り、あちこちに敵が沸くという事を。
そして更にその背後から無傷の敵に襲われたゼクシード達は、一瞬にして死亡した。
こうしてシャナの知らぬ間に、ゼクシードの最初のリベンジは失敗に終わった。
一つ救いがあるとすれば、それなりの数の敵を倒した為、ロスト分を差し引いても、
そこそこの経験値がユッコとハルカに入った事だけだろう。
もっとも全て手負いだった為、その経験値は当然シャナ達にも還元されていたのだが。
ちなみに上ではシャナが、思ったより侵入してくる敵の数が少ない事に首を傾げていた。
「思ったより少ないな、読み違えたか?」
「ま、いいんじゃないかな、とりあえず次の射撃、いっとく?」
「そうだな、よし、続けよう」
シャナはイコマにマシンガンを持たせ、
とにかく多くの敵に攻撃を当てる事を優先させていた。
さすがモブ戦という事もあり、武器が銃なのも幸いして、
懸念された視界の問題はほとんど影響が無く、イコマは順調にレベルを上げていった。
そして狩りが終わり、拠点に帰還した後、イコマは早速鍛冶関係の必須スキルをとった。
まだまだ経験値は大量に残っており、ログアウトした後イコマは、
その経験値で何のスキルをとるか、頭を悩ませる事になるのだろう。
「イコマ、どうだ?」
「そうですね、今の状態でも結構色々な事が出来るみたいです」
「今ある素材で何か出来るか?」
「そうですね、シノンさんのライフルの射程を延ばすのは可能みたいです。
後は……あ、銃だけじゃなく近接武器も作れるんですね、防具も結構あるな。
SAO時代に戻ったみたいで、何か懐かしい気がします」
「ふむふむ、シノン、とりあえずやってもらうか?」
「う、うん、皆が良ければ」
当然他の者達に異論があるはずもなく、イコマの最初の仕事は、
シノンのライフルの射程延長となった。そしてそれは無事に成功し、
シノンは窓から銃を外に向け、スコープを覗き込んだ。
「あ、確かに前よりも、かなりスコープの目盛りの数値が大きくなってる。
さっき借りてた武器よりも遠くまで届くよ、シャナ」
シノンはとても嬉しそうにそう言うと、イコマにお礼を言った。
「イコマ、本当にありがとう!」
「いえ、これが僕の仕事ですから」
「さっすがイコマきゅん、職人の鑑!」
「いえいえ、僕もこういうのは久々なんで、凄く楽しいですから」
「しばらくはイコマの為に稼ぎまくるか」
そして次にイコマは、シズカからシャナのお手製のレイピアモドキを受け取り、
それをかなり美しい装飾を持つ、立派なレイピアへと生まれ変わらせた。
それはどこか、昔シズカが使っていたレイピアにも似ていた。
「うわ、こんな本格的な剣も存在したんだね」
「実際は形状を整えて、切れ味を鋭くするって作業をしてるだけなんですけどね。
どうやらこのゲーム、かなりこういった加工の自由度が高いみたいです」
「それじゃあこの装飾は、指定されてる中から選んでるとかじゃないのか?」
「あ、それは僕が、記憶を頼りにシズカさんの昔の武器を再現しようと思って」
「うん、似てる似てる、イコマ君、凄い!」
「いいセンスだな、さすがイコマだな」
「それじゃあ後はとりあえず、今日皆さんが使った武器のメンテナンスをしちゃいましょう」
こうしてイコマを仲間に加えた一行は、しばらくはイコマの成長の為、
戦闘をしまくる事となった。一方あっけなく死亡したゼクシード達は、
シャナ達が自分達と同じように全滅し、戻ってくるだろうと考え、
そのシャナ達を馬鹿にしようと死亡からの復帰地点で待ち構えていた。
「俺達が死亡した事は気付かれていないはずだし、
せめて一方的に馬鹿にしてやらないと気がすまねえ」
「さすがゼクシードさん、小物界の大物!」
「よせよ、照れるじゃねえか」
ゼクシードもそう言ったユッコも、それを褒め言葉だとでも思っているのか、
そんな会話を交わしていた。そんな二人に、たまたま後方を見ていたハルカが声を掛けた。
「ふ、二人とも、あれ……」
「ん?うおっ、何であいつら普通に戻ってきてやがる……」
その視線の先には、意気揚々と凱旋してきたシャナ達の姿があった。
シャナ達はゼクシード達には気が付かず、どんどん先へと進んでいく。
三人は驚愕し、慌ててシャナ達の後を追い、
シャナ達がとあるビルの中へと入っていくのを確認した。
「ここがあいつらの拠点か……よし、中に入ってみるか」
だがゼクシードにはその扉は開ける事が出来ず、ユッコとハルカにも当然無理だった。
「何だこのビルは……」
「一体何なんですかね……」
「何か条件でもあるのかな?」
「くっそ、ふざけんな、どうなってやがる!」
そして三人は肩を落とし、とぼとぼと去っていく事となった。
ちなみに後日、たまたまこのビルに入っていく他のプレイヤーを見掛けたゼクシードは、
そのプレイヤーに声を掛け、このビルに入る条件を教えてもらい、再び絶叫する事となった。
まだ書いてはいないのですが、明日も大事な話になる予感がします。
タイトルは「一人じゃない」お楽しみに!