ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/06 句読点や細かい部分を修正


第255話 旅先での再会

 八幡は、繁華街へとやってきたのはいいものの、

どこへ行けばいいかまったく分からず困り果てていた。

 

「そもそも女性用の身に付ける物ってのが、俺にはハードルが高すぎるんだよ。

せめてここが千葉なら、ららぽーとにでも行けば何とかなるんだが……」

 

 そう呟きながら八幡は、うろうろと辺りを歩き回った。

 

「う~む、やっぱり分からん、適当な店に入るか……」

 

 そう言って八幡は、今来た方へと戻ろうと体の向きを変えた。

そしてその瞬間、後ろから歩いてきた女性にぶつかってしまった。

 

「きゃっ」

「あっ、す、すみません、失礼しました」

「いえいえこちらこそ、連れが不注意ですみません、ほらかおり、立てる?」

 

 その倒れた女性の連れらしき女性が、丁寧な口調でそう言った。

その声に何となく聞き覚えがあった八幡は、

倒れた女性を助け起こそうとそちらの方を見た。

その瞬間にその女性とバッチリ目が合った八幡は、

驚きながらも、その女性の名前を口に出した。

 

「あれ……お前まさか折本か?それじゃあそっちは、え~っと確か……仲……仲町さんか?」

「え、嘘、比企谷じゃない。何で比企谷がこんな所にいるの?」

「それはこっちの台詞だっての。二人は旅行か何かか?」

「うん、千佳と一緒に冬の京都を楽しもうと思って、ほら千佳、比企谷の事は覚えてる?」

「えっと……」

 

 千佳は、咄嗟には八幡の事が思い出せなかったようで、じっと八幡の事を見つめた。

そしてその目が驚愕に見開かれた。

 

「えっ?比企谷君ってあの時の?嘘、昔と全然印象が違うんだけど」

「それはよく言われる。あ~……あの時は、不愉快な思いをさせて本当に申し訳なかった」

 

 八幡は昔の事を思い出し、千佳にそう頭を下げた。

千佳は恐縮した様子で、逆に八幡に謝ってきた。

 

「謝るのはこっちの方だよ、今考えると、あの時の私達は本当に最低だったと思う。

本当にごめんなさい、比企谷君」

「それじゃあお互い様って事で、仲直りって事でいいか?」

「うん、それでお願い。でも本当に変わったように見えるよね、何でだろ?」

「他の奴らが言うには、現実に帰還してから俺の目の腐りが取れたらしい」

「現実に……?あっ!」

 

 千佳はその言葉を聞いて、何かに気付いたのか、ハッとした様子で八幡に言った。

 

「お帰りなさい比企谷君、本当に無事で良かったね」

「あれ、仲町さんは学校が違うのに、俺がどうなってたか知ってたのか?」

「うん、かおりがすっごい泣きながら、私に教えてくれたからね」

「泣きながら、ねぇ」

 

 八幡はチラッとかおりの方を見た後にそう言った。

かおりは顔を真っ赤にしながら千佳に抗議した。

 

「もう、そんな恥ずかしい事言わないでよ、千佳」

「え~?じゃあ、比企谷君が無事だって聞いた時、

その時以上に大泣きしてた事も言っちゃ駄目?」

「言ってるじゃない!もう……」

「悪い折本、本当に心配かけてたんだな」

「ううん、別にいいよ、こうして無事に帰ってきてくれたんだからさ」

 

 かおりは笑顔でそう言い、千佳も八幡に微笑んだ。

 

「二人とも、ありがとな」

「お帰り、比企谷」

「お帰りなさい」

「ああ、ただいま」

 

 そして八幡は、何かを思いついたのか二人にこう尋ねた。

 

「そうだ、もし時間があるなら、ちょっと二人に頼みがあるんだよ。

女性が身に付けるようなお土産を売ってる店を、いくつか案内してくれないか?

俺はどうしてもこういうのは苦手で、困ってたんだよ」

「女性へのお土産?それって明日奈用の?」

「いや、別の奴だな。明日奈もこっちに来てるから、今日は会えなくて残念だったな、折本」

「あ、そうなんだ、久しぶりに明日奈に会いたかったのにな」

「まあたまには遊びに誘ってやってくれよ、きっと明日奈も喜ぶから」

「うん、私で良ければ!あ、千佳も一緒に遊ぼう!」

 

 そのかおりの言葉に、千佳は興味津々だったのか、こう聞き返してきた。

 

「ねぇかおり、明日奈って誰?」

「あ、明日奈は、比企谷の彼女だよ?」

 

 その言葉に千佳はとても驚いたようだ。

 

「えっ、本当に?」

「うん、あ、比企谷、明日奈の写真があるなら千佳に見せてあげてくれない?

ほら、いずれ待ち合わせをする事になるかもだしさ」

「そうだな、仲町さん、これが明日奈だ」

「あ、ありがとう、え~っと……うわ、この美人さんが比企谷君の彼女さん?」

「ああ」

「やったね比企谷君、かおりよりもよっぽど美人じゃない!」

 

 その言葉に、八幡は何と返していいかとても困ってしまった。

そしてかおりは、頬を膨らませながら千佳に文句を言った。

 

「千佳、確かに事実だけど一言多いよ!」

「あは、ごめんごめん、かおりもかわいいよ、うん」

「今更取って付けたみたいな事を言っても遅いから!」

「ま、まあまあそのくらいで……」

「そうだよかおり、とりあえず比企谷君を、色々な店に案内してあげよう」

「ん~、そうだね、それじゃ行こっか!」

「お世話になります」

 

 そして三人はいくつかの店を回り、色々な物を見て回った。

そして何軒目かの店で、八幡はとあるブローチに目がいった。

 

「ん、これは……」

「どれどれ?あ、これ、つまみ細工って奴だね」

 

 横からかおりが顔を覗かせてそう言った。

かおりが見ていたのは大きめの派手な物だったが、

八幡はその横にある小さな物を手に取り、かおりに尋ねた。

 

「なぁ折本、長めの黒髪をこう、顔の左右で白いリボンで縛ってたとするだろ?」

「ふむふむ」

「そのリボンにこの小さめの奴をつけるとしたら、どう見えると思う?」

「ん~、私はそれ、すごくかわいいと思うけど、千佳はどう思う?」

 

 千佳はその言葉を受け、八幡にこう尋ねた。

 

「その女の子って、大人しめの子だったりする?もしかして雪ノ下さん?」

「いや、雪乃じゃないが、まあ、見た目は大人しめだな」

「それなら確かに、こういう大きなのよりもそっちの方がいいかもしれないね。

うん、きっとすごくかわいいと思う」

「そうか……よし、これにするか」

 

 八幡はそう言うと、支払いをし、そのつまみ細工のブローチを綺麗に包装してもらうと、

ホッと安心したような顔で店を出た。

 

「ねぇ、一つでいいの?」

「ん、ああ、そうだな……最終的には、いくつだ……

雪乃、結衣、優美子、いろは、小町、珪子、エルザ、小猫、アルゴ、南辺りには、

こんな感じの奴が必要か……他の男どもは食べ物でいいか。里香と直葉はどうするか……

まあ残りは明日奈と相談しながら決めるから問題無い」

 

 その八幡の言葉に、二人はぽかんとした。

 

「ひ、比企谷、それって全員女の子だよね?随分女の子の友達が増えたんだね……」

「うん、ちょっと驚いた……」

「まあな。そうだ、そろそろ昼時だし、お礼も兼ねて飯は俺が奢るわ、

二人は何か食べたい物はあるか?」

「え、いいの?」

「やった、比企谷君、太っ腹!」

 

 そして二人はきょろきょろと辺りを見回しながら、何がいいかなと楽しそうに相談し始めた。

 

「京都といえば、やっぱりああいう懐石とかか?」

 

 八幡がどこかの店を指差し、二人はその店をよく確認もせずに、同意した。

 

「懐石ランチ、確かに京都ならありかもね」

「うんうん、いいかも。でも……」

 

 ちょっと値段が高いよねと千佳が言い掛けたのだが、それより先に八幡がこう言った。

 

「よし、それじゃあそこにしよう、早速行こうぜ、ちょっと腹が減っちまった」

「あ、その……」

 

 千佳は困った顔でかおりを見た。かおりは空気を読んで、千佳の代わりに八幡に言った。

 

「でも比企谷、あそこって、凄く値段が高いんだよね。

私達はもっと安いファーストフードとかで全然オッケーだから」

「ん?どれ……おお、ランチでこの値段か、逆に興味が沸くな、

大丈夫だから気にせず入ろうぜ。支払いの事なら心配しなくていいから」

「そ、そう……?」

「ああ、遠慮なんかしなくていいって、お礼なんだからな」

「う、うん……」

 

 そう言って八幡は店の中に入っていった。

かおりと千佳は、そんな八幡を見てひそひそと会話を交わした。

 

「ねぇかおり、比企谷君の家ってお金持ち?」

「ううん、まったく普通のはずなんだけど……」

「もしかしてちゃんと値段を見てなかったのかな?一人一万五千円だよ?」

「ううん、この値段かって言ってたし、確実に見てたと思う」

「まあ、せっかくああ言ってくれてる事だし、とりあえず私達も入る……?」

「う、うん、そうだね……」

 

 そして二人はおずおずと八幡の後に続いた。

席に案内されると八幡は、笑顔で二人に何を頼むか聞いた。

 

「それじゃ、遠慮しないで何でも頼んでくれ」

「う、うん」

「何でも、ね……」

 

 そして二人はメニューを開き、その値段に気が遠くなりそうになった。

 

「やっぱり高いね……」

「まあ本場の懐石ランチってなら、こんなもんじゃないか?」

「確かにそうかもだけど……」

 

 そんな二人のぎこちない態度を見て、八幡は首を傾げた。

 

「さっきから二人とも随分緊張してるみたいだが、何かあったのか?」

「あ、いや、緊張っていうか……」

「やっぱり値段がちょっと、ね」

「たまにはいいだろ、俺が払うんだし、二人は気にしないで好きな物をだな……ああ」

 

 八幡はそう言いながら、二人が何に対して緊張しているのか理解した。

 

「そうか、いきなりこんな所で好きな物を頼めと言われても、普通遠慮しちまうよな。

最近ちょっと金銭感覚が麻痺しちまってるのかもしれないな、すまん」

 

 そんな八幡に、かおりがこう質問してきた。

 

「えっと……もしかして比企谷、宝クジでも当たったの?」

「いや、ちょっと仕事関係でな……」

「あれ、比企谷って帰還者用学校の学生じゃなかったっけ?」

「ん~、俺はちょっと特殊でな、もう既にソレイユへの内定が決まってるんだよ」

 

 その八幡の言葉に、かおりはのけぞった。

少し驚きすぎだろと思った八幡は、次のかおりの言葉に自分がのけぞる事になった。

 

「それ、私と同じ会社……」

「え、まじで?」

「う、うん……比企谷もソレイユなの?」

「お、おう……まじか、まさかお前、社長秘書じゃないだろうな?」

「ううん、私は受付かな」

「そうか、俺の直属じゃ無かったか……」

「うん……」

 

 その会話を聞いた千佳は、目を見開いて八幡に尋ねた。

 

「ちょっとかおり、何普通に返事してんのよ、ねぇ八幡君、今直属って言わなかった?

社長秘書が直属の部下って……」

「え?え?あっ、普通に返事しちゃったけど、確かにそう聞こえたかも」

「お、おう……実は俺、何故かソレイユの次期社長って事にされてるんだよな」

 

 その言葉に、さすがの二人も驚きを隠せなかったようだ。

 

「ええっ!?」

「ど、どういう事?何でそんな事に?」

「う~ん、何て言ったらいいのか……なぁ折本、昔さ、葉山を紹介するって言って、

実際に紹介してくれた女性がいただろ?その人の顔、覚えてるか?」

「あっ、うん覚えてる覚えてる、凄い美人だったよね」

「私もその人なら覚えてるかも」

「あれがソレイユの社長だ。面接の時にいなかったか?」

 

 そう言われたかおりは、きょとんとした後、驚いて八幡に聞き返した。

 

「ええっ、あの人がソレイユの社長なの?ううん、私の時に面接してくれたのは、

顔にヒゲを書いた不思議な女の人だったかな。

他の人は皆落ちたらしくて、何故か私だけ採用されたんだよね。

てっきり落ちると思って駄目元で受けた所だったから、本当にびっくりだったよ」

「あの時は私も本当に驚いたんだけど、今回の旅行もそのお祝いを兼ねてるんだよね」

「そうか、アルゴの差し金か……ちょっと電話で聞いてみるわ」

「う、うん」

 

 八幡は二人にそう言うと、アルゴに電話を掛けた。

 

『ハー坊、今度はどうしタ?』

「おいアルゴ、お前、折本かおりって子の面接を担当したか?」

『ああ、あの時な、ボスがオレっちに面接を押し付けて逃げたから、

たまたま参加してた、ハー坊と中学で同じクラスだったその子を採用にしといたゾ』

「適当だなおい!分かった、忙しいとこすまなかったな」

『一応言っておくけど、それはあくまで最後の決め手だからナ』

「そうか……なるほどよく分かった、ありがとな」

『あいヨ』

 

 八幡は電話を切ると、何とも言えない表情でかおりに言った。

 

「あ~……どうやら折本が採用されたのは、最後の部分で俺のコネがきいてたらしいわ」

「あ、そうだったんだ、逆に凄い納得した。ありがとう比企谷!」

「あくまで最後の部分だから、それまでの過程ではいい感触だったんだと思うから、

それは誇っていいと思うぞ。でもそんなんで、本当に良かったのか……?」

 

 八幡は言いづらそうに、かおりにそう尋ねた。

 

「え?いいに決まってるじゃない、ねぇ、千佳」

「うんうん、比企谷君、ソレイユってね、学生の中じゃ、凄く人気で競争率が激高な、

かなり注目されてる企業なんだよ」

「そ、そうなのか……」

「うん、だから比企谷にはもう頭が上がらないよ、あの時は本当に嬉しかったもん」

「お祝いにこうして旅行に来るくらいね」

「そうか、それなら良かったよ、折本」

「うん!」

 

 そして八幡は、改めて二人にこう言った。

 

「まあそんな訳で、資金的にはまったく問題無いから、遠慮なく何でも頼んでくれ」

「まあ」

「そういう事なら、ね」

 

 そして二人は緊張が解けたようで、楽しそうに何を食べるか相談し始めた。

そして注文が終わった後、八幡はトイレに行くと言って席を立った。

八幡が部屋を出た後、千佳はかおりに言った。

 

「ねぇかおり」

「うん?」

「あんた分かってる?確かに就職で少し取り戻したけど、

あんたの人生、かなり失敗してるよね」

 

 そのストレートな指摘にかおりは苦笑した。

 

「あ~、それある……」

「あんたどうして中学の時、比企谷君と素直に付き合っておかなかったのよ。

彼、昔とは全然別人じゃない、見た目も凄く格好良くなったし、

財力も権力もある、まさにこれぞ勝ち組って感じ」

「だよね……別に嫌いな訳じゃ無かったし、当時は確かに付き合うのは無理だなと思ったけど、

後で話したら友達としてはありかなって思ったし、

そう考えると、もっとよく比企谷の事を見ていたら、付き合うのもありかなって思ったかも」

「まあ今更言っても仕方ないか、今夜は私が慰めてあげるよ」

「うん」

 

 そして食事が終わった後、しばらく一緒に観光をする事になり、

せっかくだから八幡の車で行こうという話になったので、三人はキットの下へと向かった。

そこでかおりと千佳は、お約束のように再び驚愕する事になった。

 

「うわ、凄いね……これは今夜慰め甲斐がありそう」

「言わないで……」

 

 そして三人は、元々かおり達が回る予定だった場所を回り、更に時間に余裕が出来た為、

キットの案内で他にも色々な場所を回る事が出来た。

そして夕方、そろそろお開きという事になり、八幡は二人を宿泊先のホテルに送り届けた。

 

「今日は楽しかった、本当にありがとね、比企谷」

「予定よりもたくさんの場所に行けて、凄く楽しかった」

「いや、こっちこそプレゼント選びで助けてもらったし、ありがとな、二人とも」

「比企谷はいつから働き始めるの?」

「そうだな、多分進学する事になるから、五~六年後くらいかな」

「そっか」

 

 かおりはそう言うと、姿勢を正し、八幡に頭を下げた。

 

「社長のお越しを、受付でお待ちしていますね」

「お、おう……」

「なんてね」

「かおり、比企谷君が来るまでクビにならないようにね」

「うん、頑張る!」

「あ、そういえば仲町さんも、もしかしてうちの会社を受けてたりとか……?」

 

 八幡は、もしそれで落ちてたら気まずいなと思い、恐る恐る千佳に尋ねた。

 

「あ、ううん、うちは花屋だから、卒業したらその後を継ぐ事になるかな。

もし良かったら、花が必要な時はうちに買いに来てね」

「そっか、それじゃあ機会があったら必ず」

「あは、宜しくね、比企谷君」

「それじゃあまた向こうでね、比企谷!」

「比企谷君、またね、キットもまたね!」

「ああ、また向こうで」

『かおり、千佳、いずれまたどこかで』

 

 そして八幡はキットと共に走り去り、二人はずっとその背中に手を振り続けていた。

 

「かおり、逃した魚は大きいよ?」

「うん、まあ仕方ないかな。明日奈は凄くいい子だし、二人はとてもお似合いだもん」

「本心は?」

「う~、比企谷格好良かったよね……中学に戻ってやり直したいよ」

「あは、本当に今夜は慰め甲斐がありそうね」

「うん、まじでお願い……」

 

 そしてかおりは、八幡が去っていった方向を何となく眺めた。

 

(羨ましいな、でも絶対幸せになってね、比企谷、明日奈)

 

 そして二人は笑いながらホテルへと入っていったのだった。

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