ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/06 句読点や細かい部分を修正


第253話 暴走魔王

 次の日八幡が目を覚ますと、明日奈は既に起きたらしく、その姿は無かった。

八幡は、和室の方にでもいるのかなと思いながらそちらへと続く扉に近付いたのだが、

その時八幡は、何か掛け声のようなものが聞こえる事に気が付き、

そっと扉を開け、外の様子をこっそりと窺った。

外のソファーでは、明日奈が腹筋をしている姿が見えた為、八幡はこっそりと風呂をわかし、

タオルを持つと、そのまま明日奈を生温かい目で見守った。

 

「ふう、まあこんなもんかな」

 

 明日奈はどうやら満足したらしく、少し汗ばんだ顔でそう言った。

そのタイミングで、八幡はそっと明日奈にタオルを差し出した。

 

「ほれ、タオル」

「あ、ありがとう、八幡君……って、八幡君!?い、いつから起きてたの?」

「そうだな……『ピーッ』丁度風呂が沸くくらい前からだな」

 

 丁度その時、風呂が沸いた音が聞こえた為、八幡はそう言った。

 

「そ……そんなに前から?」

「おう、明日奈の胸が何度も揺れる光景は、見てて中々楽しかったぞ」

「お、お、お……」

「お?」

「お腹じゃなくて?」

 

 八幡は、えっちとかスケベとか、そういった言葉が返ってくるものだと思っていた為、

その言葉に虚をつかれた。そして自分の言葉が想像以上に明日奈には衝撃だったのだと、

あらためて反省し、安心させようと明日奈のお腹をさすりながら言った。

 

「い、今は駄目だってば……」

「これのどこが太いんだよ、まったく訳がわからん。

いいか明日奈、俺は昨日、肉付きがいいと言っただけであって、太っているとは言ってない。

そもそも明日奈が太ってるんだったら、姉さんなんかデブだデブ、そりゃもう超デブだ」

「あっ、だ、駄目!それ以上は……」

「誰がデブだって?」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、八幡は硬直した。

 

「だから駄目だって……」

「そっちの意味だったか……」

 

 八幡は、今日が俺の命日だったかと思いながら、諦めて陽乃の方を向き、

黙って土下座をした。

 

「誠に申し訳ございませんでした」

「どうして謝ってるの?八幡君は思った事を素直に言っただけでしょう?」

「誠に申し訳ございませんでした」

「とりあえず八幡君、そのまま黙って前に手を出しなさい」

「は、はい」

 

 八幡は黙ってその陽乃の指示に従った。

そんな八幡の手に、すべすべした手触りの物が当たった。

八幡が顔を上げると、右手には明日奈のお腹が、左手には陽乃のお腹が当てられていた。

 

「なっ……」

「ほら、確認しなさい」

「あっ、はい……」

 

 八幡はそう言うと、黙って二人のお腹をさすり、お茶の先生のような口調で言った。

 

「結構なお点前で……」

「だってよ明日奈ちゃん」

「良かった……」

「それじゃあ次はこっちね」

 

 そう言うと陽乃はとんでもない暴挙に出た。陽乃は八幡の両手を握ると、

それをぐいっと上に持ち上げ、明日奈と自分の胸に押し当てたのだった。

 

「おわっ」

「きゃっ」

「ほらほら、ちゃんとこっちも比べるのよ」

「ちょ、ちょっと姉さん……」

「どうかしら?八幡君」

 

 八幡は何もかも諦めたような顔で、黙々と二人の胸を揉んだ。

そして八幡は、正直にその感想を述べた。

 

「さすがに姉さんの方が大きいですね、俺は明日奈の胸の方が好きですが」

 

 それは八幡の精一杯の抵抗だったのだが、陽乃はそれを意に介さず、逆に八幡に質問をした。

 

「で、八幡君は、この違いがどこから来ると思う?」

「えっと……遺伝……とか?」

「それじゃあ雪乃ちゃんはどうなるのよ」

「か、可能性はあるんじゃないかと……」

「あら、八幡君は雪乃ちゃんに甘いのね、でも違うわ。

女の胸は、男に揉まれた回数で決まるのよ!

雪乃ちゃんの胸が成長しないのは、あなたが揉まなかったからなのよ!」

「雪乃にそんな恐ろしい事出来る訳が無いだろ、この馬鹿姉が!」

 

 八幡はたまらずそう突っ込んだ。陽乃はそれを無視し、明日奈の方を見ながら言った。

 

「明日奈ちゃん、この二日間、一度でも八幡君に胸を揉まれたかしら?」

「う、ううん、一度も」

「ほら見なさい、私と明日奈ちゃんのこの差は、全てあなたのせいなのよ!

私の胸をここまで大きく成長させたその手で、明日奈ちゃんの胸もしっかり成長させなさい」

「誤解を招くような事を言うんじゃねえよ、姉さんの胸を揉んだ記憶なんか一度も無えよ!」

 

 八幡は再び激しくそう突っ込んだ。

この時点で八幡は、完全に陽乃の手の平の上で踊らされていた。

 

「本当に?」

「本当に、いや絶対にだ」

「SAOの中にいた時も?」

「……は?」

 

 その陽乃の言葉に、八幡はきょとんとした。

 

「ベッドに寝ていたあなたの手を、私がこっそり自分の胸に当てていなかったとでも?

もしそんな事は無いと主張するなら、それを証明してみせなさい」

「な、な、な……」

「うわ、さすが姉さん、あの八幡君が絶句してるよ」

「いい?明日奈ちゃん、八幡君で遊ぶのはこうやってやるのよ。

ちなみに胸を揉ませるまでが全て計算ずくよ」

「さっすが姉さん!」

「い、いい加減に……」

「黙りなさい、この甲斐性無し」

 

 再び抗議しようとした八幡に、陽乃はピシャリと言った。

 

「んなっ……」

「せっかく私が二人を同じ部屋にしてあげたのに、あなたは一体何をやっているの?

これじゃあ私の壮大な計画が台無しじゃないのよ!」

 

 陽乃は逆ギレぎみに八幡にそう言った。八幡は気圧されつつも、陽乃に質問を返した。

 

「け、計画だと?」

「そうよ!ここで八幡君と明日奈ちゃんが、うっかり盛り上がって子供を作っちゃって、

そのまま結婚して幸せな家庭を築くじゃない。で、八幡君と結婚出来ない私が、

その二人の間に生まれた男の子と十八年後に結婚して、

その男の子の面影に八幡君を重ねて、やっと思いを遂げるっていう壮大な計画よ!」

「正気かよ馬鹿姉、却下だ却下!」

 

 八幡はとりつく島もなくそう言った。だが陽乃はめげず、次にこう言った。

 

「ならもう私が政治家になって、一夫多妻制を導入するしかないわね。

明日奈ちゃんはそれでもいい?」

「そうなったらそれはそれでいいんだけど、上限人数によっては凄い争いになりそうだね」

「そうね、十人は確保しないと血を見る事になるわね」

 

 そんな二人のやり取りを見て、八幡は諭すように明日奈に言った。

 

「おい明日奈、その馬鹿姉の相手を真面目にしなくてもいいからな」

「え、でも……姉さんなら本当にやりそうだし……」

「怖い事を言うなよ……」

 

 それでどうやらこの話もやっと終わったと判断したのか、

陽乃はサッと立ち上がると、二人に向けて言った。

 

「それじゃあ二人は、さっさと準備を済ませて凛子の所に行って頂戴。

私はさすがに会社の仕事が溜まってるから、今日は一日それを片付けてるから」

「というか、結局姉さんはここに何しに来たんだよ」

「そんなの、八幡君成分が切れたから、その補給をしに来たに決まってるじゃない」

「八幡君成分?」

 

 きょとんとする八幡をよそに、明日奈が心配そうに陽乃に声を掛けた。

 

「ああ、それはつらかったね、姉さん」

「さすが、明日奈ちゃんはよく分かってるね」

「うん、私も時々禁断症状が出るからね」

「お前ら何の話をしてるんだ……」

「それじゃあまたね、二人とも」

 

 こうして、朝の嵐は去っていった。

 

「はぁ……明日奈、とりあえず風呂に入るか……」

「そうだね、ちょっと急がないといけないかもね」

 

 そして二人は汗を流し、すばやく着替えを済ませると、凛子の元へと向かった。

朝食は途中でどこかのコンビニなりファーストフードにでも寄ろうという事になった。

そして二人はキットに運転を任せ、コンビニで買ったおにぎりをほお張りながら、

眠りの森の凛子の下へと到着した。二人を出迎えた凛子は、早速二人に当時の映像と、

それをVRで再現した物を二人に見せた。

 

「これ、本当にVRですか?現実にしか見えないんですが……」

「まあ、さすがは天才、茅場晶彦って事かしらね、

血管の一本一本から患部の様子まで、完璧にトレースされてるわ」

「凄いね……これを知盛さんに見せたらあるいは……」

「どうかしら、それは難しいんじゃないかしら」

 

 そこに経子が到着し、これで関係者が揃う事となった。

 

「経子さん」

「おはようございます」

「二人とも、わざわざありがとうね」

 

 そして経子は、彼女なりの所感を述べた。

 

「多分これだけだと足りないと思うわ。

所詮これは、遠くから手術の様子を見ているに過ぎない。

普段ならそれでもいけると思うけど、今回の手術の難易度は、それとは比べ物にならないの」

「そうですか……」

 

 そんな落ち込む一同に向け、凛子はニヤリとしながら言った。

 

「経子さん、私と晶彦の技術力を舐めてもらっては困るわ。実はね……」

 

 続けて凛子が言った言葉を聞いた経子は、驚きのあまり目を見開いた。

八幡は即座に知盛にアポをとり、そのまま明日奈と共に知盛の下を訪れた。

そしてその日から二日間、全ての公式の場から、知盛は姿を消す事となった。

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